脳内フォルダ
やがて深夜になった頃の事……お義父さんが見事お姉さんのお姉さんを連れて帰ってきました。
「あんな曖昧な話だったのにサディナ姉さんが来るなんて……ナオフミ様とサディナ姉さんはもしかしたら……」
その際にお姉さんがお義父さんを出迎える時、小さく呟いたのが随分と印象的でした。
これが乙女心という奴ですな。
俺は恋愛に強いのでよくわかりますぞ。
ずばり、これからお義父さんとお姉さんのキューピットを目指すのも良いですな。
上手く行けば強い信頼を獲得する事が出来るので、フィーロたんとの関係を強められるかもしれません。
俺はフィーロたんの周りの方々からも祝福されたいですからな。
「元康、本当にコイツで良いのか?」
宿の前まで出迎えるとお義父さんが腕を組みながら仰いました。
微塵も疑ってはいませんでしたが、こうも簡単にお姉さんのお姉さんを連れてくるとは、さすがお義父さんですぞ。
「あらー?」
「そうですぞ。どうして俺に尋ねるのですかな?」
「とりあえず酒場を何件か周って、話が通じそうな奴を見繕ってラフタリアの名前を出したら頷きはしたけどよ。ゼルトブルはこういう場所だからな。知ったかぶりの可能性がある。だから念の為にお前等に聞いたんだ」
念には念をと言う奴ですな。
お姉さんもその辺りは理解しているご様子。
「ラフタリアちゃん? 大きくなったわねーお姉さん、一目じゃわからない位綺麗になっちゃってー」
「お久しぶりです……サディナ姉さん」
お姉さんのお姉さんは、お姉さんを強く抱きしめますぞ。
お姉さんも抱き返して再会を喜んでおりますな。
これが生き別れた姉妹の絆ですぞ。
感動の瞬間ですな。
俺も長いループの末にフィーロたんと再会する事が出来たという経験があるので、凄く共感出来ますぞ。
「それで……ここに来るまでに少しだけ話を聞いていたのだけど、ラフタリアちゃんはナオフミちゃんの奴隷をしているのよね?」
「はい。盾の勇者であるナオフミ様の力に……信用して頂きたくて紋様を刻んでいます」
なんという忠誠心!
この世界ではお姉さんは一度無理矢理紋様を解除されたはずなので、もう一度刻んだという事ですな。
つまり最初の世界でもお姉さんは同じ様に忠義の証を示したのでしょう。
お姉さんのあまりにも崇高で尊敬出来るお姿を見て、俺も何か忠誠の証を示した方が良いのではないかと思えてきました。
しかし、勇者は奴隷にする事が出来ないのですぞ。
う~ん……では俺の身体に奴隷紋ではなく、焼印……いえ、フィロリアル様を模ったタトゥーを刻むのはどうですかな?
「俺としてはもうそんな事をしなくても良いと思っているんだがな」
そう口にしようとしたのですが、お義父さん達が会話を続けています。
俺はお義父さんとお姉さんの会話の邪魔をする程、無粋な男ではないので黙っていますぞ。
「これは私が欲した証なんです。ナオフミ様」
「……ああ、そうだったな」
お義父さんとお姉さんがそう見つめ合っているのを、お姉さんのお姉さんは頬に手を当てて冷やかす様なポーズで見ておりますぞ。
あれですな。ロマンスですな!
俺もフィーロたんと恋に胸を焦がす様な出会いをしたので、よくわかりますぞ。
「私は今、盾の勇者であるナオフミ様の仲間として活動しています。村を壊滅させた波に対抗する為に戦うのが目的です……私達の様な被害者を出さない為にも」
お姉さんはそう強く言い切りました。
保護出来た際の世界での台詞と少々異なりますな。
これはループの開始時期が異なる影響も出ていると思いますぞ。
「お姉さん、村を復興させるのが目的ではないのですかな?」
「……そう、ですね。村を復興させたいと言う目的は、ありましたね」
おや? 何やら遠い目をしていますぞ。
どうしたのですかな?
