守護騎士
「エクレールさんも大変そうだなぁ……元康くんのポータルとかで送り出せないの?」
「無理ですな」
ポータルスキルはパーティーメンバーでないと一緒に行けないのですぞ。
クズがパーティーに所属するのは無理でしょうし、奴隷化もできませんからな。
表面上は偽者なので俺達が送り付ける事はできませんぞ。
「便利に見えるけど不便な所もあるのが難点なんだね」
「樹の護送に行きで使った飛行機を徴収したりするのではないですかな?」
「ありそうではあるけど、どうなんだろう? 結構操縦が大変そうだしなー……別に個人を空輸するなら飛行機だけが移動手段じゃないしね。色々と手があるのかも」
なんて話をしてからお義父さんは微笑みました。
この世界のお義父さんは相変わらずお優しい方ですな。
「それじゃあ、これからがんばっていこうか、元康くん。ユキちゃんやコウにまた会えるよ」
サクラちゃんを呼ばないのはフィーロたんがサクラちゃんだからと言う事ですかな?
残念ながら俺は割とユキちゃん達と一緒にいました。
まあどちらにしても再会は喜ぶべきですな。
ユキちゃんとは前回の周回では別の名で会ったのですからな。
そういう意味ではフィーロたん=サクラちゃんと同じですぞ。
コウに関しては……お義父さんを怒らせないようにしないといけませんな。
お姉さんやその友人がいらっしゃると大人しいのですが……今は居ないですからな。
後はお義父さんが不機嫌な時でしょうか。
要警戒ですぞ。
そんな訳で俺とお義父さんは話を終えて待機していたユキちゃん達に声を掛けに行ったのですぞ。
「あーナオフミーおかえり」
「ただいま」
おお……サクラちゃんですぞ。
しかも今までのループ内でも特に珍しい、髪の色と同じ瞳の色をしております。
うう……サクラちゃん、どうしてサクラちゃんはフィーロたんではないのですかな?
うぉおおおおん、ですぞ!
「元康様!」
ユキちゃんに呼ばれたので意識を取り戻しますぞ。
今の俺はきっとキリッとした表情でしょうな。
キリッ!
「おーユキちゃん、調子はどうですかな?」
「私達、大活躍しましたよね?」
……そうですな。
ユキちゃん達ならば大活躍間違いなしですぞ。
「もちろんですぞ! 卑劣なシルトフリーデンや偽のメルロマルク軍など、みんなの力で一捻りでしたな」
「ですわね! さあ皆さん、今は勝利の美酒に酔う時! 素直に喜ぶのですわ」
「「「わーい!」」」
ユキちゃんの掛け声でフィロリアル様たちが揃って声を上げました。
ふふふ……ほほえましい光景ですな。
フィーロたんを交えて、こんな光景をずっと見ていたいですぞ。
そんな訳で俺達のシルトフリーデンとの戦争は終わり、城を上げての宴となったのですぞ。
「まったく……かの国の者達は自由と伝統を履き違え、祖国に牙を剥くとは……」
などの嘆きが宴の席のそこら中で聞こえますぞ。
まあ元々シルドフリーデンはシルトヴェルトから移民した者達が作った歴史の浅い国ですからな。
言うなれば自立していない国という認識なのでしょう。
それが調子に乗ってでっち上げからの戦争ですぞ。
子供に噛み付かれた気持ちなのでしょうな。
そんな感じでシルドフリーデンの処罰をどうするかと言った話をシルトヴェルトの者たちは宴の席で会談交じりにするという、やや異質な宴が繰り広げられておりますな。
「なんか辛気臭いなぁ」
お義父さんもそんな匂いを察して会場を見ておりますぞ。
「あ? あっちの方がなんか活気のある声が聞こえる」
宴の場の隅の方でワイワイとして声が聞こえてきました。
お義父さんが俺達を手招きしながら騒がしい方向へを向かっていきますぞ。
「ほれ一気! 一気!」
「かー! うめぇー!」
見るとどうやら戦場で武勲をあげた傭兵たちが宴の席で騒いでいる場所だったようですぞ。
喧噪と呼べるような騒ぎが起こっております。
貴族側と比べると随分と温度差がありますな。
「やれー! 姉御ー!」
「姉御のすごいところを見せつけるんですぜー!」
なんとも聞き覚えのある歓声が聞こえるような気がしますぞ。
その輪を遠くで見ていたお義父さんが俺の方に駆け寄ってきて子供の様に目を輝かせながら輪を指さしました。
「元康くん! パンダ! パンダがいるよ! しかも酒を飲んですごく楽しそうにしてるよ!」
ふむ……パンダですかな?
