今回は皆さんに相談事がありまして、僕は文章を書く際にパソコンのWordで書いてから、それをこっちに貼り付けて投稿してるんですけど、Wordでは一文字しっかり空けていたのにこっちに貼り付けたらその一文字が埋まって空いていない状態になってまして、あとWordでは縦の文字がしっかりと揃えられているのに、こっちに貼り付けたら揃えられていなかったりするんですけど、その理由ってわかりますか?
もし、ご存じの人がいれば教えてほしいです。
お願いします。
風が切る音が耳朶を刺激する。
視界の景色が秒刻みに色を変える。
身体に暑さによる熱とは別の熱が灯るのを感じる。俺はその熱に身を任せるように、さらに速度を上げる。
周囲には誰もおらず、鳥の囀りと風が切る音だけが聴覚を支配するこの瞬間が、まるで世界に自分一人だけが存在しているような感覚を齎し、まるで何にも縛られることのない自由なその感覚がとても心地よい。
「——ふぅ、少しずつ余裕が出てきたな」
いつもの日課であるトレーニングを終えた俺は、現在居候しているベルの家の風呂場で水を浴びながら独り言を口にする。
この世界に来て一カ月が経った。
この一カ月の間で、俺の生活様式はずいぶんと変化した。トレーニングもその一つだ。
地球に居た頃は、トレーニングをしたことなど一度もなかった。
俺は、武道やスポーツといった身体を動かす習い事はしていなかったし、運動神経自体悪くなかったため、学校の体育などでも苦労することはなかった。そのため、トレーニングを必要としなかった。
ならば、なぜ今トレーニングをしているのか。それは、必要だと判断したからだ。
では、なぜ必要だと判断したのか。それは、この世界では身体能力が高いものが優位に立つからだ。
この世界では、戦闘を余儀なくされる場面がいくつかある。その典型例が、モンスターだ。この世界では、モンスターと呼ばれる人類の敵対者が存在し、モンスターによる被害は後を絶たない。
そんな人類の敵対者たるモンスターはダンジョンから生み出される。モンスターが湧き出すダンジョンは、この世界では一つしかなく、迷宮都市オラリオが管理している。
現在のダンジョンは、オラリオの象徴とも言える50階建ての摩天楼施設である『バベル』が迷宮から溢れ出てくるモンスターを封じ込めている「蓋」として機能しており、また『ギルド』と呼ばれるオラリオの運営を担っている機関の主神であるウラノスが自身の権能である祈祷によって、迷宮の活性化を防いでいる。これらの理由によって、現在はモンスターがダンジョンから地上へ進出してくることはない。
しかし、神々が降臨した神時代以前、古代と呼ばれた時代ではダンジョンからモンスターが地上へ溢れ出ていた。そのため、モンスターはダンジョン内だけでなく、地上にも存在している。
地上のモンスターとダンジョンのモンスターとでは違いがある。それは、繁殖能力の有無だ。地上のモンスターは、種族を存続させるために、自ら進化し、その結果繁殖能力を手に入れた。これにより、古代にて地上へと進出したモンスターは絶滅することなく、繁殖を繰り返すことで現代まで生き続けている。
だが、地上のモンスターにも欠点がある。それは、繫殖能力を手に入れたのと引き換えに、弱体化したことだ。モンスターの体内には魔石が存在するのだが、地上のモンスターは繁殖するためにその魔石の力を消費している。その結果、地上のモンスターは、ダンジョンのモンスターと比べて弱くなっているのだ。
だが、いくら弱体化しているとはいえ、【神の恩恵】を授かっていない一般人にとっては危険なことに変わりはなく、モンスターの程度によっては力の差が歴然となる。
そして、同じく一般人である俺もまた危険なことに変わりはない。だからこそ対策を講じる必要がある。
その対策の一つがトレーニングだ。
だが、トレーニング自体がモンスター対策に直結しているのかと言えばそうではない。このトレーニングの主たる目的は、基礎体力の向上だ。
【神の恩恵】を授かっている者ならば、【ステイタス】の向上がイコール基礎体力の向上であり、【ステイタス】はモンスター討伐などで得た経験値を素に上昇するため、走り込みや筋トレといったトレーニングはあまり意味を為さない。しかし、一般人である俺ならば話は別だ。
