ソシャゲの掛け持ちをしまくった結果がこれだよ!   作:じゅうじキー

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第九話

「ひぎゅっ」

 

目を開けた時、俺は硬く冷たい床の上に転がっていた。

まず感じるのは、服の肌触りの違い。上品なスーツではない、謎繊維でできた服の感触。

試しに「あー」と発してみると、こちらはまだアルトボイスのまま。どうやらヴェルティの体でカルデアの礼服を着ているようだ。

 

「……さすがに転移しただけじゃ姿は戻らないよね。でも、本命は此処から……」シュババ

『わわー!』

 

アロナ達をスワイプで押しのけると、タブレットの画面右下、経験値バーとなりの顔アイコンがヴェルティになっていた。どういう状態なのこれ……

誰かに見つかる前にさっさと性別を戻すとしよう。 プロフィールの性別を男にしてっと。

 

ピカッ!

 

次の瞬間、俺の体が光輝き、懐かしい感覚が戻ってきたのが分かった。

 

「んふっ、んふふ……いいゾ~これ!」

 

薄暗い部屋に、我ながら気色の悪い笑い声が響き渡る。

そうだ。これでいい。これでいいのだ。

 

(戻った……! ついに、ついに戻ったぞ!)

 

聞き慣れた自分の美しい(汚い)小声が、狭い部屋に響き渡った。完璧だ。心なしか体が若返ってる気がするが、誤差だよ誤差。

だがまだ安心してはいけない。安全確認は怠らないのが社畜の基本だ。

 

「顔よし、 声よし、……息子よしッ!」

 

股間に手を当て、その確かな存在を確認すると、俺は力強くガッツポーズを決めた。素晴らしい。これでもう、アビドススナオオカミにヴェルティの純潔をキャストオフされる心配はない。

 

安堵のため息をつき、俺は改めて周囲を見渡した。見覚えのある簡素な部屋。なるほど、カルデアのマイルームに転移してきたというわけか。

 

「……なるほどじゃないんだよなぁ」

 

一難去ってまた一難。カルデア。ここは人類史を救うための最後の砦であり、同時に地球上で最も危険な職場の一つ。ここにいる連中は、神話や伝説そのもの。機嫌を損ねれば、星の一つや二つ、平気で破壊しかねない連中がそこら中をてちてちしているのだ。

 

「こんな危ない所に居られるか……? 俺はシャーレに戻るからな!」

 

生徒たちならギリ話が通じるだけマシだ。俺はそう判断し、再びタブレットに手を伸ばした。ブルアカのアイコンをタップすれば、きっと元の平穏な地獄に戻れるはず。そう思った瞬間だった。

 

……ウィーン。

マイルームのドアが、ゆっくりと開いた。

 

「……せ、先輩!?」

「あっ(察し)」

 

そこに立っていたのは、見慣れたメカクレ眼鏡の少女、マシュであった。

彼女の腕には、ぶっといおもちゃが抱かれている。人の部屋に何しに来てるんですかあなたは……。

 

「や、やあマシュ。 これからお掃除かい? 俺はお邪魔みたいだからこれで失敬するね……」

 

大人のマッサージ機は見なかったことにし、マシュが軽くフリーズしている間に退散することにした。だが、そんなことは問屋が卸してはくれなかった……。

 

「待ってください。先輩」ゴトッ

 

彼女はブツを近くのデスクに置くと、妙に落ち着き払った声で俺を引き留めてきた。

俺のデスクにソレ置くのやめてくれない? 誰かに見られたら俺が使ってると思われちゃうじゃん。

 

「……なにかな? マシュさんや」

 

俺の顔をを見た瞬間、マシュの表情が満面の笑みに変わった。その笑顔は純粋で、そして逃がしてなるものかという強い意志に満ちていた。

 

「ッスゥー…… せんぱい、確保ぉーーーーーーっ!!」ダキッ

 

ビーーーーーッ! ビーーーーッ! ビーーーーッ!

 

『全館に通達! マスターが出現! 付近のサーヴァントはただちにマイルームに急行、マスターを捕縛してくれたまえ! 繰り返す! マスターを捕縛したまえッ!』

 

「ファッ?!?!?」

 

マシュが俺に抱き着き絶叫すると共に、カルデア全域にけたたましい警報が鳴り響いた。

なんだこのアナウンスは!? 俺は指名手配犯か何かか!?

