一途
「尚文さんは大変ですね」
「完全に保父だもんな」
「他人事にしないでね。樹も錬もフィロリアルを連れたらどうなの?」
そういえばお留守番のフィロリアル様が多いですな。
警護の意味もあるので、今ではいろんな国に駐在しておりますぞ。
「む、群れるのは好きじゃない」
「かっこつけない。後、なんで少し照れた感じなの?」
「元康さんと尚文さんに任せますよ。僕は必要な時に借りますから」
「他力本願はどうかと……はぁ」
お義父さんの溜め息に錬と樹が誤魔化しておりますな。
そうですな。錬も樹もフィロリアル様のありがたみをしらな過ぎですぞ。
なんて話をしていると大き目な酒場に到着しました。
「ここがブリーダーのお勧めの酒場らしいよ。お酒も食事も美味しいんだってさ。メニューも豊富で、傭兵も御用達なんだって」
「ほー……」
「とりあえず入ってみようよ」
「ああ」
という事で俺達は酒場に入って各々好きな物を注文して食事を楽しんだのですぞ。
確かに生産者の言う通り、結構美味しいですな。
「名物料理も中々なモノですね」
「うむ、イワタニ殿の言う通り地酒も良い物が揃っている」
エクレアは成人しているので酒を嗜む様に飲んでおりますぞ。
フィロリアル様達も満足なくらいの量の食事が運ばれて来ましたな。
「「「ヤッハー!」」」
酒場内は傭兵達がドンチャン騒ぎをしていて、結構賑やかですぞ。
しかし、そのセリフはどういう意味ですかな?
「傭兵か、冒険者とも言うのかな?」
「だろうな。確か冒険者ギルドの権力もこの国では強いんだろ?」
「みたいですよ。ちょっと覗いてきましたけどいろんな仕事があるみたいです。実力さえあれば、生きるには過ごしやすい国かもしれませんね」
「治安は悪いみたいだから気を付けなきゃいけないけどね。なんて言うか裏路地に入るだけで危険な匂いとかしそう」
「返り討ちにしますぞ!」
俺が槍を握るとお義父さん達は微妙な表情をしています。
愚かにも俺達を襲う盗人が悪いのですぞ。
「ま、その場合は自業自得ですよね」
「殺すほどかとも思うがな」
「だが、裏路地で死体が転がっている事もザラな国なので勇者殿達も気を付けるのだぞ」
勇者相手に何を言っているのですかな?
今の俺達ならば楽勝ですぞ。
「傭兵の話なんだが、そろそろフィロリアル以外の仲間も育てたりするべきじゃないか?」
「んー……国の兵士とか?」
「妥当な所ですね。勇者が主体で兵士の育成をすれば……確かノースフェラト大森林の時には何人かLv上げする予定なんですよね?」
「あー、確かそういう話が来てたね」
「ただ……どうも数日で仲間に裏切られた経験から本格的に仲間を募るのは抵抗が出てくるな」
錬が苦々しいとばかりの表情で答えました。
今回のループが始まってから結構経ちますが、まだトラウマが残っている様ですな。
「ですね。僕の場合は元康さんの話で何度も仲間に殺されたり殺されそうになったみたいですし……」
「うーん。信頼できそうな仲間……エクレールさんみたいに元康くんの知ってる仲間をなぞるのが良いかもよ?」
お義父さんの言葉に錬と樹は俺の方を見ました。
「元康さん、最初の世界を含めて、僕達はどんな仲間を連れていたんですか? 信頼できる仲間は居たのでしょうか?」
樹は身を乗り出す様に俺に尋ねてきます。
そうですな。樹の仲間は全員犯罪行為を働き、処刑された記憶がありますな。
例外はストーカー豚位ですぞ。
とはいえ、最初の仲間を含めろと言われているので素直に答えますぞ。
「樹ですかな? 樹は俺の記憶の中では燻製とその取り巻き以外の仲間と言えば、ストーカー豚くらいですぞ。お義父さんの村でずっと一緒に居ましたな」
「ストーカー!?」
「監禁でもされていたのか? いや、尚文が領地を経営していたという最初の世界での話か……という事は尚文の仲間が樹の世話をしていたとかか」
今でも思い出せますぞ。
樹とストーカー豚が四六時中一緒に行動していた光景が。
まあ、あの頃の樹はなんか変でしたがな。
「確か前回のループでも樹は連れていましたな。樹の悪名が轟いて実家に連れ戻された様でしたがな。その後は四霊復活があったので知りませんが」
「へー……」
