Fallout archive   作:Rockjaw

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Stir up a hornet's nest
『スズメバチの巣をかき回す』
―――類義語『藪をつついて蛇を出す』


On the eve of War

【21:10】

 

「全く…テレビ局に持ち込むとは…。」

 

「一周回ってまともな方法をとってきたわね…。」

 

ネイトとの会談を終えた後、万魔殿議長執務室でマコトとサツキがそんな会話をしていた。

 

あの後、ハッとしたかのような声を上げて出たネイトの提案。

 

いつも奇想天外な戦術を多用する彼からしてみれば珍しくまともな方法を提案。

 

確かにテレビ局…それもキー局であるテレビD.U.ならば情報管理も徹底され実名を報道しないよう『報道協定』というものも存在している。

 

第一、ネイトの報道機関に対する苛烈さは知れたところ。

 

そんな彼、もといアビドスと比較的良好な関係を築けている状況をわざわざ壊すのは愚策もいいところだ。

 

「サツキ、テレビD.U.のニュース番組の放送はいつだ?」

 

「えぇっと…21:50よ、マコトちゃん。」

 

「そうか。ならば、その時を待つとしよう。」

 

そう言い、議長席にある豪華なイスに深く凭れ掛かるマコト。

 

現在、先の爆発…いや、爆撃事件を受けゲヘナは厳戒態勢をとっている。

 

万魔殿の主力部隊は元より風紀委員会も即応体制をとって有事に備えている。

 

ゲヘナ空軍に至っては全空軍基地にスクランブル態勢を発令されていた。

 

現状、狙われているのはネイトのみだがあまりにも何もなければかえって怪しまれる。

 

すると…

 

「ムニュウ…。」

 

執務室内のソファで眠そうに目を擦る寝間着姿のイブキ。

 

「あぁ、そうね…。もうイブキちゃんはお眠の時間だものね…。」

 

「こんな重大なことを任されたんだ…。よく頑張ってくれたよ…。」

 

そう、イブキはアリスから託されたネイトからのメッセージをしっかりと携えマコトたちに伝えてくれた。

 

真意は分からずとも友達の頼みを、そして懐いているネイトのためにやれる限りのことをやってくれた。

 

彼女のおかげでゲヘナはこれほどまで早く準備ができたのだ。

 

写真を届けた時はイブキは訳が分かっていなかったがホテル爆撃のニュースが駆け巡るとネイトのことが気が気でなかった。

 

その後、極秘会見の際にネイトの声を聞けて安心して緊張の糸が切れたのだろう。

 

「イブキちゃん、そろそろ寮に戻りましょうか?」

 

さすがにこのままここで眠らせるわけにもいかずサツキがそう伝えるも…

 

「ん~ん…サツキ先輩…。ネイトさんがまだ危ないから…イブキも起きてる…。」

 

船をこぎながらイブキはそう返す。

 

彼女なりにネイトを心配し自分にできることをやろうとしているのだろう。

 

「イブキ、奴なら心配いらない。さっきも元気な声を聞けただろう?」

 

「そうよ。大丈夫、ネイト社長ならきっと帰って来るわ。」

 

「でもぉ…。」

 

「ネイト社長が帰ってきたときに元気じゃなかったらイブキちゃんも嫌でしょう?だから、元気にあの人に会うために今はちゃんと休んでて。」

 

「安心しろ。我が万魔殿だけではない。セミナーにあのアビドスもついている。この布陣ならばどんな相手でも負けはしないさ。」

 

そんなイブキをマコトとサツキが頼もしい言葉で彼女を安心させ…

 

「分かったぁ…。ネイトさんをぉ…お願いね、先輩達…。」

 

「あぁ、任せろ。おぉい、誰か!イブキを寮まで送ってやってくれ!」

 

マコトの声で万魔殿の職員が入室しイブキを抱えて退室していった。

 

「フフッ恋する乙女はなんとやら…ね?」

 