 

廊下の向こうから、地響きのような足音と、怨嗟の声が聞こえてくる。

 

「いたぞおおお、いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「みんな出て来いマスターがいるぞ‼︎」「なんだと⁉︎〇す!」

「〇してやる……〇してやるぞ マスター!」

 

ま、マズイ! 早くここから脱出しなければ!

はなせマシュ! 俺はまだ死にたくない!!! 俺にはまだやりたいことが残っているんだぁ!

 

「だめです先輩! もう絶対に放しませんから!」ぎゅうっ

 

ぐっ……こいつも例に漏れず力が強い!

だが、ラピに比べればまだ握りこみが甘いぜ! 悪い子はおしおきだべぇ!

 

「マシュ……芋けんぴ☆髪についてるよ」ボソッ

「はうぅっ! しぇ、しぇんぱい……♡♡♡」バタッ

 

不意打ち気味にマシュに耳打ちすると、顔真っ赤にしてぶっ倒れてしまった。

フン! ぴゅあキリエライトが俺に勝てると思うなよ!

 

俺はマイルームを飛び出し、 安全地帯へと逃げるべく全力疾走を開始した。誰かから逃げるの何回目だろうなぁ……。

 

「待ちやがれクソマスター! 今日こそぶち〇してやる!」

「まってよおかぁさーん! ちょっと後ろから掘るだけだからぁー!」

「この時を待ちわびておりました、ますたぁ様! さあ、私と一つになりましょう!」

 

クソッ、安易に深夜テンションでFGOを選ぶべきじゃなかった! 安全重視でウマ娘、妥協してゼンゼロにするべきだったか?!

 

だが後悔してももう遅い。背後から迫る、多種多様な殺意(愛情)のオーラを肌で感じながら、とにかく人のいなそうな区画へと逃げ込んだ。

 

幸い、カルデアの施設はだだっ広い。サーヴァントといえど、この広さならすぐに追いつかれることはないはずだ。人気のなくなった倉庫で壁に背を預け、ぜえぜえと肩で息をする。

 

「ふぅ、なんとかここまでくれば一旦は大丈夫 「――と思っていたのか?」 ダニィ!?」

 

そう安堵の息をついた、まさにその時。

冷たく、威厳に満ちた声が、すぐ真後ろから聞こえる。振り向く必要すらない。この圧倒的な存在感、この有無を言わさぬ威圧感は、ただ一人。

 

「晩鐘は汝の名を指し示した。――首を出せぃ」

「じ、じぃじ!? なんでここに!」

 

最強の暗殺者、山の翁が、背後の壁からぬうっと現れた(壁抜けグリッチ)。やめろッ! なにをするダァーー!

 

翁は俺の首根っこをひょいと掴むと、あっさりと俺を指令室へと連行していった。ささやかな逃亡劇は、開始わずか数分で、あっけなく幕を閉じたのだった。

 

――――――――――

――――――

――

 

「しかと届けたぞ」

「うんうん、パーフェクトだよ翁くん♬」

「感謝の極み」

 

カルデアの司令室。中央のホログラムモニターには、「MASTER ABSENT(マスター不在)」の赤い文字が点滅している。

その光景も、今日で見納めだろう。何せ、当の本人が翁に引きずられてきたのだから。

 

「やあやあマスター君、無事(?)だったようだね! 心配したじゃないか!」

 

俺の姿を認めたロリンチちゃんが、さも楽しそうに駆け寄ってくる。その手には、俺から取り上げられたタブレットが握られていた。かえせー!

