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2025.11.11
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主要国における住宅価格高騰とその対応策
~外国人による購入規制を中心に~
田中 理 、 星野 卓也 、 前田 和馬 、 阿原 健一郎
- 要旨
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近年、諸外国では都市部を中心に住宅価格や家賃の高騰が顕著で、外国人による不動産購入の増加と相俟って、社会問題化。日本でも都市部の価格高騰で、若年層や中堅所得層の住宅取得が困難になっており、借入期間の長期化、郊外や築古物件へのシフトなどで対応しているようだ。
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住宅価格上昇の背景には、外国人による不動産購入の活発化だけでなく、資材費や人件費など建築コストの増加、空き家の増加や許認可の遅れなど住宅供給の制約、観光客向けの短期賃貸物件の増加など、複合的な要因があると考えられる。
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外国人の不動産購入を巡っては、カナダやオーストラリアが外国人による不動産購入を期限付きで禁止し、韓国が事前承認制を導入する一方、日本はWTO協定の制約もあり、外国人に特化した規制の導入が困難な状況にある。ポルトガルはゴールデンビザから不動産購入を除外した。
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日本でも外国人の不動産購入規制を求める声が高まっている。海外の住宅市場を対象とした先行研究によれば、外国人の取得割合がごく一部でもそれが波及する形で住宅価格や賃料の上昇につながっていることを示唆するものもある。実態を把握するデータ整備や研究の蓄積が急務となる。
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1.はじめに
近年、諸外国で住宅価格や家賃が高騰し、住居費負担が高まっていることや住宅購入が難しくなっていることが社会問題化している。日本でも都市部の新築マンション価格の高騰で、若年層や中間所得層の住宅取得が困難になっており、ペアローンの増加や借入期間の長期化、郊外や築古物件へのシフトなどが生じている。住宅・家賃価格が上昇している背景には、資材費や人件費などの建築コストの増加、空き家の増加や許認可の遅れなど住宅供給の制約、外国人による不動産取引の活発化、移民による住宅需要の増加、観光客向け短期賃貸物件の増加などが指摘されている。
図表1-1は2020年1~3月期から25年4~6月期における主要国の家賃(縦軸)と住宅価格(横軸)の変化率を示したものである。新型コロナウイルス収束後のインフレ加速等を背景に、主要国の(名目)住宅コストが大きく上昇していることがわかる。なお、多くの主要国において、住宅価格の上昇率が家賃の上昇率を上回る(45度線より右側に位置)。この背景には、①住宅の売買市場では国内外からの投資資金が流入するため、価格の変動が大きくなりやすいこと、及び②実需に基づく家賃は契約更新のタイミングで価格変更が行われることが一般的であり、需給変化による価格変動が短期的に抑制されやすいことが考えられる。
一方、新型コロナ前後の主要国では賃金などの名目所得も上昇している。そこで図表1-1と同じ期間に関して、所得対比(一人当たり可処分所得対比)での住宅価格と家賃を示したのが図表1-2である。まず、米国や日本、ポルトガル等は住宅取得コストが割高になっているものの、実質的な家賃は割安になっている。次に、ドイツやフランス、韓国等は相対的な住宅価格と家賃の双方が割安になっており、コロナ以前における住宅価格上昇の反動や金利上昇による住宅需要抑制の影響が現れているものと考えられる。他方、カナダやニュージーランドは住宅価格と家賃の双方が割高になっている。なお、本データは国別の平均値であり、住宅市場の実情をみるうえでは富裕層向けと中低所得向け、都市部と農村部などの違いに留意が必要となる。