「ストーカーが僕の世話ですか。ストーカー大勝利じゃないですか……」
樹が愕然と座り込んでいますぞ。
気持ちはわかりますぞ……。
俺もこの世界に来た理由は自分勝手な豚の所為ですからな。
「まあ、豚の中では相当有能だった様ですぞ。お義父さんの配下として十分な活動もしていたようでしたからな」
「僕の仲間であったはずなのに、尚文さんの仲間になったんですか?」
「俺がまだ愛に目覚める前に話をしましたからな。どうでもいい話ですが、少しだけ覚えていますぞ」
俺は樹にストーカー豚に関して説明しました。
何でも樹に窮地を救われて、樹のような正義の味方になりたくて樹の仲間になったは良いものの、ステータス的に劣っていたという理由で使い走りにされた挙句、捨てられた、という経緯でしたな。
それでも諦めきれずにストーキングをしていたのですぞ。
俺はストーカー豚の執念を恐れて、お義父さんに押し付けたのです。
「その後は詳しく知りませんな。後は先程説明した通り、樹と村で行動を共にしていたのですぞ」
「……」
樹が途端に黙りこみました。
「元康くんの説明が凄く下手だからわかり辛いけど……相当樹に思い入れがあったのかな?」
「他は、また聞きなのですが、正義の反対は正義とカースに浸食された樹を止めたのがストーカー豚だったそうですぞ。フィロリアル様が話していました」
「つまり話を纏めると、信頼していた樹に手酷く捨てられて尚文の所に厄介になり、暴走する樹を止めて甲斐甲斐しく介護をしていた、と」
「……それってストーカーじゃなくて、一途って言うんじゃないの?」
「その方は何処で仲間になるのでしょうか!? 僕の運命の仲間ですよ!?」
樹は俺の胸倉を掴んで揺すってきますぞ。
なんですかな? そんなにも気になるのですかな?
「ちょっと待って。窮地を救われたって前振りがあったよね……?」
樹がドンドン青ざめて行きますぞ?
「あんまり言いたくは無いが、諦めた方が良いかもな」
「そんな! 僕の運命の人みたいじゃないですか!」
「やはり樹もそういう話に興味があるんだな」
「元康さん、よく思い出してください! その人は何処で僕と出会って、どういう名前の人なのかを!」
樹が緊迫した様子で詰問してきますぞ。
「私からもお願いできないか、キタムラ殿」
エクレアが樹の援護射撃をしますぞ。
何故、無関係のエクレアが?
「あー……確かエクレールさんって、元康くんの話じゃ獄中死していて、前回のループじゃ今頃葬儀してるんだっけ……」
「うむ、もしかしたらその者も助けを求めているかも知れん。出来るのなら今からでも動くべきだ」
「そうだね。元康くん、俺からも頼むよ。その人の名前だけでもわからない?」
「とは言ってもですなー……」
なんて名前でしたかな?
俺は自分が発した台詞を手繰り寄せて思い出しますぞ。
愛に目覚める前、豚の尻を追い掛けていた頃……ああ、お義父さん達とカルミラ島で温泉に浸かった時の言葉を思い出しますな。
美少女ランキングとか話した覚えがありますぞ。
赤豚とお姉さん、そしてフィーロたんがノミネートしていたのですな。
で、ストーカー豚が次点だったのですぞ。
「ああ、思い出しました。確かリーシアとか言った気がしますな」
「リーシア……さん」
樹が小さな声で反芻しました。
あっているはずですぞ。
「だが、リーシアという名前だけで特定は難しいんじゃないか?」
「元康くんがさっき実家に連れ戻されたって言っていたよね? という事は良い所の家柄なんじゃないの? 窮地というのがどういう物なのかにもよるけど」
「なるほど、それだけわかれば動けますね。すぐにでも探しましょう。手遅れになっているかもしれませんけど!」
「そうだね。樹の仲間ってメルロマルクで集めたんだろうから、その子もメルロマルクに居るんじゃない? 明日女王様にでも聞いてみたら?」
「……いえ、すぐにでも出発します」
「コウが走る?」
運ばれてくる食事を黙々と食べていたコウが樹に言いました。
おお、ストーカー豚の捜索を手伝ってくれるのですかな?
「コウさん、おねがい出来ますか?」
「任せてー」
樹のお願いにコウは頷きました。
コウ……良い子になって……。
今なら樹の髪を食べても文句は言われないと思いますぞ。