私は思った。トリニティはヤバい……と。
「何度も何度も注意をしたと思うのですが、どうすればミカさんは理解していただけるのでしょうね?」
「むー! むむむ!」
「ええ。存じ上げています。ミカさんには言っても無駄だと身をもって体験してきましたので!」
突如部屋に入って来た人物を見るなり、ナギサさんは切り分けられる前のロールケーキの皿を手に取り、ゆっくりと乱入者に近づいてから、その口にロールケーキを突き刺した。
「あの、ヒフミさん」
「は、はぃ……」
「これってトリニティの日常でしょうか?」
「いえ、そんなことは……」
突然のナギサさんの乱心に、ヒフミさんはタジタジとなる。
ヒナさんとはまた違う、特徴のあるヘイローだけど、底知れないものを感じる。
あと、ロールケーキを頑張って食べているのが面白い。
彼女はパテル分派の次期首長の、聖園ミカさんだな。
ナギサさんやもう一人のセイアさんとは違い、SNSでの露出が結構あるので、軽くだけど知っている。
ただ、何故か俺の部分が悲しそうにし、私の部分かとても冷たくなっているのだけど……はて?
「むぐぐ……ゴクン。悪かったから許してよー」
「全く……来年からリーダーとして引っ張っていかなければならないというのに…………あっ」
やっとナギサさんは自分が誰に見られていたのか気付いたのか、赤面しながら席へと戻った。
当たり前の様にミカさんは放置されているが、そのまま椅子を持って来てナギサさんの横に座った。
「コホン。少し取り乱してしまって、申し訳ありませんでした。話は戻りますが……」
「ねえねえナギちゃん。この子ってどうしたの? あっ、私は聖園ミカだよ。よろしくねー」
「ミカさん?」
中々ドスの利いた声を出しながら、ナギサさんは笑みを浮かべる。
追い出さない辺り、本題とはそこまで聞かれても困らないものなのだろうか?
そもそもヒフミさんが居る時点でってのもあるけど、ミカさん……か。
「あはは、そんなに怒らないでよ。ちょっと話を遮った位で……あ、うん。黙るね」
「それが宜しいかと」
ナギサさんの顔から笑みが無くなり始めたのを見たミカさんは、すかさず謝罪をした。
「話が逸れてしまってすみません。本題ですが、個人的にエリスさんにはトリニティに入学を決めて頂きたいと思っています」
「へー、未来の後輩ちゃんなんだ」
「強要するつもりは無く、他の学校に入学したからと何かするつもりはありません。その代わりですが、トリニティを選んで頂けるのでしたら、入学費と授業料に付きましては私の方で工面します」
「ナギちゃん。それって大丈夫なの? 職権乱用じゃない?」
完全にミカさんを無視しながらナギサさんが話すが……入学費と授業料の免除はとても魅力的だ。
お金に余裕はあるけれど、入学費と準備金を使った後は、流石に自分でお金を稼がないと授業料は厳しくなる。
特にトリニティは他の学校に比べて高額であり、若干だけどトリニティについては悩んでいた。
正直裏があるようにしか思えないし、ティーパーティーとしてではなく、ナギサさん個人からの申し出というのも引っ掛かる。
このヒフミさんと仲が良い辺り、決して悪い人ではないのだろうけど、トリニティの生徒会の一員という事を考えると、やはり怪しい……。
「申し出はありがたいのですが、ただの子供である私にどうしてその様な配慮を?」
「一つ目としては、その背中の翼ですね。説明を少し省かせていただきますが、トリニティの氏族でなければ、翼が生える事は基本的にあり得ません。身寄りのない同胞を救う……個人的な想いからですね」
「へー、流石ナギちゃん。昔私を置いて帰った時とは大違いだね」
「二つ目ですが、エリスさんの人柄を買ってでもありますね。暴徒を鎮圧し、被害についても隠す事無く教えて下さいました。その正義心をトリニティの未来のため、役立てて頂けませんでしょうか?」
ナギサさんの謳い文句と、無視されているミカさんを更に無視してヒフミさんに視線を移す。
嬉しそうな、それでいて遠慮するような笑みをヒフミさんが浮かべるが、うん。そうだね。困るよね。
翼の事はさておき、私は決して正義心からデモ隊とその他を殲滅したわけではない。
そしてもしも私の、有るかもしれない正義心を役立てる場合、ヒフミさんも標的になる。
だって学校をサボって遊びに出かけているし。
俺も私もナギサさんについては一切思うところはないけど、ミカさんについては思うところがある。
違う世界ではあるけれど、多分ミカさんとは何かしら関わりがあったのだろう。
それも、悪い方向で。
生まれ変わった今となっては関係はないけれど、気にならないかと聞かれれば嘘となる。
さて、トリニティの入学については、様子見も兼ねて一旦保留にさせてもらおう。
各校……アビドスは別だけど、後二週間くらいは余裕がある。
正直実質タダとなるトリニティに心は傾いているけど、入学するとなればいくつか気を付けなければならないことがある。
「買っていただきありがとうございます。大変申し訳ありませんが返事は保留にさせて下さい。一週間以内に、答えを出そうと思います」
「そうですね。今この場で答えるよりも、悩んだ方が宜しいでしょう。学校を選ぶのは、一生に一度の選択ですから」
「えっ、こんな面白そうな子を他に譲っちゃうの? 勿体ないなー」
「直ぐに口を閉ざすか、私に塞がれるか選んで下さい」
ヒナさんとアコさんとはまた違ったやり取りで、中々面白いと感じてしまっている私がいる。
分派のトップと言っても、子供ではあるのだし、これ位普通なのだろうか?
