「空飛ぶクルマ」が大阪・関西万博会場で話題となった。また今の世の中、こんなものも空を飛んでいたとは知らなかった。紙芝居である。「空飛ぶ紙芝居」―そう銘打たれた公演があると聞いて訪れた。
異次元の臨場感
10月初旬、大阪・高槻の高槻城公園芸術文化劇場。170人ほど入れるホールは満席で、子供から年配の人まで客層も幅広い。
演じるのは、大阪を拠点に活動する6人組の紙芝居ユニット「スパイスアーサー702」(スパアサ)だ。舞台中央には絵のめくり役、下手(しもて)にセリフを担当する語りの2人、上手(かみて)にオペラ歌手、ギタリスト、ピアニストが並ぶ。
この日メインの出し物は新作「フリーダ・カーロ」。絵は220枚、上演時間は50分に及ぶ大作だ。事故や病で満身創痍になりながら、メキシコを代表する女性画家となったフリーダの壮絶な生涯を、歌や曲、影絵やフラメンコも取り入れ、情感豊かに描いている。
スパアサの紙芝居は、絵の見せ方、めくり方がユニークで大胆だ。登場人物の感情などに合わせ、随所に絵を上下左右につなげて、観客の意表を突いてくる。フリーダが天に召されるシーンは圧巻だ。飛び出す絵本のように立体的で、しかも荘厳な雰囲気が見る者の胸に迫り、涙を流す人もいた。
見せ終わった絵は次々と惜しげもなく宙に放り投げる。絵は舞台にどんどん降り積もる。時に越境して観客の足元に。まさに「空飛ぶ紙芝居」だ。
スパアサの公演を見るのは2度目という兵庫・川西から来た60代の男性は、「臨場感やスピード感がすごく、物語に引き込まれました」と話す。
高速チャンバラ
「最初から宙に飛ばすスタイルでした。一般的な紙芝居は木枠の中で絵を見せ、それを抜き取って後ろに回しますが、それではスピード感が出ない。だから木枠も使いません」
めくり役のピョンキーさんはそう語る。台本や作画、演出も一手に担うスパアサの中心メンバーだ。
もともと木版画をやっていたピョンキーさん。「美術作家たちの新年会の余興に、パラパラ漫画に近いチャンバラの高速紙芝居を作ったのが原点です」と振り返る。22年前のことだ。
当時から語り役として参加するのが、ラジオのディスクジョッキーや役者として活躍する伊舞なおみさんだ。「声の仕事をする上で、紙芝居には興味がありました」と話す。
以降、徐々に活動を本格化させ、メンバーも少しずつ入れ替わりながら、ライブハウスなどで公演を行うようになった。
海外でも大絶賛
スパアサの活動は国内にとどまらない。平成20年のドイツを手始めに英国、インドに招かれ、計6度の海外公演を行った。いずれも客席はスタンディングオベーションに沸いたという。ピョンキーさんは「日本アニメの人気が高いことも影響しているのでは」と推測する。
語り役の伊舞さんは「ドイツで『ブレーメンの音楽隊』のパロディーを全編ドイツ語で演じることになったときは、語学学校に飛び込んで猛勉強しました」と教えてくれた。
またインドでは、こんなアクシデントもあった。伊舞さんが懐かしそうに話す。
「終演後に観客の子供たちから『ピクチャーOK?』と聞かれ、写真撮影と思ったら、絵が持ち去られてしまいました。翌日も公演があったので、何とか画材を調達し、ピョンキーさんが欠けた絵を描き直しました」
来年、3度目の英国公演の話も持ち上がっており、「空飛ぶ紙芝居」の国際交流は続く。
今後の夢は―と、ピョンキーさんに話を向けると、「作るのが好きですから」と、さらなる創作意欲を見せる。伊舞さんも「いろんな場所で演じていきたい」と笑った。(新村俊武)
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次回公演は11月28日(金)、大阪・福島のサロンドムネツグ(JR福島駅徒歩3分、阪神福島駅徒歩5分)で。「お茶を飲みながらのファンミーティング」といった趣向で、スパアサ初の〝カフェ公演〟となる。
午後3時/同7時の2部制。大人2300円、小学生500円、未就学児無料。フリードリンク付き。詳細は「スパアサ」で検索を。
紙芝居は日本発祥の文化
拍子木や水飴、「黄金バット」など懐かしいイメージがある紙芝居は、日本発祥の大衆芸能だ。昭和5年、それまで盛んだった紙製の人形芝居に代わって登場した。当時は世界恐慌による不況で、職を失った人が多く参入。最盛期には東京だけで2千人の街頭紙芝居屋がいて、1日に計100万人の子供を集めたといわれる。戦後も連合国軍総司令部(GHQ)が警戒するほどの人気を誇ったが、テレビの普及で姿を消した。