どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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戦闘回です。アクションは苦手。


裏切りとは、感心しないな……

「お前が、我が血族の一員だと……!」

 

 腰を抜かしたまま歯ぎしりをするのはハルトマン。名家の末裔であり、次期当主。少なくとも、数十秒前まではそのはずであった。

 

「ああ、そうだとも。殺し損ねたな。貴公にレイヴンロック家の当主となる正当な権利などない。この俺が、こうして息をしている限りはな」

 

 自らの手で兄弟姉妹を暗殺しつくした目の前の外道を見下しながら、ヒューゴが吐き捨てる。ちょうど、ビビアン達が追いついたところである。

 

「その男を殺してはダメだっ! まだ聞き出さねばならないことが──」

 

「断る。この男を殺して初めて、後顧(こうこ)(うれ)いを断ち切れるというものなのだ」

 

 声を荒げるライカンに視線を向けることすらなく、ヒューゴが返す。彼の裏切りが本物なのだと確信し、静かに傘を握りしめるビビアン。その顔は傘に隠れ、ヒューゴの目には映らなかった。

 

 続けて、彼が語った。既にTOPSには手を回しているのだと。彼らに地位を引き上げてもらい、ゆくゆくは頂点へと上り詰め、全てを変えるのだという野望を。世に公平をもたらすのだという正義を。

 

「……サクリファイスの襲撃を許せば、多くの人が犠牲になるんだぞ」

 

「承知の上だ。全く、遺憾なことだよ……」

 

 ヒューゴの顔に(かげ)りが見えるも、だがそれが手を止める理由にはならないと向き直す。ライカンを真っすぐ見つめるその表情に浮かんでいたのは、確かな決意であった。

 

「勝利を末永く確固たるものにする為には、古い血肉を切り取る痛みに耐え、夜明け前の最も深い闇と向き合う必要がある!」

 

 高々と宣言するその真に迫る様は、狩人達には演説にすら見えた。

 

「……だから俺は、あらゆる罪業を背負い、深淵そのものになる」

 

 演説を締める彼の様子が、もはや説得など不可能だと皆に伝えていた。ヒューゴがスーツケースを鎌へと変形させる。後を追うように、アンビーの得物も二振りの刀へと姿を変えた。

 

 夕暮れの中、ヘリ用の「H」の字を挟んで睨みあう。アキラとハルトマンを除いた皆が各々に構えを取ると、嫌な硬直が屋上を覆った。

 

 己の右側で鎌を低く構えたヒューゴが、その腕に全身の力を込めていく。高所特有の強い風が頬を打ち、ひゅうひゅうと耳の中で渦を巻いていた。

 

 止まった時間を裂いたのは、凍てついた鎌、そして飛ぶ散弾の雨であった。

 

 弾丸を躱しながらでも、彼の縮地は常軌を逸したものだった。少なくとも、狩人の目には瞬間移動として映った。

 

 そのまま、大鎌での薙ぎ払い。大振りなそれが狩人の首を狙うも、前方へステップ。すり抜けるように背後へと回る。

 

 間髪入れずにヒューゴへ散弾が飛び掛かるも、彼は既に身をかわしており、慣性でその場に留まった長髪、結われたそれに幾つか小さな穴を開けるのみであった。

 

 だが、まだ間合いの中だ。狩人がノコギリを振り下ろそうとし──その喉元から、爆発のように鮮血を噴き出した。

 

 なんだ。一体なにが起きた。最初に距離を詰められた時点で喉を裂かれていたのだと狩人が理解する頃には、太ももへ輸血液を突き刺していた。

 

 息をつく暇もなく、ヒューゴの視界端からライカンの足が飛ぶ。目に見えぬ程の攻撃の応酬が始まるも、どちらにも傷一つ付く気配すらない。

 

 鎌を回すようにして蹴りの嵐を受け流しながらも、背中で身を低くしたアンビーと、その右手で揺らめく刀の一閃をヒューゴが見逃すことはなかった。

 

 背後からは二刀を合体させた薙刀での突き上げが、正面からはライカンの踵落としが炸裂しかけたその瞬間、ついにヒューゴが横へ跳ぶ。挟み撃ちにしていた二人が、危うく同士討ちとなるところであった。