こうした住宅価格や家賃の上昇に対して各国政府は、住宅購入に対する税制優遇、住宅供給の拡大、土地利用の緩和、外国人投資家への規制強化、移民政策の見直し、短期賃貸に対する規制強化など、様々な政策対応を実施している。本レポートでは、日本、カナダ、ポルトガル、オーストラリア、韓国の5ヶ国における住宅市場の現状と政府の対応策について、特に外国人による不動産購入規制を中心に紹介する。
2.日本の状況
昨今、日本においても、住宅価格の上昇が耳目を集めるようになっている。国土交通省の公表する「不動産価格指数」によれば、住宅価格はコロナ禍の2020年頃から増勢を加速させている(図表2-1)。住宅種類別ではマンション、都道府県別では東京都の上昇が目立っており、2010年を100とした時の指数はマンションで219.0、東京都は178.7である(いずれも2025年7月時点の季節調整値)。一般的に資産性の高いとされる都市部のマンションが牽引役となり、住宅価格の上昇がもたらされている。
不動産価格上昇の背景は様々挙げられる。資材費、人件費の上昇に伴う建設単価の上昇、共働き世帯の増加による“職住近接”志向の高まり、低金利環境の長期化などが主だったものであろう。加えて、一つの要因として指摘されているのが、外国人による不動産購入である。こうした中で、外国人の不動産取得規制の議論が日本でも高まっている。
TRUSTART社の調査(https://www.trustart.co.jp/analysis/20250815-tokyo-condos-owned-by-overseas-residents/)によれば、特に東京都港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区の都心5区における区分建物の海外居住者割合が5%前後(登記上の住所が海外。国籍ではない)と相対的に高くなっており、外国人が資産性を重視して日本の不動産を投資対象としていることが読み取れる。
日本の外国人不動産規制
日本において、外国人の不動産購入は原則自由であり、規制はほぼ設けられていないに等しい状態にある。1925年に制定された外国人土地法は、外国人の土地取得を政令で制限するためのルールを定めている。これに基づいて定められた外国人土地法施行令(1926年)では、国防上重要な対象地域について制限対象としていたが、太平洋戦争終結後にいずれも廃止された。終戦後にこの法律に基づく政令は作られていない。
2022年には、「重要土地等調査法」が施行され、防衛関係施設や国境離島などの安全保障上の重要施設の周辺地域を特別注視区域、注視区域として指定することができる旨などを定め、届出義務や利用状況の調査、勧告・命令等が行えるようになった。ただし、この法律は不動産の取得を制限するものではなく、国籍を問うものではないほか、届出義務などを通じた監視を主目的としている。「外国人の不動産購入」を制限するものではない。
日本では、1994年に署名したWTOの付属協定の一つであるGATS(サービス貿易に関する一般協定)において、外国人の土地取得制限についての明記を行わなかった。GATSには国内規制の合理性・透明性を求める規定があるため、日本が外国人に対する土地取得に規制を掛けるとこのルールに抵触する可能性が出てくる。日本が外国人に特化した規制を導入することを困難にしている大きな要因である。
住宅価格上昇で起こっていること
住宅価格の上昇は家計にどういった影響を及ぼしているのか。まず、総務省の家計調査で家計の住居費関連の負担が増しているのかを確認してみた。図表2-2は住宅ローン返済世帯のローン返済額が毎月の可処分所得に占める割合について、年齢別に2015年と直近2024年の値を比較したものだ。直観的には住宅価格の上昇によって返済額負担も増しているように思われるが、実際には多くの年齢層で負担割合は低下している。次に、賃貸住宅に住んでいる世帯について、家賃をはじめとする住居費が可処分所得に占める割合を比較したものが図表2-3である。こちらも2015年と2024年の対比では2024年に低下しており、必ずしも家計の金銭面で住宅関連費用の増加に繋がっているわけではないことが示されている1。