俺は、【神の恩恵】を授かっていないため【ステイタス】が存在しない。そのため、基礎体力を向上させるためにトレーニングは必須なのだ。
「——あっ、夜!朝ごはんできたよ!」
風呂で汗を流し終えた俺が居間へと足を運ぶと、ベルが既に朝ご飯を用意して待ってくれていた。
ベルの言葉に、「わかった」と返事をして朝ご飯が並べられた席へと向かう。
席に着いた俺は、手を合わせる。それと同時にベルも手を合わせる。
「「いただきます」」
二人で食事の挨拶をする。これは俺がこちらに来てから恒例となった習慣だ。
どうやら、この世界では食事の前に挨拶をする習慣が無いらしい。
当初、食事の挨拶をした俺を見たベルに何をしているのか聞かれてため、「すべての食材に感謝の念を送っている」と伝えると感激されて、それ以降はこうして二人で食事の前は挨拶をするようになった。
「今日もおいしいな」
「ほんと!?よかったっ」
俺がご飯の感想を述べると、顔を綻ばせながら喜びをあらわにする。
言葉一つでここまで喜ばれると少しむず痒いが伝えるべきことは伝えなければならない。
「いつも助かる」
「ううん、全然大丈夫だよ。料理の担当は僕から言い出したことだし、それに夜には他のことで手伝ってもらってるしね!」
いつも用意してもらっている感謝の気持ちを素直に伝えると、ベルは笑顔でこちらの言葉を受け止める。
「まぁ、たしかに、狩りとか山菜採りとかの手伝いはしてるが、それはこちらから申し出たことだからな」
「それはそうだけど、正直とても助かってるんだ。僕は、狩りとかは苦手だから」
ベルは苦笑しながら言葉を紡ぐ。
たしかに、初めてベルと一緒に狩りに出た時にベルはなかなか動物を狩ることができていなかった。
もともと、ベルは運動神経が良い方ではないし、手先も器用な方ではないから罠を張るのも苦手だと言っていた。
そのため、俺が代わりに狩りや山菜採りといった森での仕事を受け持つことになった。
「まぁ、人には得手不得手があるしな」
「でも......夜は料理もできるでしょ?」
俺がベルに気遣いの言葉を投げかけると、ベルはやや拗ねたような落ち込んだ態度をしながら言ってくる。
ベルの言う通り、俺は料理ができる。地球に居た頃、両親は共働きで家に帰ってくるのが遅かったため、自分で作って食べていた。そのため、料理の腕にはそれなりに自信がある。
こちらに来てから一度作ったことがあったが、俺が作った料理を食べたベルは絶賛していた。
「......まぁ、そうだな」
「......しかも、僕よりも作るの上手いし」
「料理歴は俺の方が上だしな」
「それはそうだけどぉ......」
「そんなことで拗ねるなって」
拗ねた態度をみせるベルに、俺はつい笑ってしまう。
俺とベルは同い年だ。だが、時折みせるこうした態度のせいで、ベルが年下に見えてしまう。だが、このことをベルに言えば絶対に拗ねるから口にはしない。
そもそも、かわいい女の子が拗ねるのなら大歓迎だが、男が拗ねたところで誰得だという話だ。というか、普通に慰めるのがめんどくさい。
「これ以上拗ねるなら、今日はアレを見せてやらないぞ?」
いつまでも拗ねた態度をみせるベルに、必殺の言葉を告げる。
「え——っ!?ま、まって、わかった!もう拗ねたりしないからっ!」
俺の言葉を聞いたベルは、予想通り、慌てながらも元の状態に戻る。
そんなベルの姿が面白く、つい笑いが出てくる。
「あはは、本当にベルはアレが好きだな」
「だって、あんなすごいもの本でも見たことないし!それに、魔法は僕にとって憧れなんだ!」
——魔法。
ベルが言うように、俺は魔法が使える。
「でも、すごいよね。夜はエルフみたいな魔法種(マジックユーザー)ではないし、神様たちから【神の恩恵】を授かったわけでもないのに魔法が使えるなんて」
そう述べるベルの瞳には、憧れや尊敬、羨望といった色が混じっている。
ベルが俺に向ける感情は理解できる。俺もまた、主人公(ベル・クラネル)に同じ感情を抱いているのだから。