「なっ何を馬鹿なことを言っている?!イブキはまだそんな大人の階段を上ってなどいない!!!」

 

「フフッ、そうね。さぁ、起きた後にイブキちゃんに喜んでもらえるように私達も頑張りましょう。」

 

残された先輩二人は彼女の想いを護るために動くのであった。

 

…油断していたつもりは一切ない。

 

マコトもサツキも防諜に関しても殊更気を使っていた。

 

ネイトの生存に関する情報を知るのは二人とイブキだけだった。

 

二人が予想できていなかったのは…

 

「ムニュウ…。」

 

「…ごめんね、イブキちゃん。」

 

その根が彼女たちが想像を超えて深くひそかに入り込んでいたことであった。

 

後部座席で寝息を立てているイブキの胸からスマホを抜き取ったのは…万魔殿専属の運転手であった。

 

彼女は素早く静かにイブキの指を使いスマホのロックを解除。

 

イブキが慌てて万魔殿にやってきた後から首脳陣の動きは慌ただしくなった。

 

そして、あのD.U.での爆破テロの発生。

 

彼女の経験からすればあまりにも対応が早すぎた。

 

そして、その答えを…

 

「…っ!?」

 

彼女はモモトークから見つけたのだった。

 

【21:25】

 

爆破テロ発生後、サンクトゥムタワーにはD.U.にやって来ている召集された代表団たち。

 

そんな中、ナギサとチェリノは幹部たちが集まる部屋に通され…

 

「では…両校の協力に深く感謝いたします。」

 

「いえ、このような火急の事態に手を貸せるものが協力するのは当然のことですわ。」

 

「うむ!我が校に『利』があるのならば協力するのはやぶさかではないな!」

 

リンは彼女たちに頭を下げていた。

 

なにしろD.U.の歴史上でも類を見ない一大事が発生。

 

ヴァルキューレはもちろん防衛室も出動しているが人員はいくらあっても足りない。

 

そこで…

 

「では、トリニティは同行していた正義実現委員会の人員二個小隊60人と後方要員10名を支援に派遣いたします。」

 

「我がレッドウィンターは保安委員会の人員100人と機材をそちらに遣わそう!」

 

多数の人員と共にやってきたトリニティとレッドウィンターに支援要員の派遣を要請し、二校もそれに合意したのだ。

 

無論、無償でナギサとチェリノも合意したわけではない。

 

「ありがとうございます。では…トリニティには今後、安保理関連の学校間で発生したトラブル解決の仲介役を…。」

 

「感謝いたします、リン主席行政官。」

 

トリニティには後ろ盾として…

 

「レッドウィンターへは学区開発に関する資材の優先的支援を約束いたします。」

 

「うむ!これで少しは生徒たちの不満も減っておいらへの尊敬の念も生まれるだろう!」

 

レッドウィンターには開発支援という見返りを与えることでこの協力を連邦生徒会はえることが出来た。

 

席の一角、財務室長のアオイはこの後にかかる経費を計算しため息をつき額を抑えているが…背に腹は代えられない。

 

これでもこの騒動を早期に終着させられるのなら安い位だ。

 

最早この騒動はD.U.だけに留まらない。

 

「防衛室の不知火カヤです。さて…事態は急を要します。現在、情報ではゲヘナ・ミレニアム…そしてアビドスは厳戒体制に入っています。」

 

「D.U.とゲヘナの境界付近では万魔殿を筆頭とした機械化部隊の展開、航空機も発進準備をしたうえで滑走路で待機しているのを確認しました。」

 

「ミレニアムは地理的に離れていますので直接的な動きはありませんが通信量の増大を確認と航空隊が離陸し哨戒飛行を行っているそうです。

 

「そして…アビドス高校の情報は伝わってきていませんが…。」

 

「おそらくは…ゲヘナ以上の厳戒態勢と動員を行っていますわね…。」

 

トリニティ以外の三大校は元よりアビドスも有事の際にすぐに対応できるようにそれぞれの部隊を動かし始めている。

 

