アルファポリスは、インターネット上で人気のある作品を書籍化する出版事業として2000年に創業された。以来、ライトノベルと漫画を中心に、ネット発のヒット作を次々と世に送り出している。創業者である梶本雄介社長は、ネットに集う人々の“嗅覚”を信じ、読者が求める本、楽しめる本づくりで新しい市場を生み出してきた。そんな梶本社長率いるアルファポリスが目指す未来と、そこに至る戦略について聞いた。
「読者が読みたい作品」を
ネットは提供できる
小説を書いた人は、誰かに読んでほしいと思うはずです。音楽をやっている人がライブハウスや路上で演奏するのと同じで、書き上げた作品を人の目に触れさせたい。しかし従来は、有名な作家先生が選考する文学賞という、高いハードルを突破するしかありませんでした。
東京・渋谷区恵比寿の本社でインタビューに応じる梶本社長
1995年頃からインターネットが普及し始め、小説やエッセイ、漫画をアップする人が出てきたとき、私は「大きなチャンスが来た」と思いました。作品を不特定多数の人々に直接発表できる、画期的なメディアが登場したからです。5年も経てば出版業界における主流が置き換わり、すべての一線級の作家はインターネットから生まれるようになるだろう――。
そう考え、2000年に小説や漫画の投稿・閲覧サイト「アルファポリス」を立ち上げました。その頃、私はよく「北島三郎先生が選考委員だったら宇多田ヒカルはデビューできなかった」と言っていました。伝統的な選考スタイルで世に出る作品と、一般の読者が読みたい作品は必ずしも一致しません。ネットを使えば、もっと大勢の人たちが読みたいものを発掘し、提供できるという見通しがありました。
小説・漫画の投稿・閲覧サイト「アルファポリス」
プログラミングを独学で学んでウェブサイトを自作し、起業から3年間は1人で、サイト運営から作家の発掘、編集、営業までをこなしました。2002年には、市川拓司さんのデビュー作『Separation』がヒット。この小説はドラマ化され、市川さんは次作の『いま、会いにゆきます』でベストセラー作家になります。2007年には川口雅幸さんのデビュー作『虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜』が話題になり、アニメ映画化。着実にヒットを出しながら、出版事業を育てていきました。
累計40万部を突破した少年向けSFファンタジー『虹色ほたる』
一方、時代の変化は私の予測より遅かった。待てど暮らせど、「すべての一線級の作家がネットから生まれる時代」はやってこない。それでもケータイ小説のブームがあり、2010年頃からは、女性のロマンス小説と異世界系のライトノベルを中心にアルファポリスへの投稿数が一気に増えました。実力ある方の投稿も目立つようになり、いまや誰もが知る作家が当時は別のペンネームでうちの賞を獲っていた……なんてこともあるほどです。
業界内の追い風を感じ、2014年に上場。その後いよいよ、漫画と電子書籍に力を入れます。うちは人気のあるラノベ作品を数多くコミカライズしていて、親和性があったんですね。ここ数年は電子書籍の漫画の売上が順調に伸び、今に至ります。
読者は、どういう人たちなんだ?
我々の強みは、ネットに集う人たちの反応を見て、今の読者の“嗅覚”に合う本を出せるところです。ネットで熱狂的な支持を得る作品には、何らかの人を惹きつける力がある。そういう作品を書籍化すると、店頭で少なくとも8割の方が初見で買ってくれるんですね。つまり、ネット上で我々が「面白い」「応援したい」と思った作品は、一般の書籍市場でもかなりの支持を得られる。ここはリンクすることがわかっています。
そんな才能の発掘のために大事にしているのが、コンテストです。とりわけ「ファンタジー小説大賞」は毎回の応募が3000作を超え、「恋愛小説大賞」もそれに迫る勢いです。いずれもそのうち30作以上を出版する稼ぎ頭。しかしネットに投稿された作品には、面白いけど日本語がたどたどしい、ストーリーに一貫性がない、単調で起承転結が練られていないなど、そのままでは出版してお金をいただくのが難しい作品が多い。
そこで、編集者の力が発揮されます。編集者が真剣に原稿と向き合い、ストーリーの設定や構成、日本語の正しさや読みやすさなどを粘り強く作家に指摘するのです。ゲラ(原稿の試し刷り)が真っ赤になることもしょっちゅう。作品の完成度を高めるために、このプロセスは欠かせません。
そういう力のある編集者をどうやって育成するか……ですか? それはなかなか答えづらいですね。というのも、できる人は最初から結構できちゃう。もちろん流通や製本、印刷の流れは一通り教えますが、「この作品のここが面白い」という勘どころをイチから全部教えるのは、難しいと思います。
唯一、私が編集者に口を酸っぱくして言うのは、「読者はどういう人たちなんだ?」。冒頭で申し上げたように、ネットの特徴は作家と不特定多数の読者が直接つながれるところです。そこにいる読者がどんな人たちで、何を感じているのかをしっかりと見極め、書籍化の原稿づくりや装丁、タイトルに活かしていく。読者を想像しながら本をつくるというのは、当社が非常にこだわりをもつところですね。
業界のセオリーよりも
ネット上の読者を信じた
私が担当編集した最後の作品が、柳内たくみさんのファンタジー小説『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』1巻でした。ネット上に掲載された作品の主人公は、33歳の自衛官。書籍化にあたって、ライトノベル好きの編集者たちからは「ラノベの読者層は10代なので、主人公を同じ世代に設定し直して改稿すべき」という意見が出ていました。
元自衛官の著者が描く異世界エンタメファンタジー『ゲート』
たしかに当時は「涼宮ハルヒシリーズ」など、学園異能バトルものが10代を中心に大ブームを起こしていました。ライトノベルを出版するならこの分野で10代向け、というのが業界のセオリーだったのです。
しかし、ネット上の『ゲート』の読者は明らかに30代がボリュームゾーンに見えました。秋葉原に通っているような、ちょっとマニアックな大人の30代男性。セオリーには反するけれど、目の前にいる読者を信じようと思い、主人公は33歳という設定を変えずに書籍化しました。
その結果、電子書籍を含むシリーズ累計の発行部数は、680万部を突破。おそらく『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』を読んで育ったライトノベル第一世代が30代になって、自分たちに合うファンタジーを求めていたのでしょう。これを機に、「30代のラノベ読者」という新しいマーケットが可視化され、いまでは彼ら・彼女らに向けた作品が続々とつくられています。
ですからやはり、ネット上で見えてくる「読者」にしっかりと目を凝らすこと。そのことによって、新しい市場をつくっていくのです。
先ほど申し上げたコンテストでは、あまり投稿サイトでは読まれない「時代小説」「一般文芸書」「キャラクター文芸」などの分野でも賞を設けています。まだネットでの人気は高くありませんが、編集部がすべての作品をチェックし、才能がある作家を見つけ出そうと頑張っています。予想より時間がかかっているとはいえ、すべての一線級の作家がネットから生まれる時代は、必ずやってくる。そのときに向けた布石として、こうした賞を設けているのです。
その先にある未来として、私は「すべてのエンタテインメントの名作がインターネットから出てくる未来」を思い描いています。出版以外にゲーム、アニメなどの映像作品も、ネット発でヒットを出す作家がこれからどんどん出てくるでしょう。
最近は専門部署をつくってアニメ事業にも力を入れていますし、以前進出・撤退したゲーム事業にも時機を見てまた挑戦したい。出版事業で培ったノウハウを使い、いずれは「インターネットを軸とした次世代型のエンタテインメント企業」としてもっと幅広く、面白いコンテンツを世に出していきたい。それが、私の夢です。
アルファポリス