加速装置
「まあ……その程度ならいいか」
「クラスアップをするのにも十分に強化する必要はあるでしょう」
「……クラスアップ?」
おや? この頃のお義父さんはそんな事までも知らなかったのですな。
……素直に称賛の感情が浮かびますぞ。
何も知らない中で模索し、自らの力で無実を晴らし、ああして世界を平和に導いたのですからな。
俺はお義父さんの為なら何でもして見せますぞ。
「ですぞ。クラスアップとは勇者以外がLv40で一度掛る制限ですな。龍刻の砂時計でクラスアップを行う事で上限が解放されるのですぞ」
「面倒な要素がこの世界にはあるんだな……そうか、あの時、龍刻の砂時計にお前等が集まっていたのはそれが理由か」
「そうですぞ」
一ヵ月もあれば後々役に立たなくなる知識でもクラスアップ程度は出来るはずですぞ。
実際、あの時の俺は赤豚共のクラスアップに訪れましたからな。
「で、メルロマルクで活動していた俺はクラスアップさせてもらえないんだろ?」
「もちろんクズの所為で出来なかったと聞きましたな」
「はぁ……それで、このゼルトブルでは出来るのか?」
「勇者なら出来るかもしれませんが、ゼルトブルは実力主義な面がありますからな。商人として名を馳せて金銭を積むか、傭兵としてコロシアムで名を轟かせれば許可が降りるそうですぞ」
「シルトヴェルトなら?」
「もちろんフリーパスですぞ。問題はしっかりと裏で話を通さないと城に行く羽目になるでしょうな」
「どいつこいつも面倒臭いな……」
お義父さんが髪を掻きながら面倒そうにゼルトブルの町並みを見ました。
仰る通り、この世界の連中は己の私利私欲ばかりですからな。
俺の様に平和の為、忠義の為、愛の為に戦う者は少ないですぞ。
「まあ……黙っていれば盾の勇者とかわからないからメルロマルクよりも活動はしやすいか」
重要なのはどれだけの商才を持つか、強いか、の二点ですからな。
人となりは後で幾らでもどうにかなる国ですぞ。
「で? 元康、狩りはすぐに出来るのか?」
「もちろんですぞ!」
「じゃあさっそく……あんまり頼りにしたくないが、行ってみるか」
「では海と山のどっちで狩りをしますかな?」
「いきなり水中戦はな……」
確かにこの時期のお義父さん達は水中での戦闘経験が無いでしょうな。
しかし、俺の知識によれば海中の経験値は比較的多いはずですぞ。
あの砂漠の機械がまだ動いているはずですからな。
お姉さんのお姉さんが居れば海でも余裕のはずですが、居ない者を頼りには出来ません。
しかし……。
「お姉さんは漁村出身のはずなので、海の方が楽なのではないですかな?」
「まあ確かに海が近かったので泳げますし、船酔いはしないですね」
「船酔いと馬車で酔うのは違うのか?」
「揺れ方が違います」
「そうなのか……?」
よくわかりませんぞ。
きっとフィロリアル様の揺れは高貴な酔いで、船の酔いは大自然の酔いですな。
「とはいえ、フィーロもいるし、海だと装備が錆びるからな。今は山で良いだろ」
コツコツとお義父さん達は装備を固めていたのでしたな。
フィーロたんが荷車を引いていたのも、後々馬車になってメルロマルクを行商する前段階だと思いますぞ。
なので現在のお義父さん達の装備はお世辞にも良い物とは言えません。
しかし!
未来からこの元康がやってきたからには、その様な不便な境遇からはおさらばですぞ。
「ではご案内しますぞ」
「グア!」
そこでフィーロたんが自己主張とばかりにお義父さんの後ろで鳴きました。
相変わらず良く通る、美しい声音ですな。
ずっと聞いていたい位ですぞ。
ああ、フィーロたんと時を共に出来る……この点だけでも以前のループと違いますな!
「おおフィーロたん、お義父さん達を案内をしたいのですな」
「……」
俺の問いにフィーロたんが反応してくださいませんな。
何故ですかな?
「三人でフィーロに乗るのは……難しいな。どっかで荷車なり何なりを調達するか」
「馬車が良いですぞ! フィーロたんにプレゼントですぞ!」
「そんな金は無い! お前の金は復興資金としてリユート村に置いて来ただろ」
「ははは、あのような小銭ではなく、もっと金を注ぎ込んだ素晴らしい馬車を発注するのですぞ」
「グア! グアグア!」
おお!
高級な馬車をもらえるかもしれないと聞いてフィーロたんが目を輝かせておりますな。
フィーロたん、この元康に任せてくれですぞ。
必ずや立派な馬車を手に入れて見せますぞ!
