ガノタがニケになっちゃった   作:砂岩改(やや復活)

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もう1人のソーン

 

 勝利の翼号の縁で酒を傾けて味を楽しむ。

 まぁ、電子的な世界では少しばかり味気ない。

 

「飲むか?」

 

「飲もう…」

 

 ソーンの想像とは違い酒を思いっきり飲むヘクトールは大きく息を吐くとビンを適当に脱げ捨てる。

 

「行儀悪いな。ゴミはゴミ箱へ」

 

「行儀なんて習っていない」

 

 ポツリポツリと話す言葉をソーンは静かに、しっかりと耳にいれる。無限に沸いてくる酒を嗜みながら、誰にも邪魔されない場所で。

 

「生前の記憶が?」

 

「ある。名前は…覚えていないが。パリスは妹のような存在だった」

 

「そうか…悪かったな。殺して」

 

「構わない。殺しあった結果だ」

 

 嫌味のひとつでも言われると思ったがヘクトールのあっさりとした一言にソーンは意外そうな顔をする。

 

「不思議か?」

 

「まぁ」

 

「私たちはそうやって生きてきた。殺して、殺して…そうやって生きてきたから私たちが死のうと。それは仕方のないことだ」

 

 ヘクトールの生前の記憶は知らないが世間一般的には思ったより悲惨な人生を送っているようであった。

 でもひとつ疑問がある。パリスはヘクトールが初任務で姿を消したと言っていた。

 なにか事故があったわけでもなさそうなら本人の意思で消えたのだろう。

 何故そのようなことをしたのか。

 

「私は...ヒーローになりたかった」

 

 悲惨な日々を送っていたヘクトールは道端で捨てられていた漫画を拾ったのがきっかけだった。

 戦っていなから、人々が尊敬し、愛されている平和の象徴。自分では想像も出来なかった眩しいほどの精神。

 

 それはその日暮らしのヘクトールにとっては憧れそのものだった。

 パリスも読む振りをしていたがあまり興味は無さそうだった。

 

 そんなクソみたいな人生を送っていた時にラプチャーの襲撃が発生したのだ。

 ニケになればなにか変わるかもしれないと募集に参加した結果、ヘクトールはさらに絶望することになった。

 

 英雄であり、ヒーローとして頭角を現してきたゴッデス部隊を殺すためのニケだったと知った時には最悪の気分だった。

 ゴッデス部隊の映像を見させられる度に苦悩する、まさに現代に降りた英雄、理想のヒーローであるゴッデスを殺す?ふざけるのも大概にして欲しかった。

 

「だから殺した。生まれ変わってまでやりたくなかった…」

 

 自決、彼女はそれを選んだ。

 ヘクトールはそんな自分勝手な考えで道ずれに出来ないとパリスを置いて行方をくらまし、自決したのだ。

 それがパリスの呪いになるとは予測もしていなかったが。

 

「だから嬉しかった。私がゴッデスに、英雄になれて」

 

 ソーンとして活動していた間にヘクトールに明確な意識は無かったがそれでも満足感は得ていた。

 

 頼もしい仲間、人々の歓声、なにより憧れていたゴッデスの一員として戦えていた事はヘクトールにとっても幸せであった。

 

「だから…ありがとう」

 

「…そうか。どういたしまして」

 

 瓶同士で乾杯する。

 

「こちらから来ておいてなんだがなんで意識が復活したんだ?」

 

「分からない。でも時期はレッドフードが侵食された時だ」

 

「ふむ…」

 

 あの時は流石にメンタルに来ていたから精神的に衰弱していたから体に眠ってたヘクトールが起きてきたのか。

 確かにあの時は変な記憶がフラッシュバックして来ていた、それが彼女がひっそりと目覚めていた予兆だったのだろう。

 

「俺が仲間を殺そうとする可能性は?」

 

「否定できない。根本の設計から見直さないと、少なくとも脳にはないと思う」

 

「なるほどね…」

 

 おおむね予想通りだと笑うソーンは当初の計画通りに事を進めることにする。

 

「で、これからどうするつもりだ?」

 

「死人は生き返らない。私は自ら死んだ、返して欲しいなんて言わない」

 

「なら…お前もヒーローにならないか?」

 

「え?」

 

ーー

 

「なんとか完成した」

 

 数年と言う月日とミシリスの助力を得て完成した最新鋭の自動工房、莫大な予算申請に当初はかなり渋られたが最新技術を得たいミシリス、M.M.R.、オーガスタが提携した。

 

「まもなく稼働試験を行います。我々に対する多額の出資と協力は本当に感謝しております」

 

「まぁね、私たちが協力してあげているのだから」

 

「気は進みませんでしたけどねぇ」

 

 ナカモトは自動工房を見渡せる部屋に招いていたのはミシリスの社長とM.M.R.から派遣された研究員のニケが高級な椅子に腰を下ろしている。

 

 本来、ニケの隣に座るなど許さないミシリスの社長だがM.M.R.の中でもかなり高位な所属のニケであるため我慢して座っていた。

 

 研究員ニケも上からの命令で視察に来ているだけなので本人としてはやや不快そうであり、遠回しな皮肉を何度も言われナカモトの胃に穴が空きそうだった。

 

「直接対話するわけではなく。他人の皮を被って願いを叶えようなど…。いやはや、常人では思いつかぬ発想ですねぇ」

 

 ニケの研究員はM.M.R.の最下層を自由に往来できる人物であり、常に閉じられた目からはその感情は伺い知れない。

 

「まだ発案段階ではありますが、来るべき地上奪還作戦のためにフラグシップ機となるニケを製作したいと考えています」

 

「エリシオンは既に開発に着手しているわ。それ以上の大金を使ってこれを造った。その意味が分かるわよね?」

 

「はい。このシステムはご存じの通り、ソーンの意識を電脳世界とリンクさせ、その世界を使って彼女を誘導し任意の物を造らせると言うものになります」

 

 このシステムと工房を使って後の第一次地上奪還作戦のための最強のニケを造り出そうと言うのが目的であった。

 

「では、起動します」

 

 予定時間を経て工房を稼働させたナカモトは眼下に広がる工房を緊張の面持ちで見つめる。

 工房はしばらくの沈黙の後、動き出す。

 

「なにこれ?」

 

 ナカモトは安堵した面持ちで工房を見つめると不機嫌そうな声が後ろから聞こえる。

 ミシリスの社長の視線の先には莫大な量の資源を要求する画面、そこには希少鉱物もこれでもかと言うほど求められており、普通なら悲鳴を上げてしまうような画面であった。

 

「こんなに簡単に要求されても困るんだけど。既にかなり量を投入してるのよ」

 

 それを用意しなければならないミシリス側からしてみれば不機嫌になるのは当然であった。

 その後、オーガスタとミシリスの間で長い時間、別室で協議が行われることになるが研究員は興味無さそうにその部屋に留まる。

 

 研究員は茨の園の管理装置を眺めるながら呟く。

 

「まさに(ことわり)を拓く者。これさえあれば我々の研究も…」

 

 言葉の途中で発言をやめる。言い様のない不快感を感じたからだ。これが己の正気から来るものだとしたら笑えるものだ。

 既に正気など、井戸の底に置いてきたのだから。

 

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