熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
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地下水や河川水などの利用権は土地の所有形態や占有関係と結びついており、近年は「テクノロジー企業と水利用」の問題が生じていると、水ジャーナリストが警鐘を鳴らす
人類は古くから、水を引き、貯め、流し、分けることで社会を築いてきた。つまり「水を操る」という行為は、人間が手放すことのなかった本質的な営みのひとつである――。 【動画】「実は嫌だった?」... TSMC熊本進出の「本当の狙い」とは?? 『水の戦争』(橋本淳司・著、文春新書)の冒頭にそういった旨の文章を見つけたとき、自分は水を身近な問題として意識していなかったのではないかと感じた。恥ずかしながら、水のことを意識する機会は、雨の降らない日々が続いたときに水不足を心配するとか、その程度に限られていた気がする。 だが水専門のジャーナリストである著者によれば、渇水や洪水などの不安定な状況に対処すべく「水を操る」という行為は発展してきたわけであり、その一方で水はしばしば、争いの火種にもなってきた。 本来は共有の資源である水を誰かが恣意的に扱えば、他者との摩擦が生まれる可能性があるわけである。 また近年は、「テクノロジーと水利用」という問題が浮上しているという。AI、半導体、クラウドなどのテクノロジー企業にとって、水はなくてはならないものだからだ。例えば半導体が、製造の過程で大量の水を必要とするのは有名な話だ。 そして、そんな状況下で深刻な問題になっているのが土地と水の関係だ。 地下水や河川水などの利用権は、土地の所有形態や占有関係と深く結びついているという。多くの水は地面の下から汲み上げられたり、土地を流れる河川を利用したりと、「土地を経由して使うもの」だからである。 つまり水の流れを把握するには、水が流れる地形や土地の所有・利用形態を理解しなければならない。水と土地との関係性は、水資源に頼らざるを得ない産業や企業にとって無視できない考え方なのだ。
TSMC進出で沸く熊本は生活用水の8割が地下水
現在、日本において、外国資本による土地取得が静かに進行し、問題化してもいるようだ。土地を買い、その場所にある水資源へのアクセスを確保しようとする動きがあるということである。 ~~~ なぜ森林の買収が水資源への懸念と結びつくのでしょうか。それは、日本では土地を取得すれば、原則として地下水や温泉の自由な利用が認められているからです。つまり、土地の所有権には実質的に水資源へのアクセス権が含まれており、結果として「水の支配」が土地取得によって可能になるという制度上の構造が存在するのです。(145ページより) ~~~ 2021年には、台湾の半導体大手・TSMC(台湾積体電路製造)が熊本に進出して大きな注目を集めた。熊本県では生活用水の約8割が地下水でまかなわれ、地下水の管理や保全の取り組みも進んでいる。つまり、半導体製造には理想的な環境なのだ。 TSMCの本社がある台湾では慢性的な水不足が続いており、水に恵まれた熊本への進出を決断したという事情もあったようだ。 ~~~ TSMCの進出は、熊本の地価上昇や雇用拡大を通じて地域経済に明確な影響を与えています。かつて「シリコンアイランド」とも呼ばれた九州は、長らく産業の空洞化に悩まされてきましたが、TSMCの進出を契機に、熊本は再び「半導体バブル」に沸いています。(148ページより) ~~~ とはいえ、テクノロジー企業の誘致を手放しで喜ぶわけにもいかないと著者は警鐘を鳴らす。日本の年間平均降水量は世界平均の約2倍にあたるというが、地形が急峻であるため多くの水が短時間で海へと流出してしまう。また、人口密度の高さを考慮すると、1人あたりの水資源賦存量(理論上、人間が最大限に利用できる水の量)は世界平均の約半分に過ぎないそうだ。
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