転生先はエーテリアス   作:YEX

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渦巻く感情

side リン

 

あの後、下水道を通って何とか脱出できた...だけど、タンザナイトと柚葉がこの場にいなかったことに驚いた。困惑しているなか、船のライトが照らされ、声が聞こえた....そこにはイゾルデとお兄ちゃんが助けに来ていた....どういうこと?

 

―――あの後、 泅瓏囲まで体を温めながら戻ってくると、お兄ちゃんが心配になりながらも話しかけてきた。

 

「リン、もう体は温まってきたかい?兄弟子が煎じてくれた生姜湯はまだあるよ」

 

「ありがとお兄ちゃん。でもいいかな。もう結構よくなってきたから....」

 

「ああ、だいぶ顔つきがよくなったな。気力も戻りつつあるようだ。そっちで起きたことは、みんなが口々に話してくれたからおおよそわかった。今度は俺たち二人が、適当観であったことを話す番だな」

 

「そっちがミアズマ・フィーンドとかいうのに出くわした頃、フェロクスは適当観にも追手を差し向けたんだ。たぶん、ことが露見するのを恐れて、こっちも抑え込んどこうってハラだったんだろう。だが奴らが適当観に着くより先に、フェロクスの陰謀に気付いたオボルス小隊の人達が来てくれたんだよ。それで俺たちも急ぎ、彼女たちとここへ移動してきたんだ」

 

そうだったんだ...だからあの時通信が途切れたんだ....

 

「すまなかった、リン。なにぶん急だったし、フェロクスの部下達と鉢合わせは避けたかった、それで()()()()()()しか持ち出せなかったんだ。すぐリンとの連絡を復旧させたかったんだけれど、 泅瓏囲に着いてからずっとH.D.Dの接続がうまくいかなくてね」

 

「ようやく繋がったと思えば、今度は『Fairy』から君の信号が時速18キロで移動してると言われて.....イゾルデ大佐が物知りで助かったよ。みんなで地下河川で移動している可能性に気付いてくれたおかげで、すぐに船で迎えに行けたんだ」

 

そうなんだ...ん?ちょっと待って?

 

「イゾルデ...『大佐』?

 

「すまない。とはいえ説明している時間はなかったものでね。私は今でも軍属なんだよ。ポーセルメックス上層部と讃頌会の繋がりを防衛軍は疑問視していてな...よって()()()に調査すべく、こうしてオボルス小隊を率いて衛非地区に来た」

 

「君達に接触したのも、何かしら手がかりを期待してのことだったが...事態がここまで大きくなるのは想定外だったよ。いいか、私達は防衛軍の任務を負ってきているとはいえ、君達を利用しようとしたわけではない。そこは信じてほしい。私も、オボルス小隊の面々も...いずれも血の通った人間だ」

 

「君達が巻き込まれる危険を予め知っていれば、ホロウに入ることを全力で止めていただろうに...」

 

と、イゾルデさんは自分を追い込むような言葉で言ってきたので、私は気分がよくないように感謝の言葉を送った。

 

「ううん、大佐の助けがあったから私たちは真相に近づけたんだもん。そのうえで今回のことは、ホロウの危険を甘く見たのが原因だし...でも、今一番大事なのは柚葉とタンザナイトが――私たちの友達がまだホロウにいるってこと!フェロクスがホロウにある証拠を何もかも消しちゃう前に、あの子たちを助けなきゃ!」

 

「その通りだ、そんなことをさせてなるものか。今日決定的な一撃を与えられなければ...フェロクスの脅威は現実のものとなり、さらに多くの人々の生を踏みにじることとなるだろう。私は『鬼火』と対策を練ってくるとしよう。君は仲間たちの様子を見てきた方がいいんじゃないか?救出計画を立てるのはその後でもいい」

 

イゾルデさんがそう言い、私は兄弟子とお兄ちゃんで話し合うことにした。

 

「はぁ、なんでホロウのミアズマが一向に減らないんだとずっと気になってたが...そうか、あの司教とかいうのがまだいきているからか!」

 

「うん。多分だけど、絶対に背後に何かあるよ」

 

「今まで後ろ盾だったポーセルメックスを急にきるなんて...()()()()()があるとしか思えない。とはいえ、さっき電話で師匠がこのことを伝えてた時も、あまり驚いている感じではなかった。『道理で手ごたえが妙だったわけだ』と言っていたくらいでね」

 

そうだ、司教のことも言ったんだから...あのミアズマ・フィーンドも言ったのかな?

