スルガ銀行「かぼちゃの馬車」事件、借金帳消しは甘すぎやしないか

「投資は自己責任」のはずなのに

そもそも、どんな事件だったのか?

女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」などを巡る投資用不動産向けの不正融資問題について、3月25日、スルガ銀行とシェアハウスオーナーが解決方法で合意した。だが、今回の解決方法について多くの投資会社や投資家からは疑問の声が上がっている。

この問題は「サブリース」という不動産投資手法に起因している。まずは簡単にサブリースの仕組みを説明しておこう。

-AD-

サブリースとは、不動産会社が不動産のオーナーに対して、毎月の家賃を保証する制度だ。賃貸物件を持つオーナーから不動産会社が一括で部屋を借り上げ、入居者を探して又貸しすることで、毎月の家賃を保証する。オーナーは自らが入居者探しをする必要がなく、空室リスクがない上、賃貸物件の運営・管理も行わなくて済む。

このサブリースを使い、女性向けシェアハウスを「かぼちゃの馬車」というブランド名で積極的に展開したのが、不動産会社「スマートデイズ」だった。2015年に「30年間家賃保証」を謳ってスタートした「かぼちゃの馬車」は、年8%以上の利回りを保証していた。

Photo by iStock

当初は順調だった「かぼちゃの馬車」だが、次第に入居率に陰りが見え始め、50%に満たない物件が増加し始める。そして、2017年11月にはオーナーに支払うサブリース賃料の減額が行われ、ついに2018年1月には賃料の支払いが停止したことで、問題が表面化した。スマートデイズは、最盛期には都内で800棟のシェアハウスを運営・管理していた。

しかし、この問題はその後“予想外”の展開を見せる。「かぼちゃの馬車」の賃貸物件のオーナーに、スルガ銀行からの融資を受けて物件を購入したオーナーが多数いることが判明したのだ。スマートデイズがオーナーにスルガ銀行からの融資を斡旋していたことも明らかになり、スルガ銀行とスマートデイズの“深い関係”が徐々に明らかになった。

さらに、スルガ銀行が借り入れ希望者の源泉徴収票や預金残高を改竄したり、契約書を偽造したりする不正融資が横行していたことも判明。実勢価格より高値で物件を買わされるなど悪質なケースもあり、返済に行き詰まるオーナーが相次いだ。

借金帳消し、スルガ銀行は “禊”

2018年2月には、オーナー247名から委任を受けた被害弁護団が発足、2019年9月11日に、被害弁護団はスルガ銀行に早期解決を求める調停を東京地裁に申し立てた。同年11月5日、東京地裁から解決への勧告が行われ、スルガ銀行と被害弁護団を中心に解決方法の検討が進められていた。

そして2020年3月25日、スルガ銀行と被害弁護団は解決方法で合意に至った。その解決方法とは、不動産購入向けの融資と不動産を「相殺」するというもの。つまり、土地と建物の物納を条件に、借金を帳消しにするのだ。

-AD-

具体的には、スルガ銀行はシェアハウスのオーナーに対する貸出債権を第三者(投資ファンドなど)に売却する。シェアハウスのオーナーは、この第三者にシェアハウスの土地と建物を物納することで借入債務を解消する。

実勢価格より高値で物件を取得したオーナーの場合、土地と建物の物納による代物弁済では土地と建物の実勢価格と返済すべき借入金に差額(不足分)が発生するが、この差額はスルガ銀が「解決金」として賠償する。

これにより、オーナーは借金の返済を免れることができる。対象は東京地裁に民事調停を申し立てていたオーナー257名で、物件数は343棟。ローン残高は約440億円となる。

スルガ銀行との合意後、被害者弁護団は、「被害者オーナーが不正融資による債務から解放されることになる」との声明を発表、都内で記者会見した河合弘之弁護団長は「金融史上初の完全救済を勝ち取った」と述べた。記者会見に同席したオーナーの1人は、「つらくて苦しい時間から解放され、ほっとしている」と安堵の表情を浮かべた。

スルガ銀行は2018年9月7日、創業家の岡野光喜会長兼CEOなど、山明広社長ら役員5名が引責辞任。同10月5日には、金融庁から不動産投資向けの新規融資を6カ月間禁じる一部業務停止命令を受け、同11月30日に金融庁に提出した業務改善計画では、「創業家本位の企業風土を抜本的に改めることが改革の前提条件」と明記し、創業家と“訣別”した。

その上で、東京地裁から「不法行為に基づく損害賠償義務が生じる」と認定され、調停勧告に応じることで、この問題に対する “禊” を済ませたということだろう。

救済は不自然ではないか?