「あの……出来れば私は乗りたくないんですけど」
「乗り物酔いに慣れて行かないといざって時に大変だぞ?」
「そ、そうですが……」
「しょうがない……俺とラフタリアでフィーロに乗るから元康、お前は走ってついてこい」
「そんな無茶な……」
「わっかりましたですぞー!」
お姉さんがお義父さんに何やら注意しようとする前に俺が頷きました。
今のフィーロたんの速度なら合わせる事など簡単ですな。
「ええー……」
「と言う訳だ。さっそく狩りに行くとしよう」
お義父さんがお姉さんをフィーロたんの背に乗るように勧めるので、お姉さんは渋々フィーロたんの背中に乗りましたぞ。
お姉さんを支えるようにお義父さんが後ろに乗っております。
今のフィーロたんからすると少々窮屈そうですな。
「では……そうですな。まずは町から出て俺が指差す方角に走って行きますぞ。帰還は夜のキリが良い所にしますかな? 野宿でも良いですぞ」
「それはその時に決める」
さすがお義父さん、臨機応変に行く感じですな。
お義父さんがフィーロたんに指示を出しました。
するとフィーロたんが歩きはじめたのですぞ。
「はい、ですぞ!」
「グア!」
「わ!」
ゼルトブルの表通りは人が多いですからあまり早く移動できませんな。
やがて街を出た所でお義父さんがフィーロたんのお尻を軽く叩きますぞ。
「よし、行くぞ!」
「グアアアアア!」
「GOですぞ!」
待ちわびたとばかりにフィーロたんが走りはじめました。
俺も並走しながらお義父さん達と一緒に山へと向かいますぞ。
「す、凄い速度で景色が変わっているのに槍の勇者が当然のように走って私達の後を追いかけてきます。不気味過ぎて怖いです、ナオフミ様!」
「気にするな! 今の元康を気にしたら負けだ! アイツは加速装置でも積んでいるとでも思え!」
「加速装置ってなんですか!?」
何も特別な事はしていません。
全てLvと資質向上のお陰ですぞ!
お義父さんもすぐに出来る様になりますぞ!
とは言っても、俺自身の鍛錬もありますからな。
フィロリアル様達と思う存分遊ぶには足の速さもタフさも必要なのですぞ!
「エイミングランサーⅩ! ブリューナクⅩ! グングニルⅩ! リベレイション・ファイアストームⅩ! リベレイション・プロミネンスⅩ! ハハハ! 弱い! 弱過ぎるぞぉおお!」
目に付いた魔物、隠れている魔物、居るかどうかわからない魔物、その全てを駆逐してやりますぞ!
お義父さんとフィーロたんの眼前ですからな!
いつも以上に気合を入れて狩り尽くしますぞ!
「元康落ち付け! どこまで走って行く気だアイツ!? うお!?」
「グア!」
「フィーロも張り合うな! アイツは関わって良い奴じゃない!」
「グアアアアア!」
「HAHAHA! これがフィロリアルロードですぞおおおぉぉぉぉ! 邪魔する奴はみんな死ねですぞ!」
「キャアアアアア! う、う……ナ、ナオフミ様……」
「大丈夫かラフタリア!?」
「乗り心地が悪くて……しかもフィーロが大興奮で槍の勇者と競争をしている所為で……う……」
山奥にまで割と手早く到着した俺達はサクッと魔物を蹂躙して行きました。
とは言えお義父さん達からすると少々強い魔物ですからな。
お義父さんは手持ちの物資でそこそこ強化しているお陰で追いつけている様ですがお姉さんはどうやら追いつけず混乱している様ですぞ。
フィーロたんは俺に張り合う様に走って来ますな。
ああ、フィーロたんとお義父さん達との楽しい徒競走ですな。
夢の様な一時ですぞ!
そんな素晴らしい狩りを一時間位した頃、お姉さんが限界を迎えたのか、お義父さんに抱きかかえられたまま失神してしまいました。
現在、休憩の為に山奥でキャンプをしている最中ですぞ。
「うう……ガクガク揺れて……魔物を高速で狩り取るかのように倒して……うう」
「うーん……刺激が強すぎたか」
この世界でもまったく酔わないお義父さんが、寝込んでいるお姉さんを手当てしております。
薬草などを調合して飲ませている様ですぞ。気付け薬ですな。
レシピは先ほど見つけたと仰っていました。
「グア!」
フィーロたんが元気良く俺に何度も蹴りを放ってくださっておりますぞ。
ああ、あり難き幸せ!
