ソシャゲの掛け持ちをしまくった結果がこれだよ!   作:じゅうじキー

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第六話

ロドス・アイランド。製薬会社にして、感染者のための希望の地。そして俺にとっては、地獄の場所その③だった。

今日はオリパシーについての論文をひたすら読まされ、考察とレポートを延々とまとめさせられている。内容なんて正直なんもわからん。

神様は俺に何か恨みでもあるのだろうか。こんなんじゃ身体が持たないよ……(懇願)

だが、疲れたからと言って休むわけにはいかない。もし弱音を吐こうものなら……

 

「ふむ、そろそろ君も限界か……。ならば、これをくれてやろう」

 

ケルシーが取り出したるは一本のアンプル。上級理性回復剤である。

アンプルの上部を割り、コツコツと俺に近づいてくる。

 

「ちょ、待ってくれケルシー。いくら何でもそれは「さっさと飲め」モガァ?!?!」

 

アカ――ン! そんなものを経口摂取なんてしたら…………

…………………………

………………

……

 

みwwなwwぎwwっwwてwwきwwたwwww

みなぎっっっっってwwwきwwwたwwwぜ――――!

ザ〇wとwはw違wうwのwだwよw〇クwとwはwww

 

「うわぁ……ケルシー先生、あれ大丈夫なの?」

「致し方ないが、必要なことだブレイズ。……アーミヤ、そこにある業務が片付き次第、ドクターを寝かせてやれ」

「はい、ケルシー先生。 さぁドクター。いっしょに頑張りましょうね」

 

うはwwwwwwwwwおkkkkkkkwwwwwwwwww

 

――――――――――

――――――

――

 

……なんてことがあった。 次の日は物凄い頭痛がするし、アレは芥子(激辛スパイスのほう)入りだからケツがものすごく痛くなるんだよな……。

なので、ロドスでは回復剤なんてものを使われないようにしなければならない。しなければならないが……さすがにもう限界である。

 

「もう……だめだ……」

 

もう無理だ。神は言っている、ここで死ぬ定めではないと。俺が言っている、ここで死ぬのはごめんだと。そうだ、逃げよう。この鉄の要塞から、ケルシーの監視下から、一時的にでも脱出するのだ。幸い、今日はニケの世界から業務連絡は来ていない。メイド・フォー・ユーに行って、少しだけ癒されよう。もちろん、向こうでも書類仕事が待っている可能性は否定できないが、少なくとも例の回復剤を使われるよりマシなはずだ。うん、そうに違いない。

 

俺は誰にともなく言い訳をすると、ごく自然な動作で椅子から立ち上がった。目標はトイレ。ケルシーの監視から逃れるための、社畜にとっての唯一の聖域(サンクチュアリ)だ。トイレに行くフリをして、個室の中でこっそりとニケのアプリを起動する……完璧な作戦や!ワイって天才か?(自画自賛)

 

抜き足差し足、音を立てずにトイレに向かう。あと一歩で自由が……。

その瞬間だった。

 

「あらぁ、ドクター。ずいぶん楽しそうな顔してるじゃない。どこかにお出かけ?」

 

背後から聞こえてきたのは、決して聞きたくなかった、鈴の音のように軽やかで、悪魔のように底意地の悪い声だった。弾かれたように振り返ると、そこにいたのは、天井の通気口から逆さまに顔を出す、赤い触角の傭兵。

 

「ファッ!? だ、W(ダブリュー)!?なんで天井にいるんだよ! お前はスパ〇ダーマッか!?」

「失礼ね。ただの通りすがりの傭兵よ」

 

Wは、まるで重力など存在しないかのように、軽やかに通気口から飛び降りると、俺の目の前に音もなく着地した。その赤い瞳が、楽しそうに細められる。

 

「それで?どこに行くつもりだったのかしら? あんた、最近こそこそと面白いことをしてるって噂よ。そのタブレットが怪しいって、あたしの勘が言ってるわ」

 

