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“ピッカリ投法” 佐野慈紀さん 糖尿病・右腕切断からの再起

闘病記

プロ野球の近鉄などで右投げの投手として活躍した佐野慈紀さん(57)。

引退後、39歳で糖尿病と診断され、その後次々と、心臓や腎臓などに合併症を発症します。そして去年、野球人生をともに歩んだ“相棒”だという右腕を切断。

それでも前を向き、ユーモアを込めて「かがや毛」と語る佐野さんの思いとは。井上二郎アナウンサーが聞きました。
(おはよう日本 ディレクター 山野弘明/科学・文化部 堀川雄太郎)

右腕を失って いま生活は

佐野さんは9月、都内にある野球の室内練習場を訪れました。

4月まで糖尿病の合併症のため入院していて、この日久しぶりにトレーニングを行います。

佐野慈紀さん
「1キログラムの鉄アレイでトレーニングしていますけど、現役時代は1キロなんて持ったことないですからね。きょうは年老いた自分の姿を満喫します」

明るく冗談交じりに話す佐野さんに今の生活について聞きました。

井上アナ
「左腕でのトレーニングや生活には慣れてきましたか?」

佐野さん
「慣れたというよりはなんとかしているという感じですね。腕をなくしてから気付いたんですけど、腕ってかなりの重量があるので、腕がない不安定さというのがすごくあります。階段を上るのもバランスを崩して、スタスタ上がれないんです。あと大きなゴミ袋の口を結ぶのも片手だとなかなか難しい」

まさか自分が…元プロ野球選手としての“過信”も

1991年にドラフト3位で近鉄に入団し、中継ぎ投手初の“1億円プレーヤー”となった佐野さん。わざと帽子を落として頭を見せる「ピッカリ投法」でもファンを沸かせました。

投手として活躍していた20代後半、球団のフィジカルチェックを受けたときに、初めて血糖値の高さを指摘されました。

佐野さん
「当時覚えているのは、空腹時の血糖値が120mg/dL ぐらいでした。『気をつけてください』と言われたので、ちょうどシーズンオフでしたし体重を落としたんです。その後、検査をしたら正常値に戻っていたので、自分はやればできるって思いました。食生活も変わりましたしこのまま継続していれば大丈夫だと思っていました」

空腹時の血糖値は99mg/dL 以下が正常値とされ、126mg/dL 以上だと糖尿病が非常に強く疑われます。

佐野さんは、食事などに気を配って正常値に戻ったため、その後、糖尿病を意識することはなかったといいます。30代半ばで引退したあとは、のどが渇きやすいなど糖尿病が疑われる症状が出ることがありましたが、定期的な健康診断を受けずにいました。

そして引退から5年ほどがたった39歳の時に病院を受診すると、空腹時の血糖値はおよそ350mg/dL に上がっており、正常値の3倍以上となっていました。

佐野さん
「いや、もう驚きましたね。『えー』って思いました。酒量も決して多い方ではなく、喫煙もしていなかった。食事の量は人より多かったかもしれないとは思いますけど、不摂生をしていたという感覚はないです。引退したあとも野球教室で教えるときとかは体が動いていたし健康に不安はなかったので、時間がとられる健康診断なんて行かなくていいや、くらいにしか思っていなかったです」

井上アナ
「もともとプロのスポーツ選手ですし、引退後も健康には自信があったということですよね。それが『健康診断なんて行かなくていいや』という過信みたいになっていたんでしょうか?」

佐野さん
「そうですね。今となってみれば、たぶんその過信が大きかったんじゃないかなと思います」

※糖尿病については記事後半で詳しくお伝えします。

恐ろしい合併症 そして生きるために…

佐野さんは「2型糖尿病」と診断され、薬を飲み食事に気を配り体重も落とすよう心がけたといいます。しかし心不全や腎不全など次々と「合併症」に襲われます。血流障害などにより傷も治りにくくなりました。

佐野さんは右手の指先にできた小さな傷がなかなか治らず細菌感染を併発。そして組織が腐敗する「えそ」を起こしたのです。

佐野さん
「小さな2ミリくらいのかさぶたが指先に2つできたんですよね。それがどんどんどんどん大きくなって黒くなっていった。病院で1日おきに洗浄していたんですけど、すぐにうみがたまってそれが広がっていくので、『これを止めるにはもう指を落とすしかない』と言われました」