「さて、私からの本題は終わりましたが、質問等や要望はありますか?」
「あの、トリニティに滞在して居る間、図書館を利用しても宜しいでしょうか?」
「問題ありません。後程許可証を発行しておきましょう」
「あのー、結局その子は誰なの?」
やっとおふざけをやめたミカさんが、控えめに聞いてくる。
ここは私が答えてあげるとしよう。
ナギサさんがこれ以上怒る前に。
「私は白凰エリスと申します。この度はナギサさんのご厚意でトリニティの見学をしています。進学に付きましては先程の通りとなります」
「よろしく! ところで、その翼のは一体なに?」
「大聖堂を見学する際に、どこからともなく飛んできまして……離れてくれないので、こうなっています」
「あはは。確かにそれだけ大きいと、止まり木としては良さそうだもんね」
ナギサさんが全く聞いて来なかったので、もしかしたら……数パーセントくらいの確率で、トリニティではよくある事なのかもと思ったけど、やはりおかしな状況らしい。
ヒフミさんも苦笑いしていたし。
「あっ、そう言えばそこにある……」
「――話の途中ですが、この辺で終わりに致しましょう。エリスさんの見学する時間を取るのも申し訳ないですし、許可の方の申請もエリスさんが帰る前にしておかないとですから」
ミカさんの話をナギサさんが遮り、ミカさんを睨んでから、私達に柔らかい笑みを向ける。
ナギサさんは忙しい身であるし、ミカさんのせいで要らぬ時間を使うことになってしまった。
既に二時間以上経っているし、お開きにするには丁度良いのかもしれない。
「ヒフミさん。エリスさんの事をお願いしますね」
「はい! お任せ下さい!」
「本日はありがとうございました」
「えー、私はもっと話したかったのになー。あっ、私もついていって良い?」
「ミカさんにはやっていただきたい仕事があるので、座って待っているように」
ブー垂れるミカさんをナギサさんが鎮め、ゼロカスタムをしっかりと装備してから、ヒフミさんと部屋を出る。
「トリニティも中々愉快な所みたいですね」
「あはは、しっかりしている時はしているんですけどね。それより、この後はどうしますか?」
「そうですね……」
図書館の件はナギサさんがどうにかしてくれるとの事だし、大聖堂前で面倒だからと全員ぶちのめした手前、正義実現委員会を訪ねるのは気が引ける。
ナギサさんがどうにかしてくれるし、ここは無難にいくとしましょう。
「それでは校舎の案内をお願いします」
「分かりました!」
本来ならば一番最初に案内されるべき場所かもしれないけど、どうせ入学した場合学校側から説明もあるので、あまり重要度は低い気がしなくもない。
再びヒフミさんに手を引かれて、歩き出すのだった。
1
エリスたちが居なくなった部屋で、ナギサはゆっくりと紅茶を味わってからソーサーに戻す。
「なんだか不思議な子だね。あれであんな事を平気でするなんて、面白い子だね」
「それで、何か話したいようでしたが?」
ミカがナギサの居る部屋へと飛び込んで来たのは、何も偶然ではなかった。
もしもの場合に備え、ナギサを守るために来たのだ。
「うーん。それよりも、エリスちゃんをナギちゃんはどうするつもりなの?」
「……」
質問を質問で返されるが、質問の内容にナギサは少し悩む。
エリスの件はかなり繊細な問題であり、あまり広めてはどんな問題が起こるか分からない。
一番困るのは、三大分派以外が動き、エリスを取り込む事だろう。
今は知られていなくても、ナギサが文献を読んで知ったように、誰かが気付くのは遅いか早いかだ。
誰かが気付く前にエリスをティーパーティーで囲う。
いや、ナギサ一人の庇護下に置くのがベストだと考えている。
しかし、これにはティーパーティーのホストとしての力が必要であり、どうしてもセイアには話を通さなければならない。
もしかしたら既に予知夢で把握している可能性はあるが、ミカに教えなかった場合、ミカだけがティーパーティーのリーダーで知らない事になる。
出来ればこんな繊細な問題にミカを巻き込みたくないナギサだが、ミカがどんな人間かを知っているので、下手に外野に置いてはいけないと理解している。
ミカはおしゃべりだが、決して馬鹿……頭の回転が悪い訳ではない。
ならば……。
「彼女……エリスさんは、過去に居たトリニティの調停者と呼ばれる生徒と関係がある、可能性があります」
「調停者?」