見えてくるのは、住宅価格上昇の中でも住居費を抑えながらやりくりをする家計の姿である。総務省の住民基本台帳人口移動報告をもとに、2015年と2024年とで0~14歳の人口移動(実質的に子育て世帯の人口移動に相当する)をみたものが図表2-4だ。足元では東京23区からの人口流出が増えている一方、東京都の23区外や千葉県への流入が拡大していることがわかる。都心から郊外地域への人口移動が進んでいる模様だ。
また、REINS(公益財団法人東日本不動産流通機構)の首都圏不動産市場の調査からは、成約物件の築古化の傾向も見て取れる。首都圏中古マンションについて、成約ベースの平均築年数は2014年19.63年→2024年24.53年と年々上昇している(図表2-5)。特に、2014年には築6~10年、11~15年の築年数が浅めの物件が中古市場で最も多かったが、足元では全般的に築古物件のシェアが上昇しており、築41年超の物件が大きい取引帯となっている。築41年超のシェア上昇の背景には、当時30代前中盤だった団塊世代が取得した物件が相続等で市場に流入している、という供給側の側面もあろう。ただ、それらが実際に成約に結びついている点に鑑みれば、不動産価格の上昇に伴って全般的により安価な築古物件が選好されるようになっているのだと考えられる。
さらに、各金融機関が「50年ローン」など長期の住宅ローン商品の供給を拡大している。図表2-6は住宅ローンのうち、返済期間を35年超とした割合を示している。直近2025年4月調査では、35年超の住宅ローンが全体の4分の1程度を占めるようになっている。住宅価格の上昇とともに月々の返済額を抑えるニーズが高まっており、返済期間の長期化を選択する家計が増えていることがわかる。
このように、日本における不動産価格の上昇は家計の現在の住居費負担を増やすというよりは、住宅ローンの返済期間の長期化のほか、郊外地域や築古物件など、より安価な物件の選択を促していると考えられる。返済期間の長期化は金利上昇の際の家計負担増のリスクを高めている点には留意が必要だろう。
3.カナダの状況
カナダ統計局のデータに基づくと、コロナ初期の2020年1~3月期から直近25年7~9月期にかけての不動産価格(土地を含む)は17.9%上昇している。主要都市別ではモントリオールが+38.7%、カルガリーは+33.6%、バンクーバーは+18.0%、トロントは+7.4%と、地域間の差が大きい(図表3-1)。この間、家賃(保険料等を含む)は全地域平均で+28.8%の上昇であり、地域別ではモントリオールが+37.5%、トロントが+24.2%、カルガリーが+39.6%、バンクーバーが+20.9%と、不動産価格よりも上昇が顕著である(図表3-2)。不動産価格がカナダ中銀による近年の金融引き締めの影響を受ける一方、家賃はこうした影響を受けにくいことが背景にある(図表3-3)。
住宅コスト上昇の背景には主に移民の影響が指摘される。カナダにおける移民総数は2021年時点で836万人に達し、人口に占める移民シェアは23.0%とG7諸国では最も高い。人口成長の大半は移民の純流入であり(図表3-4)、こうした移民が一部の大都市に集中することで住宅市場の需給が引き締まっているとみられる。Hou et al.(2025)は移民の流入が2006年~21年における住宅価格と家賃の上昇の11%を説明しており、特に人口10万人以上の地区に限ると、その押し上げ効果が住宅価格上昇分の21%、家賃上昇分の13%にそれぞれ達すると指摘する。
こうした移民の大規模流入による住宅市場の影響を踏まえ、カナダ政府は移民流入の制限に踏み切っている。2024年10月、カナダ移民・難民・市民権省(IRCC)は2025~27年における移民受け入れ数を25年39.5万人→26年38万人→27年36.5万人と、従来の計画値である50万人から2割減少させると公表した(2025年11月公表の新計画でもこうした方針を維持)。また、学生や短期労働者などの一時滞在者を総人口の6.5%から5%未満へと引き下げる方針であり、永住資格への変更を含めて、一時滞在者は25~26年に年間45万人減少する見込みである。カナダ政府はこうした移民削減の合計で67万戸の住宅需給改善に繋がると主張する。また、政府は2023年1月1日より2年間の時限措置として、外国人による住宅用不動産の購入を禁止した。(集合住宅への資金供給を維持するため)規制対象は3戸以下の住宅であり、同措置はその後延長され、現時点では2027年1月まで有効となっている。
