ソシャゲの掛け持ちをしまくった結果がこれだよ!   作:じゅうじキー

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第四話

「指揮官、次はこちらの書類にサインをお願いします」

「アッハイ」

 

徹夜を重ね、俺はついに最後の書類にサインを書き込んだ。手が鉛のように重い。ラピが黙々と最後のファイルを閉じ、机の上がチリ一つなく綺麗になる。視界の端で、彼女が小さく満足げに頷いたのが見えた。

 

「……終わりましたね、指揮官。全ての業務が完了しました」

 

ラピは真顔でそう告げる。その声には、達成感のようなものが微かに含まれているように感じた。彼女の瞳は、いつも以上に澄んでいる。

 

「はぁ~~~(クソデカため息)」

 

 俺は魂の抜けたような声でソファにぐったりと寄りかかる。もう、指一本動かす気力も残っていない。だが、やり遂げたという、ほんのわずかな達成感が、疲弊しきった脳の片隅に灯った。俺、頑張ったよ……。

 

ピロン♪

 

 タブレットから、軽快だが今は忌々しい通知音が鳴った。

恐る恐る画面を見る。ブルアカの世界ではモモトークになっていたが、ここではBlaBlaの通知だ。

開きたくない。絶対に開きたくないが……、それはバナーという形で表示されてしまった。

 

ケルシー:ドクター、今すぐ指令室に来い。

 

「わぁ~ケルシコ先生だ~」

 

 知ってるけど知らない相手からの、あまりにも横柄なメッセージ。

俺は戦慄した。その名は、絶対怒らせてはいけないランキング(全俺調べ)上位の女性の名前だったからだ。なんでニケ世界にいる俺にアークナイツのキャラから連絡が来るんだよ!

世界観の垣根どうなってんだ!いい加減にしろ!

 

ピロン♪

 

ケルシー:ドクター、貴様見ているな?今すぐ指令室に来い。貴様が不在の間、どれだけ業務が停滞していると思っている。

 

 な、何イィィィッ?!?!? こっちに感づかれてる?!

やべぇよ……やべぇよ……。とりあえず当たり障りのない返事をするしかない。

俺はラピの視線を盗み見て、返信を打った。

 

俺:いや無理です。こっちも仕事が山積みで手が離せないので

ケルシー:言い訳は聞かん。アークだか何だか知らんが、そこの責任者に連絡を取ることもできる。

ケルシー:お前がロドスを放り出して、別の組織で女を侍らせている件について詳しく聞かせてもらおう。

 

 ひぃぃぃぃぃぃ!

何か別の世界で働いてることまで把握してるっぽい!怖すぎるだろ!

こ、この人、やると言ったらやる……『スゴ味』があるッ! もし逃げたら俺は社会的に抹殺される気がする。それだけは避けたい!

 

俺:わかりました! すぐ行きます! なんでもしますから3分だけ待ってください!

ケルシー:ん?今なんでもと言ったか。

俺:言ってないです

 

 俺は半泣きでそう打ち込むと、隣のラピに声をかけた。

 

「ら、ラピ、ちょっとトイレに……」

「指揮官」

 

 俺の言葉を遮り、ラピは静かに顔を上げた。その目は、全てお見通しだと言わんばかりに俺を射抜いている。

 

「そのタブレット……先ほどから通知が来ていますね。相手は、誰です?」

「滅相もございません! お得なクーポンのお知らせでございます!」

「嘘は、いけません。見せてください」

 

 ラピの手が、ゆっくりとタブレットに伸びてくる。まずい! これを見られたら俺はアークで二股(社畜)かけてる浮気者だと思われてしまう!

 

「あっ、そうだ! アニスが呼んでた気がする! アニスが買い物に行くって!」

「アニスは先ほどシャワーを浴びに行きました。オートロックで塞いだので当分戻りません」

「ネ、ネオンは!? ネオンが銃のパーツ探しに付き合ってほしいって!」

「ネオンもガンショップです。あと3時間は戻らないでしょう」

 

 詰んだ。完全に詰んだ。八方塞がりだ。もう、奥の手を使うしかない。

 

「う、うおおおお! 腹が、腹が痛い! 食あたりだ!救急車! いや、トイレェェェェ!!」

 

 俺は渾身の力で腹を押さえ、もがき苦しむ演技をする。これぞ社畜が長年の経験で培った「体調不良による緊急離脱スキル」だ。

 

「し、指揮官!? 大丈夫ですか!?」

 

 さすがのラピも、俺のあまりの迫真の演技に狼狽えた。よし、今だ!

