side タンザナイト
連行された偽執事に尋問をかけて数時間....そろそろ進展があったんじゃないか?
――俺はそう思い、一度様子を見に行ってみた。
「タンザナイト、来たな」
『まだ終わってない感じか?』
「少し、進展があったようなのだわ。『おら、大人しく吐いちまえ!』って微かに聞こえたから。もう少し待っておいた方がいいかも....」
「潘さんって、刑事ドラマとか見てた?『白状すれば大目に見てやる、黙るとひどいぞ』、『あいにくここは寺だ』みたいなセリフが次々に.....あ、『チャーシュー丼でも食うか?』ってやつもあったかな」
『レパートリー多いな』
普段何見てんだ潘さん....と、そんなことを思っていると、潘さん達が現れる。
「あっ見て!潘さんと狛野さんたちが出てきたのだわ」
『潘さんどうだった?』
「おう、白状したぞ。洗いざらい吐かせてやった!ガハハ!....ちょっと離れて話そう。あの坊主に聞かれたら困るしな。大丈夫、オシシたちがちゃんと見張ってくれる」
潘さんがそう言い、俺たちは少し離れた場所へ歩き出す.....
「よし、この辺でいいか。手短に話すぞ―――あの坊主がホロウにこっそり運び込んでたのはな....なんとエーテル爆薬だ」
『なんだと!?』
「どうりであんなに重かったわけだぁ...!」
「ああ。断熱材に偽装して運んでたんだと。ただ、あんまり厳ついロープで吊っても怪しまれるだろ?それで強度をケチった結果、途中で切れちまったんだそうだ。やつはアリスちゃんの叫び声を聞き、箱も壊れたもんだから、エーテル爆薬を見られたと勘違いした.....それでバレるのを恐れて、口封じなんて不届きなことを考えたんだ」
なるほど。だからアリスを狙っていたわけか....というかよく暴発しなかったな。
「でも、私は箱の中身なんてまったく見てなかったの。罪を隠すために、かえってもっと大きな罪を重ねるなんて....本当に悲しいことなのだわ」
『よくあるよね、勘違いで発端が大きくなるの』
「お前さん達が機転を利かせてくれたおかげで、あいつはまんまと墓穴を掘ったわけだなあ」
「爆薬を運ばせてたのは、誰の指示だったの?」
「指示を出していたのは、ポーセルメックスにいるやつの上司だ。やつ自身は末端の使いっ走り...爆薬の使い道まで知らされてなかったらしい。ただ、もう爆薬の搬入は
百棟って...相当な範囲だぞそれ!?何に使うんだ!?
「ふーん。その爆薬で、跡形もなく消したい何かがあるんじゃない?悪いことしてるとは思ってたけど....違法なものの製造で私腹を肥やしてるとか、そんな単純な話じゃなさそう」
「ああ。俺もそう思うよ。それと最後に、
「じゃあ、悪い知らせから聞こっかな....良い知らせで相殺できるかもだし」
「分かった。悪い知らせは....明日の夜でもう爆薬の搬入はラストだってことだ。いい知らせは、あの坊主からIDとパスワードが手に入ったことだな。これでお前さんたちを阻んでいたエレベーターに入れるだろう」
「つまり、タイムリミットは明日ということか。相手が何を企んでいるにせよ、実行寸前というわけだからね。みんな、どうする?」
『どうするって、そりゃ.....』
「必ず阻止しなければいけないわ。タイムフィールド家を継ぐ者として、このような悪事を黙ってみてるわけにはいかないのだわ!」
「......」
意気込んでいると、柚葉がじーっとアリスの方を見ていた。
「ヒビりで優柔不断、しかも頑固....そんな風に思ってたけど、意外と熱いとこもあるんだな~って」
「柚葉が言いてぇのはだな....タイムフィールドのお嬢様が俺らに手ぇ貸してくれて、マジで感謝してるってことだ。もちろん、俺もそう思っている」
「真斗?次バイトで実習サボるとき、もう代返してあげないから」
....取り敢えず、やることはきまったな。
『明日の早朝にもう一回ホロウへ調査に行くぞ。そこで重要な手掛かりが見つかったら、すぐに援軍を呼ぼう』
「ああ、それがいい!明日は俺とお弟子くんが適当観でバックアップに回る7。お弟子ちゃん達、今すぐお師さんに電話して指示を仰いでくれ!今日はもう遅いし、明日も早いんだ。みんな適当観に泊っていけ。万が一なにかあっても、みんないるしな」
「じゃあタンザナイト、師匠に電話してもらっていいかい?みんなの部屋は僕と兄弟子で用意しておく」
『おう、分かったぜ』
そうして、俺は師匠に電話をかけ、ここ数日の出来事を説明した....
