ダンジョンに幻想体という名の厄ネタがいるのは間違っている!! 作:シビトバナ
2連打!
森の奥、ひときわ静かな一角にその場所はあった。
木々が幾重にも重なり、天井の水晶の光が細く差し込む。
光の粒が漂い、風もほとんど通わない。
まるで時間が止まっているかのような、穏やかな空間だった。
そこに並ぶいくつもの石碑。
苔に覆われ、文字の多くはすでに読めない。
それでも、そこが墓地だと誰の目にも分かった。
ここは――アストレア・ファミリアの墓地。
その墓の一つの上に、小さな白い影があった。
ふわふわとした羽毛、胸には赤い模様。
その鳥は丸くなって、心地よさそうに眠っていた。
「……キュゥ……」
小さな寝息が風に溶ける。
ときおり羽をふるわせ、夢の中で何かを見ているようだ。
sideリュー・リオン
やがて、静寂を破る足音が響いた。
草を踏みしめる軽い音。
けれど、警戒と迷いを含んだ歩調。
現れたのは、一人のエルフだった。
長い緑の髪を束ね、腰に一本の木剣。
その表情には深い哀しみが宿っていた。
――リュー・リオン。
かつて正義を掲げて迷宮を駆け抜けた女冒険者。
今は亡き仲間たちのために、時折こうしてこの場所を訪れていた。
リューは墓の前に立つと、
懐から一輪の白い花を取り出した。
そっと膝をつき、苔を払って花を供える。
「……久しぶりです。……皆さん」
その声はかすかに震えていた。
もう誰も応えることはない。
それでも、彼女はここに来る。
何かを確かめるように、何かを赦すように。
「元気……に、という言葉は……少し、違いますね」
「ですが……こうして、また顔を見せに来ました」
「アリーゼ……みんな。私は…………」
「まだ、道半ばです。けれど……少しずつ、進めていると思います」
「……ええ。……貴方たちのようには、まだ……なれませんけれど」
言葉が風に流れ、森に溶けていく。
リューは目を閉じたまま、しばしの沈黙を捧げた。
そのとき、かすかな音がした。
「……キュッ!?」
「……? 今のは……」
リューが目を開けると、墓の上に小さな鳥がいた。
白い羽をふるわせ、瞬きをしている。
どうやら、彼女の声で目を覚ましたらしい。
「……あなた……鳥、ですか」
「……こんなところで、眠っていたのですね」
「危険だとは思わなかったのですか?」
鳥は首を傾げ、「キュッ」と鳴いた。
まだ眠たそうな目をこすりながら、よちよちと体を動かす。
その仕草があまりに呑気で、
リューの頬がかすかに緩んだ。
「……ふふ。警戒心のない生き物……ですね」
「ここは“迷宮”です。あなたのような存在は、普通――あり得ないのですが」
この階層には、普通、鳥などいない。
モンスターと魔石――それが“ダンジョン”だ。
けれどこの鳥は、まるで地上の生き物のように、
無防備で、どこかあたたかかった。
鳥は彼女の足元までとことこと歩いてきた。
彼女のすぐそばで一度羽を伸ばし、また丸くなって座り込む。
「……そこが気に入りましたか?」
「キュ?」
鳥はダメ?と言ってるように首をかしげる。
「ええ……好きにするといいです」
リューは目を細めた。
その小さな背中からは、わずかな温もりが伝わってくる気がする。
しばらくのあいだ、リューは鳥を見つめ、鳥は眠った。
焚き火もない、音もない、ただ風と光だけが流れる。
彼女はそっと墓の方に向き直る。
「……みんな。今日は少しだけ……可愛らしい訪問者がいるようです」
静かな笑みがこぼれた。
自分でも気づかないほどの、微かな笑顔。
それを見ているように、鳥が小さく「キュ」と鳴いた。
リューは立ち上がり、墓の前で最後にもう一度花に触れた。
そして彼女は背を向ける。
足元の鳥はその目を少し開け彼女の背を見ていた。
◆◇◆◇◆
墓地を離れて、リューは森の中を歩いていた。
18階層――“迷宮の楽園”とも呼ばれるこの場所は、他の階層とは違う。
リューは手を腰の木剣に添えながら、慎重に足を運ぶ。
ここはモンスターの少ない“楽園”と呼ばれるが、
油断してはいけない。
