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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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歪なフィロリアル

 そんなこんなで入り組んだ通路の先にあった森、というか小山に偽装したもう一つの屋敷に俺達は到着しました。

 ですがこちらも罠は無数にありましたが空でしたな。


 出口は何故か玉座の裏でしたが、あんな場所に玉座があるのは意味があるのですかな?

 なので地下通路の探索していない場所を進むと……地下港に出ました。

 岸壁の切れ間が出口で海水が流れ込んでおります。


「こりゃ予想通り逃げられたねぇ」

「やっぱり察知されていたって事か……」

「まだ遠くまで逃げた空気じゃないから近隣海域まで範囲を広げて炙り出せば見つかると思うねぇ。大方、アタイ達が爆散する所を見ようって連中がいると思うさね」

「趣味が悪いですぞ」


 お義父さんが港から海へと視線を向けますぞ。


「潜水艦とか作ってそうだなぁ……」


 あり得る話ですぞ。


「じゃあガエリオンが潜って追いかけてみるなの!」


 ライバルが水属性のドラゴンに変化して海の中へと飛びこみました。


「……とりあえず調査は任せて拠点である船に戻るのが良いかな?」

「うむ……まだ森に隠れている可能性も無くは無い。どこかに更なる隠し通路等があるかもしれんし」


 なんて感じに俺達が接岸した船に戻った時、船内にいた連絡班が急ぎ足でやってきました。

 何やら慌てた様子ですな。


「勇者様! 大変です!」

「どうしたの? 何かあった?」

「現在、世界各国の首都近隣で謎の魔物が無数暴れているとの連絡が緊急通信で送られてきました!」

「なんだって!? 詳細は!?」

「それが情報が錯綜しておりまして……急いで勇者様方はお戻りください!」

「わかった! ガエリオンちゃん! 急いで来て!」


 お義父さんがライバルを魔物紋経由で呼び寄せました。

 ライバルが海面から飛び出して船に着地しましたな。


「どうしたなの?」

「世界各国の首都に襲撃があったって話なんだ!」

「う~ん……こりゃあやられたなの。あの情報も意図的に掴まされた可能性が高いなの……あの残党駆逐の会は利用されたと見て良いなの」


 ライバルは何やら同情の念を抱いておりますぞ。


「行こう、元康くん!」

「わかりましたですぞ!」


 こうして俺達はとんぼ返りする事になったのですぞ。





 そうしてシルトヴェルトに戻った俺達の目の前に、その脅威となる魔物が現れたのですぞ。


「グェエエエエエ!」

「グェエエエエエエエ!」


 その魔物とは……フィ、フィロリアル様でした!?

 シルトヴェルトの首都内を縦横無尽に無数のフィロリアル様が暴れ回り、建物や人を傷つけて破壊の限りを尽くしております。


「フィロリアル!?」

「いや、何か普通のフィロリアルとは違う! かと言ってサクラちゃん達ともなんか違う!」

「あ、アレはプラムちゃん!? キーくんですぞ!」


 そう、それは今までの周回で御世話をした事のあるフィロリアル様であると俺は一目で判断する事が出来ました。

 ですがそのお姿は目にするのも痛々しい程に荒れておられ、ボロボロだとしか言えない御姿をしております。

 普通のフィロリアルともキングやクイーンとも異なる、異形の姿ですぞ。


 足には不自然に羽毛が溢れ、にもかかわらず上半身はスレンダー……所々の羽が禿げており、くちばしの艶もありません。

 目は片方が不自然に大きく……見ていられませんぞ!?


「これ以上暴れるなー!」


 城の警護をしているフィロリアル様が暴れているプラムちゃん達に向かって突撃し、鎮圧を図ろうとしております。

 ですが悲しい事が苦手なフィロリアル様ですぞ。心おきなく戦えず苦戦しているように見えますぞ。


「やめるのですぞー!」


 フィロリアル様同士が争うなどあってはならないのですぞ!

 俺が思わず駈け出すとユキちゃんが俺の前に出て引きとめるのですぞ。


「元康様! 行ってはなりませんわ!」

「ユキちゃん、邪魔をしないで欲しいのですぞ! フィロリアル様が、プラムちゃん達が見るも無残に暴れさせられているのですぞ! 急いで止めねばいけないのですぞ!」

「ダメです! 元康様、どうやってお止めになるか先に仰ってください。麻痺でも混乱でもなんでもして抑えるのですわよね?」

「そんな事は出来ないのですぞ!」


 ユキちゃんが俺を止める手がますます強まりますぞ。


「ではダメですわ! それでは元康様を行かせられませんわ!」

「ユキちゃん! 放して欲しいのですぞ! あああぁぁぁ……!?」


 目の前でプラムちゃんが無造作にフィロリアル様に首元を掴まれてぶんぶんと振り回されております!