俺はその隙を突いてソファから転がり落ち、トイレに向かって走り出した。

逃げるんだよォ!ス〇ーキーーーーーッ!!

 

「指揮官! 今すぐベッドに!」

「なんでベッド?! いやトイレでいいから!」

 

 ラピの制止を振り切り、俺はトイレの個室に駆け込むと、速攻で鍵を閉めた。そして、アークナイツのアプリに指を伸ばす。

 

「もうどうにでもなーれ!」ポチッ

 

 案の定、何度目かの浮遊感と閃光と共に、俺の意識は再び暗転した。

 

――――――――――

――――――

――

 

「へぶっ!」

 

 次に意識が浮上した時、俺は硬いベッドの上に落ちていた。

もうこの展開飽きたよ。そろそろ次に来る展開を予測しろ。

鼻腔をくすぐるのは、金属と……何か消毒液っぽい匂い。間違いない、ロドス・アイランドだ。

 

「三度目の正直って言うけど、三度目も地獄じゃねえか……?」

 

 むくりと起き上がると、そこはドクター専用の執務室。服装も軍服からフード付きのコートに変わっていた。

今回は誰かに叩き起こされることもなく、部屋は静まり返っている。机の上も綺麗だ。

 

「お?今回はセーフか? もしかしてケルシーのただの脅しだった説ある?」

 

 淡い期待を抱き、再びベッドに寝転がろうとした瞬間、背後から凛とした少女の声がした。

 

「……ドクター? ようやくお帰りですね。お待ちしていました」

「ファッ?! あ、アーミヤ! いつからそこに?!」

 

 振り返ると、そこにはロドスのラスボス、アーミヤが立っていた。こいついつの間に!?テレポートでも使えるのか!?

アーミヤはにっこりと微笑むが、その瞳は笑っていない。完全に俺をロックオンしている。

 

「ドクターがなかなかお戻りにならないので、このお部屋をお掃除していたんですよ。」

 

 お掃除……?確かに部屋は綺麗だが、なんかこう……妙に湿っぽくないか?

よく見ると床に所々、拭き取ったような跡があるし、アーミヤの服装も心なしか乱れている気がする。そして、極めつけは医務室でもないのに消毒液の匂い……。

多分変態だと思うんですけど(名推理)、ほんまは君、ここで何しとったんすか???

 

「……勘のいいドクターは大好きですよ。聞きたいですか?」

 

 うん、聞かなかったことにしよう。なんでもないです。

 

「……部屋をアルコールで拭き上げていただけです。そんなことよりも、こちらの書類を確認していただけますか?」

 

 ……ほんとかなぁ~? まあええか。

彼女はそう言いながら、手に持っていた辞書より分厚いファイルの束を差し出してきた。

 

「ドクターがご不在の間の作戦報告書と、ケルシー先生からの申し送り事項、それから次期採用オペレーターの最終選考リストです」

「ハイ知ってた。これ絶対『試練』ってやつでしょ?そういうの、もういいから……(懇願)」

 

 俺のツッコミも虚しく、アーミヤはグイグイと体と書類を押し付けてくる。

 近い近い!顔も近い!

