「教わってからやろう」という考えが、基本ありません【後編】

「教わってからやろう」という考えが、基本ありません【後編】

上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・アルファポリス 梶本雄介社長 梶本 雄介

2023.11.07

アルファポリスは、インターネット上で人気のある作品を書籍化する出版事業として2000年に創業された。以来、ライトノベルと漫画を中心に、ネット発のヒット作を次々と世に送り出している。創業者である梶本雄介社長は、ネットに集う人々の“嗅覚”を信じ、読者が求める本、楽しめる本づくりで新しい市場を生み出してきた。そんな梶本社長率いるアルファポリスが目指す未来と、そこに至る戦略について聞いた。
すべての一線級の作家は、全員ネットから生まれてくる【前編】を読む

「思い入れ」はリスクでもある

――ネット上で将来の作家を探すときは、どういうところに着目するのでしょう。

ひとことで「作家に才能を感じる」といっても、いろんなパターンがあると思います。とにかく読書量が多く、文章の構成がうまい方。キャラクターの演出や、ストーリー展開がうまい方。キャッチーな言葉づかいが上手で、あまり本を読まない人の心をつかめる方。編集者はそういう作家の個性を見ながら、ネット上でどういう読者層が、どこに反応しているのかを見極めなければいけません。

ここが結構難しくて、作家への評価というのは、人によってばらつきがあります。編集部内ですら、「この人は面白い」「こういうところが魅力だ」という意見が一致するときもあれば、ぶつかって全然合わないこともある。ですから前編で申し上げたように、読者をよく見て、どういう人たちがメインターゲットなのかを具体的に想像しなければいけません。

ビジネスモデルの独自性を、飄々とした口ぶりで語る梶本社長

野球監督だった野村克也さんには「打者の得意なコースの近くに弱点がある」という名言があり、それは仕事にも通じると思います。実は私は、起業前はライトノベルを読んだことがありませんでした。でも仕事としてやってみると、知らないからこそ客観的な視点を持てた。もともとライトノベルが大好きで詳しい編集者のほうが、自分が読んできたものと異なる新しい流行に違和感を抱くなど、主観でものを見てしまいがちなところがあるんですね。

もちろん「好き」という気持ちは大切で、作品への関心がないと、この仕事は長続きしません。ただし、思い入れが強すぎると読者が見えなくなる危険性があります。
ですからうちの編集部には、入社前からネットでファンタジー小説を読みあさっていたような「ライトノベルが大好き」な編集者と、一般的な文芸やサブカルは好きだけど「ライトノベルに興味がなかった」という編集者の2種類がいます。ちょうど半々くらいかな。現場でも、「自分はここが面白いと思う」「この魅力を広めたい」という声が聞こえたら、「それは本当に読者の声なのか?」と問いかけ、気づきを促すようにしています。

読者が「これを待っていた」「こういうものを読みたかった」と思える本を出していくこと。私たちの使命はそこにあります。

売れなかった後の作品は
何が何でもヒットさせる

とはいえ、予想に反して本が売れないこともあります。失敗は大体2種類に分類できて、「読者のニーズに合う」と思っていたけど、伸びなかったパターン。もう1つは、「マニアックだけど、心をとらえる個性があるから出してみよう」とあえて挑戦し、やっぱりダメだったというパターン。

いずれにせよ、デビュー作が売れなかった作家の2作目は、何がなんでも売らなければいけません。会社の業績面への影響もありますが、一番大きいのは、当社が発掘した方の「作家人生を終わらせるわけにいかない」という気持ちです。

これまで手がけた仕事の中で思い出深いのが、起業後、まだ1人で編集を担っていた頃のこと。社会人になりたての若い男性が、「アルファポリス」に、シュールな文芸作品を投稿してくれました。面白いし、才能があると思い書籍化したのですが、残念ながら全く売れなかった。
2作目は、何が何でもヒットを狙わなきゃいけません。私は必死で、彼に合うテーマを探しました。当時はまだSNSがなく、「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」と呼ばれる匿名掲示板が流行っていた時代。その世界に彼のシュールさがはまると思い、「チャットを舞台に、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をやりませんか」と持ちかけました。

