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~仕事のできない僕が適応障害になったわけ~「仕事ができない人のIT企業サバイバル日誌」

暗雲が立ち込める

新たなプロジェクトに異動して、順調だった半年間。
ウォーターフォール形式の開発工程を非常にゆっくりなペースで学ぶことができる。上司と先輩も悪くない。こんな生活が永遠に続けばいいのに思った。

半年間のソフトウェア新機能追加・修正の開発が終わり、次の開発に向けた準備期間に移ることになった。
その期間で上司からとある仕事を任された。
詳細設計書に先輩が書いたコードについて記述するというものだった。
SEから見たら、開発が終わってから詳細設計書を書くのかと思うかもしれないが、PJはとても規模の小さいもので他の主要ドキュメントがそろっていれば、詳細設計書まで確認されなかった。あくまでPJメンバがコードの記述について振り返られるようにと作成されたものだ。

上司としても、自分に他の人の書いたコードを理解することで勉強してほしいと思いがあったのだろう。
ちょうどいい仕事だなあと自分も思った。
これをちょっとこなしたら次の機能改修に進んでいこう、そう思いながら始めたが、そんなに甘くはなかった。

詳細設計書の記述

先輩の書いたソースコードから詳細設計書を記述していく。
初めてやる仕事はどのように書けばいいのかが分からないので、まず前の人が書いた箇所を参考にする。そうして設計書を覗くと、それぞれの担当によってけっこう書き方が違うことに気づく。どこまで詳細書くかというのが人によってバラバラだ。フォーマットも少しづつ異なっている。
どれを参照すればいいだろうといきなりつまづいた。
今だったならまずどの箇所を参照すれば上司に聞くはずだけど、当時の自分はそんなことはせずまごまごしているだけだった。

あまり進捗が進んでいない自分を見かねて上司も心配する。そのときは他の業務もあったので手をつけられないのもあったが、上司はちゃんと進捗管理表をつくった方がいいのではとアドバイスしてくれて、みようみまねでエクセルで作ったりした。

他の業務も一息ついたので、詳細設計書の記述一本で進められるようになる。前回のように余りあった時間も今回はそれほどなく、やり方が不明瞭のまま急いで書き進めるようにした。

なんとか形にして上司とのレビューを始める。
指摘は、コードの内容以前の書き方に関することだった。
書き方が全然統一されていない、抜けも誤字も多すぎる、そんな感じのケアレスミスがどんどん見つかっていった。確かに急いで作ったがこんなに多いのかと自分でもびっくりした。
とにかく次回までに直しますと取り繕ってその場を去った。

自責ループ

家に帰ってベッドで横になる。どうしてあんなミスを気づかず提出してしまったのだろう、どうしてもっと早く相談しなかったのだろう、頭の中に浮かぶ後悔は全て自分に矛を向いていた。もっとちゃんとプログラミングの勉強をしていれば、もっとまじめに仕事をしていればと今からではどうすることのできないことばかり考えて、これからどうすればいいとは全く考えられない。
少しづつそんな夜が増えていった。

そんな様子だから仕事も全く改善されない、どうしようどうしようとずっと悩んでいると、いつの間にかレビューの時間に迫ってくる。急いで仕上げてミスがないかもちゃんと確認してからレビューに臨んだ。
それがどうだろう。上司から山ほどケアレスミスを指摘される。ちゃんと確認したはずなのに、指の隙間からポロポロこぼれるようにミスが見つかる。
今まで気にしたことのなかった上司のドライな性格がここにきて悪い方に働く。最初は次からきをつけてねと諭すほどだったがだんだんこんな初歩的なことがどうしてできないのかと呆れたように言っていた。

そしてベッドで自分を責める、仕事が手をつかない→急いで仕上げる→ミスを指摘される…こんな日々が何日も続いた。
その内だんだん眠りづらくなったり、仕事中に何度もえづいたり、手足のしびれが止まらなくなってきたりと、徐々に身体に影響を及ぼし始めていた。

ある日、レビュー中の上司が自分を責めながらボソッと呟いた。
「こんなにひどいのは初めてだな…」
仕事をしてから初めて遭遇する位、自分のレビューはひどいものだったらしい。