 

「さあ、ドクター。申し訳ありませんが、お仕事の時間です。まずは、ドクターの決裁がないと進められない、婚姻とど……じゃなくて、作戦立案書からお願いします!」

「なんか今言いかけなかった?」

「さあ、早く始めましょう! 今日はまだまだ長いですから、ね?」

 

 これもうわかんねぇな……

俺が現実逃避に天を仰いでいると、執務室のドアがバーン!と勢いよく開いた。

 

「ウサギちゃん、大変!龍門でレユニオンの残党が!」

 

血気盛んな声と共に飛び込んできたのはブレイズだった。しかし、彼女一人ではない。その背後から、小さな影がひょっこりと顔を覗かせている。ロスモンティスだ。

 

「って、ドクター!? おかえりなさい! いつの間に戻ってたの!?」

 

ブレイズは俺の姿を認めると、ぱあっと表情を明るくした。そして、アーミヤと俺が妙に近い距離にいるのを見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「なーんだ、アーミヤちゃんとお二人で『お楽しみ』の最中だった? ごめんごめん、お邪魔しちゃった?」

「ち、違うから! これは業務上のコミュニケーションであって、決してやましいことなど!」

 

俺が慌てて否定すると、ブレイズの後ろからロスモンティスがおずおずと前に出てきた。

 

「……ドクター。……おかえりなさい。……会いたかった」

 

 そう言って、俺の服の裾を遠慮がちに、きゅ、と掴んでくる。

その健気な仕草に、俺の心のHPが一瞬で全回復した。あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 

「ごめんね二人とも、本当に緊急なんだ。龍門の、スラム街の方でかなりの数のレユニオンが集結してるって。龍門近衛局だけじゃ手に負えないみたいで、ロドスに直接応援要請が来てる」

 

 ブレイズが真剣な顔で状況を説明する。どうやら、本当にまずい状況らしい。

 

 そっと空気になり、「俺は執務室の壁紙……美しい(汚い)木目調や……」と自己暗示をかける。

しかし、アーミヤの瞳が俺を捉えて離さない。

 

「ドクター、お願いします。ドクターの『声』で、私たちを導いてください。あなたの声を聞くと、なんだか体が熱くなるんです……」

「なんでそんな誤解を招く言い方するの???」

 

 ブルアカとニケで見た悪夢の再放送。

ソシャゲヒロインたちの間で流行しているに違いない、この「絶対断れないキラキラ圧迫お願いメソッド」に、俺は為すすべもなかった。

 

――――――――――

 

 結局俺は、アーミヤ達に龍門のとある区画に連行された。

タブレットに映し出されるスラム街。敵の侵攻ルートとオペレーターたちの情報が、ARのように浮かび上がっている。

ワイのガンシューの腕前はここでは何の役にも立たんぞ……(※役に立ったことはない)

 

 泣き言を漏らした、その時だった。

 

ぶるーあーかいぶっ♪

 

 タブレットから、もはや腐れ縁としか言いようのないSEが鳴り響く。

 

『お困りのようですね、先生』

「そ、その声は!」

 

 タブレットを見ると、そこにはなぜか右手をL字に掲げ、左手の拳を胸にあてているプラナがいた。なんで2号の変身ポーズっぽいことしてるの。君たちは登場するときにふざけないと気が済まんのかね。

 

『先生が脱走したと聞いて、先ほどから様子を見ていました。 先生には私達がついていないといけませんから、サポートいたします』

「……ありがとうねプラナ。 でも、俺もプライベートが欲しいから、四六時中監視はやめてほしいかな……」

『ダメです(無慈悲)。先生のプライベートと、キヴォトスの平和は常に天秤にかけられています。そして、常にキヴォトスが圧倒的優勢です』

「俺のプライベートはそんなに軽いのか……?」

『それより、そちらの戦場にはいくつかドローンが飛ばされているようですね。指揮系統をいじってこちらの制御下におきましたので、現地にいるオペレーターさんをリアルタイムデプロイできるようにしましょう。配置コストは私が責任をもって管理します』

 

 タブレットの画面には、アークナイツで見慣れたタワーディフェンスのUIが表示された。

画面の隅には、真顔でサムズアップするプラナ。そして、その下からスッと補足テロップが表示される。

 

『(※コストは各オペレーターの時間外労働手当、危険業務手当、及びロドスの備品損耗率からリアルタイムで算出しています)』

『(※無計画な配置や被害による赤字計上は、ケルシー先生という方への報告義務が発生しているようです)』

 

 うーん、これは……下手するとケジメを取らされるやつだ。

社会的にもケルシーに何されるかわからんぞ。だが、文句を言っている暇はない。やるしかないのだ。

 

