ラビット種
「……何がどうしてこうなったんですか?」
ループした後、お姉さんがくるまでの間に俺なりに努力をしたのですぞ。
具体的にはお義父さんを罠に掛ける役を樹に譲りました。
赤豚がくさりかたびらを渡すのを、俺自身がどこにいるのかわからない様に姿を隠す事で誤魔化したのですぞ。
そうしたら赤豚は樹の所へ行き、お義父さんに冤罪を被せました。
叫ぶお義父さんがあまりにも痛々しくて涙が出そうになりました。
俺に付いて来た豚ですかな?
もちろん、無視して解雇しました。
そうしてユキちゃんとコウを連れて一ヵ月経過しました。
あまり上げ過ぎたり育て過ぎると危ないでしょうから、一ヵ月間はフィロリアル様と遊びながら過ごしました。
現在、俺は城の中庭が見える所で姿を現したお姉さんと中庭での騒ぎを見ております。
「何か問題があるのですかな?」
「大ありです!」
お姉さんが中庭での出来事を指差して宣言しておりますぞ。
「ナオフミ様を助けなかったのはやらねばならない事ですが、なんで貴方がここで見ているんですか!」
そう、現在中庭ではお義父さんが……何やら眼鏡を掛けたイケメンのウサギの亜人に忠誠を誓われて乙女のような目をしております。
キラキラした……白髪の美青年ですな。
若干樹に似ている様な気がしますぞ。
武器は波での戦闘を見る限り短剣の二刀流ですな。
とても身軽そうですぞ。
そして苛立った表情で樹を指差します。
「貴方の正義が、他の人の正義だと思わないでください! ボクは貴方の傲慢な施しを軽蔑します!」
「な、なんだって!? 僕の何処が傲慢だと言うんですか!?」
「ボクが貴方に助けを求めましたか? ボクは岩谷様に、助けてもらいました。遺伝性の病を……目が悪いボクに眼鏡を買い与え、動かなかった腕を治療してもらって共に戦っています。奴隷? 結構、ボクは岩谷様の腕代わりとして戦いたいのです!」
「そう恩を着せられて過酷な労働をさせられているんです! 騙されてはいけません!」
「ブー!」
赤豚がそこで鳴きますぞ! 今すぐぶち殺したい衝動にかられますが、我慢ですぞ。
そもそも俺は必死に我慢して、胃に穴が空きそうな事が何度もあったのですぞ。
「しかもアレは誰ですか! 私がいるはずの場所に我が物顔でいますよ!?」
「知りませんな。俺は道化役を樹に譲っただけですからな」
お義父さんが罠に掛けられる光景を黙って見ている、騙された振りをするというのがどれだけの苦痛を伴うのか、今までの中でとても辛い時間だったのですぞ。
ですが、気が付けばお姉さんではなく、謎の兎がお姉さんの場所にいました。
「なんで貴方がやらないんですか!」
「これでも譲歩したのですぞ!」
お義父さんを罠だと知ってて冤罪に嵌めるのはこの元康、我慢成りませんぞ。
まあ、お義父さんが仰っていたサクラちゃんの卵は既に確保しております。
後はそれとなく魔物商に託してお義父さんに渡すだけですぞ。
ん? お姉さんが何かに気付いたみたいですな。
「そ、そういえば……ナオフミ様と初めて出会った時に奴隷商さんが私以外の方も紹介していたと思いましたが……まさかその時……?」
「最初の頃はなんか腕が変な角度に曲がっておりましたな」
時々覗き見をしていたのですが、徐々に仲良くなっていた様に見受けられました。
やがていつの間にか腕が動くようになっていた様に見えましたぞ。
まあ、お義父さんがリハビリのように腕を動かす様にさせていましたからな。
後、眼鏡を買っておりましたぞ。
やはりお義父さんを慕う奴隷が現れるのですな。
クラッとお姉さんが倒れそうになっております。
お義父さんの方はウサギ亜人の奴隷がお姉さんがやった時と同じく抱き寄せて信じる旨を伝えていた様で、号泣する声が聞こえてきました。
ああ……お義父さん。
最初の世界のお義父さんを助けるためにこんなにも苦行を耐える俺を許して欲しいですぞ。
「これでフィーロたんに会えますぞー!」
「……上手く行くとは思えませんが」
「結果オーライですぞ」
俺は期待に胸を膨らませておりますぞ。
数日後にはフィーロたんに会えるのですな。
「はぁ……しょうがないですね。とりあえず見届けましょう」
クズと赤豚がお義父さんに吐き捨てていますぞ。
フ……お前らなどフィーロたんと出会えれば即座にぶち殺しに行きますぞ。
なんて感じにチョコチョコとお義父さんの様子を観察しながら援助をしました。
手切れ金として銀貨500枚もらった後、奴隷紋の再登録をする為に魔物商のテントに行って、卵くじをやっていた様ですな。
見つからない様に最大限注意しました。
もちろん、魔物商には裏でお義父さんにサクラちゃんの卵を渡す様にさせておりますぞ。
