一般常識人に新エリー都は生きづらい   作:こなひー

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なんか今までにないUA数でビビってます。
ゼンゼロパワー凄い……。


5.ビリーの譲れない戦い

 六分街の通りにある喫茶店テラス席。テーブルを囲む俺とアキラ、そして二人のランチ代を持つと約束したビリーがいる。ビリーはテーブルに数体のフィギュアを並べて、それらの良さを熱く語っていた。

 

「いいかサク。これがスターライトナイト初回限定版フィギュア、これは重版したやつで、これがホビーショップ特注仕様だ。そして……」

「うん、悪いビリー。全くわかんねえや」

「何言ってんだサク! ほら、ここにシールがあるだろ!?」

「違いそれだけじゃわからんて……」

 

 全部同じじゃないですか!? ちがいますよー! みたいなやり取りをしている俺だが、本当に違いがわかりづらすぎる。わずか数ミリのシールがついているかどうかという話をされても、そもそも放送を見ていない俺にはなんにもわからない。

 

 隣で眉間をつまむアキラは、放送は一応全て視聴している。しかしそれもビデオ屋として不備が無いかをチェックするために見ているのであって、ビリーのようなドのつくオタクレベルの熱量は持ち合わせていない。

 

「すまないビリー、僕もお手上げだ」

「店長まで!?」

 

 熱弁を聞き始めて一時間ぐらい経ったか、アキラも両手を上げて観念してしまった。俺はもう最初から理解するのを諦めていたのだが、妹のリンと同様人誑しなアキラは、持ち前の優しさからどうにかついていこうと粘っていたのだ。けれどそれももう限界を迎えたのだろう。ビリーはオーバーな動きで頭を抱えて嘆く。

 

「くっそー! 俺チャンの説明力が足りないってのか!?」

「内容以前にさ、常時1.75倍速再生のトークスピードについていけんわ」

「スターライトナイトの事になると、ビリーはとても早口になるからね……」

「マジかよ!? 全然自覚なかったぜ……」

 

 自分の熱量と感動を相手に伝えたすぎてつい全部言いたくなっちゃう気持ちはわからないでもない。いきなりギア4速ぐらい入っちゃうから相手は当然置いてけぼりになる、悲しいね。

 

 

 

 

 そもそもなぜ俺とアキラがビリーのオタク語りを聞くことになっているのか。その発端はビリーが店に入るなり泣きながら俺の両肩を掴んできたところから始まった。

 

「頼む! ランチ奢るから今度のスターライトナイト超限定版フィギュアの抽選会に一緒に出てくれーっ!」

 

 抽選会に参加するぐらいなら、そう思って俺も隣りにいたアキラも了承した。ちなみに先に邪兎屋のメンバーにも頼んだらしいが、興味ないからと断られてしまったようだ。リンにもメッセージで聞いたところ『クロ撫でるのに忙しいからパス!』だそうだ。猫撫では全てにおいて最優先だからね、仕方ないね。

 

 

 

 

 普通の抽選会なら頭数さえ揃えばいいだろう。しかし、今回の抽選会はただ居るだけでは駄目らしい。抽選に参加するためには、スターライトナイトをちゃんと知っているかどうかが試されるらしいのだ。

 

「にしてもビリー、何でこんな激ムズ問題の練習が必要なんだ?」

「それはなサク、転売対策ってやつだ。限定グッズが正しくファンの元に届くようにという、俺達心正しきファンにとって素晴らしい配慮なんだぜ?」

「ああ、確かに近年インターノットで転売が横行しているって噂を聞いたことがあるよ」

 

 そう、昨今のインターノット上でも問題になっている転売問題が原因だった。俺とアキラも耳にしたことがある。本来欲しがっている人の手に入らず、別に欲しくもない連中がいらん仲介をすることで報酬を中抜きするという悪行である。

 

 まあ、この新エリー都の治安と比べたら可愛い方なのかもしれないが、被害にあえば当然怒りを覚えるし許せる行為ではない。特にビリーはより一層許せない思いが強く、今回の抽選会も譲れない戦いだと言っている。その思いはわかる、よくわかるんだけども。

 

「だとしてももうちょい簡単な問題にせん? 某ファミレスの間違い探し終盤ぐらいムズいぞこれ」

「おいおい、こんなのまだ序盤もいいとこだぜ? 次は放送全話の中からとあるシーンのセリフを完璧に当てる問題とかもあるんだからな!」

「それ本当にグッズ販売の抽選でやる内容? スターライトナイトマニアのチャンピオン決める大会とかじゃなくて?」

 

 その限定品がチャンピオンの景品だって言われたほうがまだ納得いくわ。参加資格のハードル設定がバグり散らかしてるって。実は売る気無いだろもう。

 

「んでよ、たとえ全問当てられたとしても正解者から抽選3名様までなんだ。だから少しでも確率を上げたいんだよ!」

「いや、今の問題だけで俺たちがまるで戦力になれないことがハッキリしたじゃん」

「僕たちは参加資格すら得られなさそうだ……すまない」

「…………そうだよな。無理を言って悪かったなサク、店長」

 

 肩を落としてションボリしてしまったビリー。哀愁が凄い。なんだか悪い気もするが、戦力になれないのだから諦めてもらうしかない。

 

「ビリー、力になれなかったんだし、やっぱりランチ代は自分で――」

「いや、店長! ここまで協力してもらったんだ。男に二言は無いぜ!」

「あざっす」

「いやおめぇはもうちょい遠慮しろよ!」

 

 いやいや、学生にとってはランチ代もばかにならないんすよ。だから全然わからんスターライトナイトの話に二つ返事でノッたんだから。

 

 ついでに言うとここの喫茶店、一日一杯だけコーヒー無料で飲ませてくれるというとんでもシステムがある。なので俺も毎日利用させてもらっている。ただ不思議なことに二杯目を頼もうとしたら『飲み過ぎは体に良くありませんよ』って断られる。そういうわけでコーヒーには一度も金を出した事が無い。じゃあどうやって黒字出してんのあの店、怖。……どうか潰れませんように。

 

 

 

 結局抽選会は、全問正解できたのがビリーだけだったので難なくゲットできたそうな。良かったねビリー。最初から全部あいつ一人で良かったんじゃないかな。




平和に過ごしているサクからしたら、ビリーってオタク機械人になっちゃうのでは。
戦闘で相当カッコいいんだけど知る由も無し。
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