無個性?
「元康くんが暇さえあればスケッチしてたあの子でしょ? 錬も見た事あるはずだよ」
「ああ……あの元康が良く描いてる奴か。となると基本色が白で模様が桜色……目が青だったな」
「フィロリアルのお姿の時ですな。天使の時は違いますぞ」
「わかってますって。金髪碧眼の幼い女の子な外見でしたよね。もう耳タコですよ」
みんな理解が深くて助かりますな。
そうですぞ。フィーロたんはこの世の天使を体現した様な外見をなさっているのですぞ。
それでありながら無垢な心を宿した天使……素晴らしい。
「ですがヒントってこれだけなんですよね。成鳥時の姿しかないと言いますか」
「ループしている世界だからね。もしかしたら既に誰かの所有物になっている可能性だってある訳だし」
「承知ですぞ。ですが、それでも俺は見つけなければならないのです」
お義父さん達が深く溜息をもらしますぞ。
「まあ、これが元康くんの原動力だと思おうよ。俺達は協力するだけの恩は十分にもらってると思うからさ」
「そうですね……結果がどう転んでも僕達が損になる事はなさそうですからね」
「とりあえず元康、他に手掛かりや既にやった事はあるか?」
「そうですな。普通のフィロリアル形態はこちらですぞ」
俺はフィーロたんと初めて出会った時の姿のスケッチを見せますぞ。
懐かしいですな。
豚の尻を追い掛けていた頃に、荷車を引くお義父さんとフィーロたんに出会ったのです。
何故か俺はツボに嵌ってフィーロたんを馬鹿にしながら近寄って蹴り飛ばされたのですぞ。
思い出すだけで空も飛べそうな気持ちになります。
「買い占めをしたにも関わらず見つからなかったんだよな?」
「ですぞ。フィーロたんは見つかりませんでした」
「ふむ……じゃあ何か別の所に行ったとかか?」
「それで前回、お義父さんが気を利かせて魔物商の行っている卵くじと言うくじの中にあるフィロリアル様だけを選別する裏技をしてもらったのですが、それでも見つかりませんでした」
「説明が下手で良くわからないけど、他にありそうな場所も調べ尽くしたって事かな? 多分、時期的にありそうな場所を全て調べた感じで」
俺は頷きました。
フィーロたんを見つける事に意識を割き過ぎるとお義父さんが殺されてしまいますし、錬や樹から目を離していると暴走する。
だから今回の周回は、お義父さんの注意した通りに錬と樹を見張っていたのですぞ。
「これは確かに難しい問題だね。誰の所有物になってるかわからないと言うのが一番問題となってると思うよ」
「そもそもだ。今回の周回だと最初の世界とは大きく異なる出来事が沢山あっただろ?」
「ですな。メルロマルクがあのような状態になるだなんて思いもしませんでしたな」
すると錬と樹が俺を指差しますぞ。
「問題はそこだ。これだけの騒ぎが起こっている状態で、そのフィーロという奴の卵が無事だという保証が何処にある」
ドクンと俺の心臓が跳ねますぞ。
な、なんですと!?
あの騒ぎの中でフィーロたんの卵が割れているとでも言うのですかな?
そう言えば前回の周回でもお義父さんが仰ってましたぞ。
これだけの騒ぎが起こった中でフィーロたんの卵を見つけるのは至難の業だと。
「それでも俺は諦めないのですぞ!」
「まあまあ、元康くんの気持ちを察してあげようよ。難しい問題かも知れないけどさ」
「ですが……元から無いかもしれないモノを見つけるなんて無理ですよ?」
「いやいや、もしかしたらフィーロって子は不特定多数のフィロリアルの卵の中から特定の育て方をしたら育つ可能性だって否定できないでしょ。何だかんだでゲームっぽい世界なんだしさ。少しは希望を持とうって」
「希望的だな。だが、元康は諦めそうにないか……」
「諦めた時は、ループを最初からしたいと言って僕達を殺す時かもしれませんよ? 尚文さんには手を出さないでしょうが、僕や錬さんは遠慮してくれますかね?」
「そんな馬鹿な……」
「アマキ殿、キタムラ殿だぞ?」
樹とエクレアの言葉に錬がキッとやる気を見せたように背筋がピンとしましたぞ。
俺が錬と樹を殺す?
そんな事が起こるとは思えませんが?