 

「ふむ、これは面白い魔術礼装だね。他の世界にアクセスできるなんて、汎人類史でも稀有な代物だ。しかもこのOS、ずいぶんと……うん、可愛らしい設計思想で作られている。よし、ちょっと私にも解析(ぶんかい)させてもらうよ!」

 

『うわーん、先生ー! このひとにひどいことされちゃいますー! えっちな同人誌みたいに!』

「あ、アロプラー!」

 

タブレットの画面にアロナとプラナの顔が映り、涙ながらに叫ぶ。

 

「なるほど……ずいぶん高度なファイアウォールを持っているみたいだね。 データが全部飛んじゃうかもだけど、私がメンテしてあげるよ♪」

「やめて?! それはメンテじゃなくてメガンテだから!」

 

ダ・ヴィンチとの不毛なやり取りを終え、俺は改めて自分の置かれた状況を認識した。

司令室の中央にある尋問用の椅子に、ガッチリと拘束されている。

 

目の前には、仁王立ちする新所長のゴルドルフ。興味深そうにタブレットを眺めているシオン。面白そうに成り行きを見守るダ・ヴィンチちゃん。そして、盾を構え、いつでも俺の逃走を阻止できるようにするマシュ。四方を完全に囲まれている。

 

「さてキミィ。此処から逃げていた言い分を、じっくりと聞かせてもらおうじゃないか。言い訳によっては即刻、QP周回1000本ノックの刑に処す!」

 

ゴルドルフ所長が、威厳たっぷりに口火を切る。

 

「キミがどれだけ我々を苦労させたと思っている! 特異点は山積み、並み居るサーヴァントは育成待ちで暴動寸前、冠位戴冠戦は完全に停滞しているんだぞ! おかげで私の資産運用計画もめちゃくちゃだよ!」

「はぇ~スンマセン、新所長。でも最後のは私情では……」

 

「それだけじゃないよキミィ! 女性サーヴァントたち、本気で錬金術と魔術を使って、君の謎クローンを作ろうとしてたんだからね!? 私が止めなければ、危うく倫理観のない等身大ディ〇ドが大量生産されるところだったんだよ!」

 

「いやぁ、ゴルドルフくん。私の計算では、あのプロジェクトの成功率は98%だったんだ。もし成功していれば、24時間365日労働と〇処理も可能に……」

「技術顧問、それ以上は黙っていてくれたまえ!」

 

なんだこの職場は。地獄か? 地獄だったわ。

 

「待った!  俺は無実だ! 仕事で忙殺されてたんだよ!」

「異議あり!」

 

マシュがビシッと指を突きつけてきた。お前は検事か。

 

「千里眼持ちサーヴァントの皆さんに鑑定を依頼した結果、女性と親密にしているという情報が多数寄せられました! これは職務放棄であり、浮気です!」

「浮気じゃないよ! 色々と仕事が溜まってて仕方なく「浮気です!」 仕事だって言ってるでしょおおおおお?!」

「静粛にィ!」

 

ゴルドルフ所長がハンマー代わりにマグカップを叩きつける。

 

「証人、シオン君。証拠品の提示を!」パンパンッ

「よろしい。では、こちらをご覧ください」

 

シオンがホログラムモニターにいくつかの映像を映し出した。

そこには、メイドプリバティに筋肉バスターされる俺、水着イオリにスカルクラッシュされる俺、チェンにジェットライナーされている俺の姿が……。

 

「な、なんだこの映像は!? いつの間に!」

「あなたのタブレットに記録されていたものですよ。先ほど例のスーパーAIさんに君の水着写真を提供したところ、快く提示してくれました。いやはや、実に興味深い」

 

アロナーッ! お前あとでおやつ抜きだ!

 

「ぐっ……これはだな! パーフェクトコミュニケーション(?)の一環であって……!」

「異議あり! ただの先輩の浮気です!」

「この映像のどこを見てどうして浮気だと思ったの?」

 

そうだ、こういう時こそ心の友に助けを乞うべきだ。我が相棒、初期星5の黄金アーチャーは、この俺の危機を救ってくれるはず。

 

「こ、国選弁護人を要求します! 英雄王(ギルさん)、助けてください! 絆15の仲でしょ!」

 

俺が魂の叫びを上げると、司令室の隅で優雅にワインを飲んでいたギルガメッシュが、心底面倒くさそうにこちらを一瞥した。

 

「――知るか、雑種。我抜きで禁足地に行く奴の世話を焼くほど、暇ではないわ。 ことごとくソロで一狩り行きおって……貴様なぞ、ルクナリアかテイワットで、ダンジョ〇飯の具材にでもなるが似合いよ」