ナギサはなるべく分かりやすくミカへと説明し、ミカはその説明を聞きながら、部屋に飛び込んでくる事になった出来事を思い出す。
パテル分派の生徒達から逃げて、大聖堂の時計塔でトリニティを眺めていたミカは見たのだ。
大きな四枚の羽根を開き、地上に居るトリニティの生徒に向けてビームを撃つエリスを。
神秘的な光景ではあったものの、ビームが着弾した時、ミカは肝を冷やしていた。
大きなクレーターに、倒れ伏す大量の生徒。
もしかして死んだのでは……なんて最悪の予想が頭を過ったりした。
しかし誰一人として死んでおらず、何なら怪我も小さい物しかなかった。
だからと言って安心できるものではなく、見たことも無い少女だった事もあり、ミカはナギサの下に向かったのだ。
セイアが居ない現状、一番危険なのはナギサとなる。
そんなナギサがエリスと談笑しているのを見た時は、ミカも少し焦ったが、話を聞いてみれば普通に良い子だと分かった。
だが、話を聞いたミカは…………ある可能性を夢見てしまった。
「それはまた凄いね」
「はい。不確定要素ではありますが、将来の事を考えれば野放しに出来ません。また、もしも知られた場合、文字通りトリニティが消し飛ぶ可能性があります」
「あれだけ凄い事が出来るみたいだし、あり得そうだね」
「あれだけ?」
首を傾げたナギサに、今度はミカが大聖堂で見た事を話す。
放たれた二回の銃。その銃により出来た大きなクレーターと、倒れ伏した数十人の生徒。
ミカ風に略すとあの銃とエリスちゃんマジヤバ☆な事をそこそこ分かりやすく教えた。
「やはりそれだけの力を持っていますか……」
「接近戦ならともかく、遠距離だと多分どうしようもないんじゃないかな? 原理は分からないけど、なんかヤバそうだし」
色々とおかしな格好をしているが、その色々を排除してみれば、普通の子と…………いや、言えない。
「でも話してみた感じ、なんかお堅い感じもしなかったし、ナギちゃんの話すような調停者って感じじゃなかったよ?」
「記憶を失っているそうです。それと、私が調べた限り戸籍や一週間以上前の経歴が見つかりませんでした」
「本当に?」
「本当です」
まさかの情報にミカは驚き、口を手で隠す。
「出来れば私の庇護下に置き、出来る限り政争から離して生活してもらいたい所ですが、最悪はアビドスの高校に入学して頂くのも手だと考えています」
「ナギちゃんの考えは分かったよ。私にして欲しい事とかある?」
「……古い文献や、過去のトリニティについて調べている方がいましたら教えて下さい」
「おっけー」
笑顔を浮かべてミカは返事をし、ナギサは安心したような微笑みを浮かべ、紅茶を飲む。
後はエリス次第だが、手を回せば何とかなる。そう、ナギサは考える。
不安要素はあれど、今すぐどうこうなる問題ではない。
まずは来年。正式にティーパーティーを引き継いでからがスタートだ。
そんな一息ついたナギサとは違い、ミカはとある計画を練っていた。
トリニティの調停者。トリニティに秩序を齎し、悪を裁く者。
もしもその通りならば、調停者の肩書はミカの野望に大いに役立つ事になる。
そう、アリウスとトリニティの和解。
その一助に成りえるピース。
今はまだ計画どころではないが……。
「それじゃあ私はこれで失礼するね」
「ええ。分かっていると思いますが、他言無用でお願いしますね」
「もう、ナギちゃんは心配性だねー。大丈夫だよ」
話す事は無い。だが、利用しないとは言っていない。
何はともあれ、まずは調べることが大事だ。
そしてエリスが、トリニティに入学してくれるようにする。
その選択が、未来にどの様な影響を及ぼす事になるのか知らずに……。
良い感じの日にちなので、良い感じの投稿時間にしました。
主人公の進学先は?
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アビドス高等学校
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ミレニアムサイエンススクール
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ゲヘナ学園
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トリニティ総合学園
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