 

「お兄ちゃん、ミアズマ・フィーンドについて師匠に報告したの?」

 

「ああ、厄介な怪物に遭遇したと伝えたら、師匠がすぐに聞いてきたんだ。その怪物は女性の姿をしていたか、と....」

 

あのミアズマ・フィーンドの姿、前から見覚えがあるような気がしていたけど、これなら....やっぱり気のせいじゃなかったんだね。オルカが言っていた当主の記憶から生み出したって....

 

「師匠の推測では、あれだけ強い力を持っているとなると前にデータスタンドに異常が起きたのも、あの怪物たちの誕生が原因だった可能性があるそうだ」

 

「成程....そうだ、他に師匠はなんて?」

 

「お師さんが乗ってる飛行船はもうすぐ衛非地区に着くそうだ。今はとにかく人命を助けることを考えろ、とも仰った。もちろん、大兄弟子や福姐もこっちのことを知ってずいぶんやきもきしてたみたいだが、『二人が戻る頃にはもう決着がついてる』とお師さんが引き留めたらしい」

 

師匠の占いはすごいな...そこまでわかるなんて――確かに、タンザナイトがいるからポーセルメックス達は負けないけど...

 

「残された時間は多くないが、フェロクスも爆破の準備に時間がかかるはずだ。今ならまだチャンスはあるぞ!」

 

「リン、いい知らせだ。H.D.Dの仮設置が完了した、これで泅瓏囲でもホロウ内と通信ができるようになった」

 

ホント!助かる~

すると、潘さんが心配ないと気遣ってくれた。

 

「とにかく、こっちのことは心配するな。真斗くんとアリスちゃんの様子を見て来てくれ」

 

「それと、今日は『トリガー』と『11号』と『ツイッギー』*1も来ている、今の内に挨拶してくるといい」

 

お兄ちゃんがそう言い、私はトリガーや11号、ツイッギーたちと軽く会話したあと、アリスの方へ駆け寄った....

 

「.....」

 

「アリス、調子はどう?」

 

「あっ、リン...」

 

アリスの手には、柚葉が持っていたヘアピンが握られていた.....

 

「大丈夫?さっきからずっと、ヘアピンを握りしめてるけど.....」

 

「私は大丈夫。頭の中にはまだいろいろと渦巻いているけれど、気持ちのほうは少しずつ落ち着いてきたのだわ。つまり、父の死因は交通事故なんかじゃなく、あの研究所の秘密を知ってしまって...?」

 

「お父さんのことは事故なんかじゃないし、もちろんアリスのせいでもない...許されないことをしたのはフェロクスだもん!」

 

「そうね...けれど今私の心を占めているのは、不思議と怒りではないのだわ。父はきっと悪を見てみぬふりできなかったのだと思う....柚葉を助けたのも、最期の最期まで勇敢さを貫いたのも...まさしく、誇り高きタイムフィールド家にふさわしい行いだったのだわ。

 

「だってリン....柚葉は私を水に突き落とした後、こう言ったのだから。『ごめんね、せめて償わせて...』と――でも、私は嫌なのだわ...彼女を助けたのが父だとして、こんな形で恩返しを...いいえ、償うなんてことを...きっと父は望んでいなかったはず。償いをしなければならない人間がいるとすれば、それはフェロクスに他ならない...リン、私は柚葉達を助けるのだわ!そしてこのヘアピンを、絶対私の手で柚葉に返してみせる!

 

「その意気だよ!悪人には、きちんと代償を払ってもらお!タンザナイトだって、柚葉がこうなること薄々感じてここに留まっているもの!」

 

それにしても....なんだかアリス、ちょっと変わった...?軽く話してみた感じ、もう心配しなくてもよさそうだね。

と、私は感心していると、アリスがやる気満々に口を開いた。

 

「そういうことなら、くずぐずしてられないのだわ!そろそろ防衛軍の皆さんと救出作戦の相談をしましょう」

 

「うん!」

 

こうして、私とアリスは急いでイゾルデさん達が集まっているところに向っていった。

 