「チャットルームに集まる性別も年齢もわからない人が、現実世界で1人1人死んでいく」という構想からスタートし、プロットのやり取りを50回以上も重ねて……。生まれたのが、椙本孝思さんの『THE CHAT』です。

作家の強みと読者のニーズを掛け合わせ、『THE CHAT』のヒットが生まれた

これがスマッシュヒットになったのは、非常に感慨深かったですね。椙本さんはその後、『THE QUIZ』も大ヒットし、テレビで実写化されました。デビュー後、ミステリー作家として認められたことは、編集者冥利に尽きます。

「できない理由」なんて
知らんがな

――社長は出版業界での経験ゼロで事業を始めました。編集の仕事をするなら、まずどこかの出版社で学んでから……と思ってしまいますが。

基本的に、何かを始めるときに「教わってからやろう」という考えはないですね。特に出版事業は、内容を決めて製本し、流通させれば成り立つ。売れる・売れないは別にして、本を出すという行為自体は、自由度が高い。「こうじゃないといけない」という決めごとが、非常に少ない世界ではないでしょうか。

起業前に働いていたのは広告業界のイベント部門でしたが、そこでは新たなプロジェクトの度にいろんな人に声をかけて協力していただき、様々なかたちの違う企画を立ち上げる仕事をしていました。30歳まで経験を積み、「ゼロから面白いものをつくる」ことに関しては自信があった。直感も鋭いほうなので、むしろ出版経験がないほうが、慣習に縛られず自分の発想だけで勝負できてよかったと思います。
例えば、「アルファポリス文庫」をつくるときに業界の方々から、「文庫という出版形態は、全国に支店や営業所がある大手にしかできない」「棚の確保が難しい」など、できない理由をたくさん聞かされました。

でもまあ、「知らんがな」と思ってやってみたら実際は何の支障もない。人気がある書籍を文庫化し、今でもきちんと売れています。その後、小さい出版社さんも文庫を出すようになったので、おそらく業界で言われていたほどハードルは高くなかったんですね。

――2000年の創業時には「ネット発の出版事業」は非常に新しい構想でした。しかしここ10年ほどでプレイヤーが一気に増え、今では大手も参入しています。競争が激化するなか、アルファポリスの強みはどこにありますか。

おっしゃる通り、競争は厳しくなっています。「すべての一線級の作家がネットから生まれる時代」に、近づいてきましたよね。うちの優位性として、一つはエンジニアリングの力があります。20人ほどのエンジニア社員がおり、ウェブアプリも含めて自社開発している。同じフロアにWebディレクターと編集と営業と法務もいて、何かあればすぐ集まって対応を決めるので、判断が早い。

あとは何といっても、ネットから作品を生む出版事業に特化し、20年以上続けてきたこと。その中で培ってきた編集力が、強みだと思っています。最初は「ネット小説」と呼ばれ、文体が今ひとつだとか、バカにされるような風潮もありました。でも我々はずっと読者を見て、「ネットでこれだけの熱量で盛り上がっているということは、書籍化すれば読みたい人がいるはずだ」と信じて、ここまでやってきました。
たしかに今はネットから生まれる本が増えていて、それ自体はいいことです。しかし実際に面白い本をネットから生み出すのは、簡単そうに見えて意外と難しい。

例えば、書籍化する作品の選び方。同じような異世界ファンタジーであっても微妙な流行りがあって、しっかりとした目利きが必要です。そこから作品を出版に耐えうる形にするために、足りないものを編集者がどう見極め指摘していくか。装丁の絵柄や帯のコピーなども含め、うちのノウハウは一日の長があると思います。