だが、今回ばかりは少々事が特殊すぎる。
そう、特殊なのだ......俺という存在が。
地球という異なる世界からこの世界にやってきた、この世界にとっての異端者(イレギュラー)。それが俺だ。
そして、そんな異端者たる俺が原作の主人公であるベル・クラネルに出会った。これは運命の悪戯か、あるいは......。
なんにせよ、俺という存在がいる以上、この世界は『ダンまち』の世界であってそうではない。俺という存在を分岐点として、この世界のルートは史実とは異なる歴史を辿ることになるのは間違いない。
それが良い方向へと進むのか、あるいは悪い方向へと進むのかは、全知零能たる神々にすら分からないだろう。どんな結末にたどり着くかは俺次第だ。
だが、これから先の未来などどうでもいい。この先、どんな未知が待ち受けていようとも、俺は俺のやりたいように為すべきことを為す。
そのためにも——
「——俺は、強くならなければならない」
胸の中で抱いていた想いが、思考の渦を抜け出して口から零れ落ちる。
「え? 何か言った?」
どうやら俺が零した言葉は、ベルには聞こえていなかったようだ。
ベルが難聴系主人公でよかったぜ。いや、難聴系主人公かどうかは知らないが。
「いや、何でもない。......まぁ、あれだ。魔法が使えるようになりたいなら本を読むことをお勧めする」
「本かー。英雄譚はいっぱい読んでるんだけどなぁ」
俺が魔法を使えるという話題から逸らすために出した話だが、どうやらこのまま行けそうだ。
「英雄譚は、って。お前は英雄譚しか読んでないだろ」
この一か月間でわかったことの一つだが、本棚にはあれだけジャンルを問わず、豊富な本が揃えられているというのに、ベルは英雄譚しか読んでいない。前に、英雄譚しか読まない理由を尋ねたことがあったが、その際、ベルは——
「......だって、他の本は内容が難しいからよく分からないくて」
ということらしい。まぁ、たしかに13歳が読むには少々専門的なことが書かれていたりして難しくはあるかもしれない。
俺はベルに文字の読み書きも教わったことで、今では本棚に揃えられた本は普通に読むことができるが、それは俺が育った場所が教養の進んだ日本だからだろう。なにより、“異世界の知識”という特殊な状況が拍車をかけているというのもある。
「確かに、ベルの言う通り、難しい本が多いかもしれない。だが、魔法を発現させることができるかどうかに、読書の有無は関連していると俺は考えている」
「どうして?」
「いいか、ベル。この世界において、魔法とは興味だ。何事に関心を抱き、認め、憎しみ、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか。引鉄は常にお前自身の中に介在している。だからこそ、読書は、その引鉄を少しでも増やすために有用なんだ」
俺の原作知識を参考、というか丸パクリした『ダンまち』の世界における魔法の定義をベルに説明する。
「......んー、何を言ってるのかちょっとわからなかった、かも......あはは」
俺の説明を聞いたベルは、頬を掻きながら苦笑する。
......こいつ。せっかく、人が懇切丁寧に教えてやったってのに......。
今すぐこいつの顔をぶん殴ってやりたい......。
「......はぁ、要するに読書をすれば魔法を発現しやすくなるかもってことだ」
「なるほど!理解できたよ!」
どうやら、今の超簡単な説明なら理解できたようだ。
「......そうか。そいつはよかった」
「うん! さすが、夜だね! 僕、これからは英雄譚以外にももう少し本を読んでみるよ!」
「そうか。まぁ、がんばれ」
「うん!」
ベルからの称賛を軽く流して、応援の言葉をかけると、ベルは花が咲いたようなきれいな笑顔で返事をする。
そんな能天気なベルを見た夜は、一人呆れながらもその表情は柔らかいでいた。
*
朝食を終えた俺たちは、外に出て農作業に取り掛かる。
ベルの家の周囲には田畑が広がっており、そこでは米や麦、野菜などが育てられている。普段の食事で出される料理で使われている野菜なんかはここで育てたものを使用している。
