アルファポリスは、インターネット上で人気のある作品を書籍化する出版事業として2000年に創業された。以来、ライトノベルと漫画を中心に、ネット発のヒット作を次々と世に送り出している。創業者である梶本雄介社長は、ネットに集う人々の“嗅覚”を信じ、読者が求める本、楽しめる本づくりで新しい市場を生み出してきた。そんな梶本社長率いるアルファポリスが目指す未来と、そこに至る戦略について聞いた。
すべての一線級の作家は、全員ネットから生まれてくる【前編】を読む
「思い入れ」はリスクでもある
ひとことで「作家に才能を感じる」といっても、いろんなパターンがあると思います。とにかく読書量が多く、文章の構成がうまい方。キャラクターの演出や、ストーリー展開がうまい方。キャッチーな言葉づかいが上手で、あまり本を読まない人の心をつかめる方。編集者はそういう作家の個性を見ながら、ネット上でどういう読者層が、どこに反応しているのかを見極めなければいけません。
ここが結構難しくて、作家への評価というのは、人によってばらつきがあります。編集部内ですら、「この人は面白い」「こういうところが魅力だ」という意見が一致するときもあれば、ぶつかって全然合わないこともある。ですから前編で申し上げたように、読者をよく見て、どういう人たちがメインターゲットなのかを具体的に想像しなければいけません。
ビジネスモデルの独自性を、飄々とした口ぶりで語る梶本社長
野球監督だった野村克也さんには「打者の得意なコースの近くに弱点がある」という名言があり、それは仕事にも通じると思います。実は私は、起業前はライトノベルを読んだことがありませんでした。でも仕事としてやってみると、知らないからこそ客観的な視点を持てた。もともとライトノベルが大好きで詳しい編集者のほうが、自分が読んできたものと異なる新しい流行に違和感を抱くなど、主観でものを見てしまいがちなところがあるんですね。
もちろん「好き」という気持ちは大切で、作品への関心がないと、この仕事は長続きしません。ただし、思い入れが強すぎると読者が見えなくなる危険性があります。
ですからうちの編集部には、入社前からネットでファンタジー小説を読みあさっていたような「ライトノベルが大好き」な編集者と、一般的な文芸やサブカルは好きだけど「ライトノベルに興味がなかった」という編集者の2種類がいます。ちょうど半々くらいかな。現場でも、「自分はここが面白いと思う」「この魅力を広めたい」という声が聞こえたら、「それは本当に読者の声なのか?」と問いかけ、気づきを促すようにしています。
読者が「これを待っていた」「こういうものを読みたかった」と思える本を出していくこと。私たちの使命はそこにあります。
売れなかった後の作品は
何が何でもヒットさせる
とはいえ、予想に反して本が売れないこともあります。失敗は大体2種類に分類できて、「読者のニーズに合う」と思っていたけど、伸びなかったパターン。もう1つは、「マニアックだけど、心をとらえる個性があるから出してみよう」とあえて挑戦し、やっぱりダメだったというパターン。
いずれにせよ、デビュー作が売れなかった作家の2作目は、何がなんでも売らなければいけません。会社の業績面への影響もありますが、一番大きいのは、当社が発掘した方の「作家人生を終わらせるわけにいかない」という気持ちです。
これまで手がけた仕事の中で思い出深いのが、起業後、まだ1人で編集を担っていた頃のこと。社会人になりたての若い男性が、「アルファポリス」に、シュールな文芸作品を投稿してくれました。面白いし、才能があると思い書籍化したのですが、残念ながら全く売れなかった。
2作目は、何が何でもヒットを狙わなきゃいけません。私は必死で、彼に合うテーマを探しました。当時はまだSNSがなく、「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」と呼ばれる匿名掲示板が流行っていた時代。その世界に彼のシュールさがはまると思い、「チャットを舞台に、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をやりませんか」と持ちかけました。
「チャットルームに集まる性別も年齢もわからない人が、現実世界で1人1人死んでいく」という構想からスタートし、プロットのやり取りを50回以上も重ねて……。生まれたのが、椙本孝思さんの『THE CHAT』です。
作家の強みと読者のニーズを掛け合わせ、『THE CHAT』のヒットが生まれた
これがスマッシュヒットになったのは、非常に感慨深かったですね。椙本さんはその後、『THE QUIZ』も大ヒットし、テレビで実写化されました。デビュー後、ミステリー作家として認められたことは、編集者冥利に尽きます。
「できない理由」なんて
知らんがな
基本的に、何かを始めるときに「教わってからやろう」という考えはないですね。特に出版事業は、内容を決めて製本し、流通させれば成り立つ。売れる・売れないは別にして、本を出すという行為自体は、自由度が高い。「こうじゃないといけない」という決めごとが、非常に少ない世界ではないでしょうか。
起業前に働いていたのは広告業界のイベント部門でしたが、そこでは新たなプロジェクトの度にいろんな人に声をかけて協力していただき、様々なかたちの違う企画を立ち上げる仕事をしていました。30歳まで経験を積み、「ゼロから面白いものをつくる」ことに関しては自信があった。直感も鋭いほうなので、むしろ出版経験がないほうが、慣習に縛られず自分の発想だけで勝負できてよかったと思います。
例えば、「アルファポリス文庫」をつくるときに業界の方々から、「文庫という出版形態は、全国に支店や営業所がある大手にしかできない」「棚の確保が難しい」など、できない理由をたくさん聞かされました。
でもまあ、「知らんがな」と思ってやってみたら実際は何の支障もない。人気がある書籍を文庫化し、今でもきちんと売れています。その後、小さい出版社さんも文庫を出すようになったので、おそらく業界で言われていたほどハードルは高くなかったんですね。
おっしゃる通り、競争は厳しくなっています。「すべての一線級の作家がネットから生まれる時代」に、近づいてきましたよね。うちの優位性として、一つはエンジニアリングの力があります。20人ほどのエンジニア社員がおり、ウェブアプリも含めて自社開発している。同じフロアにWebディレクターと編集と営業と法務もいて、何かあればすぐ集まって対応を決めるので、判断が早い。
あとは何といっても、ネットから作品を生む出版事業に特化し、20年以上続けてきたこと。その中で培ってきた編集力が、強みだと思っています。最初は「ネット小説」と呼ばれ、文体が今ひとつだとか、バカにされるような風潮もありました。でも我々はずっと読者を見て、「ネットでこれだけの熱量で盛り上がっているということは、書籍化すれば読みたい人がいるはずだ」と信じて、ここまでやってきました。
たしかに今はネットから生まれる本が増えていて、それ自体はいいことです。しかし実際に面白い本をネットから生み出すのは、簡単そうに見えて意外と難しい。
例えば、書籍化する作品の選び方。同じような異世界ファンタジーであっても微妙な流行りがあって、しっかりとした目利きが必要です。そこから作品を出版に耐えうる形にするために、足りないものを編集者がどう見極め指摘していくか。装丁の絵柄や帯のコピーなども含め、うちのノウハウは一日の長があると思います。
ネット発で最高のエンタテインメントを世に出していくことを、私たちは真剣に考えて実行してきた。これからも、ここを崩してはダメだと思っています。
アルファポリス