コロシアムの鳥
翌日、お姉さんのお姉さん主体で、海での狩りに行く事になりましたな。
お義父さん達の底上げに海での狩りは適しておりますからな。
水中用の盾を得るのが目的でもある様ですぞ。
「俺はどうするべきですかな?」
「当面の資金稼ぎと素材集めをしていろ。後は……お前が登録したフィロリアルが孵化したら育てておけ」
「わかりましたですぞー!」
ついにフィロリアル様育成の許可を頂いたので、みんなが孵るのを待つばかりですな。
ああ、今から楽しみで楽しみでしょうがないですぞ。
夢がいっぱい……心が弾みますな!
「良いんですか?」
「無尽蔵に買っては育てる、なんて事をしそうだから先に注意はしてある。フィーロの例を参考にすると、どいつも大食漢に育ちそうだからな」
「賑やかになりそうねー」
「ねーごしゅじんさまー今日はどこに行くの? 槍の人は来ないんだよね?」
むむ? フィーロたんが俺の事を心配しておいでですな。
なんとも嬉しい展開ですぞ。
「安心してください、フィーロたん。後で必ず駆けつけますぞ!」
「くるなー!」
今日もフィーロたんは元気ですな!
俺もフィーロたんを見習って元気いっぱい、今という時間を精一杯生きますぞ!
そんなこんなで俺達のゼルトブルでの日々は始まったのですぞ。
どうにか確保したコウを初め、ルナちゃん等の育成を併用しつつ、最初の一週間はお義父さんの指示で環境作りに終始しました。
ここはゼルトブルですからな。
そう言えば錬や樹っぽい連中を見かけましたな。
時期的には来ているのかもしれません。
どうせ帰りはポータルで一瞬ですし、まだまだメルロマルクで活動する予定なのは分かっていますから干渉しなければ勝手に帰って行くでしょう。
そして、お義父さんとお姉さんのお姉さんが居れば生活基盤を固める事はそんなに難しい事では無い様子ですぞ。
手始めにお義父さんは稼いだ物資を買い取り商人に売り付けてコネクションを獲得した様ですぞ。
ゼルトブル内の町はずれに家を借りてきましたな。
俺のポータルでどこでも行けると言っても、しばらくはここを拠点に生活するとの話ですぞ。
人数が増えると宿代が高く付くからとお義父さんは仰っていましたな。
そしてお姉さんのお姉さんがサルベージ業で宝をそこそこ見つけて資本を獲得、その金銭でフィーロたんは馬車を購入してもらってご機嫌でしたな。
お姉さんもゼルトブルでの生活に馴れてきたのか、メルロマルクに居る時とは異なり、バンダナ等を頭に巻いてお姉さんのお姉さんのお手伝いをしている様ですぞ。
他にフィーロたんと一緒に行商ですな。
ゼルトブルはメルロマルクよりも国土自体は小さいので物理的な行商ルートは少なめですぞ。
むしろ国外に行くルートの方が圧倒的に多いですな。
「んー……ラフー、コウを撫でてー」
「はいはい。コウさんは甘えん坊さんですね」
「えへへー」
フィロリアルキングになったコウはお姉さんによく甘える子になりましたな。
今みたいにお姉さんの周りにいる事が多いですぞ。
「元康が育てたコウはラフタリアと仲が良いな」
「う、うん……」
コウはお義父さんに対して何やら緊張している様ですぞ。
お義父さんもそんなコウを見て、何やら楽しげですな。
俺もなんだか楽しくなってきました。
「ちゃんと分別が付く分、フィーロよりも扱いやすそうだな」
「えー! フィーロの方が役に立つもん!」
「その態度が既にな」
何やらお義父さんとフィーロたんが楽しげにお話ししていますぞ。
俺も混ぜて欲しいですぞー!
「む!? 槍の人が近づいて来る!」
フィーロたんは俺が近づくとお義父さんの影に隠れるようになってしまっています。
ああ、ご無体な……ですぞ。
「またか……」
お義父さんが何やら呆れる様に俺とフィーロたんを見ておりますな。
「ところでお義父さん。コウは良い子にしていますかな?」
「ん? ああ、特に問題行動も無いし、フィーロと違って大人しいな。ラフタリアにも懐いているし、専属フィロリアルって感じで管理させても良いかと思っているが……」
なんと!
コウがお義父さんから絶賛されていますぞ。
キールやモグラを食べようとしてお義父さんにお説教された事もある、コウがですぞ。
しかもお姉さん専属のフィロリアル様にしてもらえるとは……光栄の極みですな!