俺は咄嗟にタブレットを背中に隠したが、時すでにお寿司。Wの鋭い視線は、俺の手の中にあるそれを正確に捉えていた。彼女は猫のようにしなやかな動きで俺ににじり寄り、タブレットを覗き込む。

 

「へぇ、見たことないアイコンが並んでるじゃない。アタシの知らないゲーム? ツイてないわねぇ、ドクター。今日の貧乏くじはあんたよ」

「チ、チガウヨ! これは業務用の……」

「嘘は感心しないわねぇ。その面白そうなこと、あたしにも一枚噛ませなさいよ」

 

しまった。完全に見抜かれている。

Wは悪戯っぽく笑うと、俺の腕に自分の腕を絡ませ、ぴったりと体を密着させてきた。

やめろぉ!そんなに体を押し付けてくるんじゃねぇ!ンアッー!

 

「さあ、あんたの秘密、あたしにも教えてちょうだいよ」

「ハ・ナ・セ! お前に教えたら絶対にロクなことにならん! 絶対だ!」

「あら、大げさねぇ。でも、そういうの、嫌いじゃないわ。早く行きましょ?あたしたちの新しい『任務』にね」

「何が任務だ! これは戦略的撤退なんだよ!」

 

俺は必死にWを振りほどこうともがくが、彼女の体は細いのに、驚くほど力が強くてびくともしない。むしろ、俺の抵抗を楽しんでいる節すらある。

やめろ、そんなに体を押し付けてくるな。当たるところが当たるだろうが。

 

「あっ」

「あら」

 

もみ合っていたその刹那、俺の親指が、忌々しくも正確にニケのアプリをタップしてしまった。途端に、俺たちの足元からまばゆい光が溢れ出す。

終わった。俺の逃亡計画は、最悪の形で幕を開けた。

 

――――――――――

――――――

――

 

「ぐえっ!」

「おっと……」スタッ

 

目を開けると、そこはロドスの無機質な執務室ではなく、どこか未来的で広々としたSFチックな部屋だった。ニケの前哨基地にある、指揮官室だ。見慣れた光景のはずなのに、隣にいる爆弾女のせいで、全く落ち着かない。

 

「……へぇ、これ、瞬間移動ってやつ? じゃあここがあんたの隠れ家ってわけね? ロドスとは違う様式ね。面白そう」

 

Wは、物珍しそうに部屋の隅々まで見渡している。その目は、新しいオモチャを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。この好奇心の塊をどうにかしなければ、ニケの世界が滅茶苦茶にされてしまうかもしれない。

 

「W、いいか、よく聞け。ここは俺の別の職場だ。あんまり変なことはするなよ。特に爆弾とか仕掛けるのは絶対にやめろ。わかったな? 絶対だぞ!」

「はいはい、わかってるわよ。あたしだって、TPOくらい弁えるわよ?」

「それが一番信用ならんのだ!」

 

俺がWと押し問答を繰り広げていると、コンコン、と控えめなノックの音がして、執務室のドアが開いた。

 

「あなた、ただいま戻りました」

「き、君は! なんでここに!?」

 

そこに立っていたのは、タイトワンピースにニットのアウターを羽織った、完璧な淑女の笑みを浮かべた女性。ニケのシージペリラス部隊、俺の嫁を名乗る不審者、D(ディー)だった。

「ダイアナ」として振る舞う彼女は、非の打ち所のない気品に満ちている。しかし、その穏やかな微笑みは、俺の隣にいるWの姿を認めた瞬間、ぴくりと微かに凍りつく。

 

「最近お仕事ばっかりで疲れているみたいだったから、少しでも癒してあげようと思って来てみたんですよ。それよりも……そちらの方は?」

 

氷のように冷たい、だが表面上はあくまで丁寧な声。Dの目が、俺とWを交互に見ている。尋問が始まった。まずい、これは非常にまずい。

 

