藤田医科大が学費を800万円値下げ 医学部受験生への影響は?

2025/11/10

■話題・トレンド

私立医科大学で学費を大幅値下げする動きが続いています。藤田医科大学(愛知県豊明市)は、2026年度入試から医学部の学費を6年間総額で2152万円(現行2980万円)に値下げすることを決めました。約800万円という大幅な減額が話題になっています。08年に順天堂大学が学費を約900万円下げたことで、志願者が増えて、偏差値も上がったという動きがありました。学費の値下げは、学生集めや大学の改革にどのような影響を与えるのでしょうか。岩田仲生学長に聞きました。(写真=藤田医科大学提供)

大学の生き残りをかけ、学費減額

2026年度入学者から学費を大幅に減額する藤田医科大学の6年間の学費(2152万円)は国際医療福祉大学、順天堂大学、関西医科大学に続き、私立大学医学部では全国4番目に低い額になります(医系専門予備校メディカルラボ調べ)。

6年間の学費が安い私立大学医学部ランキング(1位~10位)

医系専門予備校メディカルラボの資料と各大学HPを参考に編集部で作成(2025年7月現在)

藤田医科大学の岩田仲生学長は、「学費の大幅値下げは大学の生き残りをかけたプロジェクトの一環」と話します。

岩田学長によると、第2次世界大戦以前の医学部の数は、帝国大学7校と官立医科大学6校の計13校に加え、京都府立医科大学、慶應義塾大学医学部、東京慈恵会医科大学、日本医科大学の4校を合わせた計17校でした。この頃の日本の人口は約7000万人でした。

戦後は人口が急増し、1961年に国民皆保険がスタートしたことで、政府は医学部の設置を要請しました。医学部は増え、現在では82校にのぼります。藤田医科大学も戦後にできた大学の一つです。

しかし、日本の人口は2008年をピークに減り続けています。
「100年後には人口が今の3分の1になるという試算もあります。その頃に必要とされる医学部の数は4分の1くらいになっていてもおかしくありません。そうなっても私たちは社会や国民から『そこにあり続けてほしい』と言われる、価値のある大学にしたいのです」

6年間の学費が安い私立大学医学部ランキング(11位~20位)

医系専門予備校メディカルラボの資料と各大学HPを参考に編集部で作成(2025年7月現在)

順天堂大学が成功した理由

価値のある大学として選ばれるためには、まず「大学の使命である『知』を生み出すこと」と岩田学長は言います。
「具体的には『研究力』があることです。同時に優れた診療技術を持つ医師を増やし、大学附属病院や分院の臨床レベルを上げることも大事です。そのためには優秀な人材が必要であり、学費を下げることで志願者を増やし、これを実現したいと考えています

藤田医科大学病院(写真=藤田医科大学提供)

また、医学部の高額な学費は、家庭への負担が大きいこともあります。

「私見ですが、6年間の学費が3500万円を超えると、入学できる学生は限定されます。3000万円くらいだと無理をすれば入れる学生が出てきます。これが今の本学の学費です。しかし、そのためにアルバイトが忙しく、勉強ができなくなってしまうなど、つらそうな学生を何人も見てきました。人の命を扱う医師という仕事に就くためには、学業に専念できる環境が必要であり、そのためにはもっと学費を下げる必要があると考えました」

学費の値下げに対しては、学内で反対もありました。
「今までよりも学生納付金が約10億円減るのですから、当然です。でも、ざっくり言えば、優秀な人材が集まって力を合わせればその金額分をフォローできるだろうということになり、最終的に執行部の意見が一致しました」

岩田学長は学費減額の成功例として、順天堂大学を挙げます。同大学は08年に6年間の学費を約900万円値下げしました。その結果、志願者が大幅に増え、偏差値が右肩上がりに伸び、現在では受験生の人気、難度ともに慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学の「私立医学部御三家」と肩を並べるようになっています。

「今の順天堂大学は研究のレベルはもちろん、患者さんを診療する臨床のレベルが非常に高いことで知られています。多くの分院があり、病床数は3000床以上と国内トップです。病床数が多く、稼働率が高いと、病院の収益は安定し、大学経営が安定するという好循環が生まれます」