優先順位が下がったと言う事ですかな?
「サディナ姉さん、あの村の今を知っていますよね?」
「……ええ」
お姉さんのお姉さんもお姉さんが何を言いたいのかわかった様に頷いておりますな。
あの村の今とは?
「もう、あの場所にみんなはいません。守りたかった村は、無くなっていたんです。それは知っています」
「諦めるのですかな?」
俺の問いにお姉さんは頭を横に振りますぞ。
「いいえ。ですが今はしなくてはいけない事が沢山あると思います。今すぐ復興出来る訳でもありません」
「何をするにしても下地を構築しなくちゃいけないからな。やらなきゃいけない事も多いだろ。波に挑むにしても……村を復興させるにしても、だ」
そうですな。
フィロリアル様、金、装備、Lv、人材。
このどれを取っても蔑ろにする事は出来ません。
一つ一つ確実に手に入れていく必要があるでしょうな。
「元康、俺の無実を証明するには三勇教が激しく邪魔なんだよな?」
「ですな。俺のループ経験上、仮に今すぐ女王に頼ったとしても即座に事態が終息する様な事はないと思いますぞ」
三勇教は正体を現し、クズと結託して好き放題している状況ですからな。
あの時も色々と面倒な攻防が繰り広げられた様ですぞ。
錬と樹もどこにいるのかわかりませんからなー……。
話を聞くタイミングは完全に逃していますぞ。
結局、今のメルロマルクに亜人獣人の人権は無いに等しいでしょうな。
「メルロマルクに関して言えば下手に刺激して良い状態じゃないな。女王とやらが解決するまでは俺達は潜伏しながら波を抑える方が良いだろう」
「……そうですね。王女をあのようにしてしまった訳ですし、不用意に出て行くのは危険だと思います」
「あらー? ラフタリアちゃんはお姉さんと一緒に平和に過ごしたくないの?」
お姉さんのお姉さんの言葉にお姉さんは頷きました。
そこには未練の感情など微塵も含まれて居ません。
「はい。私はサディナ姉さんと再会して、守ってもらうだけでは居たくないんです」
「そう……わかったわ。ラフタリアちゃんの意志は固いみたいだし、お姉さんも力になるわ」
話が早いですな。
さすがはお姉さんのお姉さんですぞ。
この人が仲間になったので俺達の勝率はぐっと上がりましたな。
「ただ……」
お姉さんはお義父さんとお姉さんのお姉さんを交互に見ますぞ。
なんですかな? まだ気にしているのですかな?
「一発でサディナ姉さんを連れて来るのは、奇跡なんじゃないかと思うんですが……」
「特徴を聞いていたからな。後は適当に酒盛りしている連中の輪に混じっていたら目星くらいは付く」
「あらー? 随分と不機嫌そうに飲んでいたわよー? 逆に気になって声をかけちゃったもの」
「そうか?」
確かにお義父さんはぱっと見、怖く見えますからな。
しかし、その内面は星々の大海の様に広く、深いのですぞ。
「そうよー。誰かを探しているのかなー? くらいはわかっていたけど、まさかお姉さんだとは思いもしなかったわ」
「まあ……居るかどうかすら半信半疑だったからな」
「お姉さんもゼルトブルに着いたは良いけど、これからどうしようかな? なんて思いながらお酒を飲んでいた所だったんだもの。驚いたくらいよ。なんでわかったのかしら?」
「んー! ごしゅじんさま置いてっちゃやだー!」
ドタドタと宿の部屋からフィーロたんが飛び出してきました。
お義父さんを見つけて飛び付きましたな。
「ごしゅじんさまー!」
ヒシッとフィーロたんがお義父さんに引っ付いております。
グリグリとお義父さんの身体に頭を擦り付けておりますぞ。
お義父さん! 凄く羨ましいですぞ!
俺もやって欲しいですぞ!