 

「お願いなのです! ヒューゴ! まだ、まだ遅くはないのです!」

 

 涙ながらに訴えるビビアンだったが、その片手剣も傘型の槍も、どちらも彼の急所を的確に狙っていた。当然、それを喰らうヒューゴでもないのだが。

 

「ヒューゴ。さっきお前の言ったこと……あれは、本心か」

 

「当然だ」

 

 モッキンバード、二人の青春すべてを「無駄」だと切り捨てた彼の発言を、ライカンはどうしても信じられなかった。信じたくなかったのだ。

 だが現在、こうしている間も彼が手を止める気配は無い。

 

 青白い刃が、狩人の喉を狙う。身を低くしながらの前方ステップで突きを躱す狩人。身を起こすなりヤケ気味にノコギリを振るうも、リーチの差は歴然。鉈状態ですら届きはしなかっただろう。

 

 あと、一歩。あと一歩踏み込めばと思考を巡らせ始めたところで、しかし狩人は全力で危険信号を発する啓蒙に従いもう一度前傾姿勢へと移る。

 

 ほぼ同時に、狩人の頭上で刃が閃く。それは確かに、頚椎と大動脈を狙った一撃であった。

 突いて引く。最初の狩人も常用していた、大鎌での狩りの基本動作である。

 

 前傾姿勢になった勢いで、ステップ。踏み込めた。機構部から火花が飛び散る。リーチを伸ばすノコギリの歯が、後ろへ跳ぶヒューゴの脇腹に喰らいついた。

 

 ぐっと呻きながらも身を捩り裂傷を最低限に留めるも、痛みによる一瞬の判断の鈍りが、背中からの蹴りに気づくことを防いだ。

 

 2、3メートル程吹き飛ばれるも、なんとか受け身をとり立ち上がるヒューゴ。休ませまいと距離を詰めに走る狩人達の前で、彼はただ鎌を握りしめた。

 

 限界まで冷気を溜め込んだ刃を思い切り振り下ろし地面を削ると、ヒューゴは──消えた。

 

 逃げたかと落胆しかけたところで、狩人は己の両足が冷気に蝕まれていることに気が付いた。

 

「糞ったれ。後ろだっ」

 

 狩人の叫びにライカンとアンビー、そしてビビアンが横へ跳ぶと、彼らの踏んでいたコンクリートは瞬く間に青白い氷に包まれていった。

 

 放射状に地を這う冷気はコンクリートからいくつもの鋭い氷柱を生み出し、狩人の両足を一瞬にしてずたぼろの肉へと変えたのだ。

 

 すぐさま輸血液を使った狩人が後ろを見やると、何もない場所から何本もの冷気の放射がその手を伸ばしていた。

 

「周りの空気を……!」

 

 それはヒューゴであった。空気中の光の屈折を冷気によって操り透明となる、彼の離れ業であったのだ。

 

 ヒューゴは鎌を振り回し、至る所へ冷気を振りまいていた。踏める足場を封じれば、リーチの長い自分が有利だと考えたのだろう。

 

 脇腹から滴る血の跡で、場所の見当はつく。だが火炎瓶を投擲したところで焼け石に水である。油すら一瞬で凍るのだ。

 

 それでも、ヒューゴの他にただ一人だけ動けるものが居た。義足に冷気を纏い、透明な彼へと一直線に駆けてゆくのはライカン。近寄ると、彼の姿ははっきりと見えた。

 

 槍にすら見える威力の後ろ回し蹴りを身を捩って躱すヒューゴだったが、そのまま片足で繰り出される乱れ突きには対応しきれず、鎌を盾に後ずさる。

 

 隙を逃さず、左足での遠心力を乗せた三日月蹴り。とっさにヒューゴが構えるも、獣の膂力を相手に人の防御など通用する筈もなく、鎌の柄が胸へとめり込み、その右肋骨の一本をへし折った。

 

「なかなかやるようだな……だが」

 

 冷気を操る余裕を失い屋上の全員に再びその姿をさらけ出したヒューゴだったが、その口角は僅かに上がっていた。

 

「俺にも俺なりの手段ってのがある」

 

