どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
今度からこういうことする時はおまけ集でやります。棲み分けもできない作者で本当に申し訳無い。
「柚葉、大丈夫なのだわ?」
「うん! 全然平気!」
無傷で笑顔を浮かべてみせる柚葉を見て安心したようにレイピアを生成するアリスの心に満ちる決意。この怪物を倒し、親友と生きるのだ。
儀玄に続いてトリガーが構えたその時、狩人が歩み出た。全員がその背中に目をやり、そして絶句した。アリスは赤面し、アキラは苦笑した。柚葉は口を手で塞いだ。ぽつり、と儀玄の口から声が漏れる。
「裸……!?」
一糸纏わぬその背中は、余りにも逞しかった。ゆっくりと地を踏み締めるその足は、余りにも雄健であった。全裸に素手の上位者が、プリケツを揺らして一歩一歩と歩みを進める。
それに対するは同じく全裸の怪物、「ミアズマ・フィーンド」。またの名を「白い髪の女幽霊」である。
古狩人が消えたこの時代に存在するあらゆる次元のあらゆる狩人たちには、共通して一つの習性があった。
──脱ぐ。裸の人間を見ると、本能的に自身も裸となるのだ。通称「ヤーナムルール」、もとい「ヤーナムマナー」として現代狩人には知られている。
実際にはフィーンドは人ではないが、その姿は狩人の本能を刺激するには十分に人らしかった。何故初対面では脱がなかったのだろうか。
フィーンドもその気高き意志に呼応したのか、おもむろに剣を投げ捨てた。ゆっくりと、互いが距離を詰めていく。
「何が始まるというんです?」
困惑するトリガー。自身のエーテルサイトが狂っていないことを理解してのことである。幻覚では無いのか、この光景は。
では何故だ。何故この男はエーテリアスを前にして突然服を脱いだのだ。そして何故エーテリアスも武器を捨てたのだ。謎が謎を呼ぶ。トリガーは頭痛を覚えた。
しかし、もはや手出しする者は無かった。一対一の神聖なる闘いに口を挟むことの愚かさを、既に皆心で理解していたのだ。
狩人が構える。それにしても全裸は珍しいな、と考えながら。基本的に、皆脱いでも下着は履くものなのだ。おかげでこちらも「三本目の臍の緒」を晒すこととなった。
余りに煩い静寂。キスが出来そうな程身体を近づけ睨み合うと、今度はお互いゆっくりと部屋の端まで下がっていく。
狩人が両の拳を固く握りしめる。右半身を後方へ。片やフィーンドも背中の腕から力を抜き、二本の腕のみを顔の前で構えている。
双方呼吸を整える。首を鳴らし、迫りくる死闘に身体を覚悟させていく。緊張が限界に達したその時、遂に両者が動き出した。
両者一直線に突っ込みあい、距離を詰めるなり互いの右拳が頬を掠める。左を躱す狩人。カウンターにカウンターで返すフィーンド。そうする内、両方が同時に最適解を導き出した。
双方、がしりと左手で相手の首を掴む。するとどうだろう、間髪置かず、なんと両者一切の防御と回避をかなぐり捨てて殴り合い始めたではないか。
瞬間、熱狂がホールを包みこんだ。アキラもアリスも儀玄も、そしてトリガーも、目の前で繰り広げられる熱い激闘に脳を焼かれた。柚葉も例外ではない。
ガードはしない。避けもしない。ただその拳に魂を乗せ、相手の左頬目掛けてぶっ放すのだ。心地の良い一定のリズムを刻み、一歩も引かずに殴り合う。
リゲインにも限界があった。狩人の顔はもうパンパンに腫れ上がっている。一方ミアズマフィーンドも流石に筋力99の上位者に殴られるのは効いたらしく、いつの間にか着けていたマウスピースが吹っ飛んだ。
再生が追いつかない。両者の顔がスズメバチに喧嘩を売った後のようになった時、突如狩人が誉れを捨てた。左手をポケットに突っ込む。次の瞬間。
「はっ?」
儀玄が呟くと同時に、フィーンドの頬に鉄の塊がめり込んだ。鋭い歯が口から飛び出していく。
「なんて卑怯な……」
トリガーですら言葉を失った。スナイパーという身分の性質上、姑息な手段を取ることは彼女にとってさして珍しいことではなく、そもそも遠距離から狙撃すること自体あまり正々堂々と呼べるものでは無い。彼女もそれは分かっていた。
しかしこの男、先程まで素手で誇り高く戦っていたというのに、自身の怪我が深刻になると途端に武器を取り出した。何たる卑劣さであろうか。あまりの軽蔑に、トリガーは一瞬狩人へ銃口を向けた程である。