「え、えーっと、彼女はだね、その、同僚というか、腐れ縁というか……」

 

俺がしどろもどろになっていると、それを面白がったWが、俺の腕にさらに強く絡みつきながら一歩前に出た。悪魔のショータイムの始まりだ。

 

「あらぁ、ご挨拶が遅れたわね。あたしはW。このドクターの、しいて言うなら『最初(に手に入れた最高レア)の女』よ。あんたは?」

 

何を言ってるんだコイツはァーーーッ!? 勝手に俺の所有物みたいな言い方をするな!(あながち間違いではない)

俺の心の絶叫をよそに、Wの爆弾発言を受けたDは、一瞬だけ笑顔を固まらせた。だが、すぐに完璧な妻の仮面を被り直し、静かに言い返した。

 

「……そうですか。それは初めまして。私はダイアナ。この人の『妻』です」ニッコリ

 

 バチバチバチッ!

見えない火花が、二人の間に散っているのが俺には見えた。Dよ、君の言う『妻』ってのはあくまで演技の為の設定ですよね?どうしてそんなにバチバチなんですか???

なんだこの空間は。なんなんだこの地獄は。なんで俺はこんな目に。

 

「へぇ、『妻』ねぇ。ずいぶん自信があるじゃない。でも、あんたよりあたしの方が、この男のことよぉく知ってるわよ? コイツが普段どんなツラして仕事してて、夜どんな顔で鳴くかもね」

「あら……、そんなことはわたしも存じております。私たちは、お互いの全てを共有する『夫婦』ですから。ちなみに、昨夜もベッドの中で、子供は最低でも三人は欲しいと、熱心に語らっておられましたわ///」

「んなこと一言も言ってないが?! というか、昨日はロドスで残業してたから君とは会ってすらいないでしょ……!」

 

俺の魂の叫びは、二人の前では何の効力も持たなかった。

Wは、Dの全く動じない迫真の演技にすっかり感心したようだった。

 

「面白いじゃない。あんた、気に入ったわ。そのハッタリ、どこまで続くか見物させてもらうわよ」

 

そして、Dに向かって挑戦的に言い放った。

おいまて!こんなとこでグレポンを出すんじゃない!

 

「まあ、情熱的なお誘いですね……受けて立ちましょう」

 

やめろやめろ! Dも斧とライフルを取り出すな!

 

「ドクターもさっさと遺書書きなさい。あんたはこいつとここで死ぬのよ」

「 やめてくれよ……(絶望)」

 

もはやコントだ。俺が現実逃避に天を仰いでいると、まさにその時、さらなる追い打ちがかかる。僥倖などないっ……!圧倒的絶望っ……!

ウィーン……と執務室のドアが開き、俺が今最も会いたくなかった人物が入ってきた。

 

「指揮官、ご報告です。地上でトーカティブの活動を確認し――」

 

やな予感してきた……。

涼やかな声と共に現れたのはラピ達だった。彼女は、部屋の異様な光景を見て、ぴたりと動きを止める。指揮官である俺の腕には、見たこともない銀髪の女(W)がぴったりと絡みついている。その向かいには、完璧な淑女の笑みを浮かべて立つ、これまた見慣れない女(D)。どう贔屓目に見ても、健全な状況ではない。完全に修羅場だ。

Wは、ラピを値踏みするように見つめると、面白そうに口の端を吊り上げた。

 

「あら、また増えたじゃない。ずいぶんモテるのねぇ、ドクター? 趣味が悪いのか、女難の相でも出てるのかしら?」

「あなた……まさか、また『任務』で現地の女性と懇意に……? 感心いたしませんね。破った場合のペナルティは"これ"ですよと言ったはずですが……」ユサユサ

 

Dが胸を強調しながら俺に囁きかけてくる。

 

(私たちの『設定』を忘れたのか? ただ一人の女だけを愛する一途でエッチな男という設定だったはずだぞ)

(ちょっと知らない設定ですね……!?)