「全員揃ったようだな。それではこれより、今回の作戦についてのブリーフィングを開始する。要点は一刻も早くホロウへと向かい、フェロクスの計画を阻止すること....そして浮波柚葉くんとタンザナイトくんを、やつのもとから救出することにある。『鬼火』隊長。現在の状況について、オルペウスと共に説明を」

 

『ハッ...諸君、手短に言うぞ。オボルス小隊の現有戦力は、彼我の戦力差を埋めるのに十分なものである。ただし一方で、今回の救出作戦には()()()()()()()()がある。一つ目は、私達が防衛軍であるということ。二つ目は、現場への到達手段だ

 

「み...皆さんご存知のとおり、防衛軍とTOPSの関係は非常に緊迫しています...!自分たちが公然と衛非地区の事案に介入すれば、この関係におおきな混乱をきたすことは避けられません」

 

「つまり、貴方方の身元を隠す方法...あるいは、他に救助を手伝ってくれる人を探す必要があると....」

 

「はいっ。ただ、目下一番厄介な問題は、実は二つ目―――現場への到達手段、なのであります」

 

「?なんでよ、むしろ一つ目の問題が厄介だと思うのだけど....」

 

うぐっ....!やっぱりあれか...

と、心の中で罪悪感がありながらも私は説明する。

 

「実は、あのミアズマ・フィーンドから逃げるために、研究所の近くにあった裂け目を使ったんだけど...あいつが通ってこれないように、爆破してって頼んだんだ.....」

 

「何してんの!?」

 

と、ツイッギーが突っ込んできた。うう、咄嗟の判断だから仕方ないよ....

 

「とはいえ、仕方ない判断だったと僕は思う。『Fairy』と調べてみたけれど、ホロウに連鎖的な構造変化が起きて、泅瓏囲から研究所までの距離は数倍になってくまった。移動にかかる時間を何とかしないと...作戦の成否に影響するかもしれない」

 

「....はぁ、しょうがないわね」

 

「ツイッギー?」

 

「つまり、遠い距離を縮ませればいいってわけね...なら、丁度いいわ。()()()を持ってきたかいがあったのようね」ゴソゴソ..

 

「試作品?....ツイッギーくん、それは一体....」

 

そう言うと、ツイッギーが取り出したのは......な、なんか注射のようなものが取り出したんだけど...

 

「ちゅ...注射器!?

 

「えっと...ツイッギーさん、それは?」

 

「これは弟の細胞から研究して作った薬よ。...これを使えば、一時間ぐらいだけど『ホロウの裂け目を簡易的に作りだす』ことが可能よ」

 

「ほ、ホロウの裂け目を!?」

 

「つまり、タンザナイトの『時空モード』が私達にできるってこと!?」

 

「といっても、()()()()()()を作り出すことに特化させたものだからね...流石に余波や時空なんちゃらとかは流石に無理よ?」

 

いや、それでもすごいよ...どんな科学力してんの?

 

『もしそれが本当なら、特許とかに出せるレベルだぞ....』

 

「す、凄いです!そんなものを作れる技術があるなんて、私聞いたことないですよ!」

 

「でもこれ、試作品だから...まだまだ改良する余地はあるわ」

 

「...あのちなみに副作用は?」

 

「うーんと、一時間後に()()()()()()()()()が来るわ...まぁ少し安静にすればすぐ直るわ」

 

うーん、デメリットが若干低いような感じがするけど...でもいいや、この際ありがたい!

 

「なら、私が使う!私ならエーテルの術にかなり心得があるから、すぐに使いこなせると思うよ!それにタンザナイトからやり方を聞いたことがあるし!」

 

「...そうか、なら決まったな...なら早く救助メンバーを決めるとしよう」

 

「あっ、待って!救助メンバーを決める前にアリス、アンタにやっておきたいことがあるわ!

 

「...えっ私ですか?」

 

と、ツイッギーがアリスを指名してきた....

かくして、準備が整った私たちはホロウへと向かうこととなった...待っててね、タンザナイト、柚葉!!

*1
弟がまだ取り残されていると聞いて駆けつけてきたぞ!




ねじれポイント
ツイッギーが登場、さらに試作品でわりかし速くつく予定。
狛野くんはわりかし軽傷だったので作戦にはいった。

....えっダミアンの件について?それは後々....
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