また、こうした連邦政府の規制以前より、一部地域では外国人による不動産取得税を導入していた。例えば、トロントを含むオンタリオ州は物件価格の25%、バンクーバーを含むブリティッシュコロンビア州では一部地域で20%の追加コストがそれぞれ課される。
IRCCが定期的に実施している「カナダ人の移民に対する態度」の調査では、「カナダに来る移民が多すぎる」との回答は2024年11月で54%と、コロナ初期における20年2月の22%から上昇傾向にある。物価高を巡る不満が根強いなか、住宅対策としての移民流入抑制や外国人に対する不動産購入規制は支持されているように見受けられる。実際、2023年11月の世論調査では、「移民増が住宅市場と医療制度の負担となっている」と回答した比率が全体の4分の3に達している。
なお、良質かつ適正な住宅市場を形成するためには供給増への取り組みが必須である一方、この点においても移民の重要性は大きい。移民労働者の割合は建設業全体で23%に達し、個別の職種でみても屋根葺き職人が20%、電気技師は16%、大工は15%と移民が多い。社会的な軋轢が生じにくいように移民水準を調整する、或いは不動産の投機的な動きを制限することは住宅需要の抑制に繋がるとみられる一方、住宅産業における人手不足は工期の長期化を招いている懸念がある(図表3-6)。
このため、住宅対策として移民・外国人政策を転換するうえでは、移民水準などの「量」のみならず、人手不足の産業における人材供給などの「質」も含めた、多様な側面からの検討が求められるだろう。
4.ポルトガルの状況
ポルトガルでは過去10年余りで住宅の平均的な販売価格が2倍以上に、賃貸価格が30%以上も上昇し(図表4-1)、住宅価格の家計収入比は2010年代前半の約1.5倍に膨れ上がっている(図表4-2)。住宅価格上昇の背景には、①観光客の増加と日本の民泊に相当する短期賃貸物件の増加、②1990年代後半から2000年代前半にかけての不動産バブルの崩壊、建設用地の不足、空き家の増加、建設コストの高騰、建設許可の遅れ、金利上昇などによる住宅供給の減少、③移民の流入や外国人による住宅購入の増加など、複合的な要因が指摘されている。
10年前は年間で1000万人に満たなかった外国人の宿泊者数は、2024年に過去最高の1938万人を記録した(図表4-3)。観光需要の増加を背景に宿泊施設も増加しており、この10年で倍増している。建設労働者の賃金上昇と建材費用の増加により、住宅の建設コストは過去5年で1.3倍以上、過去10年で1.5倍近くに上昇している(図表4-4)。不動産バブルの崩壊と債務危機で大きく落ち込んだ住宅の建築許可や完工戸数は底入れしたが、1990年代後半から2000年代前半のピーク時の4分の1程度にとどまる(図表4-5)。ポルトガルの総人口は過去30年余り1000万人強でほぼ変わらないが、10年前に40万人程度だった居住資格を持つ外国人はここ数年100万人を超え、人口に占める外国人の割合は10%を突破した(図表4-6)。難民など一時保護の対象者や居住資格を申請中の外国人を含めると2024年に150万人を超え、人口に占める割合は約14%に達する。
債務危機時に欧州連合(EU)の財政支援下に入ったポルトガルは、厳しい財政緊縮や構造改革を進めるとともに、外国からの投資資金の呼び込みを目指した。同国に対して一定額以上の投資を行ったEU域外の外国人に居住資格を認める「ゴールデンビザ(Autorização de Residência para Investimento)」を2012年に開始した。制度利用者は初年度に7日間以上、次年度以降に14日間以上、ポルトガルに滞在することで居住資格を維持でき、シェンゲン協定の加盟国内での自由な移動が認められ、家族の帯同も可能で、5年後には永住権や市民権を申請することができる。 制度導入当初の投資先の選択肢としては、50万ユーロ(約8900万円)以上の不動産購入、100万ユーロ(約1億7800万円)以上の資本投資、10人以上の雇用創出、35万ユーロ(約6200万円)以上の研究開発投資が設定された。統計が入手可能な2023年9月までの約10年間で、1万2千人を超える外国人が約73億ユーロ(約1300億円)を投資し、家族を含めた約2万人が滞在許可を取得した(図表4-7)。