俺は農業に関してはかじった程度の知識しかないが、ベルにいろいろと教えてもらうことで農業に関する知識がついた。ベルが言うには、この知識はおじいちゃんから教わったものらしい。
「夜、こっちは終わったよ!」
「そうか、こっちも丁度終わったところだ」
作業を始めてから数時間が経過したところでようやく作業は終了した。
基本的に、一日の内の午前中はこうして農作業に時間を割いている。
正直に言えば、別のことに時間を割きたいのだが、いろいろとお世話になっている以上、わがままを言うわけにはいかないし、なにより自分にできる事なら何でもすると言ったのは俺である以上、その義理を果たさなければならない。
「それじゃ、家に帰って昼ご飯にしよっか!」
「そうだな」
作業を終えた俺たちは、時間も丁度昼時なこともあり、昼ご飯を食べるために家へと帰宅する。
やはり身体を動かすと腹が減る。これまでは、朝の時間帯に身体を動かすとなれば学校の体育くらいのものだったが、こちらの世界に来てからはよく身体を動かすようになったため、腹の減り具合が段違いだ。そのため、食べる量も多くなる。
「夜ってよく食べるよね」
いつも通り、ベルが昼ご飯を作り、それを二人で食していると、ベルからそんなことを言われる。
「ん? あぁ、たしかにここに来てからはよく食べるようになったな」
「故郷に居た頃はそんなに食べてなかったの?」
「そうだな、身体を動かしてなかった分、そこまで腹も減らなかったし、これだけ食べるようになったのはやっぱり農作業やらトレーニングやらして身体を動かしているからだろうな」
「そっか。でもたしかに、身体を動かすとお腹が減るよね」
「だなー」
この一カ月で、食べる量が多くなったことで体重が一気に増えた。だが、俺の場合はトレーニングを毎日欠かさず行っているおかげで、増えた体重は駄肉になることなく筋肉へと昇華している。
この世界に来てから一か月間、良質な食事を摂取し、良質なトレーニングを行ってきたことで、だいぶ基礎体力もついてきた。
今まで、こんなにも努力をしてくることはなかったが、案外悪くはないと思っている自分がいる。そう思えるのは、こうして目に見える変化があるからだろう。
強くなるためにも、妥協することなく引き続き頑張っていくとするか。
「「ごちそうさまでした」」
食事を終えた俺たち。
ここからは、夕飯の時間までは自由時間となるため、それぞれのやりたいことをやる時間となる。
俺は、いつも通り、必要な道具を鞄に詰め込み、弓と矢筒を背に携え、外に出るために玄関扉へと向かう。
「あ、いってらっしゃい! 気を付けてね!」
玄関扉の把手に手を掛けた時、後ろからベルの声が聞こえたため振り向く。
こちらに笑顔で手を振っているベルを見て、こいつが女だったら新婚夫婦みたいなシチュエーションだったのに、と場違いな恨みをベルへと向けながらこちらも手を振り返す。
「あぁ、行ってきます」
挨拶を終えた俺は、把手を捻って扉を開き、目的地へ向かうために外へと足を踏み出した。
*
ベルの家を出て少しばかり歩くこと数分。
草原と森の境目へと到着した俺は、静かに自身の内側へと意識を落とし込む。
落とし込んだ意識は、体内の魔力を正確に感知する。そして、その魔力を体外へと球体状に広げる。
——《魔力感知》
球体状へと広がった俺の魔力は、止まることなく限界まで展開されていく。展開された幅は、直径50m。広くもなく、狭くもない幅ではあるが、これ以上広げてしまうと、魔力感知の範囲内の情報を正確に読み取ることができなくなってしまう。
この魔力感知は、いわば魔力を媒介にして自身の触角を広げるようなイメージだ。そのため、魔力感知内の情報は手に取るように分かる。
だが、自身の許容量を超えた範囲にまで魔力感知を広げてしまうと、感知できる情報は精々魔力を帯びた生物や物体に限定されてしまう。今回の目的の一つが狩猟であるため、微細な魔力を身に宿している動物を狩るだけならば何も問題はない。だが、狩猟と同時に、魔力制御の修練も並行して行っている。そのため、より正確な情報を入手するために、より緻密な魔力の制御を要求される、自身の限界50mまでの展開の方が効率がいい。