右手の人さし指と中指を切断しましたが、それでも感染は収まらず、手の甲、そして手首から先へと及びました。

指の切断からおよそ5か月後、ついに医師から「右腕を切断しなければならない」と告げられました。

佐野さん
「ここで感染を止めないと、内臓や心臓までいったら命に関わることだからということで、もう待ったなしで腕の切断を決断しないといけない状況でしたね。初めて命を意識したというか、生きるっていうことを考えたんです。もう生きるために腕を落とそう。ただ、がんばってくれた右腕に対しては、ただただ申し訳ないという思いだけでした」

右腕を失った自分 受け止めず「強がる」

去年5月、手術を終えた佐野さんは病院の洗面所の鏡の前に立ち、自分の姿を見ました。

井上アナ
「ピッチャーとして“相棒”という存在をなくしたことは、なかなか受け止めきれるものではないと思いますが」

佐野さん
「自分の姿を見た時に、『そうか、なくなったか。これを受け止めなきゃしょうがないかな』って思ったんです。でも『受け止める…受け止めるってなんやねん』と思って、もし右腕を再生できるんやったら再生したいし、もう1回生えてくるんやったら、生やしたいよなって思いましたね。じゃあ、腕がなくなったことを受け止めない代わりに、ネガティブに考えることは一切止めようって、頭の中で切り替えたんです。もう強がって強がって強がって、もうそれしかないっていうふうに強がっていれば、ネガティブな発言とか気持ちにはならないので」

井上アナ
「佐野さんは強い人なんですか?」

佐野さん
「いや、強くないっすよ。全然強くないです。弱っちい男です。でも、強がることで、そのポジティブな気持ちが維持できるんだったら強がっていようと思っているだけです。ただひとつ言うならば、そういう気持ちの切り替えというのは、野球をやってきて培ったものなんじゃないかなとは思いますけどね」

現役時代、ピンチの場面で登板し負けてしまった次の日も、佐野さんは「自分ならできる」と気持ちを切り替えてマウンドに上がっていました。

そうした中継ぎ投手ならではの「強がり」を、今も貫いているといいます。

左投げでストライクを

佐野さんにはいま、新たな目標があります。それは左投げでストライクを投げる姿を見せることです。

去年12月、少年野球の全国大会で始球式を務める機会を得て、左投げで「ピッカリ投法」を披露。しかし腰の感染症の影響で、マウンドの手前から投げてワンバウンドに。自己評価は「マイナス10点」で、悔しい思いをしたといいます。

そしてことし12月、その同じマウンドに、佐野さんはもう一度立つことになったのです。そこでストライクを投げるため、9月には実に9か月ぶりに投球練習を行いました。

まずは、通常より短い、キャッチャーまでおよそ15メートルの距離から。体のバランスを確認しながら、佐野さんはゆっくりと右足を上げ、左腕を振ります。しかし、ボールはワンバウンドに。

佐野さん
「あー、届かない。すみませんね。ちょっとね、かっこつけようと思っていました(笑)」

久しぶりに投球し、場を和ませる佐野さん。1球ごとに腰をおろして休憩しながら、15球ほど投げました。

左腕で投げたボールがノーバウンドで届くのは10メートルほど。思っていたよりもうまく投げられなかったそうです。

それでも右腕を失った自分の体と向き合い、現役時代と同じように野球を楽しんでいるようでした。

佐野さん
「見た目はね、痛々しく感じられる方が多いと思うんですけど、別にそれは恥ずべきことだとは思ってないです。こういう状況ですけど、決してネガティブには思っていませんよ。慌てる必要はないので、とりあえず一つ一つ積み重ねてやるだけかなと。理想からしたら、牛歩並みに遅いですけど、それはそれで仕方ないと思っています」

「みんな、かがや“毛”」

佐野さんはブログなどを通して、多くの人に糖尿病の怖さや自身の経験を伝えることにも力を入れています。

井上アナ
「この病気を経験して、いま佐野さんが伝えたいことはどんなことですか?」

佐野さん
「生きてさえいれば、人の可能性は無限大にあると思うんですよね。もちろんできないこともたくさんあると思いますけど、できることもたくさん出てくるので。山あり谷ありだと思いますけど、その人はその人なりに輝いていけるわけじゃないですか。そういうふうに1人でも2人でも多く過ごしてくれれば、いちばんありがたい。だからこそ、エールを込めて、輝いてほしいなと思っています」

井上アナ
「このグローブにも、『かがや毛』とありますね」

佐野さん
「はい。自分のハゲ頭にも掛けている部分はあるんですけどね」

井上アナ
「ちょっと、受けづらいです…」

佐野さん
「いや、笑っていいんですよ。ここ笑わないと変な感じになるんで(笑)」

糖尿病について専門家に聞きました

糖尿病について、熊本大学名誉教授で熊本県の菊池郡市医師会立病院の荒木栄一病院顧問に聞きました。

糖尿病とは?

