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来日中の中国人への医療費3倍請求は違法として提訴 原告「国籍を理由とした差別だ」

平野次郎・フリーライター|2025年11月4日6:55PM

 来日中に脳腫瘍などの治療を受けた中国人の母親が、無保険の日本人の3倍に当たる医療費を請求されたのは違法だとして、日本国籍を取得した大阪府在住の長女(60代)が9月10日、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)に日本人の場合との差額分約450万円の支払い義務がないことの確認を求める訴訟を大阪地裁に起こした。原告側は「国籍を理由とした外国人差別だ」と訴えている。

横断幕を掲げて大阪地裁へ提訴に向かう原告団。(撮影/平野次郎)

 訴状によると、原告の母親は2019年11月に長女に会うため短期滞在の在留資格で来日。3カ月後に帰国する予定だったが新型コロナの感染拡大で帰れなくなり、特定活動の在留資格を更新して滞在。22年1月、母親は身体に変調をきたして同センターに救急搬送され、脳腫瘍などと診断されて入院し、放射線治療などを受けた。

 母親が同年3月に退院する際、入院中の医療費として約675万円を請求された。請求額は日本人の保険適用外は診療報酬点数の1点10円で計算して100%自己負担になるが、保険適用外の外国人は1点30円で計算して300%の負担になっていた。原告と母親はあまりの高額に驚いたが、退院時に原告が請求額の一部200万円を支払って残額は分割払いとする確認書を交わした。その後今年5月に無保険の日本人の請求額の100%分に当たる約225万円の支払いを終えたうえで提訴に踏み切った。母親は退院後に中国に帰国して、23年2月に死亡した。

 原告側は、医師法により医師は診療の求めがあった場合に正当な事由がなければ拒んではならないとの応召義務があることから、医療費の請求にも自ずと制約があり、社会通念にもとる高額な医療費は応召義務に反すると指摘。国籍に基づく不合理な差別に当たり憲法や自由権規約などに反すると主張する。

背景に訪日外国人の急増

 こうした外国人医療費問題の背景には、観光などによる訪日外国人の増加により国内の医療機関を受診する外国人患者が急増していることがある。短期滞在の訪日外国人の場合は医療保険に加入できないため自由診療になり、医療費は医療機関が自由に設定できる。

 厚生労働省は18年に「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」を作成。患者の受け入れを円滑に行なうために通訳や翻訳などの院内環境を整備する必要があり、経営的にもそうした整備を維持するのに必要な費用を反映した診療価格を設定していく検討が必要としている。同省が公表している「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」では価格設定の基本的コンセプトの一つとして、保険診療における診療報酬点数をうまく活用した価格設定の理論や算定を検討すると説明。同省の23年度「外国人患者の受入れに係る実態調査」によると、回答があった医療機関5673のうち5424(95・6%)が診療報酬点数で医療費を設定し、うち1点あたり11~20円が657(12・1%)、21円以上は137(2・5%)だった。

 原告を支援する多民族共生人権教育センターは「国立循環器病研究センターとの協議で300%負担の根拠を問うと、『医療費未払いで逃げる外国人患者がいる』『対応に手間や労力がかかる』などと述べた。こうした対応は外国人を犯罪者扱いすることにつながり、原告だけの問題ではない」と批判。国立循環器病研究センターは「訴状が届いていないのでコメントを差し控えます」としている。

(『週刊金曜日』2025年9月26日号)

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横断幕を掲げて大阪地裁へ提訴に向かう原告団。(撮影/平野次郎)

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