どっちが幸せ?「グズvsせっかち」人生90年の損得勘定

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いつものんびり、マイペースの「グズ」。いつも何かに追われ、慌てている「せっかち」。仕事面と健康面、人生最後に笑うのはどっち!?

■能力以上に詰め込んで締め切り遅れ

日本人の平均寿命は、2013年に初めて男性が80.21歳と、80歳を超えた。女性は86.61歳と、過去最高だった(厚生労働省発表「簡易生命表」)。80歳まで生きることは当たり前で、90歳まで生きても何ら珍しくない“超長寿社会”は目の前まできている。

そんな長い人生を、マイペースにのんびり生きる「グズ」な人と、いつも何かに追われるようにせかせかしている「せっかち」な人とでは、どちらのほうが幸福で充実した人生を送れるのだろうか。

「仕事面でみると、グズな人もせっかちな人も、どちらも効率がよくない人が多い」と話すのは、「時間学」を専門とする千葉大学文学部の一川誠教授だ。

「せっかちな人は一見仕事が早そうですが、自分の処理能力以上に業務を詰め込む傾向が強いので、結果として締め切りに間に合わないことが多い。1つ1つの仕事にかかる時間を甘く見積もり、不測の事態が起きることも想定していないのです。締め切り間際になると、むしろ時間に追われがちになります」

グズはもちろん仕事が早いわけがなく、効率もよくないが、企画系など、ほかにないアイデアやイノベーティブな発想が必要な仕事では、せっかちより優れている可能性があるという。

「せっかちだと、短い時間で仕事をこなそうとするので、思考が深まる前に次の作業に移ってしまいます。グズということは、1つの事柄に長い時間をかけて考えられることでもありますから、クリエーティブな仕事には向いていると言えるでしょう」

■冠動脈疾患の発生率は2倍以上

ただ、せっかちでも「仕事を早めに始めるせっかち」は効率がよいという。

「人間には、与えられた時間を目いっぱい使って仕事をしようとする習性があるので、いくら締め切りまで余裕があっても、タイムリミットが近づくまで何もしなかったりします。しかし、仕事を早めに始めて作業が少しでも前に進むと、『目標勾配』といって、徐々にやる気が上がっていくのです」(一川教授)

早めに仕事を始めると、心にゆとりも持てるし、モチベーションが上がるので楽しみながら進められる。最もよいのは、早めに仕事を始め、1つの仕事の中でも細かく締め切りを定めて、休憩をはさみながら一定のペースで仕事をすることだ。そういった「締め切りに捉われない働き方」がもっとも効率的で、短期集中ではなく分散して進めることで、イノベーティブな仕事をする上でも効果があるという。

健康面ではどうだろうか。「せっかちは心身に与える悪影響が大きい」と話すのは、『病気になりやすい「性格」』(朝日新書)などの著書を持つ東北大学大学院医学系研究科の辻一郎教授だ。

「競争心が強く、一度に多くのことをやろうとする、性急でせっかちな人は“タイプA”という行動パターンに分類されます。早食い早歩き、食べながら別のことをしようとする、話すスピードも早いような人です。ある仕事をこなしても、『次はもっと早く』と思ってしまう。時間の切迫感は強くなるばかりで、自分で自分を追い込んでしまい、そのストレスが心臓発作や心筋梗塞など、冠動脈疾患の発生率を上げるのです」

1960年代にアメリカ人の医師らが行った調査によると、冠動脈疾患の発生率は、タイプAはタイプB(タイプAではない人)の2倍以上だった。

■定年後、認知症のリスク高し

一方、グズもまったく問題がないわけではないという。辻教授はこう警鐘を鳴らす。

「グズな人は、定年までは健康面のリスクはほぼないと言っていいでしょう。しかし、リタイアしてあまりにのんびりしていると、刺激がなさすぎて認知症のリスクが上がるんです。100歳まで長生きするような人には、アクティブな人が多い。そういう人は新しいものに興味を持ち、好奇心が強く、環境適応力も高い。グズな人でも仕事をしている間はそれなりに刺激があるからよいですが、定年になったら自分から動きたくなるような趣味などを持ったほうが認知症予防になるでしょう」

仕事面でも健康面でも、グズにもせっかちにもデメリットやリスクがあるようだ。

「いずれにせよ、極端だとリスクが高い。グズとせっかちの中間、ややせっかち寄りぐらいが一番よいのではないでしょうか」

しかし、どうすればグズな人がせっかち寄りに、せっかちな人がグズ寄りになることができるのだろうか。前出の一川教授は、「まず自分のタイプを知ることが大事」と話す。

「人にはそれぞれ、自分が快適だと思える“精神テンポ”があります。それに合ったスピードで仕事をするとストレスが少ない。案外、自分で自分の性格を認識できておらず、知らず知らずのうちにストレスをためていることもあります」

■グズがせっかちには変われない

自分のテンポが遅め、つまりグズなのか、早めでせっかちなのか、実は調べる方法がある。

(1)椅子に座り、机の上に片手を置く。
(2)人差し指で机をコツコツコツ……と、自然な、あるいは心地いいと思えるペースで叩く(タッピング)。
(3)ペースが安定してきたら、ちょうど10回叩くのに何秒かかるかを測定する。
(4)その時間(秒数)を10で割る。

一般的に、10回のタッピングは4秒(精神テンポ0.4)から9秒(精神テンポ0.9)の間におさまるという。0.4のほうに近いか、0.9のほうに近いかで、自分の性格がグズなのかせっかちなのかわかるのだ。

「仕事もチームプレーです。もしグズなら、自分の仕事を振り返り、マイペースすぎて周囲に迷惑をかけていないか気にしたほうがいい。逆にせっかちなら自分だけでなくまわりに対しても仕事をせかしてプレッシャーをかけていないか、注意したほうがいいのでは」(一川教授)

辻教授は「性格を変えようなど考えないほうがいい」と話す。

「性格を変えることなどできません。するだけ無駄な努力で、むしろそれが新たなストレスとなってしまう。自分の性格を受け入れ、ストレスがたまる部分は休日の趣味などではけ口を見つければいい。自分の性格とうまく付き合うことが大切です」

自分のタイプを知り、受け入れて、性格に合ったタイムマネジメント、ストレスマネジメントこそが必要なことなのだ。

(衣谷 康=文)