「さて、魔力感知に何かが引っかかるまで散策しますか」
魔力感知に何かが引っかかってくれなければ何も始まらないため、野生動物が生息していそうな領域まで散策を行う。
この際、出会う生物が野生動物とは限らないことを留意しておく必要がある。もし、出会ったのがモンスターならば、程度によっては戦闘態勢へと速やかに移行する必要があるからだ。そのためにも、事前に知ることのできる魔力感知は非常に便利だと感じている。
「——見つけた」
散策を続けること数十分。ようやく一匹目を捕捉した。
体長はおよそ30cmと小型。移動はしておらず、ここからおよそ40m先の茂みで草を食べている模様。魔力は若干揺れているため、警戒している可能性がある。周囲には、その個体以外はいない。
「警戒しているということは食事を始めたばかりなのか、あるいは元々警戒心が強いのか。どちらにしろ、警戒心が緩まるまではここで待機しておくか」
俺が凄腕の弓使いならば、若干警戒されていたところで仕留めることはできるのかもしれない。しかし、俺は弓を扱い始めてまだ一カ月しか経っていない初心者だ。そのため、確実に仕留めるためには警戒心が緩まるまで待つ方が成功率は上がる。
「とりあえず、様子を見てみるか」
隠れている木から顔を出した俺は、感知した生物をよく視るために目に魔力を集中させる。そうすることで、視力が強化されて遠くのものまで見ることができるようになる。この技術も、この一か月間で身につけたものの一つだ。
「ふむ、輪郭的にだいたいの予想はついていたが、やはり正体は野ウサギか」
野ウサギは何度か狩ったことがあるが、こいつらは動きが素早いため、一度取り逃がしてしまうと仕留めるのが非常に困難となる。
そのため、一撃で仕留めなければならない。
「——おっ、魔力の揺らぎが落ち着いた」
あれから待つこと数分後。ようやく野ウサギは警戒心を緩めた。おそらく、食事によって腹が満たされたことで気が緩んだんだろう。
——この機を逃す手はない。
今この瞬間が好機だと考えた俺は、弓を右手で構えて矢を添える。
——《身体強化》
魔力を自身の肉体に纏い、身体能力を強化する。
——《強化》
魔力を弓に纏って強化することで自身の力で壊れないようにする。
そして、矢にも動揺に纏うことで殺傷能力を高める。
——魔力集中
確実に仕留めるためには、矢を射る速度を上げる必要がある。
そのためにはより必要となる筋肉の部位へと魔力による強化を集中させる。
まずは引きの力を生むための広背筋、僧帽筋、菱形筋。次に、安定性と引き絞りの精度を上げるための三角筋、棘下筋、小円筋。そして、保持と制御を高めるための上腕二頭筋・三頭筋、前腕屈筋群・伸筋群。
これらの部位への強化の比率を上げる。
準備が整ったところで、集中力を高める。
余計な思考を破棄して、野ウサギを仕留めることだけに集中する。
揺らぐ波を落ち着かせるように、意識を沈める。
辺り一面から音が消える。
野ウサギは、こちらの気配には気付かない。
静寂が支配する空間の中、俺は矢を放った。
「——っっ」
俺が放った矢は正確に野ウサギの頭部を捉え、貫通した。
頭を射抜かれた野ウサギは断末魔を上げる暇もなく息絶える。
「——ふぅ......成功だ」
見事に一撃で仕留めた俺は、成功したことに達成感を感じる。
やはり、何かを成し遂げることは気持ちのいいものだ。これで数度目の成功だが、何度経験しても達成感に慣れることはない。それだけ、俺の中で目的を達成するという行為が新鮮なものなのだろう。
「まぁ、重要なのはここからなんだがな」
野ウサギを仕留めることに成功した俺は、殺した野ウサギの元まで歩いていく。
野ウサギの元に到着した俺は、魔力をナイフ状に具現化させる。
魔力の具現化には緻密な魔力制御が要求される。習得は至難の業ではあったものの、俺はできると確信していた。なぜなら、原作ではティオネ・ヒリュテが光のムチを魔力で具現化する魔法を発現させており、前例が既に存在していたからだ。
故に、俺は研鑽に研鑽を重ね、ついにこうして魔力の具現化に成功した。