「なるほど。いきさつはわかった...お前さんたち、ホロウに行くならくれぐれも気をつけろ。ポーセルメックスは総出で安全調査の対応に追われてるが、『敵』は計画を緩める気配がない....もう一刻の猶予もないんだろう」
『猶予がない....ってことは、向こうの思い通りにいってない...ってこと?何か別の原因があって、切羽つまってるっていう...』
「だろうな。ともかく、明日は用事を片付けしだいすぐここを出る。夜には適当観に戻れるだろう。依然として、雲嶽山が衛非地区に干渉するのはあれだが....今はそうも言ってられん」
『おお、そうか!師匠がいてくれるなら心強い!』
「こんなときくらい、師匠らしいことをしないとな。ああ、そうだ―――....いや、やめておこう」
ん?なんか言いたげな感じだったが....
『師匠、どうかした?』
「ささいなことだ。ここ数日どうも落ち着かない。侵蝕事件が解決してまもないある日、ホロウの一部データスタンドにとつぜん異常があった。だが一瞬のことだったせいで、当局はミアズマの増加による一時的な機材トラブルと結論づけた...よくあることだとな。私の考えすぎならいいんだが。まあそんなところだ、とっとと寝ろ。健康には、どんな術法よりも早寝早起きが効く」
『ああ、わかったよ。じゃあ俺は皆の荷解きを見守ってくるね』
「それじゃ切るぞ。また明日な」
そういい、師匠は通話を切り、みんなの所へ戻っていった。
「あれ、タンザナイト。電話はもう終わったの?師匠と少し話そうと思ったのに....」
『あれ?なんでみんなまだここに立ってるの?』
もう準備は終わってると思っていたが....
「今の適当観には、適当な部屋がないの...師匠と姉弟子の部屋は、さすがに使えないでしょ?アリスが前に泊った部屋は犯人を閉じ込めている.....」
「でもひとまず浮波さんと相談して、私たちは同じ部屋を使うことにしたのだわ」
『じゃあ、リンの部屋にしたら?たしかH.D.Dを置けるようにちょっと広めになってるから丁度いいと思うが....』
「いいね!寝る前にガールズトークしようよ!」
そのあと、みんなで家具を動かし、布団や折り畳みベットなどをきちんと整えた...あっ真斗は俺のとこで寝る予定だぞ。
「ほんとに三人まとめて寝るのか?普通に狭ぇだろ」
「真斗のガタイで考えないでよ。それにアレっぽくていいじゃん~、ホラ、修学旅行!」
「言われてみればそうなのだわ!話で聞いたことあるけれど、参加したことはないから」
「え、学校でなかったの?」
「私の通う学校は貴族の子供ばかりで、学校側からしたら、団体旅行なんてリスクの塊なのだわ。どこへいこうと生徒が見栄の張り合いを始めるし....だからずっとないの」
「じゃあちょうどいいね。今日は庶民の楽しみってやつを味わってよ!定番のイベントといえば―――勿論怪談百物語だよね!」
『恋バナじゃないんだな』
「ふえぇ、か、怪談....」
(タンザナイトってそんなこと思っていたんだ....)
と、怪談ときいたアリスの耳が縮こまってしまった。
「あはは、わかりやす~い!ぜったい最高のリアクションをくれるってわかるもん。安心してお嬢様、忘れられない夜にしようね?」
「きゃー!絶対やろうね!」
「あれ?」
「どうしたの?」
「ベルトがちょっと重いから外そうと思ったのだけれど...バックルが引っ掛かって、外れないのだわ」
「んー、見てあげるから動かないで。うちの工芸品にもたまーにあるから、いつも道具を持ち歩いてるんだよね。ジャ~ン!」
と、柚葉が取り出したのは....子供っぽいカラフルな造形の折り畳み式鍵針だった。見た目的にヘアピンのようだが、改造して作ったのだろう。
「あっ、それって....」
「キャラ物のヘアピンを改造したんだ~、柚葉のお守りだよ。貴方もこのアニメ知ってるでしょ?ちっちゃいころ流行ってたし」
「わぁ、『マジカルボンプ・セイラープー』だ!子供のころは毎週楽しみにしてたなあ。懐かし~!」
『せ、セイラープー?』
なんだそのどっかのセーラー服が月に変わってお仕置きしそうな名前は....
