side タンザナイト
着いて早々、アリスが食って掛かって来た。
「そこの貴方。貴方が、その狸の飼い主ということでよくて?」
「釜之助だよ。だから、かまちーって呼んであげて。」
「へ....?」
「だーかーらー....ちゃんと名前があるの、『その狸』じゃなくてね。それと私は飼い主じゃないよ。私達はただの仲間で、かまちーには誰の首輪もついてないから」
「そ...それは、私としたことが、無礼だったのだわ....」
『乗せられんなアリス。もとはと言えばかまちーが原因で追ってきたんだろ....てか誰だよお前』
と、なぜか押されているアリスを手助けする俺だった。
「そ、そうだったのだわ!貴方のことはご存じあげないけれど....昨夜は貴方とお仲間からの悪戯で、大変な迷惑を被ったのだわ」
「え~、ショック!かまちーの挨拶、気に入ってくれると思ったのに.....あっ私は『浮波柚葉』って言うの」
「そ、そう....えっと、『挨拶』?浮波さん悪いけど、おっしゃってる意味が分からないのだわ」
「ん~....わからないってことはないんじゃない?だって、先に悪戯してきたのはそっちだもんね?」
『....?』
なんだ、一体どういうことだ?
「ポーセルメックスは徹底的に調査して、衛非地区のみんなを納得させる....そう言ったよね?でも結局、専門家で構成されるはずの調査チームには、何も知らないただの女の子が紛れてる....でしょ?」
「――!!」
すると、アリスが悲しそうな表情をみせ、狛野が柚葉を止める動きをした。
「バッカヤロ...おい柚葉、本人の前だぞ...流石に言い方ってもんがあんだろ...!」
「はあ...真斗?前から言いたかったんだけどさ....せっかくのコワモテなんだから、もーちょい生かそうとか思わないの?」
....ここでアリスを言われっぱなしは友達として見過ごせないな....俺はそう思い、アリスを弁護し始める。
『おい、待て。ポーセルメックスの呼んだ調査監督チームは、確かに体裁のためって感じが凄い...だから、みんなが怒るのも無理はない――だが、あれだけ権威ある先生たちがいて、誰ひとりポーセルメックスに逆らえないんだ。それなのにタイムフィールド家のお嬢さんだけを責めるのはお門違いじゃないのか?』
「....ふーん。柚葉が弱いものいじめって言いたいんだ」
『だったらなぜ他の人物にそれをしない?』
「....思い出した、あなたのこと知ってるよ。適当観で見習いをやってるタンザナイト先生でしょ....そして、私の友達の家族を救ってくれた人物....結構ズバッと言うんだね」
なんか一瞬小声で聞こえなかったが、柚葉は自分に否があると認め、謝ってきた。
「まぁたしかに...柚葉も大人げなかったかも。ごめんね。もうしない」
「そう言ってくれて感謝なのだわ」
「あんまり感謝してそうには見えないけど....ねぇ、昨日の夜の奴....そんな根に持つようなことだった?」
と、なんか罰が悪そうな顔をする柚葉....ハハ~ン?さてはメスガキっぽいけどいい子ちゃんだな?
「誤解なのだわ。未熟な私がこうして調査監督チームにいるのは事実。公にできない事情があるとはいえ、タイムフィールド家を継ぐ者として....貴方の謝罪で、自分の過ちを許すようなことがあってはならないのだわ。ただひとつ....あなたが私を『何も知らない』と言ったことだけは、撤回してもいただいても?」
「タイムフィールド家は厳格な家風のもと、祖父も父もエーテル産業に従事してきた学者の系譜なのだわ!私も若い頃から、家庭教師でホロウとエーテルの知識を体系的に学んできたの!」
「わっ...真斗、この人どうしちゃったの?不思議ちゃん度合でいったら、あなたといい勝負だね」
うん、それに関しては全面的に同意する。
「俺が知るかよ。つか誰が不思議ちゃんだっての...!」
「ねえあなた、随分お勉強には自信があるんだね。じゃあ――このへんてこな輝磁の欠片、何かわかる?」
そう言って柚葉が取り出したのは、何らかの大型装置に使われてる構造の破片だった。
....破片というより何かの一部じゃないかこれ?