「確か以前会った女王様の話だと、商人の類はメルロマルクの不穏な動きを察して逸早く逃げたとか聞いたから、商品自体は割と大丈夫だったんじゃないかな?」
「そうだと良いんだがな……」
お義父さんが俺に視線を向けますぞ。
「そのフィーロって子って他に何か特徴とか情報は無いの? 何か病気を抱えていたとか、他のフィロリアルに比べて違う所とか」
「フィーロたんは他の子に比べて天真爛漫な性格でしたな。そしてちょっと食いしん坊さんでお義父さんの料理が大好きでした。逆に俺の料理に関してはあんまり美味しくないとおっしゃってました」
「尚文の料理を食ったフィロリアル共の特徴そのままだな」
「見た目でわからない性格もそうですが、何のヒントにもなりませんね」
なんと失礼な。
確かにお義父さんの料理を好むフィロリアル様は星の数ほどいらっしゃいましたが、フィーロたん程、お義父さんの作った料理が大好きな方もいらっしゃいませんでしたぞ。
「言葉使いは見た目相応の若干幼い感じでした。匂いに関して言えばサクラちゃんに良く似ていますぞ」
「えっと、特徴を当てはめると、若干幼い、天真爛漫な性格で色は白に桜色、天使形態だと金髪碧眼。他はフィロリアルに共通した特徴かな? で、匂いはサクラちゃんに似てる」
「割と無個性なんじゃないですか?」
なんですと?
樹風情がフィーロたんに喧嘩ですかな?
その喧嘩、買いますぞ!
「違いますぞ! フィーロたんこそ天使なのですぞ!」
「元康、説明する気が無いなら黙ってろ」
「まあまあ、じゃあ質問を変えようか。確かフィロリアルって品種があるんだよね? そのフィーロって子は?」
「フィロアリア種ですぞ」
「一番多い種類だぞ……イワタニ殿」
「うーん……まあ良いや。他に何かあるかな?」
「婚約者と婚約してましたな」
「メルティちゃんと? ああ、最初の世界の俺が厄介払いに元康くんを押し付けたのかなあ? ……今、メルティちゃんと仲が良いのはサクラちゃんだよね?」
メモに纏めているお義父さんが俺を見て言いますぞ。
サクラちゃんはサクラちゃんですぞ。
「ですからサクラちゃんに言ってください。婚約者とあまり仲良くし過ぎるとフィーロたんが悲しみますぞ」
「サクラちゃんと似てる子なのかな? そのフィーロって子」
「サクラちゃんの様におっとりさんでは無いですぞ」
「うーん……」
お義父さんが考えるようにペンで髪を引っかけておりますぞ。
さすがのお義父さんでも難しい問題の様ですな。
「俺達のイメージだとサクラちゃんになっちゃうけど、とりあえず今までのループで元康くんはフィーロって子に出会えていない。メルロマルクでタイミングを練ったのに見つからないらしい」
「女王に頼んで国中のフィロリアルを見つけてもらうしかないんじゃないか?」
「そうなるかなー? 白に桜色のフィロリアルの雌と特定出来る訳だし、ここまで組み合わせが決まってれば仮に孵化して誰かが育てていてもわかるでしょ。今までの周回では事件があり過ぎて時間が無かったと思えば」
「ですが俺は出来る事をして行きたいのですぞ」
「ならさ、サクラちゃんと似た匂い……体臭って事は親戚なんじゃない?」
「ああ、なるほど。元康さん、サクラさんやユキさん達をどこで購入したんですか?」
「メルロマルクから出て割とすぐの牧場ですぞ」
ポータルで登録をしているので、いつでも行ける牧場ですぞ。
あそこのフィロリアル農家には毎回お世話になっておりますな。
ユキちゃん達を購入するのは出自がすぐにわかるからですぞ。
「だからさ、サクラちゃんの親戚がフィーロって子かも知れないから、どうせカルミラ島って所へフィロリアルを育てに行くならそこで買い占めたらどうかな? って思うんだけど、元康くんはどう思う?」
「わかりました!」
思えばあのフィロリアル農家にはいずれ育ったフィロリアル様を見せに行くと言って、全く見せておりませんでしたからな。
ちょうど良い機会ですぞ。
お勧めにしていたユキちゃんの高貴にして優雅な姿を見せつけてやりましょう。
「ではユキちゃん達がお散歩から帰ってきたら出発ですな」
「お金を十分に集めてね」
「当たり前ですぞ! 俺達の任務の代金をごっそりともらい受けますぞ! 城の倉庫が空になるほどに!」
「えっと……持ちきれるだけにしてね」
お義父さんに念を押されてしまいましたが、目的を見つけた俺は止まりませんぞ!
こうして俺達は、久しぶりにフィロリアル牧場へと行く事にしたのですぞ。