『……しかし先生、この規模の敵戦力に対し、現在の出撃メンバーでは少々戦力不足の懸念があります。本当に、指揮できますか?』

「なに言ってるのさプラナ! エリートオペレーターが二人とアーミヤがいるんだよ? できらあ!」

 

 俺が啖呵を切ると、ブレイズとロスモンティスが「おおー!」と目を輝かせた。そうだ、これでこそドクターだ。

 

「で、ブレイズ、敵の規模は?」

「んー、近衛局からの報告だと、レユニオンの兵士がだいたい400。重装兵と術師も混成で、リーダー格も数体いるってさ」

「え!? この3人でその数と戦闘を?」

 

 さっきまでの威勢はどこへやら、俺は即座に手のひらを返した。

ブレイズとロスモンティスが、ズコーッと効果音がつきそうな勢いでずっこける。

 

「「ドクター!?」」 「しっかりして、ドクター……」

「いや~キツイっす(素)。体力管理どうすんだよ……」

 

 400ってこれ、もしかしてウィークリーの殲滅作戦だったりする? 道理で数が多いわけだ……。プラナが冷たい視線でこちらを見ている。

 

『……先ほどの発言は、撤回しますか?』

「し、しませぇん!」

「……ま、ドクターは難しいこと考えなくていいって! ドクターはどっしり構えて、私たちに『頑張ってこーい!』って言ってくれればそれでいいんだから!」

 

ブレイズは太陽みたいにニカッと笑う。ガサツなのではなく、快活で、見ているこっちまで元気が出るような笑顔だ。

 

「ドクターの『声』が聞こえるとさ、なんかこう、昂るっていうか……体に力が漲ってくる感じがするんだ。不思議だよね、化学反応ってやつかな?」

「化学反応……。(なに言ってんだオメェ)……」

「大丈夫だって!ほら、ロスモンティスもそう思うでしょ?」

 

 ブレイズに話を振られ、俺の後ろに隠れるように立っていたロスモンティスが、こくりと頷いた。

 

「……うん。ドクターの声は……あたたかい。ドクターがいると、頑張れる」

 

 そう言って、俺の服の裾をぎゅっと掴んでくる。その仕草に、思わず庇護欲が爆発しそうになる。この子は俺が守護らなきゃ……。

 

「ほらね?だからドクターは、安心して私たちに任せてよ!」

 

ブレイズの言葉に、俺は腹を括った。そうだ、俺は指揮官であり、先生であり、ドクターなんだ。彼女たちが信じてくれるなら、それに応えるのが俺の仕事だ。

 

「……わかった。ブレイズ、ロスモンティス、アーミヤ、みんな準備はいいか!?」

「よーし! 任せておいて、ドクター!」

「ロスモンティス! 君も頼むぞ!」

「うん。あそこの町ごと、更地にすればいい……?」

「アカン! それはやりすぎ! もち着いて(おまいう)!」

 

 そうこうしていると、クソデカ重装兵達の敵影が見えた。思ったよりレユニオンワラワラで草も生えませんね……

どれ、皆を敵の進行ルートに配置してっと……

 

「ブレイズ、左翼を塞げ!絶対に通すな!」

「おっけー!ドクターにそんなこと言われたら、燃えるしかないよねっ!私の得意技、お見舞いしてやろっか!」

 

ブレイズは軽やかに前線に躍り出ると、チェーンソーを振りかざす。その姿はまさに戦場の赤い花だ。

 

『先生、ブレイズさんのスキル発動を確認。ダメージ効率は現在の配置で最適化されています。引き続きサポートを継続します』

「お、おお、頼むよプラナ! 頼りにしてる!」

 

「ロスモンティス!準備ができたら、あそこの高台から一気に叩いて!君の力を貸してくれ!」

「うん。ドクターがそう言うなら……私の全部、見ててね……」

 

ロスモンティスが高台に陣取り、その小さな体から想像もつかないほどの巨大なアーツを展開させる。あ、これ後でいっぱい褒めて頭撫でてあげないと(使命感)。

 

「アーミヤ!後方から術で援護を!君の力が必要だ!」

「! はい、ドクター! 私は男の子がいいです……!」

「急にどうした?!」

 

