「存立危機事態」従来の政府見解を踏み越えた高市首相 台湾有事巡り
衆院予算委員会に初めて臨んだ高市早苗首相は、中国による台湾侵攻に関し「武力攻撃が発生したら(日本の)存立危機事態にあたる可能性が高い」と明言し、歴代内閣の公式見解を踏み越えた。就任前からの持論だが、現役首相として中国を相手に集団的自衛権行使の可能性に踏み込んだ発言であり、今後の日中関係への影響も懸念される。
「例えば、台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くためにどういう手段を使うか――」。7日の衆院予算委員会で、中国による台湾有事への対応を問われた首相は、海上封鎖や偽情報の流布などの可能性を例示した上で、こう強調した。
「やはり、戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば『存立危機事態』になりうるケースであると、私は考えます」
質問した立憲民主党の岡田克也衆院議員は外相経験もある。首相の答弁内容にやや驚いた表情を見せつつ「あんまり軽々に『武力行使』と言うべきではない」と返した。
日米の外務防衛当局は仮に中国が台湾侵攻を行う場合、台湾を支援する米軍部隊や米軍基地などが中国側に攻撃される可能性が高いとみている。その場合、日本が米軍を支援するために存立危機事態を発動することも想定されている。しかし、これまで日本政府は公式見解として、台湾有事と存立危機事態の関係を問われた際、「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、個別具体的な状況に即し情報を総合して判断することとなるため、一概に述べることは困難だ」(2024年2月、当時の岸田文雄首相)などと答弁してきた。台湾有事に日本が参戦する意思を示せば、中国側を刺激し、日中の軍事的な緊張を高める可能性があると考えてきたためだ。
集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法が成立した15年の国会審議では、当時の安倍晋三首相が存立危機事態にあたる例として、邦人輸送中の米艦防護や中東のホルムズ海峡での機雷除去を挙げた。政府の担当者も今年5月に国会で「(法案審議の際に)存立危機事態に該当し得るケースとして台湾有事の事例を挙げて説明はしていない」と明言していた。
総裁選立候補会見でも「台湾有事は日本有事」
しかし、高市首相のこの日の答弁はこうした従来の政府見解を踏み越えたものだ。外務省幹部は「首相が自身の言葉で説明された」と語り、事前に事務方が用意した答弁ではなく、首相自身の考えとの見方を示す。実際、首相は就任前から同様の発言を繰り返してきた。昨年の自民党総裁選に立候補した際、テレビ番組で「(台湾有事は)存立危機事態になるかもしれない」と主張。今年の総裁選立候補会見でも「台湾有事は日本有事。間違いない」と断言。「(台湾と)与那国との距離が110キロだから、東京から熱海の間ぐらいに他国の戦艦が展開する」と理由を説明していた。
同様の発言は、首相経験者からも出ている。首相が路線を継承する安倍氏は首相退任後、「台湾有事は日本有事」と強調。麻生太郎元首相も「我々は台湾海峡で戦うことになる。台湾有事は日本の存立危機事態にもなる」などと述べてきた。だが、現職首相による国会答弁は、政府の公式見解として極めて重い意味をもつ。首相周辺は「どうなったら存立危機事態になりうるかという立場をしっかりと内外に示すことは重要だ」と今回の答弁を評価する。
もともと対中強硬派、親台湾派で知られてきた首相だが、中国側が懸念する靖国神社参拝を見送り、先月31日には訪問先の韓国で習近平(シーチンピン)国家主席と初会談を実施。「戦略的互恵関係」の推進を再確認するなど、現実路線で対中関係を歩み出したばかりだった。
政府内では早くも火消し?
ただ、政府内では早くも火消しともとれる動きも出ている。ある防衛省幹部は「台湾有事が即存立危機事態と認定するわけではなく、これまでの答弁と相反はしない」と主張。小泉進次郎防衛相はこの日、首相答弁への見解を記者団から問われ、「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは政府がすべての情報を総合して判断する。総理の発言は、その趣旨を述べたもので、従来の政府の立場を変えるものではない」と強調した。
◇
〈存立危機事態〉日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国が攻撃された際に、日本の存立が脅かされ、国民の生命などに明白な危険がある事態を指す。集団的自衛権を行使する際の前提条件として、2015年成立の安保法制に盛り込まれた。安保法制では、(1)存立危機事態にあたる(2)他に適当な手段がない(3)必要最小限の実力行使であること――を「武力行使の新3要件」とし、これを満たせば、他国への攻撃でも武力行使できるとした。存立危機事態における集団的自衛権行使には国会の事前承認が原則となるが、緊急時は例外的に事後承認が認められている。
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- 【視点】
国会予算委員会の質疑、ビデオで全て確認しましたが、かなり驚きました。 総理が述べた状況の一つは、岡田氏の質問に対応して台湾周辺海域で「戦艦」(人民解放軍海軍の艦艇)と米軍が交戦下に入れば存立危機事態「となりえるケース」ということです。もはや存在していない「戦艦」という表現の不正確さはさておいても、存立危機事態の認定に関する発言が法的な厳密さを欠き、また丁寧な検討プロセスも欠いているように聞こえ、総理の個人的見解を国会で述べられているように聞こえたからです。 これが政府見解となっていくのか、様子を見守りたいと思います。 おそらく、小泉防衛大臣が記事最後に引用されているように火消ししていますが、存立危機事態と認定される可能性があるが、あくまでこれまでのラインと変わらない、と整理し直されるのではないでしょうか。
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- #高市政権
- 【視点】
とんでもない発言である。首相答弁として、中国が台湾に軍事侵攻した場合、日本が中国を相手に武力行使する可能性を述べるとは。 従来の政府見解の姿勢より明らかに踏み込む重大な首相答弁を、首相の個人的な持論展開という形でこのように易々としてしまえることが恐ろしい。 そもそも集団的自衛権行使を可能とする安保法制は明らかに憲法違反であり、憲法違反の法律を政治の力で作ってしまったことが是正されないままの状況が10年続いている。 「存立危機事態」とは、「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを意味し、この場合に日本は集団的自衛権を行使できるとするのが安保法制である。 首相の答弁は、台湾を「密接な関係にある他国」とみなすことになるとみえる。しかし日本は公式に台湾を「中国と別の国」とはみなしていない。この整合性がとれていないことについての説明を首相はどう考えているのか。法的整合性があやふやなままこんな答弁を首相としてやってしまうことに強い警戒を覚える。 自衛隊が中国軍を攻撃すれば、日本国内も中国軍の攻撃対象となる。軽々しく言及していい話ではあり得ない。 アメリカが台湾有事に介入することになれば在日米軍基地からの出撃があり、米軍基地をおく自治体は反撃のターゲットとなる。特に沖縄は大変なことになるだろう。 政権内の火消しの話も記事にあり、おそらくはその方向で動くのだろうが、とんでもない火であり、もみ消せばなんとなく収まるという話ではない。 市民が巻き込まれるような台湾有事を回避する政治外交こそが最も市民を守る、最大の安全保障ではないのか。この首相答弁の危うさへの警戒がもっと市民に拡がってほしい。
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