「おお、素晴らしいですぞ。コウ、お姉さんをしっかりお守りするのですぞ」
コウが高い評価を受けて俺も嬉しいですぞ。
何より、ここでコウがお姉さんとの関係を構築出来れば俺のポイントも上がりますからな。
そういう訳で、コウにはがんばってほしいですぞ。
「わかったー」
「それで元康。コイツはなんでフィーロから見たお前みたいな態度で、ラフタリアの影に隠れるのかわかるか?」
コウは若干緊張した様子でお姉さんの影に隠れながら俺とフィーロたん、そしてお義父さんを見ておりますな。
俺の知るコウよりも最初から大人しい感じですぞ。
これはどういう変化ですかな?
「あらー? ナオフミちゃん、コウちゃんに怖がられてるんじゃないのー?」
「……俺が何かコイツにしたか?」
「特に何かした訳じゃないとは思いますよ。ただ、この前フィーロを叱っていたじゃないですか。あれが怖かったんじゃないでしょうか?」
「あー……あったなそんな事」
なるほど……先日もフィーロたんは留守番を嫌がってお義父さんに怒られていましたからな。
その時の光景がコウの目に焼き付いてしまったのかもしれません。
とはいえ、そんなにおかしな事でもないと思いますぞ。
コウは以前のループで優しいお義父さんを侮った事がありました。
お優しいお義父さんでも、さすがにキールやモグラを襲って食べると公言したコウの言動は目に余る物があり、強くお説教したのですぞ。
その後のコウはキールやモグラを食べようとはしませんでしたし、お義父さんを侮る事も無くなりました。
そして今回、お義父さんに対して大人しいコウ……あれですな。
コウは元気な所が強い子なので、今のお義父さんの様なタイプが苦手なのかもしれません。
元気いっぱいの男の子が怖い先生の前では静かになってしまうのと同じ精神ですな。
「あまりにワガママを言うからゼルトブルの奴隷商に魔物紋の更新をさせたもんな」
「うー……ごしゅじんさま、槍の人とフィーロを一緒の場所に居させようとする」
「サディナとラフタリアも居ただろ。それくらいは我慢しろ」
今回のフィーロたんは恥ずかしがり屋ですからな。
それでも伸び伸びと日々を楽しんでおられるのがヒシヒシと感じられますぞ。
そんな光景を傍らで眺める事が出来て、最高に気分が良いですな。
ここは以前のループと違ってフィーロたんがいるという実感が湧くという物ですぞ。
俺のストレスゲージは常に0をキープしております。
いつでも全力で戦う事が出来る位、精神的に満たされていますぞ。
全てフィーロたんのおかげですな。
しかし、コウがお姉さんと仲が良い、ですか。
それも当然なのかもしれません。
「お姉さんにコウが懐くのはなんとなくわかりますぞ。最初の世界でも他の世界でもお姉さんと仲が良かったですからな」
正確にはお姉さんに似た生き物と格別に仲が良かったのですが、この辺りは差異でしょう。
そもそもコウはお調子者な所があり、食いしん坊さんですからな。
以前のループでは樹の髪やモグラ、キールを食べようとしていた事もありました。
そういえば……。
「むしろお姉さんよりも亡くなったお姉さんの友人との方が仲が良かったですぞ」
懐かしきお姉さんのご友人。
とても崇高な精神を持っていた方でした。
コウにとても良くしてくれたので、俺もよく覚えていますぞ。
「……亡くなった?」
「ですぞ。お姉さんが知るお義父さんに会う前の友人ですぞ」
お姉さんは目を見開いてから僅かに悲しげな表情になりましたな。
そこをお姉さんのお姉さんは素早く対応してお姉さんを慰めますぞ。
「……ループ次第じゃ助けられるとかか?」
お義父さんが察して俺に尋ねてきますぞ。
「ですな」
「……はぁ。もう手遅れなのか?」
お義父さんが俺とお姉さんに尋ねますな。
するとお姉さんは頷きました。
「はい……リファナちゃんは……私の目の前で亡くなりました」
「そうですな。召喚直後から数日が限界と言った所でしょうな」
「……そうか」
「リファナちゃんね。あんなに良い子が……もう居ないと思うと悲しいわ……」
お姉さんとお姉さんのお姉さんも物想いに耽る様に呟きますぞ。
「ん? うーん?」
コウやフィーロたん、近くにいるフィロリアル様達がそんな空気を困った様子で見合っていますな。
とても可愛らしいですぞ。
「フィーロたーん!」