 狩人達を置いてヒューゴが走っていった先に居たのは──アキラであった。

 背後から喉元にナイフを突きつけ、人質の完成である。

 

「こういう二択はどうかね? サクリファイスのコアか、最愛の『パエトーン』様か……」

 

 ビビアンは心臓が止まった。そう勘違いするほどであった。

 バレている。戦闘の最中、彼からコアをすったことには、とっくに気づかれていたのか。

 

「……コアは返すのです。だから、『パエトーン』様は……」

 

 顔をしかめながらも、ビビアンはコアを投げ渡した。残念だ、というヒューゴの言葉に、彼女は理解が追いつかなかった。

 

「この期に及んで、俺がまだ約束を守ると思っているのかね?」

 

 アキラの喉元のナイフを、思い切り振り上げる。止めろと叫ぶライカンに、止めてみろと同じ声量で返すヒューゴ。

 

「いい加減、聖人君子ぶるのをやめたらどうだ!」

 

「──!」

 

 ぴくりとライカンが耳を反応させると、ヒューゴはナイフを振り下ろした。アキラの頸動脈に、真っすぐ近づいていく刃。

 

 ぶしゅん。そんな音だったろうか。それはアキラの頸動脈が裂かれる音ではなく、ヒューゴの背中から血液の噴き出す音であった。からん、とコアが地面へ落ちる。

 

 一瞬のうちに距離を詰めたライカンの仕業であった。そのまま腕を抜き、彼を屋上から突き落とす。自由落下していく彼の口は、しかし勝利を確信したような笑みで歪んでいた。

 

 解放されたアキラに、ビビアンが駆け寄る。続いて狩人、アンビーといった順で、その場で暫く立ち尽くしていたライカンは最後となった。

 

「本当に申し訳ないのです……! まさか、あのヒューゴがあんなことをするなんて……」

 

 仲間の、あるいは元仲間の死に打ちひしがれながらも、彼女は謝罪した。彼が最愛の「パエトーン」様に刃を向けた、その事実に。

 

「ビビアンのせいじゃないさ。ただ、彼はあんな衝動的なことをする人でもなかった。何か、裏のようなものを感じるよ……」

 

 つい先程死にかけたというのにもう複雑な思考を始めているアキラに半ば呆れる狩人。

 

 ライカンは確かに彼の心臓を貫いたという。ビビアンはただ、黙って地面を眺めるのみであった。

 

「ハルトマンがいない。コアも」

 

 アンビーの声に皆があたりを見渡すと、あの白いスーツの男はすっかり姿を消していた。コアを掴んで逃げたのだろう。

 

「……Vile lout(情けない糞袋野郎が)……」

 

 吐き捨てる狩人と、立ち尽くすアンビー。誰も口を開けないまま、ただ日が暮れてゆく。冷たい風が吹き付けていた。

 

 ビビアンは、もう一言も発することはなかった。

 

 ……パエトーンの家に泊まり込む事になるまでの話だが。

 

「ほ、ほほ、本当に、良いのですか!?」

 

「もちろん。ビビアンの安全が第一さ」

 

 理由は、彼女自身の安全の為。本人から言い出したことではあったが、まさかここまであっさりと受け入れてもらえるとは思っていなかった為に、彼女の声には明らかな動揺と、確かな歓喜が混じっていた。

 

「でっ、ではソファーで寝させていただくのです! 決して、決して『パエトーン』様に迷惑はかけないのです!」

 

 耳の先まで赤くしながらビビアンがなんとか言葉を放つと「本当にそれでいいの」と後ろからリン、もう一人の『パエトーン』が話しかけた。狩人の背筋を、嫌な予感が突き刺した。

 

「はひっ!? そそっそれは、どういう……」

 

「だ〜か〜ら〜、私のベッドで寝るのはイヤかな〜、って」

 

 ひひんとにんまり目を細めながら、ビビアンの腹へと腕を回すリン。ひゅ、と上擦った呼吸が聞こえた。思わず俯いたビビアンの尖った耳に口を近づけ、リンが囁く。

 

「せっかくお友達とお泊りするんだから、同じ部屋で遊びたいな〜……」

 

