「今度機会があったらでいいけど、お願いがあります」
そう言われて
「何ですか」
と聞いたら
「オンブして貰いたい」
この後に自分が答えた〃言葉〃は覚えていませんが、間違いなくそう聞こえました。
自分の中にある何かの感性と共鳴して、すごくよくその気持ちがわかるような気がしたのです。
自分は男ですから……
オンブして貰いたいなんて考えたこともありませんが、なぜか胸に響いたのでした。
別段その人と特別に仲が良かったわけではありませんが、その対象に選んでくれたことを光栄にも思いそしてその感性とそれを言える素直さがとても愛おしく感じました。
もう立派な大人の女性であるその人をこの親父がオンブするとなると……
人目が気になるのは当然ですからそのシチュエーションが大事になって来ます。
「やっぱり、夜にということになるのかな」
折角だから夜景の綺麗な、そして静かな場所がいいのでしょうね。
想定した場所に着いていきなり
「さあオンブしましょうか」
そう言うのも変ですから先ずはゆっくり色んなお話をしてなるべく
〃しんみり〃
は無しにして、テンポのいい会話で時に笑い声も挟むぐらいがいいですね。
まだ暑い季節なら冷たい飲み物を
少し肌寒い季節なら温かい飲み物を
それぞれ片脇に置いて、無邪気に愉快な時間を過ごしましょう。
そして……
「さあ、そろそろ……」
その時間の締めくくりを示唆しながら立ち上がり、車に向かって何歩かあるいてから
「どうぞ」
と、背中を差し出しましょう。
その約束を果たせるとか果たせないとかはともかく……
貴方がオンブして欲しいという望みを、この吾輩に託してくれたことは忘れません。
この先の人生、きっと何度も思い出すことでしょう。
思い出すことでしょう……