「ええ。そ...そうだったわね...」
「どうしたの?急に浮かない顔するじゃん...ヘアピンがなんかダメだった?」
「なんでも、ないのだわ」
「誤魔化しちゃダメだよ。何かあるんでしょ?」
と、バレバレな嘘を見抜き、アリスは理由を話し始めた。
「...実は子供のころ、まったく同じヘアピンを一対もっていたのだわ。お気に入りだったのだけれど、片方なくしてしまって.....」
「どうしてなくしちゃったの?」
『.....』
アリスの顔....何か悲しげな表情をしてるが、普通に失くしたってだけじゃないな?
「...実は、私が衛非地区に来るのは、これが初めてじゃないのだわ。まだ小さかった頃、祖父と父に連れてこられて、ホロウにあるポーセルメックスの研究所を見学したの。初めてのホロウに浮かれて、そのヘアピンをつけていって....」
「けれど衛非地区を離れるとき、左側が無くなっていることに気付いたのだわ。私たち家族は帰りの車に乗り込んでいたけれど、ヘアピンをなくして涙ぐむ私を見かねて、父は車を降りたの....」
――――
――
ー
「パパぁ...セイラープー、見つかる?」
「もちろんだアリス。お前のお気に入りのヘアピンをなくしたままにはできないだろう。ちょうどパパもな、研究所の先生たちに難しいことを聞きたかったんだ。アリスはおじいちゃんと先に帰ってくれ、パパはヘアピンをみつけたらすぐ帰る」
「ありがとうパパ!約束なのだわ!セイラープーが見つからなかったら、帰ってきちゃ駄目なのだわ!」
「はっはっは...仰せのとおりに、お嬢様。この騎士ライオネルが、きっとあなたの失われた宝を取り戻してみせましょう」
まさか、あれが父との、最後のやり取りになるなんて。
ー
――
―――
「えっ?」
最後....ってまさか――
「父は、帰りの高速道路て事故を起こしたと聞かされたのだわ。治安官の見立てでは、疲労した状態での運転が祟って、急カーブを曲がり切れなかったのだと....車が激しく燃えたからといって、祖父は父の最後の姿に会わせてくれなかった....私はお葬式にだけ出たのだわ....」
「あの...ひとつ聞いてもいい?なくしちゃったヘアピンは、それからどうなったの?」
『....』
柚葉が
「治安官が事故車を調べたけれど、それらしいものは、欠片も....ぜんぶ私がヘアピンを失くしたせいなのだわ....あんなこと、言わなければ.....」
「ほんっとバカ!そんなのまであなたのせいにしてどうするの!自分を責めるにも限度があるよ」
「おい...柚葉、一体どうした....」
....あの反応は―――
ふと、すぐに冷静になった柚葉は謝った。
「....ごめん。言い方がよくなかった」
「平気なのだわ。浮波さんが優しさで言ってくれてることはわかるし...せっかくの機会に、空気を重くしてしまってごめんなさい。話題を変えましょう。そうそう!浮波さんのヘアピンはお守りだと言ってたけれど....それは素敵な由来があるのではなくて?よかったら聞かせてほしいのだわ」
「えっと、子供の頃に初めて貰ったプレゼントなの。お守りにしてる理由っていったら、それだけなんだけどね~.....」
「ん?なんかちょっと濁した?」
「同感だな」
『......』
「あ、リンと狛野さんもそう思ったの?」
「だって事実だも~ん。ところでアリスお嬢様。私たちもうこんなに仲良しなんだから、いつまでもお互いのこと、他人行儀に呼ばなくっていいよね?とくに『
「いいでしょう。ではこれからはみんなお互いに、もっと気さくに呼び合うのだわ!」
と、柚葉とアリスが仲睦まじく会話をする。てえてえな....
その後、俺とアキラと狛野は部屋に戻って明日の為に眠ったのだった........
タンザナイトは柚葉の態度に薄々勘付いてはいる様子.....