 

ラピの顔から、すっと全ての感情が抜け落ちた。無表情。それが、彼女が最も怒っている時のサインであることを、俺は知っている。

 

「……指揮官。『質問』をしてもよろしいですか?」

 

地を這うような、低い声。

 

「詳しく、説明してください。私は今、冷静さを欠こうとしています」ざわ……ざわ……

 

(うわぁ……修羅場ね……)

(師匠、完全に囲まれてますね……)

(いつか背中刺されるとは思ってたのよ……)

 

 背後でアニスとネオンのひそひそ声が聞こえる。助けてくれお前ら! やくめでしょ!

俺は完全にキャパシティオーバーだった。脳の処理能力を超えた情報量が、俺をパニックに陥れる。これは……なんだ……?……なんだ……?これは……?

 

「ち、違う! 誤解なんだラピ! こっちはただの腐れ縁で、向こうは任務のための協力者で、つまり、その……、俺は悪くないんだ!信じてくれ!」

 

支離滅裂な言い訳が、かえって彼女たちの疑念を煽るだけだということはわかっていた。だが、そう言うしかなかった。

ラピは、氷のような目で俺を、そしてWとDを見つめた。

 

「では、このお二人が、今すぐここから立ち去らない理由をご説明いただけますか?」

 

その問いに答えたのは、俺ではなく、当事者達だった。

Dが、すっと一歩前に出る。

 

「夫である指揮官の危機とあらば、妻として支えるのが当然です。ラプチャーの襲撃ですね? いつ出発しますか? 私も同行いたします」

「アタシも行くわよ。そんな面白そうな戦場、見逃す手はないじゃない? あんたの指揮、特等席で見物させてちょうだい。それに、そこの『奥さん』の実力も気になるし♪」

 

Wが、心底楽しそうに笑う。

こうして、俺の意思とは全く関係なく、三人の(物理的にも精神的にも)非常に危険な女たちを連れて、地上の戦場へ向かうことが決定してしまった。

ウッソだろお前ら……

 

――――――――――

――――――

――

 

荒廃した地上の景色は、何度見ても慣れるものではない。吹き付ける風は砂埃を含み、崩壊したビル群は、まるで巨大な墓標のように空を突いていた。そして、そんな殺伐とした戦場よりも、俺の心を蝕んでいるのが、すぐ隣を歩く三人の女たちだった。

 

ラピは終始無言で、時折俺に突き刺すような視線を送ってくる。Dは完璧な淑女の仮面を被ってはいるが、その目は笑っておらず、Wの動向を常に警戒している。そして当のWは、周囲の危険などどこ吹く風で、鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌だ。この地獄の遠足は、一体いつ終わるんだろうか。

 

『先生!サポートの準備、完了しました!』

 

タブレットから、アロナの脳天気な声が響く。彼女のサポートがなければ、俺はこのリアルTPSを乗り切ることなどできやしない。画面には、見慣れたニケの戦闘UIが表示されている。カウンターズ三人+αのステータス、スキルアイコン、そしてリアルタイムで更新される戦況マップ。

 

そして今回は、見慣れないやつが一人編成に加わっている。どうやらWもニケ方式で指揮できるっぽい。君、思ったよりプリケツなんだねぇ……(変態)

 

「指揮官?何か問題でも?」

 

ラピの声に、俺は慌てて首を振った。

 

「いや、なんでもない!さあ、作戦を開始する!」

 

前方から、金属の軋む音と共に、ラプチャーの群れを引き連れたトーカティブがのしのしと姿を現した。さすがは喋るラプチャー。ゲーム画面で見るより、その威圧感は段違いだ。

 

『ッ?! また貴様らか人間もどき共! いい加減私じゃなく別の個体を襲ったらどうだ!!』

「うるせえお前が一番ボコりやすいんだよ! さっさとカスモだせこの野郎!!」

 

定期的にトーカティブをボコっているせいで、向こうも嫌気が差してきているらしい。だが知ったことではない。日頃のストレス、ここで発散させてもらうぜ……!