ビザ取得者の9割近くが不動産購入ルートを利用し、中国、ブラジル、米国、トルコ、南アフリカなどが制度利用者の上位を占めた(図表4-8)。制度開始が住宅価格の上昇時期と重なったこともあり、住宅購入が困難になった地元住民の間で、外国人による不動産購入がリスボンやポルトなど大都市の不動産価格の高騰を招いているとの批判が高まった。ポルトガル政府は、2022年にビザの対象から大都市の不動産購入を除外し、2023年には全ての不動産購入を除外することを決定した。現在は、50万ユーロ(約8900万円)以上の投資ファンドかベンチャー・キャピタル・ファンドへの投資、10人以上の雇用創出、50万ユーロ以上(約8900万円)の研究開発投資、25万ユーロ(約4500万円)以上の芸術・文化遺産への投資、50万ユーロ(約8900万円)以上の会社設立と5人以上のフルタイム雇用の創出を対象にビザを発給している。
ゴールデンビザを利用した外国人による不動産購入はこれまでに1万件余りに過ぎず、自国民やEU域内の他国民による不動産購入の方が遥かに多い。このところの住宅価格上昇の背景には、建設コストの増加や供給不足など、複合的な要因が影響している公算が大きい。コスタ首相が率いた社会党(中道左派)の前政権は、2023年に「Programa Mais Habitação(より多くの住宅プログラム)」を発表し、不動産投資を対象としたゴールデンビザの発給を終了するとともに、都市部での新規の短期賃貸の制限、長期賃貸への税制優遇、家賃上昇率の上限を2%に設定、市場価格以下で物件を賃貸する所有者への税制優遇、商業地や公有地の住宅転用促進、空き家の賃貸利用促進など、公的介入強化による住宅・家賃価格の上昇抑制策を打ち出した。2024年にモンテネグロ首相が率いる社会民主党と民主社会中道・人民党(何れも中道右派)による連立政権が誕生し、土地利用の緩和、住宅の建設と改修時の付加価値税(VAT)軽減、若者を対象に不動産取引税と印紙税を免除、住宅購入時の銀行融資に対する公的保証、公共住宅の建設拡大、適正家賃の設定など、市場原理を重視する新たな住宅政策「Construir Portugal(ポルトガルを建設する)」を発表したが、その後も住宅価格の高騰が続いており、今のところ目立った政策効果は出ていない。
5.オーストラリアの状況
オーストラリアでは、コロナ渦以降に住宅価格と家賃が上昇し続け、2019年対比で、足もとの住宅価格は約65%、家賃は約55%上昇した。2025年10月時点の、国内の平均住宅価格は日本円にして約9,000万円、最大都市のシドニーを擁するニューサウスウェールズ州では約1億1,300万円となっている(1AUD=100円で換算)。一時よりも価格上昇は和らいだものの、依然として高止まりが続いている(図表5-1)。
住宅価格や家賃が上昇した背景には、需要面と供給面の複合的な要因が指摘されている。まず、需要面では、移民の増加により、住宅需要が増加したことが挙げられる。2022年以降、新型コロナウイルスの入国制限が緩和されると、留学生や一時就労者を中心とした一時ビザの移民が急増、コロナ前の約2倍の移民が流入した(図表5-2)。移民の増加により住宅需要全体が増加したが、特に、短期滞在を前提とした一時ビザの移民の増加は家賃を上昇させることとなった。また、コロナ禍の金融政策、財政政策が住宅需要を喚起した側面もある。2019年6月、オーストラリア準備銀行(RBA)は米中対立の激化や世界経済の不確実性の高まりから、約3年間据え置いていた政策金利の引き下げを実施(▲25bps、1.50%→1.25%)、その後は新型コロナウイルスによる経済減速により2020年11月に0.10%まで利下げを継続した(図表5-3)。住宅ローン変動金利も政策金利に反応し、2019年6月から低下し始め、2020年3月には4.52%まで低下したが、歴史的な低金利で住宅ローンを組めるとあって、住宅購入が増加することとなった。実際に、住宅価格は住宅ローン変動金利が低下した直後の2019年8月から対前年で上昇に転じている。加えて、政府が景気刺激策として実施した「ホームビルダー・プログラム」も、住宅購入に拍車をかけた。これは、住宅の新築または大幅な改修工事に1件当たり2万5,000ドルの助成金を提供するというもので、所得制限はあったものの、政府の当初見込みよりも申請が殺到することとなった。
