日陰者
「一応はね……そっちは人質の救出は出来たみたいだね。ただ、なんでここに?」
「あー……まあ、メルロマルクの女王様ってのは結構頑固な人物みたいでね。しかも厄介な事にこいつらに念入りに奴隷紋まで施されていて建物の外には出られないみたいなんだよ。一応発動しない様にアタイ達が魔法で抑え込みをしているんだけどね」
念入りな事ですな。
確かに……ポータルスキルは、巻き込む際には対象の許可が必要ですからな。
例外として奴隷紋等を施して抵抗出来ない様にしないといけないのですぞ。
女王達を強引に奴隷にして連れ去ったと言う事ですかな?
クズめ、自らの妻と婚約者を奴隷にするとは、手段を選んでおりませんぞ。
「……イワタニ様、この度は助けて頂き、誠にありがとうございます」
「気にしなくていい。同盟関係でもあるし、卑劣なテロリストに襲われたんだ。文句も言えないよ」
お義父さんが女王の謝罪に関して許す言葉を発しました。
俺も婚約者の無事を確認出来て安心ですな。
婚約者はサクラちゃんの背に乗せられて守られておりますぞ。
「他の連中はエルメロが主導で一応建物の外に逃がしている最中さね。エルメロ達もすぐに来るよ」
「さあ、人質の救出は出来た。いつまでも元康くんを操って戦えるとは思わないことだよ」
「……」
クズは平然とした表情で俺達を睨み続けているだけでしたぞ。
「オルトクレイ……マルティを失って怒っているのは理解できない訳ではありません。ですがマルティが死んだのは貴方を含めて自業自得……罪を積み重ねるのはもうおやめなさい。今生きている……メルティはどうなのですか!」
女王がそうクズに向かって説得を行いますぞ。
更に追撃とばかりに女王は一緒に連れてきた虎男とその妹を見せますな。
「この子を見れば貴方もわかるはずでしょう? もう時代は変わったのです。恨みの気持はわかりますが……もうやめにしましょう」
「アイツにアトラを会わせれば良いって話だよな? アトラ」
「そうらしいですわ……あの方は、お兄様にとてもよく似た気配をしています」
虎男とその妹も場に合わせてクズに声を掛けますぞ。
「人質を救出したと調子に乗っておる。ミレリア、ワシの話を聞け」
クズは俺達を無視して女王の方へ歩いて行きますぞ。
「後少しでマルティを殺した槍の勇者に盾の勇者を殺させ、そして疲労困憊となった槍の勇者をワシ達が力を合わせて息の根を止められる。そうすれば世界を危機に貶めている波の元凶である者達は全て倒し、世界は平和になるのだ」
「戯言を……三勇教の教典に書かれている盾の勇者が波の黒幕論など、信じられる物ではありませんよ」
そう言った話が三勇教の聖書にあるのでしたな。
この世の終わり、聖戦の時、力を合わせ盾の魔王を殺す事で、三勇教だけが終末の波を乗り越えられるなどというバカげた話ですぞ。
俺達にお義父さんを殺させようとしたのはこの聖書の再現をしようとしたかららしいですな。
最初の世界のお義父さん曰く、どこの宗教も似たような終末思想ってのがあるんだなと仰っていました。
確かに俺の世界でも過激な宗教には似た様な考えがあると聞いた覚えがありますぞ。
自分達の宗教徒以外は生き残れないって奴ですな。
「どちらにしてもマルティを殺した罪は許される物ではない。ワシがその身を賭けてでも報いを受けさせねば我慢ならんのじゃ!」
と、クズは女王に近付き、女王は負けじと睨みましたな。
話し合いが出来るのですかな?
豚共もさすがに間に入る事はない様ですが……クズを信じているという事でしょうかな?
そうして、クズが女王の目前、護衛をしているエクレアの前まで来たその時――!
「危ないですわ!」
虎娘が気づいて告げました。
チカッとクズの後方から一瞬だけ光が放たれました。
この室内の少し離れた所からですぞ!?
クズ目掛けた攻撃ですかな!?
誰が!?