未だに問い合わせなどが無い事が逆に不気味だがむしろ連邦生徒会にとってはそれが幸運だった。

 

しかし、悠長にしてはいられない。

 

「ではさっそくですがトリニティとレッドウィンターに行ってもらう作業の説明を…。」

 

リンがそう言い、それぞれに役割を振り分けようとしたその時…

 

「失礼します!!!ナギサ様、急ぎお耳に入れたいことが!」

 

一人のティーパーティー所属の生徒が部屋に入り込み、

 

「………ッ!」

 

「~ッ!?」

 

ナギサに耳打ちで何かを伝え封筒を渡されると彼女の目が大きく見開かれた。

 

「何かありましたか、ナギサさん?」

 

「…オッホン、申し訳ありません。情報部より新たな情報が入りました。」

 

リンに尋ねられナギサは咳ばらいをし…

 

「…我がトリニティの情報部がやってくれました。」

 

彼女は封筒の中から…

 

「先ほど、確度の高い情報筋よりネイト氏が生存していることを証明する写真を入手することに成功しました…!」

 

『~ッ!?』

 

ネイトが時計と共に写っている写真を取り出し全員に見せつけた。

 

その時計の時刻は確かに爆発が発生した時間よりも数分後。

 

時計がずれていると言えばそれまでだが…ならばなぜこんな写真をわざわざ撮影したのだ?

 

それもそんなタイミングで?

 

「…ナギサさん、この情報の入手経路は…!?」

 

「申し訳ありませんが我が校の機密に該当します。ですが、確実な一次ソースからの入手で裏取りも出来たとのことです。」

 

ナギサのはきはきとした回答にリンは考える。

 

確かに、入手方法はよろしくなかったとはいえトリニティは初めてアビドスの防衛計画の情報の入手に成功していた。

 

実力は非常に高いということは言うまでもない。

 

こんな短時間で合成をやったのか?

 

だが、この場面でこんな合成写真を作るメリットは?

 

「…では私にだけで構いません。その裏取りの証拠を見せてもらえますか?」

 

一層の用心を兼ねてリンはそう要求する。

 

「…分かりました。」

 

ナギサも信用を得るためにこれを了承、封筒を持って近付き…

 

「こちらを…。」

 

その中に有った一枚の書類を差し出した。

 

「拝見します。」

 

リンがそれを見た途端、

 

「ッ!?」

 

目が見開かれる。

 

内容は…モモトークのスクリーンショットのような物。

 

同一のユーザーでおなじ人物との会話が数枚に渡って写されており…

 

(ミレニアムの天童アリス・マーティンさん…!)

 

最後にはネイトの愛娘であるアリスと所属しているゲーム開発部の部員たちの写真が添付されていた。

 

なるほど、これは非常に高い確度の情報だ。

 

我が子ならば自分の身の安全をいち早く伝えるというのも理にかなっている。

 

そして、このモモトークのユーザー名は…

 

(ゲヘナの万魔殿の議員、丹花イブキさん…!)

 

これまた身分がはっきりしている人物だ。

 

「…分かりました。ありがとうございます。本当にかなりの確度のある情報のようですね。」

 

「ご理解いただき感謝します。」

 

これにはリンも納得するしかない。

 

「よかった…!」

 

それを聞き、カンナもそっと胸をなでおろした。

 

どうやって抜け出したかは定かではないが…無事だったことに心から安堵した。

 

すると、

 

「ふむ、証拠は確かなようだが…それでどうするのだ?」

 

背後でチェリノがそう尋ねてきた。

 

ネイトの生存は分かったがそれをどう使うのかが問題だ。

 

要は公開するか、非公開のまま捜索を続けるかだ。

 

初めに声を上げたのは…

 

「…私は公開すべきでないと思うわ。」

 

「アオイ財務室長?」

 

ここまで沈黙を貫いてきたアオイだった。

 

「彼の生存は確かに住民には希望にはなるはず。でもまだ事件の真相もつかめていない状況で公開したら不要な混乱を生む可能性もあるわ。」

 