「どうなる事やら……これで成功すれば良いんですが。神の力が使えれば未来を見る事も出来るんですけど……」
と、お姉さんがおっしゃっていますが、無視ですぞ。
やがてお義父さんはリユート村の方へ行き、復興作業の手伝いを始めました。
キメラも解体して盾に入れていましたぞ。
「懐かしいですね。そういえばああいう事をやりました」
お姉さんが思い出に浸る様に呟きました。
何やらとても遠いとばかりに手を伸ばしては我慢しておりましたぞ。
お義父さんは波が終わった後はああいう事をしていたのですな。
そんなこんなでウサギ亜人と一緒に村に泊った様ですぞ。
で、翌日から次の波に備えて近場で狩りを始めた様です。頭にはサクラちゃんが乗っておりました。
ああ、なんか今回のお義父さんは流れで整体業をしている様に見えましたな。
そういう技能の盾を手に入れたのでしょうか?
もちろん薬作りもして銭を稼いでいる様ですぞ。
そうして更に翌日になると大分大きくなったサクラちゃん……なんか初めて見たフィーロたんと同じ色合いに育っておりますぞ。
まさか本当にサクラちゃんがフィーロたんだったのですかな?
「なんか嫌な予感はしていましたが、フィーロは無事に生まれそうですね。どうやら問題は……あるにはありましたし、ダメージがありましたけど槍の勇者の未練を解消できそうです」
俺の肩に乗ったお姉さんがそう呟いております。
ハハ! 俺も心が躍りますぞ。
なんて感じに遠目から癒されていたのですな。
経験値の入り等、お義父さんに気づかれないギリギリの範囲でチョコチョコと観察していると大きく育ったフィーロたんに困ったお義父さんが魔物商の所に行きましたぞ。
「いやぁ……どうしたのかと思い、来てみれば驚きの言葉しかありません。ハイ」
「クエ!」
フィーロたんの姿に魔物商が驚いておりますぞ。
「で、正直に聞きたい。こいつはお前の所で買った卵が孵った魔物なんだが、俺に何の卵を渡したんだ?」
フィロリアル様の卵ですぞ!
魔物商が汗を流しながら何やら言い訳をしている様に見えますな。
「お、おかしいですね。私共が提供したくじには勇者様が購入した卵の内容は確かに然る方から承ったフィロリアルだと記載されておりますが」
ああ、もちろん、俺の事は話せませんぞ。
「とりあえず、専門家を急遽呼んで調べますので預からせてもらってもよろしいですか? ハイ」
「ああ、間違ってもバラさないと解らないとか言って殺すなよ」
「クエ!?」
「わかっていますとも、ですが専門家が来るのに少々お時間が必要なだけです。ハイ」
「……まあ、良いだろう。任せた。何かあったら慰謝料を要求するだけだ」
「クエエエ!?」
なんて話をしておりますぞ。
フィーロたんをバラすですとな! そんな真似はさせられませんぞ。
「じゃあ、明日には迎えに来る。それまでに答えを出しておけよ」
そう言ってお義父さんはフィーロたんを魔物商に預けて去っていきました。
すぐに俺は魔物商の所へ顔を出しに行きますぞ。
「あ、槍の勇者様! ハイ!」
「どうですかな?」
「色々と聞きたい事がありましたですハイ!」
「フィーロたんですな」
「ハイ。お尋ねしますが、これは……」
「予定通りなのですぞ。フィロリアル様は、このように成長しますからな」
「クエエエエエエエエエエ!」
フィーロたんが檻の中で暴れておりますぞ。
ああ、フィーロたん! 会いたかったですぞ。
「おかしいですね……フィーロに会えたはずなのに未練が晴れません」
お姉さんが小さくポツリと言いました。
「もしかしたら……今夜、フィーロが人型になりますから、その時はちゃんと見届けて話しかけるんですよ。そっちが重要なのかもしれません」
「はいですぞ! ではまた来ますかな。おと――尚文まで面倒を見ておけですぞ。困ったら尚文を呼べば良いですな。詳しい事は離れた所でしますぞ」
「は、はぁ……」
俺はフィーロたんに出会えて話が出来れば満足ですからな。
そう思いながらお姉さんの言う通りに夜になるまで時間を潰し、暴れるフィーロたんに困り果てた魔物商がお義父さんを呼びました。
ああ、魔物商の配下や物品の代金は全て俺が立て替える手はずですぞ。
全てはフィーロたんの為です。
で、魔物商はお義父さんに俺が説明した事を話しておりました。
お姉さんの話だと勇者が育てるという点は隠せとの事だったので言いませんでしたな。
「で、それはなんと呼ばれているんだ?」
「フィロリアル・キング、もしくはクイーンと呼ばれております」
「フィーロは雌だからクイーンか」
「で、ですね……ここまで勇者様に懐いていますと、この状態で売買に出されると私、困ってしまいます」
大丈夫ですぞ! 俺が言い値で買いますからな。
おや? よく考えてみれば今の段階でお義父さんから買えば良いのではないですかな?