ブレイズが敵を薙ぎ払い、ロスモンティスのアーツが敵陣を更地にする。

 

『このチェーンソーで真っ二つにされたくなかったら、さっさと投降しちゃって!』

『私の邪魔を、しないで……! みんな、吹き飛んで!』

 

 ブレイズのチェーンソーが唸り、ロスモンティスのアーツが敵の戦線を更地にしていく。その様はまさに圧巻。これがリアルアークナイツか……胸が熱くなるな。

結局、エリートなオペレーターたちの活躍もあり、なんとか敵を殲滅することができた。

 

『作戦完了です、先生。今回の戦闘、先生の指揮による効率的なオペレーター配置と、私によるコスト管理が功を奏しました。評価は「☆3」です』

「☆3!? やった……ケルシーにはとやかく言われずに済みそうだね。頑張った甲斐があったよ」

『いえ、先生の力はあくまでお気持ち程度のバフです。今回の作戦は私が先生をサポートしたからこその評価です』

「えぇ……!? そんな露骨に手柄を横取りすんの?!」

『事実です。論理的な思考をしてください。先生は私達がいないとなにもできませんから……』

 

 いや辛辣ゥ……

 

――――――――――

――――――

――

 

「 ぬわあああああん疲れたもおおおおおん……」

 

 作戦を終え執務室に戻ってきた俺は、ベッドにダイブしようとした。

すると、執務室のドアが控えめにノックされた。

 

「ドクター、入るよー」

 

ひょこっと顔を出したのは、ブレイズとロスモンティスだった。

 

「お疲れ様、ドクター。今日の指揮もすっごく良かったよ!痺れちゃった!」

 

ブレイズが俺の隣にやってきて、デスクに腰掛ける。その拍子に、彼女の着ているシャツから、ふわっと甘い柔軟剤の香りがした。

 

「ほら、ロスモンティスもおいで。ドクター、頑張ったご褒美、だってさ」

 

ブレイズに促され、ロスモンティスがおずおずと近づいてくる。その手には、可愛らしい猫の形をしたクッキーが乗ったお皿があった。

 

「……これ、ドクターに。……美味しいから」

「おっ! ロスモンティスちゃんの手作りクッキー!? これは家宝にせねば……!」

「ふふ、ちゃんと食べてあげてね? ロスモンティス、ドクターに渡すんだって、朝から一生懸命焼いてたんだから」

「えっ、マジで!?そんなの聞いたらもったいなくて食べられない……いや、食べる!全部食べる!」

 

 俺がクッキーを1つ口に放り込むと、ロスモンティスの顔がぱあっと明るくなった。尊い。あまりにも尊い。撫でよ。

良ぉお~~~~~しッ!よしよしよしよしよしよし! たいしたヤツだ ロスモンティスおまえは!

 

「わわっ……////」ナデナデナデナデ

 

仕事地獄で死にかけていた心が、じんわりと癒されていくのを感じた。もう許せるぞオイ!

しかし、その穏やかな時間は、一人の女帝によって打ち砕かれる。

 

「……話は終わったか?ブレイズ、ロスモンティス」

 

その動きをぴたりと止めたのは、部屋の隅の影からヌッ……と音もなく現れた、白衣の女性だった。絶対零度の声。ケルシーだ。 

 

「ドクターは、これから私と『大事な話』がある。部外者は退室しろ」

「あら、ケルシー先生……」

「ざんねん……」

 

二人はバツが悪そうに顔を見合わせると、「じゃ、じゃあドクター!また明日ね!絶対だからね!」と言い残し、そそくさと部屋を出て行った。

 

「……ドクター、ご苦労だった。報告は受けている。上出来だ」

「ははぁありがたき幸せ……」 

 

 彼女は淡々と、しかし全てを見通すような目で俺を見つめる。

 

「それにしても、随分と若い女たちに囲まれて楽しそうだったな。私のことは、もうどうでもよくなったと?」ギロッ

「め、滅相もございません!あなた(にこれから押し付けられるであろう仕事)のことが一時も頭から離れませんでした!」

 

 咄嗟に処世術スキルが発動する。俺の言葉に、ケルシーはふい、と顔を背けた。その耳が、ほんのり赤い気がする。

 

「ふん……口先だけの男め。ならば、証明してみせろ」

 

 ドンッ!!