一方の供給面は、急増した住宅需要に応えられていない。資材価格の高騰や建設業界の労働者不足に加えて、建設許可申請の審査プロセスが複雑かつ長期化しており、需要に供給が追い付いていない状態が続いている。
住宅不足、住宅価格の高騰は国民の間でも大きな問題として捉えられており、政府は複数の対応策を実施している。供給面では、賃貸用集合住宅の開発に対する税制優遇、住宅の販売前融資保証制度の開始等、住宅開発を後押しする支援策を打ち出した。需要面では、2024年7月から留学生ビザの要件を引き上げたことに加え、2025年からは留学生の受け入れ数に上限を設けている。ただ、留学生の増加は、住宅価格、特に家賃上昇の原因のほんの一部であるため、価格抑制にどの程度効果があるかはよくわからない。また、2025年4月からの2年間、外国人の投資目的による中古住宅の購入を禁止している。かねてから、投資の一部が不動産に流れることで、都市部を中心とした住宅価格の上昇に拍車をかけているとも指摘されていた。根本的な解決には住宅供給の拡大が不可欠であるが、まずは可能な部分から取り掛かった形だ。移民大国であるオーストラリアでは、移民抑制には慎重論も根強かった。その考えを改めざるを得ないほどに、目の前の住宅問題は深刻化していると言える。
6.韓国の状況
韓国でも住宅価格の高騰が問題となっているが、オーストラリアとは背景が異なる。韓国は、住宅形態として高層マンションが一般的で、総住宅数のうち約6割をマンションが占めている。これは都市部の限られた土地に、人口が集中しているため、集合住宅が効率的な住居形態として発展し、高層化が進んだためである。そのほかの住宅形態としては、マンションより安価な低層集合住宅、戸建てなどがある。
韓国の住宅種類ごとの価格と家賃の推移をみると、マンション価格の上昇がひときわ目立つ(図表6-1)。足もとで伸び率は戻っているものの、マンション価格指数は2021年11月に前年比+15.3%も上昇した。水準としても高く、ソウル首都圏のマンション平均価格は過去10年で約28%上昇、日本円にして約1億5,600万円と言われている。
マンション価格の上昇は、人口増加にマンションの供給が追い付いていない需給の逼迫が原因、というわけではない。世帯数とマンション戸数の増加をみると、一時は逼迫気味になった時期もあったものの、基本的には、マンション戸数の増加ペースは世帯数の増加ペースを上回っている(図表6-2)。
では、マンション価格の上昇は何が原因なのだろうか。韓国の住宅市場の場合は、投機マネーの流入が主因だと言われ、それを促したのが、「チョンセ」という韓国独自の賃貸制度の存在である。チョンセは、物件の契約時に、借り手が持ち主に毎月の家賃の代わりにまとまった保証金を渡す、という制度である(保証金の金額は区々だが、相場は物件価格の7割程度が多いようである)。持ち主はその保証金を運用することで収益を得るが、契約終了時には借り手に保証金を全額返金することになるため、借り手は実質タダで賃貸物件に住めることになる。当然ながら、この制度が存続できるのは、持ち主が銀行預金等のリスクの低い運用方法で収益を得られるような環境が続いていることが前提となっており、預金利率が低下してきている昨今では、チョンセの利用率も低下傾向にある。
この借り手がまとまった保証金を渡すチョンセだが、賃貸物件を購入する立場からすれば、実際に必要となる金額は物件価格の3割程度で済むということになる。その3割も住宅ローンを利用すれば、限りなく少ない自己負担でマンションを購入することができ、マンション価格が上昇すれば売却益を得ることができる。チョンセを利用すれば比較的少額で住宅投資ができるとあって、若い世代でもマンション購入が増加し、マンションへ投機的な資金が流れ込むこととなった。また、中国人を中心とした外国人の住宅購入も、マンション価格の上昇に拍車をかけた。