 

「ラピ、アニス、ネオンは前線を構築! でぃ、ダイアナは後方から精密射撃で援護を! W、お前は……」

 

俺が指示を出すよりも早く、Wは俺の言葉を遮った。

 

「はいはい、焦らなくていいわよ、ドクター。あたしのやり方でやらせてもらうから」

 

彼女はそう言うと、軽やかなステップで単身、敵陣へと駆け出していく。その手には、いつの間にか複数の爆弾が握られていた。

 

「アッおい待てい! 単独行動は危険だ!」

「あらぁ、心配してくれるの?嬉しいわね」

 

Wは振り返りもせず、笑いながら爆弾を次々と設置していく。彼女の動きは予測不可能で、まるで踊っているかのようだ。

パァン!と乾いた破裂音と共に、ラプチャーの一体が火花を散らして吹き飛ぶ。

 

「あなた! 危ないですよ! 私がしっかりと守りますから、安心してくださいね!」

 

Dが、冷静だが鋭い声で俺を呼ぶ。

 

「……あの女、腕は立つな。だが、動きが読めない。射線と被る可能性がある」

 

一瞬で切り替わる演技力に、もはや戦慄すら覚える。

 

「くそっ、わかってる! ダイアナはWのフォローを頼む! ラピたちは予定通り、敵主力の足止めを!」

 

俺はタブレットを操作し、なんとか戦線を維持しようと試みる。

だが、一番の脅威はラプチャーではなかった。

 

「司令官……」

 

ラピの声は、氷のように冷たい。だが彼女の瞳に、嫉妬の炎が燃え盛っているのが見えた。

 

「……私の活躍を、ちゃんと見ていてください! フルアクティブ!貫けっ!」

 

次の瞬間、ラピは鬼神のごとき勢いでラプチャーの群れに突撃し、凄まじい火力で敵を蹂躙し始めた。嫉妬は女を強くする、とは言うが、ここまでとは。これが若さか……

 

「あ、あれはまさか、あれは前哨基地名物・羅刹(らせつ)!」

「知っているのかネオン!?」

「ウム、嫉妬の炎を推進力に変え、常人の三倍の速度と火力を得るという究極の戦闘法です! しかし、あまりのエネルギー消費に、使用者もただでは済まないという諸刃の剣! まさか本当に使えるとは……」

「はえ~、すっごい……」

「指揮官さま関心してないで指示出してよ!」 

『貴様ら覚えておけよ皮つき共!!!!!』

 

戦場は、もはやカオスだった。

Wが好き勝手に爆弾を設置しては敵を混乱させ、Dがそれを的確に援護し、嫉妬に燃えるラピが圧倒的な火力で敵を殲滅していく。俺の指揮など、もはやほとんど意味をなしていなかった。なぁにこれぇ……。

……おっ、カスモ置いてんじゃ~ん。うまうま。

 

――――――――――

――――――

――

 

どれほどの時間が経っただろうか。

凄まじい殲滅戦の末、俺たちはなんとかトーカティブを退ける(カツアゲ)ことに成功した。

指揮官室に戻った俺は、ロドスにWを連れ戻そうと詰め寄る。

 

「W、もう満足しただろう……。 早く帰るぞ!俺の胃袋が持たん!」

「チッ、もうおしまい? まあ、なかなか楽しませてもらったわ。褒めてあげる」

 

俺は最後の力を振り絞り、タブレットを手に取ってアロナを呼び出す。これ以上、この悪魔をアークに置いておくわけにはいかない。

 

「アロナ、こいつだけ元の場所に転移させて!」

『はい先生! 転移シーケンス、起動しまーす!』

 