至福の時ですぞぉおおおん……。
「フィーロ、やめろ。もう蹴らなくて良い」
「グア?」
「ああ、お義父さん御無体ですぞ!」
「……褒美になるからな。まったく……蹴られて喜ぶとか、とんだ変態だな」
「さあフィーロたん! 俺をもっと蹴るのですぞ!」
ガバっとフィーロたんに抱き付きますぞ!
「グアアアアアアアアアアア!?」
フィーロたんは飛び掛ろうとした俺に連続で蹴りを浴びせました。
ありがとうございます、ありがとうございます、ですぞ!
「グア!」
ダッと俺をしこたま蹴った後、フィーロたんはお義父さんの影に隠れるように座りこんでこっちを何度も確認する様になりました。
これは俺の事が気になっているという事ですな?
もっとやっても良いんですぞ?
「わかったか? アイツにはあんまり関わらない方が良い。変態だからな」
「グア」
「心外ですぞ! この元康! フィーロたんとお義父さん達の為なら火の中水の中。どんな状況でも絶対に諦めませんぞ」
「はぁ……その所為でラフタリアがグロッキーだろうが!」
お義父さんが深い溜息を付きました。
それはしょうがないですぞ。
フィーロたん、そしてフィロリアル様達と生きるのですからな。
慣れていくしかないですぞ。
「それでですが、お義父さん。フィーロたんとお姉さんのLvはどうですかな?」
「ああ、一時間程度の狩りだが、驚異的な速度で上がってる。一時間で5も上がるんだな」
「思ったよりも伸びが悪いですな。出発前のお姉さんのLvは幾つでしたかな?」
「Lv27が32に上がっている。フィーロはもう23だ……」
う~ん、やはり思ったよりは上がっていません。
数時間程で初期限界である40にしたいのですが、お姉さんの体調的に難しいかもしれませんな。
「俺の一ヵ月って何だったんだろうな……」
何やらお義父さんが黄昏ていますな。
お義父さんの一ヵ月は俺や錬、樹の様なカスと違い、太陽の様に輝いた素晴らしい日々ですぞ。
確かに経験値やLvは少ないかもしれません。
しかし、密度という物が違うんですぞ。
「ふむ……一時間ならこんな物ですかな? 夜までには40にした後、資質向上の強化をお義父さんが掛けて、何度もLvを上げますぞ」
「うう……」
「強くなる為の地獄はまだ始まったばかりだな」
「な、ナオフミ様、助けてください……」
お姉さんが朦朧とした意識で手を伸ばしました。
大丈夫ですかな?
「ラフタリア、気持ちはわかるぞ。だが、今は堪える時だ。この試練を乗り越えることで強くなって、波を乗り越えられる様になるんだからな」
「波……わ、わかりました」
さすがはお姉さん。
何が嫌なのかはわかりませんが、嫌な事から逃げず、そして波との戦いに備える事を優先してくれています。
お義父さん同様、こんな方々だから赤豚本体から世界を守れたのでしょうな。
俺も負けて居られませんぞ!
とりあえず今出来る事をしましょう。
「お義父さん! それよりもドロップの確認ですぞ! 良い装備が出る事もありますからな!」
「はぁ……」
それから数時間程、狩りを続け、フィーロたんとお姉さんはお義父さんの施す強化でメキメキと強くなって行った様ですぞ!
武具もそこそこドロップし、お義父さん達の武装を強化出来ました。
ですが、お義父さんは愛用する鎧を大切にしている様でしたな。
陽も沈み、ゼルトブルへと戻って宿を取りました。
相変わらずお姉さんは気持ち悪そうに唸っておりますな。
しかし、俺の記憶が正しければお姉さんは酔いに耐性があったはずなのですが。
お義父さんと行商していたので確実ですぞ。
きっとお姉さんもフィーロたんの高貴な揺れを体験して慣れて行ったのでしょうな。
「ドロップ品目当てにあまり解体もせずに盾にポンポン入れはしたが……」
宿に備え付けの小屋の前でお義父さんが本日の成果を確認しておりましたな。
何分、俺が倒した魔物はそれなりに数が多く、嵩張りますからな。
荷車の調達をして輸送するかどうするかお義父さんに尋ねた所、今回はドロップの方を重視するとの事で、解体はしなかったのですぞ。
「どうでしたかな?」
「……確かにラフタリアとフィーロのLvは十分に上がったし、装備品も驚くくらい揃いはしたな」
お義父さんが悩むかのように頬を掻きながら呟きましたな。
「余った武具は売り払った方が良いか」
「お義父さんが好きに処分して良いですぞ」
俺もそこそこ装備を揃えたので問題ないでしょうな。
むしろお金にして必要な品を買うのが最善ですぞ。