だが、この解決には多くの投資会社や投資家から疑問の声が出ている。背景には、事件が持つ “2つの特殊性” がある。

問題の主軸がいつの間にかスマートデイズという不動産投資会社からスルガ銀行による“不正融資事件”にすり替わってしまった点。もうひとつが、この問題はスマートデイズが「かぼちゃの馬車」という商品を使った“詐欺事件”だったのか、それとも同社の単なる“投資の失敗”だったのかという点だ。

-AD-

被害者弁護団の河合団長は記者会見で、「最も悪いのは悪徳不動産業者(スマートデイズ)だが、戦略的にスルガ銀行に照準を合わせて徹底的に戦ったことが勝利につながった」と述べている。

“社会の公器”たる銀行による不正融資が、社会的な問題であることは確かで、不正融資により被害を受けたオーナーが救われることは喜ばしいことではある。しかし本来、この問題で第一義的に責任を問われるべきはスマートデイズであるはずだ。

今回のスルガ銀行との解決策で対象となるのはオーナー257名だ。シェアハウスのオーナーは全体で1258名いる。被害者弁護団は「残りのオーナーに対する救済への取り組みを続ける」としており、スルガ銀行も協力する姿勢を示してはいる。

しかし、スルガ銀行から融資を受けたオーナーだけが救済されることの “不自然さ” には疑問が残る。

「もし、スルガ銀行による不正融資がなかった場合、こうした救済の形はなかっただろう。問題の元凶であるスマートデイズの経営破綻からオーナーが受ける被害に違いはない」(スルガ銀行以外から融資を受けているオーナー)や、「銀行借り入れではなく、自己資金でオーナーになったため、救済措置はまったく望めない」(別のオーナー)といった疑問も声があがっている。

「投資がわかっていない」

例えば、今回の解決策では、借入金の返済免除を行うことでスルガ銀行には損失が発生する。一方、オーナーは借入金の返済が免除されることで利益が発生する。これは「債務免除益」に該当する。

「債務免除益」とは債務免除(借入返済義務の免除)等によって債務(借入)が消滅し、債務者が利益を受けることで、債務免除益は所得として原則課税される。しかし今回、この「債務免除益」は非課税扱いとなる見通しだ。この点からも、本件の解決方法が通常の企業の経営破綻などと扱いが大きく違うことがわかる。

-AD-

また、確かに「かぼちゃの馬車」には高利回りを謳うなど詐欺的な側面もある。しかし、スマートデイズは必ずしも詐欺を目的としていたわけではなく、最初は順調だったビジネスモデルが無理な運用計画で崩壊したわけで、オーナーたちは「詐欺話に引っかかった」というよりも、「投資に失敗した」という側面が強い。

こうした点から、「どこから資金を調達しようが、“欲に目が眩んで”スマートデイズの投資話に乗ったのは、どのオーナーも同じ。投資は自己責任が基本なのに、それを免れるのはおかしい」(不動産投資会社)、「投資で失敗する人はたくさんいる。失敗したからといって、ごねれば債務免除になるのであれば、投資という行為は成り立たなくなる」(商品投資会社)、「投資は自己責任。株式投資に失敗したからといって、損失が補填されることはない。『かぼちゃの馬車』に投資した人達は、そもそも投資というものがわかっていないのではないか」(株式投資家)といった厳しい声も多く聞かれる。

新築アパートの運用利回りが7%程度だった時、スマートデイズは「かぼちゃの馬車」について8~10%の利回りを謳っていた。サブリースという制度を詳細に勉強し、あるいは長期的なキャッシュフローを自分自身で算定し、投資の採算の検証を行っていれば、スマートデイズの「うまい話」に疑問を持ったはずだ。

そこには、投資について自らが勉強することもなく、安易に儲け話に乗った結果、大きな経済的被害を被ったオーナーたちの姿がある。

「かぼちゃの馬車」問題は、改めて投資教育の重要さを示しているのではないだろうか。

おすすめ記事

notification icon
現代ビジネスの最新ニュース通知を受け取りますか?