彼女はネイトの生存の公開で発生するメリットとデメリットを上げる。

 

対し、

 

「いえ、防衛室としてはだからこそ公開すべきだと考えます。」

 

カヤがその考えに異を唱える。

 

「現時点ですでにD.U.は混乱の坩堝です。このまま何の成果も伝えないままでは住民の不安は増すばかりでしょう。」

 

今はなんとしても混乱を少しでも収束させ、

 

「幸いと言ってはなんですが…今回の事件は前もって準備されていた爆破事件。いち早く彼を見つけ出せればこれ以上の被害拡大は防げるかと。」

 

事態終息を早めるためという意味でも公開する利点はあると述べる。

 

両者とも理解できる考えだ。

 

みるに他の委員たちも意見は半々のようだ。

 

「…分かりました。お二人の意見も十分に分かります。」

 

リンはそう言い…

 

「………ナギサさんはどうお思いですか?」

 

この情報を持ち込んだナギサに尋ねる。

 

「そうですわね…。」

 

ナギサは少々考え込み…

 

「………私は情報を広く開示すべき、そう考えます。」

 

静かにそう告げた。

 

「今、我々が行うべきは彼の身の安全の確保です。彼はキヴォトス外の人物、何かあれば一大事。…アビドスとの関係性は修復不可能になる可能性が大です。」

 

なにせ巻き込まれたのはアビドスの超重要人物であるネイトだ。

 

もし、このまま事態を静観していれば…元からアビドスと冷え切っている関係のトリニティと連邦生徒会に対する風当たりはどんどん悪くなるだろう。

 

ならば、広く彼の生存を知らしめて早く彼を保護するのが先決だ。

 

「………分かりました。」

 

ナギサの意見を聞き…

 

「では、連邦生徒会が名代となって記者会見を開きます。ナギサさん、先ほどの情報を発表していただけますか?」

 

リンはナギサにネイト生存の情報を報道することに決定し、

 

「ッ!ハイッ分かりましたっ!」

 

ナギサも晴れやかな表情で胸を張りながら了承するのであった。

「………へぇ、外の人間なのに結構やるじゃんね。」

【21:53】

 

「先程、我がトリニティの情報部が…ネイト社長の生存を確認しました。」

 

そして、場面が前回の最後へとつながる。

 

あの後、リンは直ちに連邦生徒会に配属されている番記者たちを呼び寄せた。

 

そして、急遽発表を任されたナギサもさすがはティーパーティーと言ったところか。

 

多数の記者を前にして堂々とした会見を開いている。

 

そんな彼女から発せられてた情報に記者たちは騒めく中…

 

「そして、こちらが…ネイト社長の生存を証明する情報部が入手した写真になります。」

 

ナギサは背後のモニターに入手したあの写真を映し出す。

 

「なっ…あの爆発を逃げ延びたんですか…!?」

 

「信じられない…!一体どうやってあの高層ホテルから…!?」

 

「トリニティの情報部…!我々以上の情報収集能力を持っているのか…!?」

 

自分たちですら入手できなかった情報を開示されどよめきが起こる報道陣。

 

「我が校の機密に触れますので詳細は控えさせていただきますが同情報源から確証を得られる情報も得られネイト社長の生存はほぼ確実とみられます。」

 

それを聞き、若干得意げな表情を浮かべ…

 

「トリニティ総合学園、レッドウィンター連邦学園は連邦生徒会と協力し…。」

 

D.U.に集う有力校が捜査に協力すると伝え…

 

「つきましては彼の保護に全力で当たるとともに…協力してくださった方には褒賞をトリニティから差し上げさせていただきます。」

 

協力者への報償を約束するのであった。

 

《つきましては彼の保護に全力で当たるとともに…協力してくださった方には褒賞を…。》

 

この会見映像は瞬く間にキヴォトス中を駆け巡り…

 

「はぁッ!!?どうしてっ!?何であの写真を!!?」

 