 こんな地獄の様な光景を俺は我慢してみていろと言うのですかな!?


「元康様、このユキに任せて欲しいのですわ!」

「ユキちゃん、何か策があるの?」

「これと言える案はありませんわ。ですが、元康様をあの場に行かせる事など出来ません!」


 我を忘れてフィロリアル様達の争いの間に入ろうとする俺をユキちゃんは懸命に止めて言いました。


「尚文様、どうか元康様をこの場に留める役目をお願い致します。ユキの力だけでは……」

「うん、そうだね。わかったよ」


 ユキちゃんの制止を振り払って俺が駈け出そうとした所でお義父さんが俺の手を掴んで引き止めます。

 お義父さんは俺と同じく勇者であり、既に十分な強化が施されているので俺でも容易くその手を振り払う事は出来ません。


「元康くん、ここはユキちゃん達に任せよう」

「で、ですが!」

「君が出て行っても邪魔にしかならない。今は堪えるんだ。ユキちゃんを信じてあげて」

「くっ……くうううううう」


 ここでお義父さんの手を振り払う事など俺には出来ませんぞ。

 ですが、何もせずにユキちゃん達にあの場を任せる事しかできないのですかな!?


「尚文様、元康様を止めて頂き、誠にありがとうございます。では行きますわ! コウ、サクラ! 他の者達も私に続くのですわ!」

「やー!」

「やだー!」


 サクラちゃんとコウは不穏な雰囲気に各々嫌がっておりますぞ。

 当然ですぞ。

 フィロリアル様同士で争うなど、あってはならない事なのですからな!


「ここで嫌がっても嫌な事はなくなりませんわ! 例え同族であろうと立ちはだかる者は排除……いえ、同族だからこそ、私達が止めなければいけないのですわ! 現に他の者達を見なさい。私共は勇者様方の代表を務めるフィロリアル。代表が逃げてはダメなのですわ!」


 ユキちゃんが抗争の中に飛びこみ、暴れているフィロリアル様の間に入って睨みますぞ。


「グエェエエエエエエエ!」


 歪なフィロリアル様が物ともせずユキちゃんに向かって足を上げて蹴り飛ばそうとしております。


「動くな! ですわ!」


 ですが、ユキちゃんは鋭い眼光を歪なフィロリアル様に向け、手を前に出して命じました。


「それ以上の暴挙は許しませんわ! フィロリアルの女王候補として、あなた方を捕縛しますわ!」

「グエエエエ……グ……」


 射抜く様な眼光でユキちゃんに睨まれた歪なフィロリアル様は蹴り上げようとした足が動かず、気圧されたように数歩下がりました。

 何度も飛びかかろうとしようとしているようですが、歪なフィロリアル様は何故か飛びかかれないと言った様子で威嚇の声を出すばかりですぞ。


「ああ……あの伝説は実在したのですか! ありがとうございます!」


 フィロリアル様に守られていたシルトヴェルトの村人がユキちゃんに向かって感謝するように両手を合わせて祈りました。

 こやつは何の事を言っているのですかな?


「それはどういう……?」


 ユキちゃんがここで少し眉を寄せながら首を傾げております。


「……なるほどなの。さすがはフィロリアルなの」


 ライバルがここで腕を組んで納得したように喋りました。


「何かわかったの? ガエリオンちゃん」

「ユキにサクラにコウ、お前等なら既に答えを理解できるはずなの。それとも態々ガエリオンの口から言った方が良いなの?」


 挑発的にライバルがユキちゃん達に言いますぞ。

 こんな緊急な時までそんな事を言うとは、実に空気の読めない奴ですぞ!


「んー?」


 サクラちゃんはよくわからないと言った様子で小首を傾げ、コウは俺とゾウを見ながら頷きますぞ。


「ナンパー?」

「なんでナンパ? いや、何かわかったんだろうけど、もっとわかりやすく教えてくれない?」


 ユキちゃんは飛びかかろうとしているフィロリアル様に片手を向けます。


「動くな。その場に待機ですわ」

「グエェ……!? グ……ググ!」


 そう、ユキちゃんに命じられた歪なフィロリアル様が動きたくても動けないと言った様子でその場に座り込みました。


 おお?

 これはどういう事ですかな?