 彼女が一音一音を発する度に、ビビアンの脳内には殴られるような衝撃が走っていった。

 

 何か凄く嫌な予感がする。その辺にしておけと狩人が忠告するも、リンがそれを聞き入れる様子はない。

 

「ああっ、そんな、いけないのです、いけないのです!! 私ごときが、そんなっ、あっ、ああっ、ひっ……!」

 

「アキラ、恐らくだが非常にまずいぞ。早く彼女を止め──」

 

「大丈夫かい、ビビアン? なんだか、体調が悪そうだけれど……」

 

 心配したアキラは狩人の言葉を右から左へと流すと、彼女と距離を詰め、その顔を覗き込む。前にはアキラ、後ろにはリン。「パエトーン」様にサンドイッチされる形である。

 

 神様赦してごめんなさい! ビビアンは心の奥底で叫んだ。全身が今にも燃え始めそうな感覚を覚えたが、身をよじろうにもリンにがっちりと腰を掴まれていた。

 

「ビ〜ビ〜ア〜ン……」

 

「ビビアン、本当に大丈夫かい? 具合が悪いなら、ソファーで休むと……」

 

「貴公ら、本当にこれ以上は──」

 

「はひ、は、かひゅっ、ああっ、ひっ! ひぃっ! ああっ! あっ、待っ──あ」

 

!SQUIRT! 

 

 白目を剥いたビビアンは案の定足を震わせ、リンの支え虚しく背骨を抜かれたようにその場で倒れ込むと、口からごぽごぽと泡を吹いて動かなくなってしまった。

 

 べっとりと()()が撒き散らされた床の惨状は言うまでもなく、その耳からは真っ白な煙が吹き出していた。

 

 哀れな小女、尊厳を大切にな。同情に涙を流し、静かに「祈り」を捧げる狩人。救急車を呼ばねば、いやライカンか、電話は2階だと兄妹が慌てふためき階段を駆け上がる。

 

 一階にいる人型生物が狩人とビビアンのみとなると、狩人は立ち上がり、ごそごそとビビアンの様態を探りはじめた。死んでいたら何か貰っておこう。その時であった。

 

A corpse……should be left well alone(死体漁りとは、感心しないわね)

 

 背後からの声。アンビーのものであった。いつの間に、と振り返ると、彼女は既に薙刀を構えていた。一瞬にして、狩人の全身から汗が噴き出す。

 

「待て、待てっ。これは酷い誤解、筋違いというものだ。確かに、死んでいたら漁ろうとは思っていたが……」

 

 「命乞い」の体勢で必死の弁明をする狩人であったが、彼女の耳には届かなかった。彼女から見れば、狩人は倒れたビビアンに跨り身体をまさぐっていた男なのだ。

 

「けど、分かるわ。ビビアンはかわいいもの」

 

 頼むから話を聞いてくれ。過呼吸を起こし腰を抜かしたまま後ずさる狩人を、アンビーはただ軽蔑を込めて見下し、一歩ずつゆっくりと距離を詰めていった。

 

「だからこそ、恐ろしい死が必要なのよ」

 

 きん、と音を部屋に響かせ刀が分かれると、狩人のトラウマが、一瞬にしてその瞳だらけの脳を埋め尽くした。時計台にて待ち構えた、守り人との死闘の光景が。

 

 体勢を崩されては優しく抱き抱えられ、左乳首の毛を毟り取られた忌まわしい記憶。おかげで今でも左側だけツルツルである。

 

「……愚かな性欲を、忘れるようなね」

 

「待て──」

 

 AEDを片手に兄妹が降りてきた時には、狩人はサイコロ状の肉片となってビビアンとアンビーの身体を温めていた。乳首は毟られなかった。

 

 弁明するまで、なんなら弁明した後も4回程バラバラにされる狩人であった。




下ネタばかりで申し訳ない……ビビアンの株下げ過ぎてて申し訳ない……

念の為言っておきますが、この小説内でリンはあくまで異性愛者です。私薔薇の方が好みなんですよね。当然狩人に人形ちゃん以外と恋愛させるつもりは一ミリもありませんが。

「…」使いすぎだなと自分でも思った。便利だから仕方無い。
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