「~ッ!!?イブキッ!!!すぐにイブキの安全を確認させろッ!!!」

 

ゲヘナとミレニアム、真相究明に励んでいた各首脳陣はこのトリニティの暴挙に驚愕と怒りをにじませ…

 

「…航空隊に出撃準備。それからセタス部隊全員に召集をかけて。」

 

アビドスを任されているホシノは…髪を結いその目を剃刀のように鋭くしていた。

 

そして…

 

「やってくれたな、トリニティ…!!!」

 

潜伏中のモーテルにいるネイトは怒りの形相を浮かべていた。

 

これで…ネイトが想定していた事態沈静化は不可能…いや、より一層事態は悪くなった。

 

前述の通り、あの動画は『爆薬』級の威力を誇る物だ。

 

使用には細心の注意とタイミングの見極めが必須だ。

 

…それをトリニティはあろうことか『ネイトの生存』と『擬似的な賞金首』というさらなる『爆弾』を用いてきた。

 

それも事態沈静化のために準備していたあの『爆弾』を誘爆させる程の。

 

火は…より一層大きくなってしまった。

 

もう今のままでの『鎮火は』不可能と言っていいだろう。

 

「………上等だ、やってやるよ…!」

 

そして、そう呟くネイトの表情は…

 

「お前たちに…『アンカレッジ流』を見せてやる…!」

 

『ブリザード』に『殺意』を込めたかのような冷酷な表情に切り替わった。

 

【22:10】

 

「お疲れさまでした、ナギサさん。」

 

「いえ、これくらい大したことはありません。」

 

会見を終え、リンはナギサの労をねぎらっていた。

 

「これでネイト社長が発見されるのも時間の問題。このままいけば事態の終息もすぐかと思います。」

 

「はい、一時はどうなるかと思いましたがあとは爆破テロの真相を明らかにすれば…。」

 

二人は決着は間近だと思っていた。

 

今や、このD.U.に住まう多くの住民が自分たちの力となってくれているだろう。

 

いかにあのネイトでも発見は時間の問題だろう。

 

…そう、彼女たちは知らなかった。

 

「しっ失礼します!!!」

 

「何事ですか?」

 

それは一人の連邦生徒会職員が駆け込んできたことにより発覚した。

 

「げ、現在テレビD.U.がこのような報道を!」

 

職員が手渡したタブレットにはニュース番組が再生されていた。

 

《では、こちらの映像に映っているミサイルについてご説明ください。》

 

《えぇ、こちらを見てください。》

 

それは急遽放送時間が延長されていたニュース番組だった。

 

《こちらが以前、『アビドス独立戦争』時に撮影されたW.G.T.C.が用いた巡航ミサイルの画像です。これでもキヴォトスに存在する従来のミサイルとはケタ違いの性能を有していましたが…。》

 

おそらくテレビD.U.が呼んだ軍事評論家のオートマタが画像を交え説明し…

 

《そしてこれが…先ほど視聴者より提供された映像を改ざんの余地が無いようにデジタル解析されている様子を録画した映像です。》

 

映像の静止画を拡大しわずかな陰影を浮き彫りにしていく作業工程が映し出され…

 

《これが…今回のホテルニューオトワ爆破…いいえ、爆撃に用いられたミサイルの形状です。》

 

「え…?」

 

「ば…く…げき…?」

 

軍事評論家の言葉でリンとナギサは固まった。

 

《私はこの分野には詳しくないのですが…確かに形状が違いますね。》

 

言葉を失うナギサとリンの様子など知る由もなくニュースキャスターは進行していく。

 

《今回用いられたのは従来の円柱型ではなく全体のフォルムに面を多用しています。おそらくステルス性の確保のためでしょう。その証拠に巡航ミサイル特有の主翼も非常に小型です。》

 

軍事評論家はミサイルの形状の差異、

 