「ひどE! ……なんでワイ〇ズやってたこと知ってんの?」

 

頼みの綱には、あっさりと見捨てられた。 あっ、そっかぁ……

 

「――ふむ、大筋の事情は理解できました」

 

シオンが、ポンと手を打つ。

 

「つまり君は、マルチバース間に存在する未知のレイラインを介し、特異点とも異聞帯とも異なる霊子世界(ソシャゲ)に召喚され、強制労働させられていた、と。大変興味深い事象です。あなた個人の事情はともかく、この技術……解析する価値がありそうですね」

 

彼女の目が、好奇心と探究心で爛々と輝く。

 

「さて、そろそろ判決を言い渡そうじゃないかね」

 

ゴルドルフ所長が、咳払いをして厳かに告げる。

 

「被告、汝の罪状は『報告・連絡・相談の義務違反』、及び『私に心配させ心労をかけた罪』である。よって、主文!  被告を『溜まりにたまった特異点周回及び素材集め1000本ノックの刑』に処す!  即時執行!」

 

「うんやっぱり!?」

 

結局、仕事からは逃れられない運命らしい。

 

「それでは早速、まずはこのクエストからだ!  私は監視役としてここにいるからな!」

 

ゴルドルフ所長がウキウキで指示を始める。その横で、ダ・ヴィンチちゃんが俺のタブレットを興味深そうにいじり始めた。

 

「いやぁ、君が他の世界でどういう仕事をしてたのか興味があってね。ちょっとだけ覗かせてもらうよ」

『ンアッー! データが大きすぎますー!』

「大丈夫大丈夫、先っちょだけだからね~」

 

タブレットからアロナの悲鳴が聞こえるが、今の俺に止める術はない。

こうして、俺のカルデアでの社畜ライフが、再び幕を開ける……と思いきや、さらなる地獄が幕を上げた。

いつの間にか、部屋の片隅に静かに佇んでいた一人の女性が、ゆっくりと口を開いたのだ。

 

「――話は終わりましたか?」

 

そこに立っていたのは、妻を名乗る不審者、女王モルガンだった。

彼女は音もなく俺の隣に歩み寄ると、俺の拘束を解き自然にその手を取った。その仕草は、まるで長年連れ添った伴侶に対するそれのようだ。

 

「見苦しい茶番はそこまでになさい。この男は、私の夫です。あなたたちがどのような刑を科そうと、彼の時間は、私のために使われるべきもの」

 

その言葉に、様子を伺っていた二人の女性が声を上げた。

 

「あらあら、まあまあ。それは聞き捨てなりませんわ。この子は私の愛しい息子なのですから、彼の時間は母である私が管理するべきものです」

 

柔和な笑みを浮かべ、しかしその瞳の奥に狂気を宿すバーサーカー、母を名乗る不審者、源頼光。

 

「いけませんよ、お二人とも。マスターは私の弟なんですから! お姉ちゃんとして、彼の健全な成長を見守る義務があります!」

 

聖女の仮面を被り、しかしその瞳はどこか据わっている、姉を名乗る不審者、ジャンヌ・ダルク。

火花が散る。不審者たちのプライドと愛情が、会議室の空気をビリビリと震わせる。これもうわかんねぇな……

 

「フン……間に合わせの家族ごっこですか。滑稽ですね。私と彼との絆は、魂のレベルで結ばれている。あなたたちが入る余地など、万に一つもありません」

 

モルガンの言葉に、頼光とジャンヌが反論する。

 

「母の愛なくして子は生まれず。全ての根源は母にあるのですよ?」

「神の御名において、姉弟の絆こそが最も尊いものです!」

 

モルガンはふぅ、と溜息をつくと、高らかに宣言した。

 

「――よろしい、ならば戦争です。これより、第114514次正妻戦争を開始します」

「ファッ!? さすがにヤリスギィ!」

 

モルガンは玉座に座るかのような優雅さで、挑戦者たちを冷ややかに見下ろした。

 

「今回の賞品は、『概念レ〇プ! オ〇ホと化した先輩(マスター)(カルデア全域でリアルタイム配信)』の撮影権としましょう。さあ、存分に殺し合いなさい」

「待って! それは俺の業界でも拷問です! 代わりにと言っては何ですが、エミヤが腹を切ってお詫びいたします!」

「なんでさ!?」

 

壁際で様子を伺っていたエミヤが、俺の言葉にビクッと肩を震わせる。

 

「そこな弓兵のハラキリなど不要です。重要なのは、誰が真の妻としてこの男の隣に立つか、ただそれだけ」

 

モルガンの一言を皮切りに、もはや収集がつかない戦いが始まった。会議室はビームや魔術が飛び交う戦場と化す。暴れんな……暴れんなよ……!