楽しそうにしているお義父さんの指し示す方向を見ると、そこには確かにパンダがおりました。
お姉さんのお姉さん達とよく遊んでいたパンダがそのままおりますな。
「すごいなー。いろんな亜人獣人がいると思ってたけど、パンダもやっぱりいるんだね」
「ですな。ちなみに奴とお義父さんは仲良くしている世界もありましたな」
「え? そうなの?」
「ですぞ。お義父さんがよく構っておりました」
お姉さんのお姉さんと一緒に、ですがな。
平和になった後だとキールとも絡んでおられました。
ちなみにルナちゃんの評価では体は大柄でも可愛いとの分類でしたな。
こう……お義父さんのセンスが光るキモカワ路線を走らせていたと思いますぞ。
俺にはパンダのチュチュ姿は可愛いとは思えませんでしたが。
などと話をしているとゲンム種の翁がこちらにやってきますな。
「おやおや、どうしました?」
「うん。宴の席を盛り上げてくれている人達がいるなぁと思って見てたんですよ」
なんて言いながらお義父さんはパンダを凝視しております。
「ああ、彼らは此度の戦に参加した傭兵達です。勇者様方とは異なる場で多大な功績を出した者達です」
「それならしっかりと褒美を与えないとね」
「もちろんです。後日盾の勇者様直々にお褒めの言葉を与える機会が来ると思いますよ。それで、盾の勇者様、あの傭兵が気になるのですか?」
「え? まあね。なんていうか俺の方の世界じゃ珍獣というか人気の高い動物でね。ああいう獣人もいるんだなぁ……と」
「ふむふむ」
何やらゲンム種の翁の目が光った気がしますが、気の所為ですかな?
まさか相変わらず婚姻を狙っているのですかな?
記憶が曖昧ですが、この世界でもお義父さんは断ったはずですぞ。
「ともかく、辛気臭い愚痴ばかり話し合っているよりも、ああして勝利を喜んでいる人達の方で宴を楽しんだ方が俺は良いと思うんだ」
そんなお義父さんの様子にゲンム種の翁は笑顔で頷きますぞ。
「そうですな。今を楽しまねば、これから先の戦いも乗り越えようがありません。勇者様方、存分にお楽しみください」
「輪を盛り上げるならお義父さんが料理を提供したら士気が上がるのではないですかな?」
確かシルトヴェルトへの道中でもエクレアを始めとした者達に好評だったはずですぞ。
更に言えば、俺は数多のループでお義父さんの料理を食してきました。
その全てにおいて、美味い以外の言葉がありませんでしたな。
「え? あの人数に俺が料理をして提供するの? 手伝いがいれば無理じゃないけど俺の料理でそこまで士気が上がるかな?」
「あまり勧められる方法ではありませんな。盾の勇者様が御作りになった料理とは神の皿のような物……貴族達が喉から手が出る程に群がる様が容易く想像できましょう」
「別の意味で殺伐とした宴になっちゃうか……やっぱり政治って大変なんだなぁ」
「盾の勇者様、あまり我らの事を気にせず此度の宴を楽しんでもらえる事こそが我らの喜びなのですよ」
お義父さんが楽し気にしている事がシルトヴェルトの者達の喜びという事ですな。
中々に殊勝な考え方ですな。
さすがはゲンム種の翁と言っておきましょう。
歳を取っているだけはありますな。
「わかりました。じゃあ、俺もみんなが気兼ねなく楽しめるように混ざろうかな」
お義父さんが楽し気な声を出した後、凄くさり気ない様子で賑やかな輪に紛れ込んでいきました。
周りの獣人達が気づいていないのですかな?
