「こ、これが」
「シャンブロか…」
アークの防壁の外に設置された巨大な怪物《シャンブロ》はその深紅の身体を地面に埋めながら消えていく。
元々は水陸両用のモビルアーマーであったがアーク防衛用に地中を動き回れるようにしたのだ。
だがこの地中機能は思ったよりエネルギーを使ってしまったため、シャンブロの武装は実弾兵器に差し替えられた。
口部大口径レールキャノンをはじめ、身体の各所に格納式のレールガン、機銃、ミサイルが仕込まれた自律制御型のアークの怪物である。
「シャンブロはアークの防壁を越えることはない。防壁の外で暴れる怪物だからな」
シャンブロのその異形に視察に来た幹部たちは驚きながらもその姿を見上げる。
「アークの防衛装置としては文句あるまい」
「もちろんだ。ソーン博士、それと頼んでいた移動拠点はどうかな?」
「こっちだ」
ソーンが案内した先にあったのはビックトレーの亜種であるヘビィフォーク級であった。
「ホバー移動と砲撃可能な移動司令部。後の地上奪還作戦の要になるだろう」
その後もソーンはずっと補佐してくれたミアと共に開発したアーク用の兵器たちを上層部へプレゼンしていき、終盤に差し掛かった頃。
「ソーン博士」
「なにか?」
保安長官を見てほんのわずかばかり目を細めるソーン。
「シャンブロの件だがラプチャーのみを攻撃するのか?」
「ラプチャーのみならず侵入を許可されていない全てを破壊し尽くす。アークの市民とニケには認識チップを埋め込んでいる筈だ。それで判断する。」
「それは重要な事項だな。なぜ開発前に保安長官である俺に連絡が無かったのか?」
「シャンブロの設計段階で既に報告している。保安長官はご多忙で忘れているのだろうがな。なんなら書類のコピーを渡してやろうか?開発に関わったエリシオンのやつも添えてな」
「…いや。かまわない」
「そうか…それでは次に移るが...」
ーー
「くそっ!おい!」
「は、はい!」
「本当にそんな書類あったのか!?」
保安長官の執務室にて部屋の主は秘書に向かって苛立ちげに話しかける。
「ありました。ソーン博士が来て数日経った頃だと思います」
「来て数日だと!?」
ソーンはアークの防衛装置開発を依頼されてからたった数日で保安長官レベルが決済するまで書類を揃えて企画書と設計図を引いたと言うのか。
「バカな…そんなに早く」
ニケになったからと言って頭が良くなるわけではない。それもシャンブロレベルの化物をそんな短期間で企画し終えるなど…やはりソーンは化物だ。
「貴方の落ち度でしかありませんでしたな。保安長官殿」
「ひっ!」
「貴様か…いつの間に」
いつの間にか椅子に座っていたガスマスクのニケは愉快そうに爪を研いでいた。
「用件は?早く言え」
「おやおや冷たいですな」
「お前といるとイライラするんだ。用件を済ませろ、お前だって俺といるのは嫌だろう」
「そうですね。保安長官殿の指示通りに部隊の編成は完了しました。後は実行に移すだけです」
終始イライラしていた保安長官は少しだけ落ち着くと秘書の出したコーヒーを飲む。
「まもなく封鎖作戦が始まる。その最終段階の為にお前たちを造ったのだ。しくじるなよ」
「気は進みませんがその為のリブラ部隊です。まさかこの計画のために先行量産された第3世代ニケすら投入するとは…」
「失敗は許されない。分かっているな…パリス」
「その為のリブラ部隊です」
ーーーー
「ソーン様、こちらを」
「これは?」
上層部への説明会を終えて一息ついていたソーンはミアから渡された封筒を受けとる。
「目付きの悪いオールバックの方からソーン様に渡して欲しいと。中身は確認しましたが普通のものでした」
「…作戦報告書と私的な手紙?」
ほとんどが塗りつぶされていてなんの作戦か分からない。いったいこんなものを渡して自分に何を伝えたいのかと見ていると作戦の結果報告欄を凝視する。
震える手を押さえながら手紙を読むと今度は音がなるほどの握力で拳を握っていた。
「…ミア。今日は終わりだ」
「え、でもシャンブロの正式起動の企画書が…」
「ミア。頼む」
「分かりました」
ミアは恐る恐る部屋を出るとソーンは椅子から滑り落ち、床に寝そべる。
ソーンが呼んだ手紙にはレッドシューズが侵食研究に没頭しシンデレラが侵食されたこと、そしてレッドシューズが死に、エイブたちオールドテイルズが軌道エレベータで作戦を行い、行方不明な事が書かれていた。
それと同時に行われた何かしらの作戦においてリリーバイス少佐が戦死したとの報告書が黒塗りの報告書の正体だった。
その上、リリーバイスの戦死を知ったスノーホワイトと紅蓮が思考転換を起こしたと言うじゃないか。
スノーホワイトはリリーバイスを姉のように慕っていたから分かる。紅蓮も紅蓮で絶対的な強者が自分の知らないところで呆気なく死ぬなんて考えられなかったのだろう。
「ゴッデスも危ない…」
リリーバイス、レッドフードはゴッデスの精神的支柱だった。指揮官はどこにいるのか分からないが合流できていないのだろう。
まもなく最後の作戦、アーク封鎖を目的としたアークガーディアン作戦が実施される。
アーク、地上問わず、志願した全てのニケたちが最終防衛ラインで最後の作戦を遂行しようと動いている。
(行きたい…)
仲間…家族の元へと今すぐ行きたい。
自分が行けば状況が好転しないかもしれないがそれでも最期を迎えるならゴッデスの所で死にたい。そう強く願いながら衝動を必死に抑える。
だが自分自身が仮説通りなら彼女たちを傷つけてしまうかもしれないと思うと行けない。
登録の無いニケなんて存在する筈がない、そんなことは分かってる。これが転生特有のそんなものでないとしたら、ラプチャー擬きの自分が自身の末路なのだとしたら。
(怖い)
怖くてたまらない。
会えない…会いたいのに。
だから自分は自分の出来ることをしてアイツらを助けるしかないんだ。
ーー
「指揮官は居ないのか…」
「仕方ないよ。こんな過酷な作戦ニケしかできないからね!」
ウォーは志願して集まった仲間たちを眺めながら明るく振る舞うサンを見る。
「弾は腐るほどあるからね!撃ち放題だ!」
「ニア、弾は有限なんだよ。マシンガン二丁持ちしたら終わったあとで指揮官に言ってやるから」
「や、やめてよヤオ。あれマジで怖かったんだから」
携帯ゲームをしながら警告するヤオに着いてきていたのは新人のプロダクト23は辺りを見渡していた。
「あ、あの。ゴッデスの皆さんはどこなんでしょう?」
「分からないが小隊長が集まる会議には居るんじゃないか?」
「ゴッデスかぁ…。まさかグレイゴーストが今ではゴッデスだもんなぁ」
「私、まだ串刺しにされたの夢に見る…」
サンはお腹を擦ると苦虫を噛み潰したような顔をする。
「会ったら文句の一つでも言ってやろう。着いてくるかピナ?」
「はい!」
ウォーの言葉に新人のピナは元気良く頷くのだった。