俺がこれから行うことは血抜きと解体だ。
何の処理もしなければ折角の肉が腐ってしまうし、対処が遅れると鮮度が落ちる。
そのため、迅速な処理が重要となってくる。
まず、首を切断し、胸部を切開して心臓付近の動脈を切る。そして、逆さ吊りにして血を排出する。
数分して、十分に血抜きを終えれば、次は内臓の除去に取り掛かる。
その後は、毛皮を剥ぎ、余分な部分を削ぎ取り終えたら、魔力で生み出した水できれいに洗い、清潔にする。
そして、部位ごとに分割してサイズ調整を行う。
血抜きと解体が完了したら、氷魔法で急速凍結を行う。
凍結が完了すれば、凍らせた肉を布で包み込み、クーラーボックスに収納する。
これでようやく、すべての作業が完了となる。
「ふぅ、何気にこの解体作業が一番疲れるな」
解体は最も重要な作業だが、同時に最もめんどくさい作業でもある。
できればベルに代わってほしいが、そんな我儘なことは言えない。
「ま、慣れるしかないわな」
いつまでも辛気臭い空気でいるわけにもいかないので、軽口を叩いて気分を切り替える。
「次は川に魚を取りに行くか」
次の目的地を決めた俺は、記憶にある川へと向かうためにその場を後にした。
*
川に着いた俺は、まずは《魔力感知》で魚がいるかどうかを確認する。
「......よし、ちゃんといるな」
《魔力感知》を展開すると、数十匹ほど反応があった。これだけいれば、今日の晩飯には問題なく魚料理を出すことができるだろう。まぁ、出すと言っても、作るのは俺ではなくベルなんだがな。
とはいえ、しっかりと捕まえて持ち帰れることが今の俺の仕事である以上、その仕事をしっかりと完遂できれば文句は言われまい。
「ということで、早速捕まえるとするか。——《魔力投網》」
魔力感知で魚を捕捉した俺は、次に魔力で網を創り出し、それを川の左右へと隙間なく張る。
「これでもう逃げられまい。あとは、少しずつ狭めていくけば......」
左右の網を引っ付くまでに狭めることができれば、左右の網を一つに融合し、引っ張り上げる。
すると、引っ張り上げた網には、活きのいい数匹の魚がもがいている姿が見受けられる。
「魚......捕ったどーーっっ!!」
無事、魚の捕縛に成功した俺は、投網を天へと掲げてお決まりのセリフを口にする。
「これで、今日の晩飯は野ウサギの肉に魚と豪勢な料理を頂くことができる」
今晩の料理を想像した俺は、期待に胸を膨らませる。
「新鮮でおいしい魚料理を食べるためにしっかりと保管しておかなければな」
捕縛した魚は、持ってきたクーラーボックスへと入れて、鮮度を保つようにする。魚は鮮度が命だ。そのため、しっかりと保冷しておかなければならない。
幸い、俺は氷魔法を使えるため、保冷に関しては問題ない。
魔法というのは本当に便利なものだ。そう改めて感じさせられる。
そもそも、この世界において、魔法は【神の恩恵】によって発現することで使うことができるのが一般的だ。
【神の恩恵】なしで魔法を使うとなれば、エルフのような魔法種に限られる。実際、神時代以前の古代では、エルフは自力で魔法を使うことができていた。現代のエルフは使うことができるのかは定かではないが、少なくとも古代に自力で魔法を使える者がいるということは、魔法の習得は【神の恩恵】によってのみ習得可能というわけではないという事実の立証となる。
だが、ここで留意すべきはあくまでも自力での魔法の発現が可能なのは魔法種に限られるということだ。この事実は確定ではないが、俺の知りうる限りで魔法種ではないヒューマンが自力で魔法を発現させたという話は見たことも聞いたこともない。
では、なぜエルフのような魔法種ではなく、【神の恩恵】も授かっていない一般ヒューマンである俺が魔法を使うことができるのか。
——その秘密は魔力にある。
この世界には、“魔力”と呼ばれる力が存在する。魔力とは、魔法的現象を引き起こす源となる力のことであり、地球においても漫画や小説などの創作作品でよく用いられている。創作作品において、魔力が果たす役割は様々であるが、魔力を肉体や武器に纏わせて強化したり、火の玉や土の壁などを生み出す魔法を行使する際に使用したりするのが一般的である。