そうしている間も、狩人は虚を突かれたフィーンドに体勢を整える暇を与えまいと絶え間なく文字通りの鉄拳を叩き込んでいる。お遊びは終わりである。誉れはヤーナムで死んだのだ。
ガラシャの拳。圧倒的な質量によるその一撃は、いとも容易く獣を怯ませる。一発一発が容赦なくフィーンドの皮膚にめり込んでいく。が、しかし。
「……なんというか……全然効いてなくないか?」
儀玄の呟き。皆が頷いた。確かに鉄の塊、一撃は重たいが、重たいだけでどうにも大した怪我を負わせられていない。どう見てもフィーンドの再生力の方が上である。
それもそのはず、何を隠そうこの「ガラシャの拳」、カスの武器なのである。
威力は低く、血晶も嵌められず、
その上左手武器なのでリゲインも不可能。特にこの狩人の持つそれは何の強化も施していない為、はっきり言って素手で殴ってた方がましなのである。
「ええい、もういいっ」
吐き捨てる儀玄。フィーンドが怯んでいる間に背後へ回り込み、そのどす黒い背中に札を貼り付ける。瞬間、めきりと音を立てて背中の皮が開かれ、真っ黒なコアが現れた。
「回復の術を封じた。もう楽にしてやろう」
Thank you! 狩人が感謝を示すと遂に皆動き出し、トリガーと柚葉の弾丸が怪物の身体を貫いた。柚葉のレイピアもそれに続いた。狩人もひたすら鉄拳をお見舞いしている。
目を塞いだまま射撃を行う彼女に、しかし狩人は大した違和感を抱かなかった。ガスコインも同じことをしていた上、そもそも前が見えなくなる狩人装束などいくらでもあるのだ。
ブルルルルルルッッッッルルルルルルルン!!!!!!!!
問題はその身体の揺れ方である。尻にゼリーでも詰めているのだろうか。射撃の度にぷるんぷるん揺れる。
狩人は人形ちゃん一筋であるため興奮はしないが、流石に目を奪われる。人体があんな動きをするところを見たことが無かったのだ。
ガラシャの拳、その圧倒的な重みに怯まされ続け、哀れにも一方的にボコボコにされるミアズマ・フィーンド。業を煮やしたのか、突然高所まで飛び上がり、なにやら力を溜め始めた。
あれはっ、とアキラが声を上げる。すぐさま考えを巡らし、これからあの怪物が行うこと、そしてその対処法を編み出した。皆、聞いてくれ、とアキラが叫ぶ。
「赤い円形の攻撃を誘導して飛剣が残した『ミアズマの沼』を爆発させて、ミアズマ・フィーンドが『ミアズマの沼』を吸収してミアズマシールドを回復する行動を止めるんだ!」
????????? 困惑がホールに充満した。アキラ自身どころかミアズマフィーンドですらぽかんと口を開けている。何を言っているのだこの男は。
一瞬の間を置いて、狩人たちに向かって何本かの小さな剣が飛んできた。皆避けた為無事であったが。
地面に刺さるなり爆発を起こし、あまりに毒々しすぎる紫色の沼を作り上げる飛剣たち。意外なことに、踏んでも遅効毒が身体に回ることは無かった。
狩人の足元に赤い円が生まれた。なんだこれはと呆気にとられている狩人を、突如巨大な一本の飛剣が貫いた。また腹である。
──沼が消えた。なんとなく何をすれば良いのか理解した柚葉たちが再び動き始める。小飛剣を避け、そこから生まれたどミアズマ沼に大飛剣を誘導し吹き飛ばすのだ。
「GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
フィーンドが甲高い叫び声を上げながら空中へ飛び上がる。絶対に不味いと生存本能を刺激され全力で部屋の端まで皆が駆けると、案の定フィーンドの周り一帯は斬撃の嵐に飲み込まれた。
これで終わりだ。嵐が止むなり怪物に駆け寄り、拳と神秘を浴びせかける儀玄。余りにも呆気なく、怪物は消滅した。怪物と目が合った一瞬、儀玄は少し悲しそうな顔をした。
「ここだよ!」
オブスキュラ、棺のようなそれの中に隠れていた全ての元凶であるフェロクスを引き摺り出す。顔を見るなり狩人が思わずガラシャの拳を振り下ろして顔面を陥没させてしまったが、幸か不幸か致命傷には至らなかった。
立ち尽くす柚葉にアリスが駆け寄る。「これ、返すわ!」と無理やりにヘアピンを胸に押し当てる。
「いいよ、だってあなたの……」
「いいから!」
貴方と私で生きてくの! はぐらかしたら承知しない! 叫ぶように言うアリスの声は震え、涙ぐみ、顔は俯いていた。「アリス……」と柚葉の目が驚きに少しずつ見開かれていく。