「その件を話すにしてもだ。騒がしいから宿の部屋に戻ってから話そう」
「あら、連れ込みね。お姉さん達との楽しい一夜になるのかしら?」
「ラフタリアの前だぞ。ふざけるのはやめろ」
「サディナ姉さん、ナオフミ様はそう言う話を嫌うので、あんまり茶化したりしないでくださいね」
「あらー?」
お義父さんは誠実で身持ちの堅い方ですからな。
以前の俺みたいな軟派で軽い男とは違うのですぞ。
俺もフィーロたんと結ばれる為に、お義父さんの様な方を目標にがんばっているのですぞ。
「ごしゅじんさま、もうどこにも行かない?」
フィーロたんは帰ってきたお義父さんに甘えていますな。
なんとも可愛らしい反応ですぞ。
「今夜はな。土産を買って来てやったぞ」
そう言ってお義父さんは葉っぱで包んである串焼きをフィーロたんに手渡しました。
なんとフィーロたんへのお土産まであるのですかな?
さすがお義父さん、気配り上手ですぞ。
「わーい! お土産ー!」
フィーロたんが嬉しそうで俺も嬉しいですぞ。
この気持ちを身体で表現したくなってきました。
「良い子に留守番をしているなら多少のワガママも大目に見てやる。ラフタリアを信頼して頼りにするんだぞ」
「お姉ちゃん、守ってくれる?」
「もちろんですよ。現に貴方が眠っている間、ずっと一緒に居たじゃないですか」
「槍の人、何もしなかったよね?」
「ええ、槍の勇者を見張っておきましたよ」
当然ですな。
俺は眠っているフィーロたんに不埒な事をしたりしませんぞ。
お姉さんと少しだけ未来の話をしただけですからな。
本当ですぞ。
ともかく、これでフィーロたんとお姉さんの間に絆が出来ましたな。
フィーロたんのお姉さんに向ける信頼の眼差しからわかりますぞ。
「安心しろ、フィーロ。もう一人姉が増えたからな」
と言う訳で、お義父さんと宿の部屋に入り、俺が未来から来た事を説明しました。
お義父さんが補足してくれたのでスムーズに話が進行してかなり楽でしたな。
「あらーそうなの?」
お姉さんのお姉さんはそう言いながら俺を見ますな。
「と言うか、槍の勇者ちゃんなの? 貴方」
「そうですぞ! 愛の狩人、北村元康ですぞ! よろしくですぞ! お姉さんのお姉さん」
「まあ……一目でわかるだろうが、かなりおかしい奴だ。だが、言ってる事は大体当たっている。勇者というよりは胡散臭い予言者と言った方が無難かもしれん」
「そうなんですよね……」
お義父さんとお姉さんが何やら呟いておりますな。
「モトヤスちゃんね。わかったわ」
お姉さんのお姉さんとも良好な関係が築けそうですぞ。
これも後々フィーロたんと結ばれる為に生きてくるはず。
周りから……という訳ではありませんが、フィーロたんと親しい関係にある方々とは仲良くなりたいですからな。
「それで……これからどうすれば良いかだが……」
「絶対にメルロマルクで騒動になっているでしょうね。なので予定通りゼルトブルで密かに活動するのが良いとは思います」
う~ん? 今日メルロマルクに行った時は特に何もなかったと思いますが?
少なくとも魔物商からはそういった雰囲気を感じませんでしたな。
優秀な商人は情報に通じている、と最初の世界のお義父さんが言っていました。
そんな人がメルロマルクの騒動を知らないとは思えませんが……。
「そうだな。まずは強くならねば始まらないし、金も必要だろう。ゼルトブルで龍刻の砂時計を使用……近付くのにも権力や金が必要みたいでな」
「じゃあコロシアムで名を売るのが良いんじゃないかしら? お姉さんもその辺を利用してお金を稼ごうかなーと思っていたし」
考えている内に話が進んでしまいましたな。
しかし、コロシアムですか。
俺は参加した事がありませんが、確かに金稼ぎには良いでしょうな。
何より名声を稼げるのでクラスアップも出来る可能性が高いですぞ。
「妥当な所か……その金や魔物退治等をして得た物品を元にしてゼルトブルで活動しながら信用を稼げばどうにかなるか」
「フィーロはー?」
「商人の国でもあるらしいし、ゼルトブルで行商……もしくは配達業でもすれば良いだろ。馬車で好きなだけ走り回って配達すれば儲かるかもしれん」
「わーい!」
「俺もお手伝いしますぞー! フィロリアル様達でフィーロたんと一緒に配達業ですな!」
「やー! 来るなー!」
フィーロたんがとてもはしゃいでおりますぞ!