「なるほど……これも特権なのですわね。さあ、サクラ、コウ! 暴れているフィロリアル達に大声で命じますわよ。そうすれば無益な争いなどすぐに終わりますわ」

「わかったー!」

「わかったー!」


 サクラちゃんとコウが頷き、ユキちゃんが命じたように歪なフィロリアル様達に向かって命令を施していきます。

 すると歪なフィロリアル様たちはなすすべもなく動きが抑えつけられて行きますぞ。

 もちろんその命令を無視して飛び付こうとする者はいるのですが、目に見えて動きが遅くなり、他のフィロリアル様方が安全に抑え込む事が出来るようになっております。


 なんと……奇跡ですぞ! ミラクルですぞ!

 フィロリアル様の血が一滴も流れずに戦いが終息しました!


「あー……そういうことか」

「お義父さん、何かわかったのですかな?」


 俺はお義父さんに向かって尋ねますぞ。


「ユキちゃん達はフィトリアさんに次期後継者としての羽を授かっている他のフィロリアルとは異なるフィロリアルなんだ。だからある意味上位個体……フィロリアルって生き物はおそらく上位存在からの命令には本能的に逆らい難い何かが仕組まれているって事なんだと思う」

「さっきコウさんがナンパと仰っていましたよね。以前槍の勇者様と外出した際に教わったと聞きましたが……」


 ゾウの言葉にコウと出かけた際の事を思い出しました。

 確かにコウは俺よりもプレイボーイでフィロリアル様方を沢山連れる事が出来ましたな。


「なんと……コウが俺よりもフィロリアル様をナンパ出来たのはそんな理由が? いや、コウが俺よりプレイボーイの資質を持っているからですぞ」

「元康くんにとって大事なのは命令が出来る事よりもコウがプレイボーイである証明なの?」


 お義父さんが何故か呆れた表情をしておりますぞ。

 そう仰られてもコウは男の子なのですから、必要な事ですぞ!


「なおふみ、槍の勇者なの」

「うむ、そうだぞ。イワタニ殿、キタムラ殿の考え方にはもう諦めた方が楽だ」

「まあ、そうなんだけどさ。鈍感というか、ここでピンと来て納得してほしいんだけどなぁ」

「コウの魅力を否定する気はありませんぞ」

「元康くんの良い所が閃きを邪魔している……まあ、それでも良いけどさ。つまり、ああいう奇妙なフィロリアルにはより効果的に命令が作動するようになっているって事なんだと思うよ」


 ここでユキちゃんが歪なフィロリアル様方の動きを止めながら頷きますぞ。


「ええ、感覚で把握しましたわ。ユキの感覚が間違っていなければ、正しくクイーンやキングになった者への効果は低いと思いますわよ」


 なるほど。

 ユキちゃんが言うなら間違いないですな!

 フィロリアル様は個性に溢れる種族ですが、集団生活が得意な種族でもありますぞ。

 そこにはフィロリアル様達特有のルールがあるという事ですな。


「どちらにしてもユキちゃん、サクラちゃん、コウ! 暴れるフィロリアル達を一刻も早く抑え込もう!」

「わかりましたわ」

「わかったー」

「がんばって止めるー」

「元康くんは戦えないんだから動かずにいて! ラーサさん達も下がって!」


 お義父さんが盾を構え、俺達に向かって突撃してくるフィロリアル様から俺を守るように前に出て守りますぞ。


「グエエエエエエ!」

「グェエエエエエエエ!」


 ガツガツと来る攻撃をものともせずにお義父さんは受け切っております。

 すかさずその場にサクラちゃんが駆けつけて命じますぞ。


「動かないでー。じっとしてないとダメー」

「グ――」

「エエエエ――」


 サクラちゃんの命令で歪なフィロリアル様は強引に動きを抑える事が出来ました。


「まったく、色々としょうがねえなの」


 ライバルが大きなドラゴンの姿に変化しながら飛び立ち、ユキちゃん達が抑えている方角とは別の場所に飛び上がり……何やらガスらしき物をシルトヴェルト内に吐き散らかして行きます。


「下手に傷つけると槍の勇者がうるさそうだけど、どうするんだい?」

「多少の負傷なら目を瞑ってもらうしかない。ラーサ殿、エルメロ殿もその辺りの心得は十分あるだろう。戦闘継続が出来ないようにするだけだ」

「魔物の捕獲なんてありがちな依頼だしねぇ」

「そうね……魔法を使えば抑え込みもそこまで難しくないはず」


 エクレア達も別れてフィロリアル様を抑え込む手伝いをしますぞ。


「さあ、元康くん」

「うぐっ……」


 何もできない俺が歯がゆいですぞ。

 ああ、フィロリアル様、そんな暴れてはいけないのですぞ!

 そう心で叫びながら俺は成り行きを眺める事しか出来ませんでした。


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