韓国政府は、住宅価格の上昇を受け、投機的需要を抑制するさまざまな対策を実施した。まず、首都圏や規制地域では、住宅ローンの上限が6億ウォン(1ウォン=0.1円換算で6,000万円)に制限され、住宅ローンを受けた場合には取得後6か月以内の入居が必要となった。また、住宅ローンに対する担保認定比率(LTV)も引き下げられた。25年8月からは、外国人の不動産購入にも規制が導入され、外国人が不動産を購入する場合は事前承認が必要となり、承認後は4か月以内に入居し、少なくとも2年間は居住しなければいけなくなった。これらの一連の規制強化で、上述のチョンセを利用した、実質的に自己負担なしで行う不動産投資が難しくなり、足もとでは不動産市場の売買が急激に冷え込んでいるようである。ただ、不動産価格の下落は、今まで不動産投資を行っていた経済主体の資金繰りを悪化させ、韓国経済全体を下押しする可能性もある。今後の不動産価格の推移と政府の対応には注視すべきだろう。
6.おわりに
このように、主要国における住宅価格・家賃の上昇は、建設コストの増加、住宅供給不足、移民の増加、外国人による不動産購入の活発化、短期賃貸利用の増加など、複合的な要因によってもたらされている。各国政府は、住宅購入支援、住宅供給拡大、移民の流入抑制、外国人による不動産購入規制、投機的な不動産取引に対する規制、短期賃貸規制の強化、家賃規制など、様々な政策対応を実施してきた。
外国人投資規制については、各国で温度差が見られる。カナダやオーストラリアが外国人による不動産購入を期限付きで禁止し、韓国が事前承認制を導入する一方、日本はWTO協定の制約もあり、外国人に特化した規制の導入が困難な状況にある。ポルトガルはゴールデンビザから不動産購入を除外した。
各国の経験から得られる教訓としては、以下の点が挙げられよう。第一に、外国人投資規制単独での住宅価格の抑制効果は限定的であり、根本的な解決には住宅供給の拡大が不可欠である。第二に、過度な規制は供給減少や市場の歪みを招くリスクがある。第三に、移民規制は住宅需要を抑制する一方で、建設業等における労働力不足を招くという矛盾を孕んでいる。
日本でも外国人による不動産購入の規制強化を求める声が高まっている。同時に、外国人による不動産購入は都心5区でも5%程度にとどまり、住宅価格高騰への影響はそれほど大きくないとの指摘もある。ただ、Sá(2025)など海外の住宅市場を対象とした先行研究によれば、外国人の取得割合がごく一部でも、それが波及する形で住宅価格や賃料の上昇につながっていることを示唆するものもある。住宅供給の拡大に向けた空き家対策や住宅取得の促進に向けた税制優遇などを進めると同時に、外国人による不動産購入の実態を把握するデータの整備や、外国人による購入と価格上昇の関係を分析する研究の蓄積が急務となろう。
<参考文献>
Hou, Feng, Évamé Koumaglo, and Haozhen Zhang (2025) "Immigration and housing prices across municipalities in Canada," Statistics Canada and Immigration, Refugees and Citizenship Canada.
Sá, Filipa (2025) "The effect of foreign investors on local housing markets: evidence from the UK," Journal of Economic Geography, Volume 25, Issue 3, May 2025, pp. 329–349.
1 ローン借入額自体は年収等との兼ね合いで融資上限が定めている金融機関が多い。また、賃貸住まいの世帯の負担がさほど増えていない理由については、賃料規制も一定の役割を果たしているとみられる。先のOECD統計(図表1―1)でみたように、日本の場合には住宅価格の上昇の一方で、家賃の上昇にはさほど波及していないことも読み取れる。ここの波及が限定的な理由の一つとして指摘できるのが日本における賃料規制である。借地借家法は「借主保護」を重視した内容になっており、賃料の増額には借主の同意が必要で、合意できない場合には最終的に裁判で決定する形になっている。実質的に貸主が一方的な値上げを行うことは困難な内容となっている。
田中 理 、 星野 卓也 、 前田 和馬 、 阿原 健一郎
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘等を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針等と常に整合的であるとは限りません。