「だから、二度とあんなこと──」
「うん。約束するね」
柚葉が思い切り抱き締めると、アリスはとうとう声を上げて大泣きし始めた。笑顔を浮かべるアキラ達。彼らの友情を引き裂けるものは、きっともうこの世には存在しないのだろう。
オボルス小隊の残りもやってきた。現在の狩人より露出が激しい服を着た青髪の小女と、意味が分からないくらいアンビーに似ている女、そして尻の辺りから機械の生えた女の三人である。
彼らは施設に設置された爆薬を処理していたのだ。捲れた自分の背中の皮を被った細身の怪物に襲われていたらしい。炎で炙ったところあまり苦戦せずに戦えたそうだが。
「貴公、正気かっ。何故そんな格好を」
「お前の言えたことでは──おいピコピコさせるな、ふざけてるのか!」
青髪の小女こと「シード」の服装を見た狩人の言葉に、女の腰から生えた銃のような機械「鬼火」が返す。戦いの興奮により、狩人の大砲はいきり立っていたのだ。まともな生殖能力はない癖に哀れなものである。
「わあっ、鬼火隊長! あの人足が三本あ──」
「黙れっ!」
鬼火に怒鳴られるシード。すぐさまトリガーに両目を手で塞がれた。鬼火を腰から生やした女「オルペウス」も自身の目を塞いでいるが、好奇心を抑えきれず指の間から覗いていた。
皆、その特大剣のサイズに恐れをなしていた。人種の違いというやつである。アキラは狩人を「さん」付けで呼ぼうか迷った。
「まあ、なんだ、その……流石にもう服を着ろ」
額に手を当てた儀玄が呆れた口調でそう言うと、やっと狩人は服を着たのであった。突如露出率がほぼゼロになる狩人に驚く小隊の一行。
「柚葉っ、柚葉ぁっ!」
「ちょっ、真斗! 苦しいってば!」
ああっ、すまねえ。数時間後、帰ってきた柚葉に思い切り抱きつく真斗。怪我が酷かった為待機させられたのだ。獣の膂力に締め付けられ柚葉はとても苦しそうである。
「讃頌会……讃頌会……冒涜的殺戮者……貪欲な血狂いどもめ……」
笑みを浮かべていた狩人が一転、顔を険しくした。とても見たことのある魚人が歩いている。
あれはと柚葉に聞くと、あのゴースらしきものの刺身を食べた連中に、実は一人だけ生き残った者がいたらしいのだと答えた。
「奴らに報いを……母なる
言ったな? 狩人は魚人を殺すかどうか悩んだが、まあ実害が出てからで良いだろうと考えることを止めた。
真斗とアリスに挟まれ笑う柚葉を見て、狩人はふとあるものを取り出した。真っ白に洗われたリボンである。
渡すかどうか狩人は迷ったが、結局懐にしまってしまった。オルゴールならともかく、豚の尻に入っていたリボンは流石に嫌がるだろうと考えたのだ。あまり縁起も良くない。
なにより、きっと非対称になってしまう。アリスが黙ってはいないだろうとひっそり笑う狩人。
更に数週間後、狩人はビーチに居た。ファンタジィ・リゾートである。柚葉達に誘われ、この際だからと海アレルギー克服も兼ねてやってきたのだ。
「狩人、その人は……」
「どうだ? 美しいだろう!」
視線を上げるアキラの目の前で胸を張る狩人の隣には──人形ちゃんが居た。上位者パワーを鍛えていたのが報われたのだ。
上位者の力により、夢の外でも動けるようになっている。人形の身体だが、機械人が当たり前のように彷徨くこの街で気にする者も居ないだろう。危険に晒された際即夢に戻れるよう、加護を与えてある。
人形ちゃんはウッキウキではしゃぎまわっていた。生まれて初めて夢から出たのだ、当然であろう。真っ白なワンピース型の水着を纏い、大きな麦わら帽の下で太陽のように笑っている。
彼女が初めて水着を着てきた際、狩人は即死した。発狂死である。あまりに美しい御姿に脳の瞳が焼かれたのだ。
「ど、どうもっす……はじめまして」
「はじめまして、狛野様!」
狼狽える真斗。自身と視線を並べられる女性など初めて見たのだ。柚葉とアリスも呆然と人形ちゃんを見上げている。
狩人もショートパンツ型の水着を履き、ばしゃばしゃと水辺でローリングをして遊んでいる。人形ちゃんは柚葉達に連れ去られみんなで楽しく浮輪に浮かんでいた。
浮輪か。それなら自分でも浮かべるかもしれないと狩人は最寄りの店で浮輪を買った。遊んでいる皆におういと声をかける。
「ああ、狩人様! 来てください、冷たくて気持ちいいですよ!」
「待ってくれ人形ちゃん今──」