と視線が狙撃者に向いた所で、声がしました。
「っ!」
ドン! っと、女王がクズを横に突き飛ばし、その一筋の光を胸に受けました。
「な――!?」
「あ――!?」
「そんな!?」
近くにいたエクレアも、誰もがその一瞬の出来事への対処が遅れました。
俺もお義父さんと争っていた所為で少しばかり距離がありました。
駆けつけるのに遅れたのですぞ。
それくらい、僅かな出来事だったのですぞ。
「あ……」
ドスンと尻餅をついたクズが、狙撃者の方角へと視線を向け、即座に女王の方を向きます。
女王は胸に風穴が出来ており、その場に崩れ落ちました。
「ミ、ミレリア! 何のつもりだ、貴様ぁああああああああああ!」
クズがそう言いながら狙撃者に向かって怒鳴りますぞ。
狙撃者はローブを羽織った奴の様ですぞ。
「ふん。お前が何を企んでいるのかわからないとでも思ったのか? せっかく俺達がお前が戦いやすいようにお膳立てをしてやったっていうのに。悠長に事を構えやがって。ま……ここまで弱らせられれば及第点って所か」
この声に俺は眉を寄せますぞ。
出番を待っていたとばかりにローブを羽織った奴がそのローブを脱いでその姿を見せました。
そいつの名をクズは叫びました。
「タクトぉおおおおおおお!」
何とそこにはこのループでは既に処理済みのはずのタクトが、怒りに顔を歪ませて立っていたのですぞ。
「……オルト、クレイ……ゲフ……」
女王にクズは急いで駆け寄り抱きあげますぞ。
ですが、女王は口から血を吐いております。
「喋るな! ミレリア! 傷は――う……」
胸には風穴が出来ており、手当てをしても助かるか怪しい状況ですな。
「女王!」
エクレアが駆け寄り、タクトから守るように剣を向けますぞ。
「母上!」
「メルちゃん!」
婚約者がサクラちゃんの背から身を乗り出して近づこうとしたので、サクラちゃんが女王の下に近づきました。
「母上! 母上! しっかりしてください!」
「だ、誰か! 手当てを!」
クズが助けを求めますぞ。
「わかった!」
すかさずお義父さんが我先に駆け寄り、女王に向かって回復魔法を施し始めました。
「お前は――いや! 頼む!」
クズは最初こそ眉を寄せましたが、今は藁にもすがる面持ちでお義父さんの魔法を見届けております。
回復魔法はお義父さんの専売特許ですからな。
ただ、お義父さんの回復魔法でも限界はありますぞ。
どんな傷をも癒せるのでしたら虎娘は死ぬ事は……ありませんでしたからな。
死んだ者も生き返ったりしないのですぞ。
「ざんねーん! 簡単に回復出来ると思わない事だぜ。ついでにお前も殺してやるよ!」
と、タクトが……剣を振り被ってクズとお義父さんに追撃の攻撃を放とうとしております。
「タクト! 貴様――」
脊髄で俺はタクトに向かって槍を構え――。
「おっと、槍の勇者! お前にはこれが見えないのか? 下手な真似をしたら、ここにある以上に卵を俺の部下が割るぜ?」
タクトは当然とばかりに体中にフィロリアル様の卵を巻きつけておりますぞ。
「くっ……」
「はは! やっぱり効果抜群じゃねえか! 何が通じないだ、バーカ! やっぱ通じるじゃねえか! 何が英知の賢王だ。俺の頭の方がオメーよりも良いんだっての! 百聞は一見にしかずって言葉を知らねえのかよ!」
タクトはクズをバカにするように言いました。
何やらタクトとクズは裏で繋がっていた様ですぞ。
「させないなの!」
ここでライバルがタクトに向かって攻撃しようとした所で、タクトは攻撃を中断して大きく飛びずさりましたな。
「ぞろぞろと出てきたもんだ! お前ら! さっさと相手をすんぞ! 危険なのは槍の勇者だけだしな!」
「「「ブブー!」」」
「ああ、ネリシェン。お前はそこの乗っ取りを仕出かしたドラゴンを先に仕留めろよ」
「ブブー!」
ここでタクトの取り巻きにいた元シルドフリーデン代表の豚が一歩前に出て胸を張りながら何やら鳴きますぞ。
「タクト……お前がなんで!?」
お義父さんが困惑した表情でタクトに向けて言いますぞ。
「……ホムンクルスじゃ。タクトの息の掛った者が魂をどうにか確保。それをホムンクルスに詳しい者が複製体の体に定着させて蘇生させた」
「ブブブー!」
タクトの隣で白衣を着た奴が何やら胸を張っていますぞ。
ぶち殺したいですが用意周到にフィロリアル様の卵を体中に着けております。
こいつら……! 殺意が限界を超えました!