ネット発で最高のエンタテインメントを世に出していくことを、私たちは真剣に考えて実行してきた。これからも、ここを崩してはダメだと思っています。

アルファポリス
EC市場拡大! 世界の段ボール需要を取り込む レンゴー

EC市場拡大! 世界の段ボール需要を取り込む レンゴー

ここが狙い目! 日興ストラテジー・セレクション 日興フロッギー編集部岡田 丈

2023.11.07

今の社会動向や投資環境をもとにホットな銘柄を選定している「日興ストラテジー・セレクション」。11月号の採用銘柄は国内段ボールメーカー最大手の「レンゴー」です! 早速、レンゴーの投資ポイントをチェックして、これからの銘柄選びの参考にしてみましょう。

パッケージングで物流と暮らしの豊かさを支える「レンゴー」

引越しや宅配物を送る時、モノの持ち運びや保管など、日常生活において必要不可欠とも言える段ボール。実は日本で初めて段ボールを世に送り出したのが、今回仲間入りした「 レンゴー 」です。

あらゆる産業の包装ニーズに応える

レンゴーは、「パッケージングで、暮らしを支え、未来をつくる」という理念のもと、「製紙」から「段ボール」までの一貫生産体制に加え、食品や日用品パッケージ等に用いられる「紙器」や「軟包装」、農業分野・工業原料といった幅広い産業を支える「重包装」、「海外」まで、6つのコア事業を中心に活動しています。

なかでも段ボール事業は、創業者である井上貞治郎氏が1909年に日本で初めて事業化に着手し 、段のついたボール紙なので「段ボール」と命名した、というパイオニア的存在です。今では国内段ボールメーカー最大手です。さらに、段ボール原紙等を含む板紙事業では国内2位を誇ります。

そんな同社に追い風が吹いています。世界では、主にパッケージングなどに使われる、板紙の需要が年々増しています。また、世界の紙・板紙消費量の約3割を占める中国では、段ボール箱の原料となる段ボール原紙の需要が増加。段ボール原紙の消費量は、10年前と比べて約8%ptウエイトが高まっています。

EC市場の活性化が段ボール需要を下支え

段ボール需要を下支えする要因には、世界のEC市場(BtoC※)の活性化も挙げられます。オンラインを通して買い物した際に、段ボールに梱包されて届くことからも、その必要性が想像できるでしょう。

※企業が消費者を対象に行うビジネス形態のこと

国内のEC市場は、コロナ感染拡大が始まった2020年に巣ごもり需要で大きく拡大し、その後も右肩上がりに伸びています。この傾向は世界でも同様で、デジタルマーケティングリサーチ専門会社のeMarketerによると、世界のBtoC-EC市場規模は、2022年に前年比約10%増と推計されており、2023年以降も2026年まで年平均で9%程度の成長が見込まれています(2022年7月時点)

増加傾向にある段ボール需要を取り込むべく、同社は国内外で機動的なM&Aにも積極的です。海外においては、2016年に重量物段ボールで世界ナンバーワンの実績を誇る香港のトライウォール社を子会社化したのを皮切りに、2019年にドイツ重量物包装メーカーのトライコーおよびグッドマン、2022年にはドイツ重量物包装資材メーカーのティム・パッケージング・システムズ(TPS)と、続々とM&Aを進めています。この結果、同社の海外グループ企業は191社、198工場(2023年3月31日時点)へと増加しました。海外事業営業利益は2017年3月期の11億円から2023年3月期には124億円(単純合算ベース)まで拡大しています。

2025年頃までに売上高1兆円を目指す

同社は創業115周年を迎える2025年3月期を最終年度とする中期ビジョン「Vision115」に取り組んでいます。具体的な数値目標は公表されていませんが、過去の決算説明会や会社資料などによれば、売上高1兆円超をひとつの目標としている様子です

ゴールまで2年を切った2024年3月期第1四半期(4~6月期)では、製品価格の改定および連結子会社の増加が寄与し、売上高は前年同期比11.8%増となる2238億円、営業利益は同75.7%増の約136億円と好調な滑り出しです。

2022年3月期から2023年3月期は、円安や原燃料費の高騰によって収益が圧迫されました。しかし、複数回にわたって製品価格の値上げを行っており、直近の値上げもおおむね浸透したと見られます。製品の需要は堅調なので、当面は値下げ圧力が強まる可能性は低いでしょう。2024年3月期以降の業績は改善に向かい、中長期的な成長の第一歩になると予想します。