頼光が放つ雷霆をモルガンが結界で弾き、その隙を突いてジャンヌの聖旗が頼光に叩きつけられる。

 

俺の周りだけ、モルガンの張った不可視の防壁で守られているが、そのせいで俺はこの地獄絵図から一歩も動けない。さっきまで俺を尋問していたゴルドルフ所長やシオンは、とっくに司令室の奥でマシュの後ろに避難している。ずるい! 俺も助けてよ!

 

「おやおや……またこうなってしまったね。今回は君の身柄を手に入れるまで止まらないだろうね」

「ちょっとキミのサーヴァントでしょ! はやくなんとかしなさいよ!」

「んな無茶言わないでよ新所長!」

 

もはや、手段は選んでいられない。俺は必死に近くで息をひそめていた男性サーヴァントに助けを求めた。

 

「クーフーニキ、助けてくれ! アンタが陰で『ババァの水着姿、流石にキツいぜ……』って言いかけてたの、師匠にバラすよ!」

「なっ!? なんの話だ! 俺はそんなこと一言も言ってない!」

 

ランサーは、わかりやすく狼狽える。よし、いける。

 

「剣スロット卿! 助けてくれなきゃ、あなたが部屋に隠してるマシュの薄い本(R-18)のこと、アルトリアとプーサーに報告させていただきます!」

「な、何を仰るマスター!? あれは黒ひげ殿から鯖フェスで預かった崇高な物であって……!」

「え、マジで持ってんの? あのさぁ……」

 

もしもしポリスメン? あとでこの人捕まえてもらえる?

 

「ヘラクレス! プリヤのフィギュアあげるから手をかしてくれ!」

「■■■■■■■――!!!」

 

ヘラクレスの目が、カッと見開かれた。バーサーカーの理性を超え、守るべきものへの脅威を感知したのだ。

 

「よっしゃ助けろお前らァァァッ!!」

 

俺の絶叫が、合図だった。

ヘラクレスが雄叫びを上げ、会議室の壁をぶち破り、血路を開く。

クー・フーリンにルーンで防壁を解除してもらうと、代わりに魔術式の攻勢防壁が発動して即死した。この人でなし!

ランスロットは、マシュにボコボコにされながらも、なんとか追っ手を引きつけてくれた。

 

「みんな、すまん! この恩はいつか……!」

 

俺は涙ながらに感謝し、命からがら会議室を脱出した。

しかし、安堵したのも束の間だった。廊下の向こうから、怒り狂った愛の重い女たち、そしてそれに便乗したその他大勢のサーヴァントたちが、地響きを立てて押し寄せてくる。

やべェ やべェぞ やっぱやべェ 何がやべェか分からんがとにかくやべェ!

 

「「「マスター、待ちなさあああああい!!!」」」

「誰が待つかぁ! インド人を右に!コーナーで差をつけろ!」

 

再び逃走を開始するが、真向かいの通路から迂回したモルガン達が突撃してくるのが見えた。まずい、捕まる! こうなれば奥の手だ!

俺の体に手をかけるんじゃあねぇーーーッ! オレは上! きさまらは下だ!!