それでも、彼女はこの階層が好きだった。
あの墓がある場所――仲間たちの眠る場所を、
唯一、心の拠りどころと思えるからだ。
小さな音がした。
「……?」
リューが振り返る。
誰もいない。
けれど、確かに何かが草を踏む音がした。
数歩進むと、また音がする。
ピタ、ピタ、と小さく、控えめに。
「……気のせい、ではありませんね」
リューは森の影を探る。
敵意のない気配。
けれど、どこか柔らかい存在感。
「……出てきなさい。」
そう声をかけると、木の根の陰から小さな影が現れた。
――白い鳥。
墓の上で眠っていた、あの鳥だった。
彼女にバレて観念したのか、小走りに寄ってくる。
「……あなた。ついてきたのですか」
鳥は「キュッ」と短く鳴いた。
その声があまりにも素直で、リューは一瞬返す言葉を失った。
「……困りましたね。ここは安全ではありませんよ」
「はやく仲間のところへもどりなさい」
そう言って歩き出す。
だが、鳥は離れない。
数歩後ろを、とことこと小さくついてくる。
リューが立ち止まると、鳥も止まる。
振り返ると、首を傾げてこちらを見上げる。
「……しつこい子ですね」
「……好きにしなさい。ただし、置いていっても知りませんよ」
鳥は羽をふるわせ、嬉しそうに鳴いた。
それから、彼女の後を追って軽やかに跳ねる。
森を抜ける道は長く、静寂が続いた。
ときおり木々の隙間から光が差し込み、鳥の羽を照らす。
リューは歩きながら、その白い輝きを何度も視界の端で捉えた。
――アリーゼ。
ふと、懐かしい名が心をよぎる。
かつての仲間の一人。
明るく、誰よりも人懐っこく、
誰にでも笑いかける少女だった。
(……少し、似ているかもしれないですね。)
思わず口元に笑みが浮かぶ。
リュー自身、こんな気持ちになるのは久しぶりだった。
その時、低い唸り声が森の奥から響いた。
風を切る音。
リューは反射的に木剣を抜いた。
「モンスター……!」
木々の間から、狼型の魔物が二体、姿を現す。
赤色の瞳が光り、牙をむき出しにして飛びかかってくる。
鳥は咄嗟に羽を広げて飛び上がり、彼女の頭上を旋回する。
鋭い音とともに、剣閃が走った。
一体の首を斬り裂き、魔石が地に転がる。
もう一体が後方から突進してくる。
リューは身をひねってかわし、反撃に転じた。
刃が閃光のように走り、敵を斬り伏せる。
静寂。
風の音だけが残る。
リューは肩で息をつき、剣を収めた。
「ふぅ……問題ないわ。」
すると、頭の上から「キュッ」と鳴き声が降ってくる。
見上げると、鳥が彼女の髪の上にとまっていた。
「……心配してくれたのですか?」
鳥は目をぱちぱちと瞬かせ、ちょんと頭をつついた。
リューは苦笑する。
「……ふふ。優しいのですね」
「けれど、近づいてはいけませんよ。わかりましたか?」
「キュ!」
まるで返事をするように鳴く。
それが面白くて、リューは思わず小さく笑った。
「……はい、良い子です」
「……まったく。あなたは、何者なのでしょうね」
彼女は再び歩き出す。
鳥は今度は肩の上に乗り、バランスを取りながら揺れている。
「……ええ。……少しだけ……賑やかになりました」
森を抜ける光の道を、二つの影が並んで進む。
その足取りは、先ほどよりもずっと穏やかだった。
静かな迷宮の森に、声が澄んで響く。
孤独だったエルフと、名も知らぬ鳥。
その出会いは、ゆっくりと、確かなものへと変わっていった。
今日の成果!!
飛べるようになった!(数分)
あとこの話は多少ゴリ押しです。
名前案
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ムーン
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雪月
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ミル(ミア×リュー)
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なしで