「やー! ごしゅじんさまー!」
「お前等は空気を読め!」
おお、お義父さんに怒られてしまいました。
「ナオフミ様……」
「わかっている。本来だったら俺の安全を確保するのが先だけど元康の……所為で割と固まってるからな。当初の予定通りラフタリアの村仲間を確保する方針で行くつもりだ。その為のコネクションも構築しつつある」
決意を新たにとばかりにお義父さんは拳を握っております。
おお、コネクションを作っているのは存じていましたが、そんな思惑があったのですな。
相変わらずお義父さんの大海の様に広い戦略には驚かされるばかりですぞ。
さすがお義父さんですな。
「こっちの奴隷商に取り寄せを検討させているからそこまで難しくはないだろうさ。ラフタリアとサディナは村の連中の名前をリスト化したいから協力してくれ」
「は、はい」
お義父さんとお姉さんは俺が翻訳したメルロマルクの文字を勉強している最中ですぞ。
ただ、覚えるのがかなり早い傾向がありますな。
お姉さんのお姉さんは簡単な読み書きは出来るそうですな。
「元康の証言を参考にする限りだとメルロマルクでも薬の販売を……フィロリアル共や他の連中にさせて俺が直接関わらない様にして行けば再現は出来そうだしな。メルロマルクの宗教をガタガタにさせる神鳥の聖人は直接顔を出す必要は無いんだ」
おお……お義父さんが色々と考えて行動している様ですぞ。
「くくく……稼ぎ度外視でやり過ぎても問題はあるようだし、匙加減が難しそうだけど、出来なくはない」
お義父さんが楽しそうな笑みで笑っておりますぞ。
これで三勇教の終焉が一歩近付きましたな。
「ただ……攻略サイトをなぞっている感じが、錬や樹と同じ事をしている様でなんか不安が拭えんな……」
何やらお義父さんが冷静な表情になって、そう呟いておりますな。
ははは! お義父さんが錬や樹の様な失敗をするはずありえませんぞ!
「俺はどうすれば良いですかな? また狩りに出て色々と集めて来れば良いですかな?」
「そっちも必要だが、ゼルトブルでは他にも出来る事がある」
お? 俺に仕事があるのですな。
じゃんじゃん任せてくださいですぞ。
どんな困難なミッションでも必ず達成してみせますぞ。
「元康、お前はゼルトブルのコロシアムでその無駄に強い力を存分に振るって居れば良い。スポンサー枠を俺が名を伏せて登録する。ああ、潜伏しているのがばれない様にするのを忘れるなよ」
何でもゼルトブルでは独自のルールがあって、コロシアムの選手と親しい関係者や商人が組む事で地位を向上させる事が出来るそうですぞ。
ゼルトブルで龍刻の砂時計を使用する為に、勇者の地位を使わずに信用と実績を得る一番の近道ですな。
龍刻の砂時計は個人単位なら大金を積めば使用も可能ですが、お姉さん達は元よりフィーロたんやフィロリアル様、そしてこれから増える村の者達も合わせると手間が増え過ぎると言う事でしょう。
それなら偽名で有名になって自由に使えるようにしておいた方が得との判断。
この元康、脱帽ですぞ。
「わっかりましたー! 戦えば良いのですな! デストローイですぞ!」
「たぶん、半分くらいしかわかってないと思います」
「奇遇だな、俺もだ」
「あらー」
「その手の感性はラフタリアやサディナの方が敏感だろうから、元康が上手い事、潜伏出来る様に注意してくれ」
「それは今までの命令で一番難しい事だと思うのですが……」
「あー……わかっている。無理を承知で頼むんだ。任せたぞ」
「ど、努力します」
そんな訳で俺はお義父さんの命令で金稼ぎと名声を得る為に、ゼルトブルのコロシアムに参加する事になったのですぞ。
腕が鳴りますな。
どいつもこいつも血祭りに上げてやりますぞ。
ハハハ、みんな死ねですぞー!
……おや? 血祭りは裏のコロシアムでしたかな?
表の場合は半殺し程度で我慢してやりますぞ。
「まずは勇者だってわからない様に細工……顔を隠したりする事ですよね」
「ではフィロリアル様達の羽を使って仮面を作りますぞ」
「選手名登録とかもしなくちゃねー」
「ああ、それは俺も一緒にスポンサー登録をする予定だ」
「選手名ですかな! ではフィーロたんラヴゥ親衛隊1号が良いですぞ!」
「ごしゅじんさまー……」
フィーロたんが縋る様な声でお義父さんを呼んでいますぞ。
おお! フィーロたんも俺の選手名にメロメロですな!
