軌道エレベーター攻略作戦から2ヶ月後、221回と言う膨大な数の襲撃を退けているが状況的には厳しいと言わざる得なかった。
ヘレティック、アナキオールことシンデレラの攻撃も苛烈であり、3日ほど前に新規製造されたバクゥ第3小隊が接触、アークへ避難中だった民間人数名の生存と引き換えに全滅した。
そんな情勢下の中、ソーンはリリーバイスと2人で部屋に居た。
「どうだった?」
「体は完璧だ。俺も素人じゃない…だけどやっぱり脳かな…」
「どれくらい動けると思う?」
「状況だけ見ればいつ止まってもおかしくない。気持ちの問題だろうな」
リリーバイスのカルテに目を通し終わるとその場で焼き、灰皿に置く。全て頭の中に入っている、人類側にこの情報を渡すわけにはいかなかった。
「その強さは、本来補助されるべき様々な機能を人間の脳に無理やりやらせているからだ。ニケの身体に適合した上でリリスと同じ適正を持つ脳を持った人間が存在するのか…」
適合したリリーバイスと言えどもデメリットが無いわけではない。本来より大幅に脳が動かされているせいで劣化が酷い。よく何年も動けるなと感心するほどだ。
「アークが完成するまで持てば良いわ」
「後継者が居ないな…」
「ドロシーに任せようと思ってるけど不満?」
「いや、ドロシーでも大丈夫だろうがアイツはプライドが高すぎる。…レッドフードが居れば問題なかったのにな…なんだ?」
ソーンの言葉に微笑むリリーバイスは嬉しそうに話す。
「やっぱり貴方は優しいわね」
「俺をバケモノとでも?」
「そう思っている人は多いでしょうね。まぁ、レッドフードが抜けたのは本当に大きな損失よ。でもそれが現実、私たちは現実をずっと直視させられてきた。でも大丈夫、ゴッデスは強いわ」
制服を整えて笑みを浮かべるリリーバイスの笑顔はいつも通りの明るい笑顔だった。
ーー
「俺も?」
後日、ブリーフィングルームに集まったゴッデス部隊は指揮官とリリーバイスが一時、前線を離れることになった。
指揮権を持つ2人だけならまだ納得するがソーンにもお呼びがかかっていることに疑問を浮かべる。
「移住を進めているアークは現在も建造中で技術者が圧倒的に足りないそうだ。君ほど有能な技術者も少ない、正当な要請に聞こえる…が」
「上層部はソーンに固執してる印象があるから判断は貴方に任せることにしたの。情けない話、私たちでは判断がつかなくて」
ソーンは腕を組み、考える。
「隊長代理はどう思う?」
「そうですね。正直、2人が抜けるのは痛いですが不可能と言うわけではありません。それよりはこのガーディアン作戦を1日でも早く終わらせられた方がありがたいですね」
「わ、私も同意します。ソーンはとても頭が良いですから」
「君ならば些細な陰謀程度なら大丈夫だろう。我々があるところまでいつでも戻ってきておいでよ」
「このまま会えないわけでもありません。ソーンが輝ける場所に向かってください。ここは我々が死守します」
ドロシーを初め、全員が同意するのを確認するとソーンも頷く。
「人類存亡の危機だしな。強行手段は取らんだろう…分かった。それが皆のためになるのなら俺も行くよ」
こうして指揮官、リリーバイス、ソーンは前線を一時、離れることになった。これが最後だと知らずに。
ーー
その後、移動し指揮官とリリーバイスと別れたソーンは地下エレベーターを使ってアークへとやってきた。
「ソーン様、残存ゴッデス部隊がアナキオールと接触。アナキオールは機能停止したそうです」
「そうか…シンデレラが……」
このタイミングで連絡が来たと言うことは自分達が離れた瞬間に最大戦力であるシンデレラを投入してきたと言うことだ。
人間側の情報は完全に筒抜けだと言うことだろうがラプチャーに与する人間がこの世に居るのだろうか。
人間の言語を理解できるラプチャーが必要になると思うが。
本当なら自分の手でシンデレラを仕留めてやりたかったがゴッデスにやられたと言うのなら彼女も本望だろう。
「ソーン様?」
「いや!なんでもない、それでアークの状況は?」
「避難民の収容状況は30%と言ったところです。既に都市運営に必要な各種施設は稼働を開始、人類連合…ではなく中央政府並びにメインとなる三大企業の移住はほぼ終えております」
アーク運営に欠かせない人員は既に移動済みな訳か。
残酷なことだがこればかりは優先的に移住させられるのは仕方の無いことだろう。
これからアークと言う牢獄に入れるのは全人類の約0.123%だ。これが人類の現実だ。
「ソーン様はアーク守護の要である防壁ともし侵入を許した場合の迎撃装置の設置がメインになります」
「責任重大だな」
「防壁のデータはこちらです。ソーン様には迎撃装置をメインにしていただきますが可能ならば防壁もお願いします」
「分かった」
指揮官たちと分かれてから付き添いとしてずっとついてきている女性技術士官ミアはソーンのことを様呼びしているおかげで若干居心地が悪かった。
「よろしくお願いします!」
目をキラキラさせながらこちらを見上げる彼女の視線を感じながらアークを見下ろすのだった。