「あら?これは大きなオブスキュラの一部だわ」
『....なんかこの破片から、変なエーテルを感じるが....』
しかもこのエーテル...間違いない、サクリファイスと同じだ!
『ところで.....オブスキュラってなに?』
「ええ。高純度の輝磁を外殻に使った、
「高価な実験機材ではあるけど、別に変なものではないと思うわ。表層にコーティングがないのを見る限り、製造過程で割れてしまったものでしょうね」
「製造過程で割れた、か....こいつはやっぱり妙だな」
「どう、真斗?柚葉の勘は間違いない...って言ったでしょ。こんな風にこいつの正体がわかっちゃうなんて、超ラッキー」
『えっと...どういうことだってばよ?』
と、二人が何か別の目的で話し合っていることに不思議に思った俺は、柚葉達に聞いてみた。
「押忍。ポーセルメックスの連中がホロウん中で....生産リストにないバカ高ぇ輝磁製品を、
「そういうこと。たぶん衛非地区の工場では、オブスキュラなんて大層なもの作ってないもん。こんなものがあるのは、ホロウで誰かが怪しいことをしてる証拠だよ」
『ちなみに聞くが、この破片はどこから?』
「『
「ちょ、ちょっと...私はまだここにいるのだわ」
「へーきへーき、あなたビビりみたいだし....わざわざチクったりなんてしないもんね。えっと、しないよね?」
と、段々弱気になる柚葉にアリスは堂々な眼で言う。
「当然しないのだわ!でもいいこと?それは私がビビりだからじゃなくって、タイムフィールド家を継ぐ者として道徳にもとる行いをしないからなのだわ!タンザナイト。オブスキュラのこと、まだ浮波さんに聞きたいかもしれないけど....今の私の立場では、これ以上聞くことはできないのだわ。だからごめんあそばせ。悩みを解決してくれてありがとう。私はここで失礼するけれど、報酬は後で必ずお渡しするから」
そう言い残し、アリスは去って行った。
「あのお嬢様と一緒に帰らなかったのね。ほんとに聞きたいことでもあるの?」
『一緒に、調べに行ってもいいか?あの破片がどこから来たのか、俺も気になるし。それにホロウに入るんだったら力になれるぜ?』
「うん、いいよ!大歓迎!柚葉達ったら今日はツイてる~!手がかりだけじゃなくて、ミアズマキラー兼、『蒼光の騎士』まで来てくれちゃった!」
『み、ミアズマキラー?』
なんだそのカビキラーみたいな通りなは....
「あんまフカすなよ柚葉.....タンザナイトさんが困ってるだろが。けど、オレら敵には『蒼光の騎士』の助けなんてねがってもねぇ...よろしくお願いするっス!」
「真斗?尻尾が扇風機みたいにブンブンしてなかっつたら、威勢の良さは満点だったのにねぇ....」
あっ本当だ―――なんか真斗ってこうしてみるとなんかHだな....
『あっそうえば、泅瓏囲ってなに?』
「押忍。澄輝坪の下層.....浜辺あたりのエリアっス。昔、ホロウで採掘された輝嶺石はまずあそこらへんで洗浄してた...っていう成り立ちで、今も結構沢山人が住んでるんスよ」
「適当観の前にあるエレベーター、ご存知っスよね?あれ使えば、一直線であそこまで行けるんで。先週くらいに修理が終わったらしいス」
『へー、あれ泅瓏囲行きだったんだ....知らんかった』
「じゃあ、行ってみましょう」
そうして、俺たちは『泅瓏囲』へ行くために適当観の隣のエレベーターまで向かう....
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ついて早々、誰かが話しているのを見つけた....あれは、イゾルデ?