Wは心底残念そうな顔をしながらも、素直に転移の光の中へと歩を進めた。

 

「じゃあね、ドクター。また遊びましょう?」

 

そして、消える直前、彼女は悪戯っぽく俺に顔を寄せると、頬にキスをするフリをして、ウインクを残して消えていった。

 

「……あなた。彼女も帰ったようですし、私も先に失礼します。ですがその前に……」ズイッ

(明日、とある要人の暗殺任務がある。お前には、私の夫役として同行してもらう。これは決定事項だ。拒否権はない。詳細は明日伝える。指定の時間に、例のホテルへ来い)

 

そういえば、俺のことを癒しに来てくれたとか何とか言ってたが……本題はこれだったか。

結局仕事の話なんですね。また仕事(キミ)か壊れるなぁ……

 

「……今日はできませんでしたが、次はちゃんと癒してあげます。明日、ちゃんとホテルに来てくださいね」

 

Dもまた、優雅に一礼すると、何事もなかったかのように部屋を後にした。

ようやく、嵐が去った。残されたのは、疲れ果てた俺と、未だ氷のような表情を崩さないラピだけだ。

 

「指揮官……」

 

ラピが、ゆっくりと口を開いた。何か、言わなければならない。この誤解を、解かなければ。

俺が覚悟を決めた、まさにその時だった。

 

『あらぁ、ラピちゃんだったかしら? あたしはW。このドクターの、正真正銘、最初の女よ』

 

突如、指揮官室のスピーカーから、大音量でWの声が響き渡った。録音されたものだ。

俺の血の気が、サッと引いていく。

 

『あんたがどんなに頑張ったって、コイツの初めては、ぜーんぶあたしが貰ったんだから。残念だったわねぇ。あの夜のドクター、すごく可愛かったわよ?――パァン!www』

 

ラピが、ギリィ……と音を立てて拳を握りしめたのがわかった。彼女の顔は、にっこりと笑っている。だが、その目は全く笑っていなかった。むしろ、その奥に、絶対零度の殺意が宿っているのが見えた。

……これは後にラピが心に傷を負い、体内の女性ホルモンが異常分泌、結果、万物を破壊する「神の右拳(ゴッド・ハンド)」を開眼するきっかけとなった事件である。(民〇書房刊『世界格闘技 ボクシングの歴史』より)

 

「だ、だぶちぃ! アイツ置き土産に何てものを仕掛けていきやがったんだ!」

 

調子こいてんじゃねえぞこの野郎(棒読み)……! 俺の悲鳴が、前哨基地に虚しく響き渡る。

ラピはゆっくりとこちらに歩み寄ると、俺の肩にそっと手を置いた。

 

「指揮官。少し、お話があります。今夜は、長くなりそうです」

 

その笑顔は、どんなラプチャーよりも恐ろしかった。

俺の貞操(と胃袋)の危機は、まだまだ始まったばかりだ。

 

……ちなみに、後日ホテルでDにしてもらったマッサージ(ド真面目)はとても気持ちがえがった。

 




W(ダブリュー)
和名:サルカズアカツノダブチ
 
せいそくち
カズデルや龍門のスラム街など、キケンな場所に生息する。
 
とくちょう
いつも不敵(ふてき)な笑みを浮かべており、タチの悪いイタズラが大好き。
特にドクターオンナタラシをからかうことを至上(しじょう)の喜びとしており、彼が困れば困るほどキゲンが良くなるという、とても意地の悪い性質を持っているぞ!
 
のうりょく
ダル絡み:獲物(おもにドクターオンナタラシ)を見つけると、猫のようにしなやかに距離をつめて体を密着させて、耳元でヤバいことを囁いたりするぞ!ウザイ!
 
爆弾設置:その場を立ち去る際に、録音したイタズラメッセージを仕掛けたりする。この「置き土産」は、人間関係を爆散させる精神攻撃としての効果が絶大だ!コワイ!
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