しかし、こと『ダンまち』の世界において、魔力とは【ステイタス】における【基本アビリティ】の内の一つを指している。
この世界において、【ステイタス】とは【神の恩恵(ファルナ)】とも呼ばれるもので、神々が扱う【神聖文字(ヒエログリフ)】を神血(イコル)を媒介にして刻むことで対象の能力・可能性を事象として発現させたものだ。
そして、【ステイタス】は【レベル】【基本アビリティ】【発展アビリティ】【魔法】【スキル】の五つから成り立っており、【基本アビリティ】は『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の五つの項目からなる。
この世界において、魔力とはあくまでも数値に過ぎず、魔力を直接操る技術は一般的には確立されていない。故に、どれだけ優れた魔導士であったとしても、魔力を直接操る術は持ち合わせておらず、魔導士が扱う魔法は、【神の恩恵(ファルナ)】によって発現した【魔法】に限られている。
しかし、それはあくまでもこの世界における常識であり、地球から来た俺には適用されない。俺にとって、魔力とは単なる数値ではなく、魔法的現象を引き起こす源となる力であり、魔法とは魔力によって引き起こされる現象と定義付けている。
故に、俺はある結論へと至った。この世界に魔力があるのならば、【神の恩恵(ファルナ)】を授からずとも魔法を行使することができるのではないかと。
しかし、その結論は魔力を有していることが前提で成り立つ結論だ。魔力が存在しなかった地球からの来訪者である俺は果たして魔力を有しているのか。そのことだけが気掛かりであったため、検証した。その結果、俺の肉体には魔力が宿っていることが分かった。
俺の肉体に魔力が宿っていることが判明してからは、一日の内の自由時間を使ってひたすら魔力制御の修練に取り組んだ。
その結果が先ほど見せた数々の魔法である。
俺は、自身が使用する魔法を性質上大きく二つに大別した。
一つが『無属性魔法』だ。
この無属性魔法に分類される魔法は、《強化魔法》、《魔力感知》、《魔力投網》、《魔力の具現化》等である。
これらの魔法は、魔力そのままの性質で使用している。そのため、属性のないという意味で、無属性魔法と呼称している。
もう一つが『属性魔法』だ。
これは、文字通り属性の性質を持った魔法だ。直近で使った例でいえば、野ウサギを洗浄する際に生み出した水や、保冷するために使用した氷魔法なんかが該当する。
これらの魔法は、魔力の性質を変換することで行使している。
魔力の性質変換——これが属性魔法の本質だ。
そして、性質を変換させる際に重要なのがイメージである。
魔法とはイメージである。明確なイメージを思い浮かべることができれば、魔法を生み出すことができるし、その練度はより高度なものとなる。
逆に、イメージが曖昧であれば、魔法は不発に終わる。
故に、いかにイメージを明確かつ鮮明に思い浮かべることができるかが、魔法の発現の肝となる。
「さてと、今日の食材はこれだけあれば十分だろうし、とりあえず持って帰るか」
この後は、魔力制御の修練に取り組む予定だが、これだけの大荷物は邪魔でしかない。そのため、一度持ち帰ってから始めようと思い、家の方角へ身体を向けたその時——。
「——っ!」
猛烈な不快感を感じ取り、思わずそちらに目を向ける。
しかし、目を向けた方向には不快感の正体となるものは何もなく、あるのは鬱蒼とした樹海が広がっているだけだった。
「............なんだ、今の感覚は......」
今の不快感の正体は分からないし、なぜそのようなものを感じ取ったのかもわからない。
だが、確実に一つだけ分かることがある。
それは、この妙な感覚が示す何かがこの先にあるということだ。
確証はない。だが、確実に何か良くないものがあるということだけは分かる。
そして、ソレは決して見逃してはいけないということも。
「............行くか」
一抹の不安を抱えながらも、自分自身でも分からない使命感のようなものに突き動かされ、自然と足は樹海へと進んでいた。