株価は上昇基調ながらも、TOPIXや同業他社対比では割安感があります。

世界でベストワンの総合包装企業集団を目指す

「製紙」「段ボール」「紙器」「軟包装」「重包装」「海外」の6つの事業をコアとする、総合包装企業の「レンゴー」。国内段ボールメーカーのパイオニアにして最大手、段ボール原紙等を含む板紙では国内2位を誇ります。EC市場活性化などを背景に、世界の板紙、段ボールの需要は増加傾向で、同社への追い風となっています。国内外で機動的にM&Aに取り組みながら世界中で活躍する同社から目が離せませんね。

「米金利」に揺さぶられる中では、内需株優位か

「米金利」に揺さぶられる中では、内需株優位か

カエル先生の株式相場プレイバック 日興フロッギー編集部平松 慶

2023.11.06

マーケットの「温度感」がわかる連載「カエル先生のマーケットハイライト」。今回は、マーケットを取り巻く外部環境が不透明な中における、日本株の物色の方向を探ります。

カエル先生の一言

米長期金利の行方や、緊張の度合いを高める中東情勢。日本株マーケットを取り巻く外部環境にはやや不透明感が漂っています。そうした中、日本株の物色動向はどうなるのでしょうか。今回は、「内需株」「外需株」という切り口でその方向を探ります。

振れが大きかった10月の日本株市場

10月31日の日経平均株価は3万858円、前月末比999円安でした。
10月は、4日に前日比711円安と大幅の下げ、10日には751円高と今年最大の上げ幅を記録。

4日の下げは、前日に発表された米雇用指標が労働需給の逼迫を示唆していると受け止められ、金融引き締めの長期化観測が高まったことなどを受けたものでした。10日の上げは、米FRB(米連邦準備制度理事会)関係者による追加利上げへの慎重な見方を受け、金融引き締め長期化観測が和らいだことなどが背景です。また、中東情勢に関する不透明感も一部で手控え要因に。

10月の日本株市場は、米長期金利の行方などを中心に外部環境に左右される展開となりました。

マーケットは米金利の動向を注視

世界中の投資家が注目する米長期金利は、年初の3%台中盤から、10月には4.9%台まで上昇しました。FRBは、景気動向を踏まえ、過熱気味であれば政策金利を引き上げ、停滞気味であれば政策金利を引き下げるなどの金融政策を行っています。

足元の米景気は、エネルギー価格の上昇やUAW(全米自動車労働組合)のストライキなどにより、インフレが長引く懸念があります。また、FRBが政策金利の誘導目標を据え置いたことから、金融引き締めが長期化するとの見方も根強いです。さらには、予防的な追加利上げを行うのではとの観測さえあります。米長期金利は、こういった見方を反映していると言えるでしょう。

金利の上昇は、資金調達コストの上昇や、債券投資への魅力向上などに繋がり、株式市場にはややネガティブです。日本株市場は、 こうした米金利の動向に一喜一憂する展開が当面続きそうです。

日本株市場は内需株優位の展開か

こうした外部環境の不透明感が漂う投資環境の下では、内需株が相対的に選好される傾向があります。内需株とは、事業基盤が国内にあり、国内景気(内需)が好調なときに、より業績の拡大が見込まれる企業の株式です。代表的な業種としては、不動産、建設、倉庫、電鉄、電力などのほか、鉄鋼、紙・パルプなどの素材産業、銀行、保険といった金融などが挙げられます。

今年の株価パフォーマンスを見ると、日経平均が上昇傾向を強めていた年前半は外需株が優位でした。しかし相場がいったん上昇し、それ以上の水準になかなか値上がりしなくなった夏場以降は、内需株優位となっています。今後も賃上げ機運の高まりやインバウンド需要の拡大に加え、秋の行楽シーズンに入ることもあり、内需株への追い風は継続しそうです。