俄然やる気が出てきました。
ふんすっ! ですぞ!
「ああもう……元康、却下だ!」
「なんと! フィーロたんが応援してくれているのにダメなのですかな?」
「これが応援に聞こえるとか、その耳は飾りだな」
元康イヤーはあの時から常にフルドライブしていますが?
お義父さん達が呆れた目をしておりますぞ。
何をそんなに呆れているのですかな?
「とりあえず別のにしろ。選手名にフィーロを入れるのは禁止だ。他にもNGがあるから考えた物にしろ」
「しょうがありませんな。パーフェクトハイドジャスティスは樹が使うリングネームですから没ですな」
「ちょっと待て。物凄く気になるリングネームが出てきたが……後で教えろ」
おや? 樹のリングネームが気になるのですかな?
あれですな。みんなで笑い者にするのですな?
その時は俺も指差して笑うとしましょう。
「ナオフミ様、話が逸れてます」
「ああ、そうだったな」
「ではフィロリアルLOVEや天使の下僕とかはどうですかな?」
「……リングネームを言う奴が凄く哀れに聞こえる命名センスだな。方向性は一貫しているが、他には無いのか?」
「う~ん、何故ダメなのですかな?」
「そんな名前の奴のスポンサーをしている俺の身にもなれ」
と、強い口調で却下されてしまいました。
……どこがおかしいのですかな?
俺には全くわかりませんぞ。
ですがお義父さんがダメだと言うのですから、深い理由があるのでしょう。
「フィロリアル達の羽で仮面を作って出場するなら、フィロリアルマスクとかが良いのでは?」
お姉さんがそう提案しました。
フィロリアルマスクですか。
中々に良いのではないですかな?
「確かにコロシアム的にはそういう路線もありだな……」
お義父さんはしばし考えた後、頷きました。
「その辺りが元康自身が納得できそうな所か。元康、どうだ?」
「問題ないですぞ! 今日から俺はフィロリアルマスクですぞ!」
さすがはお姉さん。
つまり俺はフィロリアル様の仮面を付けてリングで戦う……コロシアムの鳥となるのですな!
クエーですぞ!
賞金は恵まれないお姉さんの奴隷仲間達を助ける資金になるのですぞ。
どこかのプロレスラーみたいでかっこいいですな!
「じゃあ元康のリングネームはフィロリアルマスクだな……元康、ゼルトブルで勇者とばれない様に潜伏する時はその名前で活動するように」
「クエーですぞ!」
「……」
「お任せあれですぞ!」
「それで良い。後、コロシアムではスキルの使用は極力控えろ。手加減も忘れるな。勇者とは気付かれない様に戦うんだぞ」
との言葉を受けて俺はフィロリアル様達の抜け羽をマスクに仕立て上げたのですぞ。
それを顔に付け、お義父さん達の前でポーズを取りました。
既に育てたフィロリアル様達が何体もおりますので、俺の装備を作れる位には羽は確保出来ております。
ちなみに全て自然に抜けた羽で出来ていますぞ。
俺はクリーンなフィロリアルマスクですからな。
「どうですかな、お義父さん! これで俺は愛の狩人ではなく、フィロリアルマスクになれましたかな?」
出来上がったフィロリアルマスクの衣装をお義父さん達に見せますぞ。
我ながら中々良い線いっていると思いますが、どうですかな?
「あー……まあ、なんか鳥人間みたいな感じにはなっていると思うぞ」
「マントとか凄く自己主張してますね」
「とはいえ、これ位派手な方がああ言う場所では受けが良いかもしれん。しかし、何かに似ている……半裸じゃないだけマシか」
「脱ぎますかな?」
今までの経験やループで鍛えた俺の肉体を披露する時が来ましたな。
生憎と俺は着痩せするタイプなので見た目ではわからないかもしれません。
ですが、こう見えて結構筋肉はあるつもりですぞ。
フィロリアル様達と日夜駆け巡っているので、機能的な筋肉が発達しているのですぞ。
ムキッ!
「脱ぐな」
「あらー」
「ですが、このマスク……なんとなくしっくりこないのですぞ」
俺はマスクを取り外して改めて確認しますぞ。
「お前がフィロリアル共の羽で仮面を作って付けたいと言ったんだろ……熱いから蒸れるんじゃないか? アイツ等群がるの好きだしな」
「ナオフミ様、よく纏わりつかれますもんね」
「む! わかりました!」
俺はポケットからフィーロたんの羽を取り出し、飾り羽として仮面の上に付けますぞ。
今は無いフィーロたんのチャームポイントの再現ですな。
「よし、ですぞ」