《そして弾体上部に大型の空気取り入れ口。これも一般的にはみられない配置でおそらく推進部はターボファンではなくジェット…それも強力なラムジェットエンジンが搭載されていると推測されます。速度も計測の結果、超音速に達していることからほぼ間違いないでしょう。》

 

そのエンジンに至るまで詳細な分析を語っていく。

 

《つまり…どこの学校が配備もしていないような…それもレーダーに映らずとても速いミサイルが用いられた…ということなのですか?》

 

《この兵器がそこら中に普及しているキヴォトスで長年その兵器達の解析を行ってきましたが…このようなオーバースペックの兵器を用いている学校も組織も…私の記憶にはありません…。》

 

《ありがとうございます。お知らせの後は引き続き、番組を変更しホテルニューオトワ爆撃事件についてお伝えしていきます。》

 

キャスターはそうお辞儀をしCMに切り替わった。

 

「ば…爆撃…?爆破テロでは…なくて…?」

 

「ミサイル…?!防衛室からは何の報告も…!?」

 

ようやくナギサとリンは言葉を発せたものの現実を受け止められない様子だった。

 

あの映像が真実ならば…この事件はまるで様相を変える。

 

D.U.の中枢に人知れずミサイルが叩き込まれた。

 

爆破テロとは比べ物にならない異常事態である。

 

つまり、

 

「ま、まだ…あんな被害が起こりかねない…ということですか…!?」

 

ミサイルさえ用意していればどこであってもその脅威が襲い掛かるということだ。

 

このサンクトゥムタワーであっても…安全と言える保障はない。

 

「ぼ、防衛室に至急非常警戒態勢をとるように伝達を…!」

 

リンもこれには血相欠いて職員に指示を飛ばすが…

 

「失礼します!主席行政官、ゲヘナ・ミレニアムが先ほどの記者会見について説明を要求すると通達が来ています!!!」

 

「アビドスも同様の要求とD.U.への部隊派遣の通達が来ました!!!」

 

「なっ…!?」

 

影ながらこの事件の終息に努めていた各校の怒りの声が怒涛のように押し寄せる。

 

そして…自分たちが引き入れ極北の勢力も動き始めた。

 

同時刻、D.U.セントラル空港。

 

「オーライッ!!!オーライッ!!!」

 

キヴォトス屈指の巨大空港に鎮座する巨人機『An-124』。

 

その周辺がにわかに活気に満ち始めていた。

 

歩兵一個大隊が丸々は入るような貨物デッキのハッチが開き、そこから…

 

ゴゴゴゴゴ…ッ!

 

鋼鉄の猛獣が唸りを上げて地面に降り立った。

 

『T-54B』、性能ではゲヘナのティーガーⅠを凌駕する世界で最も製造された『主力戦車』だ。

 

キヴォトス内でこれ以上の性能の戦車となると…アビドスのM1A4E2 Thumperしか存在しないだろう。

 

その後ろからはまるで軍事パレードのような一糸乱れない歩みで多くのレッドウィンター生徒が降り立ち整列していく。

 

「マリナ委員長!『粛清君1号』の発進準備が整いました!」

 

彼女たちの代表であろう、戦車帽をかぶった生徒が一人の生徒の前に立ち敬礼の姿勢をとって報告する。

 

「よろしい。…では、チェリノ会長からのお言葉を伝える!」

 

自信満々に答える純白のレッドウィンターの事務局に所属することを意味する純白と赤で彩られた制服を纏うりりしい生徒が全員の前に立ち声を張り上げる。

 

『池倉マリナ』、レッドウィンター事務局が保有する治安維持部隊『保安委員会』の委員長だ。

 

「『ラフィアンの確保を成就させればレッドウィンターの発展は揺るぎないものになるだろう!この作戦に参加するすべての同志の活躍を大いに期待し吉報を待つ』、とのことだ!!!いいか、この作戦は同志書記長の悲願でもある!!!かならずアビドスのラフィアンを『討ち取り』書記長に褒めてもらおうではないか!!!」

 

マリナの訓示を聞き、

 

「Есть!」

 