「つーわけだ! ったく、俺達が全ての元凶みたいな扱いにしやがって! 悪いのはお前らだろうが! お前らの所為で俺達は日陰者にされてんだよ! だから責任を取って真実を明らかにしなくちゃいけねえんだ!」
タクトが苛立った口調でぶちかましておりますぞ。
くっ……フィロリアル様の卵を人質にされていなければこのような事態には……。
「そんな事が出来るなんて……」
「錬金術師のやる事は業が深いねぇ……反吐が出るよ!」
パンダがここで爪を出して構えますぞ。
「騎士様もしっかりと力を入れな! ここで負けちゃ何もかも台無しだよ!」
「わかっている!」
「おっと、雑魚共にはこれが見えないのか? ああ?」
タクトは俺からすると見覚えのある偉そうな態度で見覚えのある剣を見せつけていますぞ。
あれは……。
「――剣の聖武器なの!」
ライバルがここでタクトの持っている剣を見て言いますぞ。
……どうやらこの周回でも錬はタクトに殺されてしまった様ですぞ。
謎の一つが解けました。
カルミラ島に錬がやってこなかったのはタクトに殺されてしまっていたのですな。
「もちろん他にも用意してんぞ! この前はやられたが、俺こそ最強の勇者! 今度こそお前らに報いを受けさせてやんだよ!」
「じゃあ錬は……」
お義父さんの言葉にクズが首を振りますぞ。
ん? この動作は錬はまだ存命しているのですかな?
ですが表情は芳しくないですな。
「剣の勇者には申し訳ない気持ちはある。だが、これも全て復讐のためと思った。だが……」
どうやら錬は武器を取られただけで生きている様ですぞ。
良かったですな。
「オルトクレイ! おめーも英知の賢王とか言って杖を隠し持ってねえでさっさと出しやがれ! 俺が有効活用してやるからよ!」
「誰が貴様などに渡すものか!」
クズが敵意を見せながらタクトに怒鳴りますぞ。
お義父さんは女王の手当てをしながらクズとタクトを見ております。
クズは……非常に不服そうにしながら女王を抱えて答えました。
「……確かに盾と槍を殺す為ならどんな手段だって厭わぬ覚悟がある……妻とメルティがこの様な形で巻き込まれたなら別じゃ。しかも……」
更にクズは虎男の妹にも視線を向けて嘆く様な顔をしました。
「貴様等はマルティの仇! ここで殺せるならそれでもよかった! だが――」
「ゲホ……ゲホ……」
この姿は最初の世界をまたも思い出しますぞ。
あの時……女王がタクトの凶刃を受けて死んだのでしたな。
「愛の狩人が命ずる――」
タクトに向かって剥奪を放つ為に詠唱を行うと――。
「だから何仕出かそうとしてんだ! これが見えねえのか!」
バリンとタクトが卵を砕きましたぞ。
グギャアア!
しまった!? ですぞ。
詠唱が中断されてしまいました。
「……元康くん、手伝って! 俺だけじゃ回復させきれない! 早く!」
「わ、わかりました!」
あの時の俺達は武器の強化を知らずに、魔法も出来る限界がありました。
何よりお義父さんは瀕死の重傷を負っていたのですぞ。
ですが……今の俺達なら力を合わせれば、瀕死の女王を救うことだって出来るはずなのですぞ!
今回のクズを俺は軽蔑していますし、絶対に殺す候補に入れておりますが、女王は別なのですぞ。
だから、俺も精一杯の力を入れますぞ。
俺も回復魔法の適性はありますからな。
「お義父さん、呼吸を合わせて治療をするのですぞ。俺が呪いを浄化する強力な魔法を使うので、お義父さんは傷を塞ぐ為の回復魔法を使うのですぞ」
「わかってる」
お義父さんと呼吸を合わせ、俺はリベレイション・カースリカバリーⅩの詠唱を駆使しますぞ。
タクトが使っている武器は腐っても勇者の武器ですからな。何だかんだで強力なのですぞ。
聖水でも治療できない物が多いですし、最初の世界の女王も同様に手当てが間に合いませんでした。
ですが徐々に、呪いは効果を弱めておりますな。
今の俺が本気になってやっととは……どんだけ強力な呪いなのですかな!
「だからさせねえって言ってんだろ! 一箇所に集まってるってのはやってくれって事だよな!」
タクトが剣を振り被ってこちらに攻撃をしようとした所で、エクレア達が守るように構えました。
「ブブウ」
タクトの近くにいた元シルドフリーデン代表だったらしい豚が一歩踏み出し、変身していきますぞ。
確か話によると青龍の姿に変身出来るのでしたな。
その豚がライバルに向かって飛びかかってきました。
一振りで強大なドラゴンの腕が出てライバルを殴りつけようとしております。
体の一部だけの変化で、大きいとはいえ、室内での動きを阻害しない様にして見えますな。
タクトと豚共の分際で生意気ですぞ!