俺も楽しくなってきました。
「後は商人同士の付き合いというか、商業組合などに顔が利く様にしてクラスアップを斡旋すればラフタリア達も強く出来るな」
おお、さすがはお義父さんですな。
ゼルトブルで出世する方法を即座に見抜いた様ですぞ。
「ついでにラフタリアの村の連中を奴隷繋がりで取り寄せをしてみるか。メルロマルクへ買い付けに行くのは無理だからな」
「お、お願いします」
お姉さんが頭を下げるとお義父さんが気にするなとばかりに手を振ってますな。
「となると、どっかに拠点となる建物でも買い占めて、ラフタリアの村の連中を匿えるようにしておこう。何……いずれメルロマルクの女王が帰還すればどうにかなるだろう。それまでの辛抱だ」
お義父さんが腕を組んで不敵に笑いました。
優しいお義父さんはこういう顔をしませんでしたな。
しかし、なんとも頼りになる顔ですぞ。
「ゼルトブル……ここ数日の反応を見る限り、メルロマルクとは違って俺でも普通の対応をしてくる。これならやって出来ない事はないはずだ」
ですな。
お義父さんの本領を発揮するチャンスですぞ!
「腕が鳴るな。これから忙しくなりそうだ」
「十分、忙しくなっていると思いますが……」
「じゃあ今夜の出会いを祝って、楽しく飲み比べをしましょうか、ナオフミちゃん、モトヤスちゃん」
「俺は結構ですぞ」
お姉さんのお姉さんと晩酌が出来るのはお義父さんだけですからな。
何より、俺は世界が真に平和になるまで誠実に生きなければいけない使命を背負っています。
娯楽は程々にしなければいけません。
「話も纏まったので、お義父さん達はまた飲みに行くのはどうですかな?」
フィーロたんが酒場で歌う姿が思い出されますな。
この世界でも同じ状態になったとしたら、俺の脳内フォルダに新たな一枚が記録される事になりますぞ。
思い出すだけで……ウフフ、ですな。
などと笑みを浮かべ、自然と視線がフィーロたんに向かい……フィーロたんと視線が交わりました。
「やー! 槍の人がにやにやしてる!」
「フィーロ、怖いのはわかるが、その程度は許してやれ。とはいえ……コイツ、好かれる気があるのか……」
「そもそもフィーロと留守番をする気なんですか?」
いえ、俺とフィーロたんも一緒に行くという意味ですが?
……確かに先程の言い方では俺達は留守番に聞こえますな。
まあ、俺はそれでも良いですが。
いえ、むしろそちらの方が良いのではないですかな?
フィーロたんと二人きり……パラダイスですな……。
などと、うっとりとした表情でフィーロたんを見ますぞ。
するとフィーロたんは羽を逆立てながら言いました。
「やだー!」
「ああもう、うるさい! 行かねぇから静かにしろ!」
お義父さんの声が随分と騒がしい夜でしたな。
その後、お姉さんのお姉さんが酒を飲みながらお姉さんとの再会を語り合っている所で、俺はお義父さんに差し入れとしてルコルの実を送りました。
最初は訝しげに見ていらっしゃったお義父さんですが、口に合ってお気に召したご様子。
その様子を見てお姉さんのお姉さんの目に熱が入った様に見えましたな。
これで毎度仲良くなっていると言うのを覚えていますからな。
俺はフィーロたんとお義父さんの為なら何でもする男ですぞ。
HAHAHA!
そんな訳で、お姉さんのお姉さんが加入した夜は過ぎて行ったのですぞ。