レッドウィンター生徒たちは敬礼の姿勢をとった。

 

すると、

 

「む?同志、あの二人はどこだ?」

 

マリナは近くの生徒に尋ねる。

 

「はっ!現在は隔離設備に拘束しております!」

 

「何をやっている!?出し惜しみはなしだ!すぐに連れて来い!」

 

「да!!!」

 

マリナの指示を受け、生徒の一人が貨物室内に戻っていく。

 

An-124貨物室の奥、戦車すら余裕で運搬可能なほど広大なそこには不釣り合いな…まるで金庫のような物体が鎮座していた。

 

その内部では…

 

「なんだか騒がしいな、姉ちゃん。」

 

「………。」モグモグ…

 

「なんかあったのかな?」

 

「………。」モグモグ…

 

「アタシら何時までここに閉じ込められてんのかな?」

 

「………。」モグモグ…

 

「早く帰って『シグ姉』のカンポット飲みてぇなぁ…。」

 

「………。」モグモグ…

 

「…なぁ、姉ちゃんったら!」

 

おそらく姉妹と思われる二人の生徒が閉じ込められていた。

 

妹と思われる女子高生離れした筋肉を持つ女子生徒が物静かな姉の方を見ると…

 

「ってあぁー!何一人で食べてんだよ、姉ちゃん!?」

 

黒に白い三本のストライプが入ったジャージを着てベンチに横になっている姉は何やら黙々と食べていた。

 

そして、二人が姉妹であることを証明するように獣の耳と尻尾…大型のイタチ科の生物『クズリ』の者と思われる部位が生えていた。

 

「…『チェリョンカ』、事務局の奴らの懐から何枚かガメといた。」

 

「ずっりぃー!アタシにゃねぇのかよ!?」

 

「…分かったよ。最後の一枚くれてやるから静かにしてろ、『サイナ』。」

 

『サイナ』と呼ばれた妹を大人しくさせるためかポケットからチェリノの顔が描かれたパッケージの板チョコ『チェリョンカ』を取り出し彼女に投げ渡す。

 

「へっへっへっ!あんがと、『カイア』姉ちゃん!」

 

『サイナ』に礼を言われ…

 

「ハイハイ、どういたしまして。」

 

姉『カイア』は残りひとかけらのチェリョンカを頬張りそっぽを向いた。

 

その時、二人が閉じ込められている空間の扉のロックが解除され、

 

「出ろ、『柊』姉妹!仕事の時間だ!」

 

事務局の生徒が二人を外に出そうとする。

 

「…チェ、今からいいとこなのによ!」

 

あと一歩のところでチェリョンカを食べられそうだった所を邪魔され不機嫌になるサイナ、

 

「めんどい、明日でいいか?」

 

カイアは面倒くさがっているのかふて寝しようとする。

 

たったそれだけなのに…二人からかなりの気迫が発せられた。

 

「…っ!いっいいから来い!チェリノ書記長からの恩赦を無碍にする気か!?」

 

一瞬気圧されるも踏みとどまって再度二人に命じる生徒。

 

「…チィッ。行くぞ、サイナ。」

 

舌打ちしカイアは重い腰を持ち上げた。

 

「えぇ~…。」

 

「外に出りゃその安物のチョコよりも旨いのが手に入るかも知れねぇ。それに…227号の連中に迷惑はかけられねぇ。」

 

「…はぁ~あ、仕方ないなぁ…。」

 

姉が動き始めたので妹のサイナもため息をつきながら外に出た。

 

そして、それぞれが戦闘準備を行う。

 

キヴォトス人には珍しい高い防弾性を誇るボディアーマーを纏い、

 

「へっへっへっ久々だなぁ…!」

 

サイナは牙をむいた猛獣のトライバルペイントが施された分厚い鋼鉄製の溶接マスクを頭にかぶりスレッジハンマーを背負う。

 

そして手にはドラムマガジンが装着されフルオート改造が施された『Saiga-12K』、銘を『グルービー』を携える。

 