ケルシーは、アーミヤが持ってきた報告書の、体感で3倍はあろうかという厚さのファイルを机に叩きつけた。机が、ミシミシと断末魔の叫びを上げる。

こ、ここから入れる保険はありま「そこになければない」そうすか……

 

「ロドスから逃亡していた事実は消えん。そして、サボっていた分のツケは、きっちり払ってもらう」

「君が不在だった間のロドスの全収支報告、各勢力との交渉議事録、オリパシー研究の最新データと、それに対する今後の開発計画書だ。全て、今日の日の出までに目を通し、お前の見解を述べろ。決裁印も忘れるな」

 

「ひ、日の出まで!? もう夜なんですけど!? 泣く子も黙る丑三つアワーなんですけど!」

 

 俺が悲鳴を上げると、ケルシーは心底面倒そうな顔で首を傾げた。

 

「何を言っている。お前はドクターだろう?できて当然だ。それとも、できないと?」

 

 その目は「できなければどうなるか、わかっているな?」と雄弁に語り、背後にはMon3trが牙を剥く影が見える。

 

「ドクター。聞け。貴様はロドス・アイランドの、いや、このテラにおいて唯一無二の存在だ。その特異性、その思考、その戦略、全てが不可逆な要素であり、ロドスの継続的な運用に必要不可欠なのだ。そして、貴様がこのロドスを、そして私を差し置いて、どこか別の薄汚れた世界で、あるいは安寧に浸り、あるいは遊興に耽っていたという事実は、断じて看過できるものではない。これは責任問題だ。この膨大な書類は、貴様が不在であった間のロドスの業務の停滞、我々のオペレーターがどれほどの不利益を被り、そして私がどれほどのストレスに晒されたかを示す、具体的な証拠の山だ。これを精査し、消化し、その上で貴様の次なる行動理念を明確に示せ。できなければ……分かっているな? 貴様の存在価値そのものを再考することになる」

 

「……アッハイ、デキマス。ヨロコンデー」

 

 もはや、俺にその一言を返す以外の選択肢は、残されていなかった。

俺は崩れ落ちるように椅子に座った。もうだめだ……おしまいだ……俺は今日、書類に埋もれて死ぬんだ……。絶望に打ちひしがれる俺の肩を、ぽん、と誰かが叩いた。

見ると、いつの間にかアーミヤがコーヒーを淹れてくれていた。ッサー!

 

「ドクター、頑張ってください。私もお手伝いしますから。もう、どこにも行かせませんよ?」

「ありがとうアーミヤ。とりあえずそのコーヒーは君が飲みなね?」

 

 その笑顔は、まさに天使。悪魔の所業を命じる上司(ケルシー)と、それをフォローしてくれる天使の部下(アーミヤ)。

ロドス・アイランドは、飴と鞭の使い分けが巧みすぎる。

こうして俺の過酷な異世界社畜ナイトは、あまりにも無慈悲に過ぎ去っていく。

 

 ……なんで二人とも俺の隣にぴったり座るんですか???




アーミヤ
和名:ロドスイヤシウサギ
 
せいそくち
ロドス本艦(おもにドクターオンナタラシの生息域ちかく)
 
とくちょう
か弱い少女に見えるが、その正体は番のすべてを管理しようとする、すさまじい執着心の持ち主だぞ!
いつも純粋なえがおをふりまいているが、ドクターオンナタラシが他のメスといるのをみると、めのおくがわらっていない。トテモコワイ!

のうりょく
戦術詠唱:うるうるとした瞳で「ドクター、お願いします」とささやいてくる。このこうげきを受けた番は、ぜったいにことわることができない。
命令をきくまでキラキラこうげきはとまらないぞ! コワイ!

共同作業:主人公がどこの世界にいても、なぜか居場所を特定できるふしぎな能力。
ドクターオンナタラシの生活リズムを完璧に把握しており、音もなく背後に出現する。その精度はニンジャなみだ!ナムサン!
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