実際、私立大学を経営する全国543法人のうち、約半数の253法人が24年度決算で赤字でしたが、順天堂大学は売上高が2114億8300万円でトップになっています(東京商工リサーチ調べ)。

学費値下げは順天堂大学だけでなく、近年では関西医科大学が23年度入学生から学費を大幅に引き下げ、6年間で計2100万円(引き下げ前は2770万円)にしています。この結果、志願者数は急増し、偏差値も上昇しました。

6年間の学費が安い私立大学医学部ランキング(21位~31位)

医系専門予備校メディカルラボの資料と各大学HPを参考に編集部で作成(2025年7月現在)

この10年で研究力を強化

藤田医科大学は、学費の減額に先だって、10年ほど前から研究力を上げる努力を続けてきました。そうした結果、同大学は優れた基礎研究の成果を革新的な医薬品・医療機器などとして国民に提供することを目指した、文部科学省の「橋渡し研究支援機関」に認定されています(24年)。現在、認定されている大学は全国11校で、私立大学は慶應義塾大学と藤田医科大学のみです。

また、文部科学省と日本学術振興会の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」には、「世界トップレベルの精神・神経病態研究拠点を形成し、唯一無二のアカデミア創薬エコシステムを確立する」という提案が採択され、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医学系研究支援プログラム(総合型)」にも採択されています。

「国際卓越研究大学への支援と並行し、国の大型大学支援事業が実施されています。この研究がこれから本格的に始まりますが、ここに投入する優秀な人材が必要であることも、学費を大幅に下げた理由です」(岩田学長)

大学の価値を高めるために、医学部の教育カリキュラムも、「この10年で大きく変えた」と言います。
「特徴的なのは入学後、すぐに解剖学や生理学などの医学部専門科目がスタートすること。多くの大学では2年次に行う『解剖実習』は1年後期に実施します。その分、1年次の教養科目はほぼなくしました。医師としての教育を徹底し、優秀な医師を育てます」

一方、研究志向の学生は、1年次から各研究室のSA(スチューデント・アシスタント)に登録することができます。文部科学省の「高度医療人材養成拠点形成事業(高度な臨床・研究能力を有する医師養成促進支援)」によるシステムで、研究の時間は賃金が払われ、授業に出席しなくてもいいことになっています。
現在、各学年20人ほどが登録していますが、すでに論文を発表している学生もたくさんおり、将来は研究者として世界に羽ばたいてくれることを期待しています」(岩田学長)

受験生への影響は?

藤田医科大学の学費値下げは、26年度の医学部入試にどのような影響を与えるのでしょうか。医系専門予備校メディカルラボ情報研究所の山本雄三所長は、次のように予測します。
「藤田医科大学はこれまでも全国から多くの受験生を集めてきましたが、東京や大阪にも試験会場を設置していることもあり、26年度はさらに大きく志願者が増えるでしょう。学費が下がったことで優秀な入学者が増え、偏差値が上がるのではないかと思います」

今後、私立大医学部の学費値下げラッシュで受験生の獲得競争が起こるかもしれません。受験生にとって大きな注目ポイントになりそうです。

 (表の見方)
医学部医学科における金額。施設設備費や教育拡充費などを含むが、寮費、委託徴収金、諸会費などは含まない。学納金のほか、諸経費が別途必要になる場合もある。☆防衛医科大学校は、学生の身分が特別職国家公務員となるため、毎月15万1300円 (2025年1月現在) の手当と年2回の賞与が支給される。公立大学の授業料は国立大学の標準額に準じているが、大学によって金額に差がある。いずれも変更になる場合があるので、詳細は受験する大学の募集要項などで確認すること。

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(文=狩生聖子)

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【表】6年間の学費が安い私立大学医学部ランキング(1位~10位)

医系専門予備校メディカルラボの資料と各大学HPを参考に編集部で作成(2025年7月現在)
医系専門予備校メディカルラボの資料と各大学HPを参考に編集部で作成(2025年7月現在)

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