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「みんなで大家さん」2000億円を集めてなぜ破綻寸前? 総資産30億円の不動産投資家が警鐘「Xデーは11月末です」

NOV. 07, 2025 18:16
Text : 西脇章太
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「年利7%」といった高い利回りを謳い文句に、多くの個人投資家から巨額の資金を集めてきた不動産ファンド「みんなで大家さん」。しかし今、そのずさんな運営実態が露呈し、事業モデルが根底から揺らいでいる。

中核である「成田の大規模開発プロジェクト」が大幅に遅延し、投資家への配当金支払いが停止する事態が発生。運営会社が行政処分を受けたことも引き金となり、ついに投資家による集団提訴へと発展した。

それにしても、なぜこれほど大規模なファンドが機能不全に陥ったのか。

今回は、不動産賃貸業と不動産投資教育事業を手掛ける傍ら、YouTubeチャンネル『小原正徳の不動産アカデミー@YouTubeキャンパス』を運営する、総資産30億円の不動産投資家・小原正徳氏に、事態の核心について話を伺った。

年7%の裏側。集団提訴で露呈した構造リスク

今回の集団訴訟は、単なる一件の揉めごとではなく、事業の"規模の大きさ"ゆえに潜んでいた構造的リスクが噴き出したものだ。

報道によれば「みんなで大家さん」は約3万8000人から計約2000億円を集めた。関与する人数も資金も大きいぶん、ひとたび不具合が生じれば影響は一気に広がる。

「成田の大規模開発について、運営会社が大阪府から重要事項の説明不備で業務の一部停止命令を受けました。また、工事進捗の大幅な遅れに加えて配当が停止したことが決定打となり、投資家たちは『信頼関係は根底から壊れた』と受け止めていると感じます」(小原氏)

さらに小原氏は、掲げられた「年利7%」の裏にある構造的な弱さも指摘する。

「不動産で高リターンを得るには通常レバレッジを使います。ですが投資家保護の観点から借入は難しく、成田案件も全額出資とみられます。東京の優良オフィスでもネット利回りは約3%。借入なし、しかも未稼働の開発案件で7%を継続分配するのは、常識的に無理があります」(小原氏)

「8割完了」なのに「実績2%」この差は何なのか

さらに小原氏は、利益の生み出し方そのものにも根本的な疑問を呈する。

「そもそも開発プロジェクトの利益が確定するのは、建物が完成して売却したときだけです。開発途中で収益もないのに高配当を出し続けられたのはなぜか。新規の出資金を既存投資家への配当に回す『タコ足配当』だったのではないか、という疑念が生まれます」(小原氏)

小原氏が特に問題視するのが、その配当原資が「グループ内の別会社からの賃料収入」という、不透明な形だった点だ。

「外部から稼いだお金ではなく、身内から身内へとお金が流れる『内々』の構造だったわけです。これでは、グループ全体の資金繰りが悪化すれば、配当が同時にストップするのは当然です。今回の分配金遅延は、まさにこの内包されていたリスクが現実になっただけ。起こるべくして起きたのだと思います」(小原氏)

利益の源泉に加え、会社側の説明と現実との深刻な乖離(かいり)も指摘する。

「行政処分後、会社は『造成工事(土地ならし)は8割完了した』とアピールしましたが、造成など開発全体の工程から見れば初期のごく一部に過ぎません」(小原氏)

事実、行政への報告書では、建物建設まで含めたプロジェクト全体の進捗率はわずか2%程度と記載されており、この「8割」と「2%」のギャップはあまりに大きい。

「当初2021年開業だった計画が、今や2027年春予定と、すでに6年も遅延している。この『2%』という状況から、残された期間で本当に完成できるのか。プロジェクト管理自体が、もはや成り立っていないのではないかとさえ思ってしまいますね」(小原氏)

Xデーは11月末...許可失効なら即「解散・清算」へ

集団訴訟が起きた今、焦点は「事業が続けられるのか」、そして「お金は戻ってくるのか」という点に移った。まず、会社は深刻な資金繰りの問題に直面している。

「行政処分直後、1日で約28億円もの解約請求が殺到し受付を一時停止。再開後も月5億円という上限が設けられ、処理に6カ月から12カ月以上かかるとされています。まさにお金を引き出せない『流動性リスク』が現実になったわけです」(小原氏)

