「迷惑かけたくない」葬儀せず火葬のみの「直葬」が急増 費用や手間…「家族が満足できれば」
待ち合わせ場所に指定されたのは、京都府内のある火葬場の前だった。80代僧侶は、見知らぬ人の戒名を刻んだ白木の位牌(いはい)を持って向かった。到着すると、親族10人ほどがひつぎを囲んでいた。 【写真】直葬で僧侶が最後の読経をする告別ホール 「身内がちゃんといるのに、葬儀をせえへんのか」。驚いたが口にはしなかった。ひつぎの上に位牌を置いて5分ほど読経し、謝礼を受け取って帰った。 通夜や告別式など儀式をせず、自宅や安置所から遺体を直接火葬場に運び、火葬する形式の葬送「直葬」。この僧侶が葬儀業者から直葬の依頼を受けたのは、1年ほど前のことだった。 事前に故人の名前や年齢が書かれたファクスが送られてきて、最も“安価な”戒名を付けるよう指示された。普段の告別式では20分以上読経し、故人の思い出やお経に込められた意味を遺族と分かち合う。「心を込めて亡き人を見送るという信条と反する。二度と受けない」と心に決めた。 だが、この1年間で、数件の檀家(だんか)から直葬での読経を依頼された。「きちんとした家でも直葬をする世の中になってしまった」と時代の変化を実感したという。 ◇ 京都府内の80代僧侶にとって、直葬そのものは珍しくなかった。何十年も前から、行政の依頼で、身寄りのない人や生活保護の人の最期を直葬で見送ってきたからだ。「直葬はいわゆる『福祉葬』で、身内がいる人がするものではないと思っていた。この風潮が広まっていいのだろうか」と戸惑いを隠さない。 直葬は火葬式とも言われ、ここ数年、認知度や需要が高まっている。各葬儀業者が、儀式をしない簡素さや、費用が十数万円程度という低価格を打ち出している。今春、京都新聞が行った葬儀に関するアンケート調査でも、自らの葬儀に直葬を希望すると答えた人は2割。過去に身内などで直葬を経験した人は数%しかおらず、注目度が急に上がっていることが分かる。 晩婚化や非婚化で、独りで最期を迎える人が増えているという実態を反映しているのだろうか。 「家族が満足できれば、葬儀はどんな形でもいいと思う」と話すのは、京都市山科区在住の団体職員の女性(55)。昨秋、和歌山県に住む叔父が心不全で亡くなり、直葬を経験した。 叔父は1人暮らし。近くに住む叔父の弟が様子を見に行くと、風呂場で倒れ、すでに息を引き取っていたという。弟から女性に連絡があり、「こっちで直葬するから、京都から来なくていい」と言われた。
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