ばしゅんっ。膨らませた浮輪を水に浮かべさあ近づこうとなったその時、足が浮くと同時に狩人が水中に「吸い込まれた」。
「狩人様!?」
慌てる人形ちゃん。泳いで寄ってみれば、狩人は既に夢に溶けた後であった。水の克服には暫く時間がかかりそうである。イカなのに。
水鉄砲で撃ち合う遊びを、狩人は大いに楽しんだ。というか、無双した。ヤーナムステップが強すぎるのだ。「あなただけガチすぎ」と柚葉が腹を抱えて笑っていた。
狩人が柚葉達に泳ぎを教えられるも、一向に改善の兆し無し。水がびっくりするほどしょっぱかった。疲れた人形ちゃんがパラソルの下で休憩していると、狩人の盟友が彼女を見つけた。
「おや、カリンではないか。貴公らも来ていたのか」
「あっ、狩人さん!」
狩人が海から上がった頃には、カリンは人形ちゃんにたかいたかいをされ、見たこともない高所からの視界にきゃっきゃきゃっきゃとはしゃいでいた。
カリンはスカートのついた紺色の水着を来ていた。肩まで覆うそれは、傷を隠す為のものである。
「この方が、狩人様の『Brother』で間違いないのでしょうか」
「ああ、そうだとも」
狩人の想定していた通り、人形ちゃんはヴィクトリア家政とは中々馬が合った。特にリナとはずっと昔からの知り合いかのようにお話をしている。
ライカンは真斗と同じ理由で一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの丁寧極まりない態度へ戻った。
「あれ、狩人じゃん! 久しぶり〜」
悠真まで! 狩人と同じような水着を着ていた。友人達と想い人に囲まれ、狩人は幸せに包まれた。二人でビーチチェアに腰掛ける。
やはりというべきか、病弱である彼の身体に盛り上がった筋肉は殆ど見られなかった。水に濡れて輝く腹と腰は女と見間違える程細かった。
但し、背中と肩は他と比べるとがっちりとしていた。弓を使っていると自然に鍛えられるらしい。
酒缶を開け、一気に飲み干す。悠真は小分けに飲んでいた。「イッキは危ないよ」と言っていた。馬鹿め、上位者が酒に酔うものか。
「アッハハハ! 顔真っ赤じゃん!」
悠真が笑った。馬鹿な。ビール一杯で酔うはずが。でも確かに炭酸無かったなと狩人が自身の手に握られたそれを見てみると、デカデカと書かれた「DEATH NITRO-FUEL」の文字と骸骨の絵が。
最悪である。酷い頭痛に襲われる狩人だったが、一旦夢に変えるとすぐに酔いは治った。新しいライフハックである。悠真が飲んでいたのは普通にビールであった。
「『パエトーン』様! 待ってください! 待ってくださいなのです!!!!」
「うぁぁぁ」
ふとアキラの方を見やると、彼の腹筋を前に理性を木っ端微塵に破壊されたビビアンが鼻血を垂らしながらアキラを追いかけていた。さぞ良い運動になることであろう。
……柚葉が助けに入った。傘同士で鎬を削っている。なんだかとても面倒くさそうなので狩人は放っておくことにした。
あっという間に、楽しい時間は過ぎていった。皆と少し離れたところで、ビーチチェアに腰掛ける人形ちゃんと狩人。赤い太陽が水平線に飲み込まれてゆくのをぼんやりと二人で見つめる。
ふと、「なあ」と狩人が呟く。なんでしょうかと人形ちゃんが返す。
「……外は、楽しいか。自由は楽しいか」
「はい。とても」
そうか。そう言うと、再び暫くの静寂が訪れた。遠くの方では、まだアキラ達や知らない子供達の笑う声がさざ波に混じって聞こえてくる。
「なら、良いだろう。自由に生きると良い」
人形ちゃんが身を起こす。良いのですか。声は大きかった。当然だと狩人が返す。ずっと、ずっと彼女に与えたものなのだ。
「これが私の我儘なことは分かっている。だがな、人形ちゃん」
お願いだ。どうか、幸せになってくれ。永遠にも思える時間が流れた後、ぷっと人形ちゃんが噴き出した。分からないのですか、と続ける。
「私はもう、幸せですよ」
人形ちゃんが笑ってみせると、とうとう狩人はめそめそと泣き出した。どうして貴方が泣くのですかと人形ちゃんはまた笑った。
「そうか、そうか。良かった。それは良かった」
啜り泣く嗚咽と明るい笑いを照らす陽光は、どこまでも優しかった。
まだオボルス小隊編やれてないので次章書くのは大分先の話になると思います。気長に待って下さると幸いです。失踪はしません。