「エレベーターはまだ使えないのか?修理は終わっていると聞いたが」
「申し訳ありません。修理は完了しておりますが、安全上の理由から、衛非ロープウェイは一部施設および業務を一時休止しております」
「安全上の理由?具体的にはどういうことだ?」
「申し訳ありません、自分のほうでは詳細を把握しておらず....というのも、衛非ロープウェイはポーセルメックスに協力しておりまして...向こうの窓口にお問い合わせいただければ、より詳しいご案内ができるかと」
「ならば、泅瓏囲に行く他の道は?」
「私の知る限り....今のところ、他の道はないと思いますね」
作業員らしき人がそう言うと、イゾルデが残念そうに呟いた。
「はあ、残念だ。泅瓏囲は海辺の景勝地...夕暮れにはとても雄大な眺めだと聞いたのだが」
「海辺の観光でしたら、ロープウェイでラマニアン島沿岸はどうでしょう?ホロウを間近に臨めますし、ポーセルメックスの職員も常駐してますので比較的安全ですよ」
「フフ...君の言い分だと、浜辺の居住区よりもホロウのそばの方が安全ということになるな?」
「あっ....そ、そういうつもりでは....!」
「君を困らせたいわけじゃない。とにかく、泅瓏囲には行けないと分かった...仕方がないから、このあたりをぶらぶらしてみるよ」
「ご理解いただき、誠にありがとうございます!」
そう言って、イゾルデが去って行った....一方で俺たちはエレベーターが使えないと知り、どうやって行くか会議する。
『どうする?エレベーターが使えないみたいだが....』
「泅瓏囲にはね、旧都陥落で家を失くした人たちがたくさん住んでるの。今も大変な暮らしをしてて、ホロウで一番危ない仕事のほとんども、あそこの人達がやってるんだよ。ポーセルメックス的には、調査監督チームの人が現地で『余計なこと』を聞いたらまずいから....いっそ道事封鎖しちゃたんだろうね」
『となると....泅瓏囲に行く方法は
「そうだよ。『ほかに道はない』なんて...ポーセルメックスが、よその人を追い返すための嘘だから」
「一応、歩いても行けるっス。上にある道路を、山の裏まで回り込んできゃ下ってけるんで。まあ
やっぱ他の道があったか...ますます怪しくなったな。
「『ちょいとかかる』って....私達を、真斗みたいな体力おばけと一緒にしないでよね」
「あ?二人くらいならまとめて背負って行けらぁ」
『そういう問題じゃないと思うけど....』
「も~ムキになんないでよ。ちょっと愚痴っただけじゃん~...あ、でもポーセルメックスのダミアンって用心深いもんね。徹底して泅瓏囲に近づけないよう、山の方も通せんぼしてたりして」
あー....ダミアンならありそうだな....
「確かにな。じゃ、俺と柚葉で先見てくるか。タンザナイトさん、山の上の道路で合流いいスか」
『ああわかった。...そうだ、俺だけじゃなくて、リン達の力も借りてくるよ』
「本当っスか!それはありがたいっス。じゃ行ってくるんでよろしくお願いするっス」
その後、柚葉と狛野は出発した。二人からオブスキュラの破片を借りた俺は、適当観に戻って、午前中の出来事をリン達に手短に話した―――
『....というわけだ』
「ふむ...」
「そんなことがあったんだね....確かにこのオブスキュラ、エーテル物質の気配は感じるね」
『ああ。しかもそれ、サクリファイスと同じ感じがするんだ』
「そのようだね...だけど、僕は感じ取る力に関しては、常にリンに劣るからサクリファイスと同じなのが分からないのが歯がゆいな....実際に使ったことはほとんどなかったからな...」
あーそうだな....いっつもリンが使ってたし....
「でも、僕もみんなと同意見だ。これの出所はそう簡単じゃない、きちんと調査する必要があると思う」
「よし、じゃあ私たちも同行するよ!イアスの体で一緒に行けば、お兄ちゃんでも何か役に立てるかもしれないし!」
『そうか、なら一緒に行こうか』
そうして、少し整理した後、イアスとリンを連れて、狛野たちの所へ向かったのだった。