この辺りは実に不思議ですぞ。
まあ、賑やかな雰囲気に釣られてサクラちゃんやコウ、フィロリアル様達が近くで食事をしておられますからな。
みんな場の雰囲気に流されて、お義父さんが盾の勇者であるというのが抜け落ちているのでしょう。
「いっき! いっき! おー」
なんて感じで宴が過ぎていました。
翌日……ゲンム種の翁の証言通り、戦場で活躍した傭兵への褒美としてお義父さんとの謁見が行われました。
「えー……今回の戦、国の為によく戦ってくれた。その活躍に見合う褒美を与える。ありがとう。今後とも国の為に力を貸してほしい」
シルトヴェルトの重鎮たちが控える中、傭兵達に一人一人お義父さんが礼を述べていきます。
一応、言われた通りに話をしている感じですな。
傭兵達の反応は千差万別ですぞ。
緊張している者、リラックスしている者、真面目に敬礼している者。
いきなりお義父さんに手を伸ばす様に見せて剣を掲げる者など、たくさんですな。
剣を掲げた者の挑発に似た行いに関してお義父さんはピクリとも動きませんでした。
おそらく上げたLvやステータスで見切っているからですな。
応答した際には口笛を吹かれて今後ともよろしく頼むと答えられておりました。
やはり強さこその部分のあるシルトヴェルト独自のルールという奴ですな。
やがて……パンダが配下の狼男達と一緒にやってきました。
何やら不機嫌とも赤面しているとも言える冗談っぽい顔をしている様な気がしますな。
「あ!」
ちなみにパンダは前日の宴でお義父さんと飲み比べに挑戦して会場を沸かせた後に完全に酔い潰れさせられたのでしたな。
「てめ……」
宴の席で恥をかかされた事を根に持っているのですかな?
お義父さんはごめんごめんと言った様子で手を挙げてますぞ。
それからお義父さんはパンダへの褒美を配下の者から聞いて眉を寄せましたな。
痺れを切らしたのか、補佐とばかりにシュサク種の男とゲンム種の翁が合わせて続けますぞ。
「傭兵にして一騎当千の活躍をしたラーサズサには此度の活躍の報酬として盾の勇者の守護騎士の職位を報酬として与える。その強さをもって、どんな危機からも盾の勇者を守り、力となることを願っている」
聞いてないとばかりにお義父さんは二人を睨みますが、揃って気を利かせたと云った顔ですぞ。
「おおおおお……」
周りの者達も褒美の大きさに驚きの声を上げるに留まっております。
次の戦ではパンダに続けと言った感じですかな?
そんな訳で傭兵達への報償授与の儀式は終わり玉座の間の人がガクッと減りました。
で、人が減ったのを確認したお義父さんがやや不機嫌そうにシルトヴェルトの代表たちを見ますぞ。
「……ラーサズサさんに対する報酬は何? 俺の守護騎士とか」
「何分、これからも盾の勇者様はLv上げなど各地で活動を行うと思われます。その際に有能な人材をこちらも配備せねばシルトヴェルトの国民としての面目が立ちません」
「彼女は先日の宴での人柄も良く、戦場では戦神の如き活躍をしたとの話。そして傭兵という立場故に、縁談を嫌う勇者様に適した人材だと判断した次第です」
「本人も望んでいるの?」
「それは直接お聞きになっても結構ですよ」
なんてやり取りの直後にパンダが再度呼ばれてやってきました。
「あ? また何の用だい?」
「うん。ちょっと聞いておきたいんだけど、俺の守護騎士の立場に任命されたらしいけど、良いの?」
「あー……まあね。どうせアタイは傭兵だし、給金自体は破格なものだからね。割の良い仕事だと判断したから受けたんだよ」
「そう……ならいいんだけど」
という所でお義父さんが怪訝な目でパンダと代表を見ますぞ。
「本当に何にも無い?」
若干パンダの背が伸びた気がしますな。
それを察しているのか、お義父さんの疑惑の目が逸れません。
「疑うのはしょうがないことではありますな。まあ……敢えて言うのでしたら、苦楽を共にした結果、盾の勇者様がこの守護騎士に心をお許しになった際の補償を我らは期待しているだけ……と、お答えしましょうか」
「一応仲間として配置しているに過ぎないけど、その先に何かあったら良いな? と」
お義父さんはパンダの方を見ながら目を細めます。
「子供ができたら高額報酬」
ポーカーフェイスなのか、パンダは無反応ですぞ。
反応しない事が黒な気がするのは俺の気の所為ですかな?
相変わらずコヤツは金に目聡いですな。
怠け豚とは別の意味で凄いパンダですぞ。
「もしもの話だってのはアタイも聞いてるよ! あんまり気にしないでほしいもんだね」
「夜な夜な奇妙なカッコをしながら近づいてきたらお断りするからね」
「良いよ。別にアタイは報酬目当てだからね」
「まー……これくらい割り切っている人ならわかりやすくて良いのかな?」
なんて感じでパンダとその配下の狼男達が城で雇用され、いつの間にかパンダが俺たちの仲間に加わることになったのですぞ。
しかし……パンダは奇妙な縁でお義父さんとよく知り合いますな。