ベッドで横になると、上司の言葉がずっと頭の中で反復していた。上司も初めてだと呆れる位仕事ができないという事実は、もう回復ができないほど自分を打ちのめした。
ひとしきり反復が終わると「どうしてこうなった」と原因を探るフェイズに入る。職場ネグレクトのときすねてないでもっと勉強しなくちゃいけなかった、今のPJでも何かできることはあったんじゃないか、どんだけ考えても最終的にたどり着くのは、「自分が悪い」というその1点だけだった。
それに気づかされると、自分が悪い、自分はダメだ、自分は終わっていると自責のループが止まらなくなる。
自責ループに入ると手足の痺れがどんどんひどくなっていった。手足の感覚がなくなっていくと、自分が封印されしエクゾディアになったように思えた。
終わらない自責に耐えかねて涙も止まらなくなる。次第に脳が疲れてきたのかいつの間にか眠ってしまっていた。
起きると何も状況が変わっていないことに絶望する。その時はテレワークだったので、ベットと机の職場は1秒足らずで着くがその間の空間で何度もえづくようになっていた。

会社のカウンセリングで相談

流石にこれはおかしい。身体にまで影響が出てるなら誰かに相談した方がいいかもしれない。そうして藁にもすがる思いで会社でやっているカウンセリングを受けることにした。
一応、上司にカウンセリングに受けることを伝えると、
「別にいいけど、そんなことも仕事は改善されないと思うよ。」
と一蹴された。
仕事どころじゃない身の危険を感じるから相談するというのに、伝わらなかったのだろうか。若者がバンバン精神疾患で休職する中で、このようにその辛さが全く理解されない一面もあることを思い知った。

カウンセラーの方に自分の状況を話すと、まず仕事を休んで医者に相談しましょうと言われた。なぜだか仕事を休むという発想がすっぽり抜け落ちていて、その手があったかと安心した。
本当に危なくなる前に会社にメンタルヘルスに逃げ込むというのは、自分ながら最良の選択だったと思う。仕事は全然できないのに、こう自分自身を守るように動けるのは上手いんだなと少し笑う。

実はその頃には、そのPJから抜けることになっていた。
上司のさらに上司に相談して、こんなにできないやつは離脱してくれと決まっていたらしい。半年間楽しく過ごしていたのに、1ヶ月でこうも判断されるんだな。ただ、それもあってか休職することは自体は問題なかった。

最後の仕事

プロジェクトから離脱することが決まり、上司から最後にこんなことを頼まれた。
「詳細設計書の記述を協力会社に引き継ぐので、今まで自分のミスを書いて相手に引き継げるようにしてほしい。明日の朝確認するから。」
一瞬目の前が真っ暗になった。これまでミスというものにこれほど悩まされてきたのに、この期に及んでまだミスに向き合わさせるのか。
「もう無理です」と言葉にしようとしたが、口がパクパクして音が出てこない。手足がぶるぶる震え、吐き気も止まらない。
上司にできる?という言葉に「はい…」としか答えられなかった。

真っ白のエクセルに自分のミスを書き込もうとする。
「フォーマットが統一できない」、「誤字脱字が多い」、「一度したミスを繰り返す」、「自分のミスに気づけない」、「こんな簡単なことすらまともにできない」、「上司に呆れられる」、「なにもうまくできない」、「ただただ情けない」
自分のミスはだんだん自分への中傷に変わってきて、手が止まった。
もうこれは懲罰になる。できませんと上司に言おう。

朝のレビューで上司に引継ぎができないことを説明した。
そのときに自ずと出てきたのは、今まで半年間それなりに楽しく接してきた上司との関係を歪めてしまったことへの謝罪だった。
自分なりにこのPJのことが好きで続けていきたかったのにこのようなことになってごめんなさい、自分のせいであなたをイライラさせてしまってごめんなさい、こんな情けない姿を見せてしまってごめんなさい…
そう言ってる内に涙がボロボロと出てきた。テレビ通話なのに嗚咽が止まらない。流石にその様子を聞いた上司はうろたえていた。とりあえず引継ぎはもうしなくていいからゆっくり休みなさいと言われた。

その後は、目を腫らしたまんま本社に向かわなければならなかった。
今まではプロジェクト上の上司とのやり取りだったが、自分には別に組織上の上司もいる。(当時、社内派遣的な立場にあった。)
組織上の上司に状況を伝えることになっていた。
こんな泣いた後にと思いつつ本社に向かった。
その上司に今までのことを伝えると、まずはゆっくり休むようにと言われた。次にその人も会社が嫌で休んだ期間がある、そういう期間は必要だと優しく諭してくれた。上司といっても本当に幅がある、ひとまず休む前に話せたのがその人で心底安心した。

