日本の宇宙関連予算は、ここ数年で急速に伸びている。2015年は前年の補正予算と合わせて3323億円だったが、25年は当初予算と前年の補正予算を合わせて9365億円となった。過去10年で3倍近くもの増額となっている。

 政府予算全体が増加傾向にあるとはいえ、これだけの伸び率を示しているのは、半導体関連の予算を除けば宇宙関連だけであろう。なぜ、政府はここまで宇宙関連予算を増やしているのだろうか。

鈴木一人(すずき・かずと)
鈴木一人(すずき・かずと)
地経学研究所(東京・港)所長。立命館大学大学院国際関係研究科修士、英サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士。筑波大学大学院准教授や北海道大学大学院教授などを経て、20年から東京大学公共政策大学院教授。内閣府宇宙政策委員会の宇宙安全保障部会長なども務める。(写真=都築雅人)

 背景には、宇宙産業を次世代の成長分野と位置付け、米中の急速な商業宇宙事業の成長に取り残されまいとする日本政府の強い意志がある。

「民営化」進む米国の宇宙産業

 米国では、起業家のイーロン・マスク氏が率いる米スペースXが衛星打ち上げ事業において革命的な変化をもたらし、宇宙産業の業界地図を大きく塗り替えた。また、その他にも多くのスタートアップ企業が参入して衛星通信や地球観測事業を展開している。

 これまで政府系企業や大企業しか参入できなかった宇宙事業に、多くの民間企業が入ることで、近年は宇宙の「民営化」が一気に進んだ。

 しかし、次第に技術が成熟化して新たな研究開発の要素が少なくなってきた。ロケットや衛星の製造は標準化し、量産化の局面に入りつつある。今や、衛星は大学の研究室レベルでも作れるものとなり、ロケットの開発も民間企業が担えるようになってきた。

 結果として、宇宙システムの構築コストを押し下げた。こうした変化がサプライサイド(供給側)に生まれている。

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 同時に、デマンドサイド(需要側)にも大きな変化が起きている。

 例えば、スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」のように、低軌道を回る多数の衛星を一体運用してどこでも通信を使えるようにする「衛星コンステレーション」が展開されている。この技術で、航空機などの移動体における通信が圧倒的に改善された。

 加えて、スターリンクのサービスは、ロシア・ウクライナの戦争でドローン(無人機)の活用を支えており、戦争のあり方まで変えるほどのインパクトを与えている。

投資乏しく、公助膨らむ日本

 宇宙の産業化や商業化が進み、宇宙に基盤を置くサービスに対する需要が高まることで、宇宙事業に参入するスタートアップは活躍の場が増える。だが日本には、そのスタートアップを育てるだけのベンチャーキャピタル(VC)やエンゼル投資家が十分ではない。米国や中国のスタートアップに後れを取っている。

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