 

「オラッ令呪! そこにいるキャスニキに命ずる!  頼光ママの攻撃を、ゲイ・ボルクで防げッ!」

 

右手に刻まれた三画の令呪の一つが、赤い光を放って消える。

 

「なっ、マスター!? こっちの俺は術師だぞ!  ゲイ・ボルクもないんだぞ無理無理無……グワァァァァッ!?」

 

背後で魔術の応酬と術ニキの悲鳴が聞こえる。すまん、あんたの犠牲は無駄にしない。たぶん。

 

「次だ! 令呪を以てジャンヌオルタに命ずる! 姉ジャンヌに『お姉ちゃん』と呼んで抱きつけ!」

 

二画目の令呪が輝きを放つ。

廊下の先で、スマホをいじりながら「ふん、騒がしいわね」と悪態をついていた邪ンヌが、令呪の強制力にビクッと体を震わせた。

 

「は、はあ!? なによいきなり! 誰があんな、あんな浮かれポンチなビッチ(私)に! ……で、でも令呪じゃ逆らえないじゃないのよぉぉぉ!」

 

邪ンヌは顔を真っ赤にしながらも、駆けつけてきた水着ジャンヌに向かって全力疾走する。

 

「私がアンタなんかを姉と……うぐっ、お、お姉……ちゃ……!」

「まあ! ついに私の愛を理解してくれたのですね! さあ、この胸に! 一緒にマスターを追いかけましょう!」

 

水着ジャンヌが感動のあまり妹(?)を抱きしめ、二人はその場で姉妹の絆(?)を確かめ合い始めた。ヨシ、一人脱落!

 

しかし、最後に残ったのは最大の難関、女王モルガン。彼女は一切動じることなく、ハンターの如く俺との距離を詰めてくる。

 

「ヤバい、この不審者はヤバい!」

 

令呪は残り一画。これを誰に使うか。一瞬の思考の後、俺は天井近くのダクトで這いずり回っている芋虫の姿を見つけた。

 

「そこにいるのはオベロンだな! 君に決めた!」

「げっ、マスター!? なんで僕だってわかったんだい!?」

 

俺の(ゴースト)がお前がオベロンだって囁いてんだよ! 行くぞオラ!

 

「令呪を以て命ずる! オベロン! その奈落の力で、モルガンを足止めせよ!」

 

令呪が最後の輝きを放つ。その瞬間、オベロンの体がピクッと痙攣し、その顔から全ての感情が抜け落ちた。

 

「えっ なんで僕があの女に……いやだ、いやだ、絶対にいやだ! うわあああ体が、体が勝手にぃぃぃ!」

 

オベロンは絶叫しながら、しかし抗うことのできない令呪の力に操られ、モルガンの前に立ち塞がるように移動した。

 

「……奈落の虫が、気安く私に近寄るな。不愉快です。今日こそは消し飛ばします」

「無慈悲――!」 

 

ドゴォォォン!!!

 

モルガンの放った魔術の一撃がオベロンを吹き飛ばし、カルデアの壁に新たなクレーターを作る。 ヨシ、完璧(?)な時間稼ぎだ!

 

「くそっ、タブレットがあれば転移で逃げられるっていうのに……」

 

無いものねだりをしてもしょうがない。逃げるなら今のうちだ!

と、思った瞬間。俺を追いかけてきたエミヤが、心底呆れた顔で俺に言った。

 

「マスター。君の事情はよく知らないが、普通に令呪でダ・ヴィンチを呼び出し『タブレットを返せ』と命じれば、それで済んだのではないかね?」

「あっ……!  ワイ、馬鹿!」

 

俺は、そのあまりにも正論な指摘に、その場に崩れ落ちそうになった。俺の三画の令呪は、一体何のために……。

エミヤはふぅ、と溜息をつくと、俺の前に仁王立ちした。

 

「仕方ない。カルデアの事情を考えれば、君にはもう少し頑張ってもらわねばな。ここは私が引き受けよう。君は先に行け、マスター」

 

エミヤは、そう言うと背後から無数の剣を投影する。

その男前なセリフと、頼りがいのある背中に、俺は思わず涙しそうになった。

 

「あったけぇ……! アンタこそ最高のママだよ……!」

「誰がママだ!」

 

俺はエミヤに感謝し、彼が作り出したわずかな隙を抜けて走り出す。

背後から、エミヤの悲痛な叫びと、女たちの容赦ない攻撃音が聞こえてきた。

 

無限の剣(アンリミテッド・ブレイ)……ぐはっ!?」

「「「邪魔(じゃま)」」」

「あらあら、まあまあ♡」

 

宝具を発動しようとしたエミヤは、モルガン、ジャンヌ、頼光のトリプルラリアットを食らい、一瞬で壁の染みになった。合掌。

ノミヤ、あなたの犠牲は、決して忘れません……!(たぶん明日には忘れる)