会社の帰りに100円で一曲歌えるような個室カラオケで尾崎豊の「僕が僕であるために」とウルフルズの「暴れだす」を歌ってきた。
それだけじゃあ物足りず、休職始まりでどうせなら脳を吹っ飛ばそうと「スパイダーバース~アクロスザスパイダーバース~」を観に行った。もう3回目の鑑賞だ。何回観ても飽きないよな、スパイダーバースは。

適応障害と診断

精神疾患になって多くの人が絶望するのは、精神科の予約の取りづらさだ。自分もカウンセリング後に予約しようとしたが1ヶ月後と言われてしまった。
別の病院に電話して、そこは2週間後に受診できると言われたので、いくらか休んだ後行くことにした。

精神科の先生に今までのことを話すと、適応障害と判断した方がいいねと診断された。今の自分は一旦仕事から離れることでよくなるように見えるからと。それで仕事から離れても辛い状況が続く人はうつ病として診断されるそうだ。うつ病の一歩手前が適応障害の位置になる。

とりあえず当時よく眠れなかったから睡眠薬だけ処方されて、診断書を受け取った。しばらくは、精神科と会社のカウンセリングで様子を見るとのことだった。
こうして自分の休職生活がスタートした。

上司を嫌いになれなかった

この一連の流れで一番辛かったのは、このPJを続けたいという思いはあったし、追い詰められた上司を嫌いになれなかったことだった。
以前のようなもっとひどいPJや上司とあたっていたなら、こいつらと離れて清々したと離脱できた。
でもそうじゃなかった。少なくともその上司は自分を育てていこうとしていたし、業務も無理ないペースで与えていた。
そんな上司を追い詰めさせてしまったのは自分のミスが原因だ。
自分は前々からテンパってしまうとミスが増えてしまう傾向にあるので、ミス自体は責めることもないかなと思うが、あの時もっと早く相談していればという後悔はずっと持っている。話の分からない人じゃないんだ、早い段階で相談していれば改善の方法もあったはずで、違う分岐があったんじゃないか。
でも時間を巻き戻して行動することはできない。できるのは今どうするかということだ。幸い上司に早めに内に相談しておくというのは、今は実践できている。自分の弱音を毎回ちゃんと受け止めてくれている今の上司に感謝しつつ、直せる所は直していこう、自分を責め過ぎずに。

教訓「相談しよう」

この連載のマニュアル要素として言えることは、
臆せずに相談していこうということだ。
辛くなったらまず誰かに話すことを考える。
家族でも友人でもいい、でもできるなら身内だけではなく相談事にある程度長けたプロに一度話した方がいいと思う。自分の気持ちを整理するという意味ではカウンセラーが一番適している。
その後ある程度問題がまとまった状態で、問題を抱えた学校や職場で相談するといい。気持ちを整理せずに打ち明けることを自分にも相手にもよくないかもしれない。
現場の人に話すことは大変である。そもそもまともに掛け合ってくれない人だっているだろう。でも、なんとなく話を聞いてくれそうな人を見極めて話すと案外いい方向に向くことだってある。
胸の重い責任が、自責に向いても、他責に向いても自分の中に存在する限り解消されることは難しい。それを誰かに開くように心がけるごとが最初の一歩だと思う。そうすれば責任をだれでも・どこでもない所にもっていけるのだ。

次回予告

やっと適応障害になるまでの経緯を書くことができた。(週1投稿はほぼほ続けられてないよね…)
8月後半は夏風邪をひいたり、それがシームレスにコロナっぽい症状に移行したりで散々な日々を過ごしていている。
こんなに具合が悪い状態で、重い文章を書けばさらに具合が悪くなるんじゃないかと思いつつ、書いてみたらいつも通り無呼吸連打の如く書くことができた。

書いている間もなんでこいつはこんなに情けないんだと何度も思った。もっと適応障害になるエピソードなんて理不尽さな目にあってもよさそうなのに、ミス連発でPJ離脱て…
でもいいんだ、過ぎたことだし。

次回は、この件を踏まえて「仕事ができない」を掘り下げていくか、実はこの同時期に起こっていたマルチ商法に騙されかけるエピソードのどちらかを書く予定だ。
後者なら、仕事のこと考えるの面倒で後回しにしたんだと思ってほしい。

ほんじゃ。


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