会社側は不動産売却(約600億円)や社債発行で資金を賄うというが、小原氏はその実現性を強く疑問視する。

「資産を売ると言うが、売り方に無理があります。報道では大阪物件が固定資産税路線価の10倍という不自然な高値で出ており、買い手はつきにくい。さらに配当停止で信用不安の中、社債の引き受けも望み薄...。資金調達は極めて難航するでしょう」(小原氏)

こうした資金調達の難航と並行して、法的な期限も迫っている。裁判で投資家側の主張(債務不履行や信頼関係の破壊)が認められれば、会社は出資金の一括返還を命じられる可能性がある。

さらに深刻なのが行政の動向だ。成田のプロジェクトに必要な開発許可(成田市)と、空港会社との土地賃貸借契約の期限が、ともに「11月末」に到来すると見られる。

「もし、これらが更新されなければ、プロジェクトは物理的に継続不可能となり、事業の解散・清算へと進まざるを得なくなりますよ」(小原氏)

「2000億円集めたから安心」は錯覚。見るべきはAUM

では、資金調達も事業継続も不可能となった場合、投資家のお金はどうなるのか。小原氏は「最悪のシナリオ」として、元本割れのリスクをこう指摘する。

「万策尽きた場合、事業は解散・清算となります。つまり、開発途中の土地や保有不動産をすべて売却(換金)し、残ったお金を投資家で分けることになる。問題は、その資産が『いくらで売れるか』です。特に、すでに解約が殺到している状況で、買い手もつきにくい資産を急いで売れば、買い叩かれるのは目に見ています」(小原氏)

「過去の別の不動産ファンド破綻事例では、解散後に債務超過が判明し、投資資金がほぼ戻らなかったケースもある。集めたとされる巨額の資金を毀損することなく回収するのは、率直に言って『非常に厳しい』と判断せざるを得ません。楽観は禁物ですよ」(小原氏)

今回の事例は、FTK法(不動産特定共同事業法)の根幹である「投資家保護」が、事業者の説明責任やコンプライアンスの不備で、いかに容易に脅かされるかを白日の下に晒した。

「『2000億円も集めたのだから大丈夫』と、多くの人が錯覚してしまったのではないでしょうか。投資家がまず持つべき物差しは、『規模の“質”』です。『累計調達額(フロー)』はいかに大きくても、それは単なる『これまでに集まった入金額』に過ぎません」(小原氏)

見るべきは、その裏付けとなる『運用資産規模(AUM=ストック)』、つまり実際にどれだけの価値の資産を管理・運用しているかだという。

「ほかの事業者が示すAUMと、今回の『2000億円』という数字は意味がまったく異なります。この根本的な違いを理解せず、『規模が大きいから安心』と判断するのは、あまりにも危険ですよ」(小原氏)

テナント・賃料・手残りが見えない先には投資しない

さらに小原氏は、「運営会社の透明性」と「利益の源泉」を、投資家が見るべきだったポイントとして挙げる。

「例えば、不動産投資クラウドファンディング『CREAL』のように運営会社が東証上場なら、外部の監視が効き、投資家も財務を追いやすい。一方で非上場会社は、自分で徹底的に見に行く必要がある。今回、行政処分や訴訟の発生を招いた事実は、事前の確認プロセスにおける不備の存在を浮き彫りにしています」(小原氏)

最大の問題は、年利7%の原資が不明なことだ。MDOの配当はグループ内の別会社からの賃料で、外部の収入ではない。結果として「タコ足配当」の疑いは残った。

「まともな不動産投資なら、誰がテナント(不動産を借りている人)で、いくら賃料が入り、経費を引いていくら残るのかが明確なはず。その仕組みが曖昧な時点で、投資先としては正直首をかしげます」(小原氏)

現在のFTK(不動産特定共同事業)市場は、デジタル証券を使う「ST(セキュリティトークン)型」や、情報開示が徹底した新しいクラウドファンディング型が主流になりつつある。今回の事例は、わかりにくい古いモデルの淘汰と、監督当局のチェック強化を後押しするだろう。

最後に小原氏は、「不動産クラウドファンディング自体は、小口から参加できる優れた仕組みですが、いかに仕組みが良くても、担う事業者が健全でなければ意味がありません」と締めくくった。

結局は、高利回りの裏に潜むリスクを自ら見抜くリテラシーを持つしかない──大切な資産を守れるのは、規制当局でも事業者でもなく、自分自身なのだ。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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