そうすれば念願のフィーロたんのごしゅじんさまになれますぞ。
という所でお義父さん達の背後でフィーロたんが天使の姿になり始めました。
「……さま」
「ん? いま、聞き覚えの無い声が聞こえなかったか?」
「はて? 私もそのような声が聞こえた気が」
「あ、あの……」
ウサギの亜人がフィーロたんを指差してますぞ。
はは、やっとフィーロたんに出会えますな!
そう思いながら歩いて行くと俺は絶句しました。
なんとそこには金髪碧眼のグラマーな大人フィーロたんみたいな子が居たのですぞ。
「ごしゅじんー……フィーロごしゅじんと離れたくないー」
唖然としているとお義父さんが無我夢中でグラマーなフィーロたん? の手を引いて走って行ってしまいました。
何をしに行くのか気になりますが、重要なのはそこでは無いのですぞ!
「ど、ど、どういう事ですかな!?」
「あ、槍の勇者様!?」
ウサギの亜人が俺を見つけて声を上げますが、俺はお姉さんの方に視線を向けますぞ。
「フィーロたんに似たグラマーなフィロリアル様でしたぞ! おかしいですなー? やはりフィーロたんとサクラちゃんは別の個体なのでは?」
あれなら前々回の周回で似た子を見た様な気がしますぞ。
「環境って言ったじゃないですか! どうやらこの周回ではアレがフィーロなんですよ」
「違いますぞ違いますぞ! アレはフィーロたんではありませんぞ。中途半端に匂いが同じ別人ですぞ!」
確かにお義父さんはフィーロたんと名付けていましたが、全然違いますぞ。
なんとなくサクラちゃんとも微妙に違う気がしましたな。
「槍の未練も晴れていませんし……失敗ですね」
「なんですと! では俺のこの一ヵ月は何だったのですかな!?」
「無意味です!」
「な、何を話し合っているんですか!? 岩谷様に事情を説明してもらいたいです」
「申し訳ありません」
お姉さんがピョンと俺の肩から降りて一礼しますぞ。
「ま、魔物が喋った!」
「……どうやら貴方は私が入っていた檻の隣にいた方みたいですね。この世界のナオフミ様を支えてくださりありがとうございます。こんな未来もあったかもしれないと思うと複雑な気持ちになります」
「は?」
「では失礼します。さあ槍の勇者、行きますよ」
「フィーロたんではないですぞ!」
「その話は既に終わりました! 今度こそ、言われた通りにするんですよ」
魔法を唱え、お姉さんは俺の槍にぶつけました。
視界にループする時のアイコンが浮かび上がり、カタカタと槍が振動し、またもループを始めました。
今回の収穫は、やはりサクラちゃんはフィーロたんでは無いと言う事なのではないかと思うのですが、しょうがないのでお姉さんが満足するまで付き合うしかないでしょう。
なんて思っていると、お姉さんは複雑な面持ちで硬直するウサギ亜人を見ておりました。
どこかにいる博士の言葉。
「ここに三人の奴隷がいるじゃろ? 好きなのを一人選ぶんじゃ」