 

サーヴァントたちが、再び殺意に満ちた目でこちらに迫ってくる。

俺は最後の力を振り絞って走り出したが、行き止まりの通路へと追い詰められた。

デカい。怖い。どう見ても勝てねェ。ちくしょう、みんな化け物じゃねェか。

 

「さあ、我が夫。観念して服を脱ぎなさい。もうどこにも、逃げ場はありませんよ?」

「何でそんなことする必要なんかあるんですか……」

 

背後は硬く冷たい壁。 ああ逃れられない!

目の前には、殺意(という名の愛情)に満ちたサーヴァントたち。その瞳は、逃亡者を断罪する光を宿し、俺というただ一つの獲物を捉えて離さない。

 

「あの頃に戻りたい……何もなかったあの頃に帰りたい……ちくしょう仕事などなかった……あの頃の平和な時代に……」

 

万事休す。俺はここで捕まり、モルガンの夜の拷問を受けるか、頼光の閨で再教育(意味深)されるか、ジャンヌに抱き尽くされるか……。

 

どのルートを選んでも地獄しかない。そう思われた、その時。

諦めかけた俺の脳裏に、ふと、とある黒服の言葉が蘇った。

 

『そのカードを乱用すればーー あなたは私たちと同じ結末(やばい大惨事)を迎える事になりますよ、先生』

 

そうだ、まだだ。俺にはまだ切り札が残っていたはずだ。

震える手でポケットを探ると、指先に硬質で薄い感触があった。それは、漆黒の見るからに曰く付きのクレジットカード。『大人のカード』である。

これを使うのは世界観レ〇プになるから気が引けるが……こうなっては手段は選んでいられん!

 

「まだだ……まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!」

 

俺は大人のカードを天に掲げた。バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!

 

「いでよ、俺の最強の生徒(モンスター)! その力で、未来への道を切り開け!」

 

高らかに叫ぶと、カードが眩い光を放ち、空間に亀裂が走る。

そこから現れたのは、フルアーマーで、巨大なシールドとショットガンを構えた、小さな、小さな少女――。

 

「う、うへ~、なんだかすごいことになってるね先生。これどういう状況?」

 

アビドス高等学校所属、小鳥遊ホシノ(臨戦)、ここに降臨。これで勝つる!

その異質な、しかしどこか神々しい姿を見た瞬間、エジプト組のサーヴァントたちが、目を見開いた。

 

「なっ……!? この神格の気配、天空神ホルス……!?」

 

ニトクリス達が、ホシノの姿にひれ伏している。

 

「ホシノ! 急で悪いんだけど助けてクレメンス!」

「うわでた……。まあ、先生が言うなら仕方ないか~。よくわかんないけど、そこにいる人たち、みんなおしおきしちゃえばいいんだね? おっけ~」

 

ホシノがショットガンを構え、銃口から青い炎が吹き出す。凄まじい轟音と共に、カルデアの壁や床が粉々に吹き飛んでいく。

 

サーヴァントたちの悲鳴、爆音、そしておじさんの「うへ~」という気の抜けた声が混じり合い、カルデアは、さらなる混沌の渦へと飲み込まれていった。

 





マシュ
和名:カルデアコウハイナスビチャン
 
せいそくち:
カルデア(特にマイルーム、および主人公の半径5m以内)
 
せつめい:
マスターオンナタラシを「先輩」と慕う、自称後輩を名乗る不審者その1。
純粋で健気な後輩を演じているが、その実態は主人公の正妻の座をのこのこ虎視眈々と狙う、なかなかの策士。
いざとなれば、その巨大な盾(物理)で語りかけてくる習性を持つため、彼女を怒らせるのはとても危険。

のうりょく:
誉れ高き雪花の盾 B: マスターオンナタラシを守る最強の盾。人類史を滅ぼす攻撃すら防ぐが、浮気疑惑による精神攻撃は防げないぞ!
奮い断つ決意の盾 A: どんな情報網よりも早く、正確に番の不貞(と本人が思い込んでいる事案)を察知するぞ! 逃げても無駄だ!
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