(社説)立花容疑者逮捕 SNSとデマ 考えたい
兵庫県の内部告発文書問題にからみ、自死した元県議に関するデマを拡散して名誉を傷つけたなどとして、兵庫県警は政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者を名誉毀損(きそん)容疑で逮捕し、送検した。
県議会が設けた調査特別委員会(百条委員会)の委員だった竹内英明・元県議について、立花容疑者は昨年末、演説で「警察の取り調べを受けているのはたぶん間違いない」と発言。竹内氏の自死後には「どうもあす逮捕される予定だったそうです」などとSNSに投稿した。
その直後、当時の県警本部長が県議会で「全くの事実無根」と否定する異例の事態となった。竹内氏の妻の告訴を受けた県警は、逮捕の理由を「逃亡や証拠隠滅の恐れがある」としており、認否は明らかにしていない。県警と神戸地検は捜査を尽くし、いずれ丁寧に説明してほしい。
立花容疑者の発信には多くの人が同調し、竹内氏側への誹謗(ひぼう)中傷をSNSで発信、郵便やメールで送りつけた。
竹内氏の妻は8月の会見で「夫は立花氏から(告発問題の)黒幕と名指しされて、人々の憎悪の対象にされ、絶望して命を絶った」「目に見える傷ではないが、心を傷つけられ、癒える間もなく次の攻撃が襲ってくる」と語った。立花容疑者の逮捕後の会見で「同じことが繰り返されてはいけない」と訴えた。
この言葉を無駄にしてはならない。誰もが気軽に意見や思いを発することができる時代だからこそ、事実を確認し、人権を考えながら冷静に行動する必要がある。
この事件以外にも、立花容疑者は複数の県議を発信の対象とし、斎藤元彦知事らを告発した元県民局長(故人)の私的情報を拡散。斎藤氏の知事辞職に伴う1年前の出直し知事選では、自ら立候補して斎藤氏を応援する「2馬力選挙」を展開した。
一連の言動が引き起こした混乱はいまだに収まっていない。兵庫県政の関係者は、警察・検察の捜査を見守るだけでなく、事態の正常化に取り組む必要がある。
その一人は斎藤知事だ。立花容疑者の逮捕後、竹内氏に関する発信について「個別の方の個別の発信について、評価やコメントすることは、これからも差し控えていきたい」と語るにとどめた。
捜査中とはいえ、自身の再選を後押しした立花容疑者への言及を避ける姿勢を変えようとしない。住民を共に代表する県議が巻き込まれ、地方自治が揺らいでいる。見識が問われ続けている。
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