すい臓から出るホルモンで血糖値を下げるインスリンがうまく働かないことによって起こる病気です。

「1型糖尿病」、「2型糖尿病」、「その他の疾患に伴う糖尿病」、「妊娠糖尿病」の4つに分類され、高血糖が続くとさまざまな合併症が起こることが知られています。

日本の糖尿病患者は、2019年の国の推計でおよそ1200万人とされ、糖尿病が強く疑われる“予備群”を含めると2250万人に上ると言われています。

このうち佐野さんと同じ「2型糖尿病」が90%以上を占め、遺伝的な背景とともに肥満などの影響で発症します。

どのように診断される?

診断の基準の1つは血糖値です。

例えば健康診断の検査項目にも入っている空腹時血糖値では、126mg/dL以上だと糖尿病が非常に強く疑われ、110mg/dLから125mg/dLは“糖尿病予備群”にあたります。

また赤血球に含まれ1~2か月間の血糖の平均値を反映する「HbA1c(ヘモグロビン エーワンシー)」という項目もあり、この数値が6.5%以上だと糖尿病が強く疑われ、6.0%から6.4%で“糖尿病予備群”とされます。

このような“糖尿病予備群”の中にも早期の糖尿病が隠れていて、診断にはブドウ糖負荷試験という検査が推奨されています。こうした検査をもとに糖尿病と診断されます。

どのような症状が出るのか?

特に「2型糖尿病」は、初期は自覚症状がほとんどありません。放置してしまうと血糖値が上がって合併症が進行する可能性が高いです。

さまざまな合併症に注意が必要で、糖尿病固有の合併症は頭文字が「しめじ」、つまり「神経障害」、「目の病気の網膜症」、「腎臓の病気で糖尿病性腎症」。

また、糖尿病に限った病気ではないものの、起こりやすいものとしては、頭文字が「えのき」、つまり「えそ」、「脳梗塞」、「虚血性の心臓病や心筋梗塞」です。

このうち「神経障害」については、特に足の先端の感覚が鈍くなるのが特徴で、例えば靴に砂が入っても違和感に気づきにくいことがあります。感染症を起こしても初期の痛みに気づかず、そのまま進行して下肢の切断に至ることもあります。

どうやって治療するのか?

治療は「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」の三本柱です。

「食事療法」は患者ごとに異なりますが、理想の体重に30をかけた“キロカロリー分”の食事を、1日にバランスよくとることが基本です。

運動については医師との相談にもなりますが、「2型糖尿病」で早期に発見されれば食事と運動のみで血糖管理できるケースもあります。

食事や運動のみで十分な血糖管理が難しい場合は、「薬物療法」となります。「1型糖尿病」の場合は、食事や運動に加えて最初からインスリンを使った治療も行われます。

予防は?まずは健診を!

合併症が起きる前に早期発見して早めに対処することが重要です。

家族が糖尿病の人はリスクが高いと考えられるので、できるだけ体重に気をつけて肥満にならないようにしてください。日頃から運動する習慣をつけ、筋肉量が増えると血糖値も制御しやすくなります。喫煙もリスクを高めます。

そして何よりも重要なのが健康診断です。空腹時血糖値で100mg/dL以上ならばリスクがあるかもしれないことを知っておいてください。もし糖尿病と診断されたら、きちんと治療を継続し、定期的に合併症の検査を受けてください。

特に「神経障害」がある場合は「えそ」を防ぐことも大事で、靴下をはく、爪を切る時にけがをしないように気をつける、日頃から足を見る、といった「フットケア」に取り組んでほしいです。

(9月28日 おはよう日本で放送)

おはよう日本 ディレクター
山野弘明
ニュース7や東日本大震災関連の番組などを経て
2021年から現在まで「おはよう日本」を担当。

科学・文化部記者
堀川雄太郎
2014年入局
岡山市出身。
山形局、鹿児島局を経て科学・文化部。
文化担当から8月に医療担当へ。

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