「ったく、チビは人使いが荒い…。」

 

カイアは鋼鉄製防弾ヘルメットに同材質のフェイスシールドが装着された『Maska-1SCh』のブラック塗装に白いストライプが刻まれた特注品を頭に装着する

 

そして、こちらもドラムマガジンが装着された分隊支援火器『RPK-16』、銘を『ムシチェーニイェ』を背負った。

 

…レッドウィンターにはこのようなアネクドートがある。

 

『レッドウィンターの広報に生徒会長を聞いてもその都度変わるが、レッドウィンター『最強』を尋ねると必ず同じ回答が返ってくる』、と。

 

かつて、レッドウィンター史に残る2つの大事件があった。

 

2年前、キヴォトス全土で行われる体育祭『晄輪大祭』で1年生ながらMVP確実と目されていた生徒がいた。

 

しかし、その直前で会場に向かうための飛行機がヘルメット団によって占拠されその生徒の出場は叶わなかった。

 

そのことに憤怒したその生徒はその事件に関わったヘルメット団を一人残らず打ちのめした。

 

騒動の鎮圧のために派遣された保安委員会の生徒にも戦利品の防弾ヘルメットを被って手あたり次第に襲い掛かり…数百名近い負傷者を出しその事件は終息した。

 

『血の初雪』、のちにこの事件はそう言われた。

 

その生徒は情状酌量の余地はあったものの停学処分を下され『227号特別クラス』に編入された。

 

…しかし、この事件はこれでは終わらない。

 

その生徒には歳が二つ離れた妹がいた。

 

この事件で叩きのめされたヘルメット団残党は復讐の機会をうかがっていた。

 

そして…その妹がレッドウィンターに入学して間もなく…大挙して彼女を襲撃。

 

だが…これも悲惨な最期を迎えた。

 

廃工場で襲い掛かられた彼女は残されていた溶接マスクを被りスレッジハンマーで襲い掛かってきたヘルメット団を容赦なく叩きのめした。

 

幾ら弾丸を浴びようと流血しようと彼女は止まらずレッドウィンターの『ヘルメット団は今度こそ壊滅した。

 

余りの暴れようにその妹も姉が学級委員長を務める『227号特別クラス』に編入させられた。

 

そして、この事件は『血の残雪』事件と呼ばれることになる。

 

その後、二人はこう呼ばれるようになった。

 

Окровавленный падуб血染めの柊』と。

 

『柊カイア』と『柊サイナ』、レッドウィンターで『最強』の称号を与えられた姉妹である。

 

こうして…D.U.に戦火の熾火がくすぶり始めた。

 

正に…『Warfare』。

 

D.U.…いや、キヴォトス全体を巻き込みかねない騒乱の夜はまだ始まったばかりである。

 

そして、その戦火の発火は…

 

「…よし。」

 

モーテルの部屋で愛用の銃器『M4』や各種装備を準備していたネイトの元で…

【挿絵表示】

 

コンコンッ

 

「ネイトさ~ん、お迎えに上がりましたよ~。」

 

炸裂するのであった。




オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
差分
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 カイア
フルネーム ひいらぎカイア
役割 STRIKER
ポジション FRONT
武器種 MG:RPK16『ムシチェーニイェ』(意味:復讐)
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 貫通
防御タイプ 重装備
学園 レッドウィンター連邦学園3年生
部活 227号特別クラス
年齢 17歳
誕生日 1月22日
身長 163cm
趣味 トレッキング、日曜大工

オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
差分
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 サイナ
フルネーム ひいらぎサイナ
役割 STRIKER
ポジション FRONT
武器種 SG:Saiga-12K『グルービー』(意味:乱暴)
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 爆発
防御タイプ 重装備
学園 レッドウィンター連邦学園1年生
部活 227号特別クラス
年齢 15歳
誕生日 9月1日
身長 169cm
趣味 ハンマートレーニング、解体作業


元ネタは…お分かりですね?
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