検診
「うわ……凄い早技。見た感じくすぐったのかな?」
「平均的なフィロリアルよりも妙に羽毛があるわね。骨格も結構違うみたいだし……口を開いてー」
「や、やめてほしいですわ!」
ユキちゃんがもがいて主治医に軽く蹴りを入れようとしたのですが、主治医はユキちゃんの関節の動きを読んだのか紙一重で避けて強引にくちばしを掴んで開きますぞ。
「あが……」
「暴れちゃダメよ」
そして流れるように口の中に注射器を刺して薬を注入しましたぞ。
な、なんて洗練された動きですかな?
毎度思いますが診察を嫌がるフィロリアル様への拘束技術は素晴らしいモノがありますな。
慣れた相手だと薬無しで抑え込むのですぞ。
俺の育てたフィロリアル様も最初は嫌がっていて、薬によって押さえつけられましたが三度目辺りから薬無しでの関節技で保定しておりました。
助手にも教えていて、テキパキしていたのを覚えています。
「あう……も、元康様……」
ユキちゃんが俺に助けを求めております。
その瞳を見た俺が取れる行動は一つだけですぞ。
「今行きますぞ!」
「え、えっと」
お義父さんが硬直して傍観しておりますぞ。
「ダメじゃない動いちゃ。ちゃんと診断できないわ」
「元康様」
俺はユキちゃんの翼を掴んで安心させますぞ。
きっとライバル辺りは俺が主治医をぶち殺すとか思ったでしょうな。
残念ながら俺はそんな短絡的な男ではありません。
なにより主治医なら信用出来ますぞ。
しかし……。
「これ以上、俺のフィロリアル様達を薬を使って痺れさせたら許しませんぞ!」
「ああはいはい。へー……こうなってるのね。ちょっと因子の解析に羽と血液を採取して……っと」
主治医はテキパキと動けないユキちゃんを触診してから色々と診断しました。
「ユキちゃん、後少しの我慢ですぞ。そうしたらすぐ良くなりますぞ」
「わ、わかりました、わ!」
約二分くらいですかな?
ユキちゃんに掛っていた薬の効果が切れました。
「元康様!」
ユキちゃんは急いで立ち上がって俺を盾にしましたぞ。
良く我慢しましたな。
俺はユキちゃんを抱き締めて頭を撫でて上げますぞ。
「あら? 想定よりも薬が抜けるのが早いわね。まあ良いわ、診断終わりよ。十分過ぎるほど健康体ね」
主治医は次の獲物としてコウを探しております。
「おや? コウは何処ですかな?」
「逃げたよ? サクラちゃんも」
お義父さんがコウとサクラちゃんが逃げた方角を見ておりますぞ。
「お義父さん、逃がしてはいけませんぞ。コイツは主治医ですからちゃんと診てくれますぞ」
「いや……」
「怖いなの! なんかすごく頼りになる気がするけど、手も足も出ない恐怖があるなの!」
「凄い……」
ライバルがドラゴンの姿になってお義父さんに抱きついておりますぞ。
これではお義父さんもサクラちゃんを留めておくことなど出来ないのですな。
「その主治医ってのはなんなのよ? 私は一応錬金術師で研究者なんだけど?」
「えっと、複雑な話になるんですけど、元康くんは言うなれば未来から来たと言いますか」
お義父さんは主治医に俺の経緯を説明しました。
信じてくれるかどうかはわかりませんがな。
「つまり何? 別の……可能性の世界で私は勇者達と顔合わせした事があると言う事?」
「そうなります。元康くんは普通の女性を女性と認識出来ないんですけど、ラトさんは認識していると言う事は特別な関係だったと言う事になります」
「未来でフィーロたんや沢山のフィロリアル様の主治医をしていたのですぞ」
ついでに助手やお義父さんの領地に居た魔物の管理もしていたのを覚えていますぞ。
こんな所にいるとは驚きですな。
「へー……」
なんとも興味なさげに主治医は答えますな。
「話はわかったわ。どっちにしてもそっちのドラゴンの診察もさせてくれるのよね?」
「あ、はい。ちゃんと見てくださるのなら……出来れば薬は無い方向でお願いします」
「暴れないなら見て上げるわよ」
「その、バラさないとわからないとか言わないですよね?」
「殺してどうするのよ……」
主治医は狂っているように見えて割と常識人だとお義父さんが言っていたのを思い出しました。
つまりここは主治医がいた研究室と言う事ですな。
と言う事は信用できる場所なのですぞ。
「じゃあ舌を出してー……そうそう、口を大きく開けるのよ」
「なのー」
ライバルは大きく口を開けて舌を主治医に見せていますな。
主治医はライバルの触診をした後、口の中を確認してから腹を左手で掴んで右手で喉の奥に手を伸ばしますぞ。
「な、うええ……え……」
お義父さんと助手が不安そうに見つめております。
「あの、あんまり無茶は……」
「ブレス袋に複合属性反応、魔力器官に変わった反応があるわね。これは勇者の育てた魔物だからなのかしら?」
主治医はブツブツと何やら呟きながら手を抜いてライバルの目や頬、そして角を確認しますぞ。
ライバルは触られるのを若干嫌がっておりますが、口の中に手を突っ込まれるよりは良いのかお義父さんに擦り寄ってじっと我慢しております。
「まあ、こんな所かしら? 一応、問題ないわね。色々と発見はあるけど特に大きな病気は無いわね」
「あ……そうですか」
「んー……若干魔力に変な流れがあるわ」
主治医は近くにある紙を取ってカルテのようなモノを書き始めましたぞ。
すごいですな。
俺もいずれフィロリアル様の健康診断を何時でも出来るようにしたい気持ちになってきましたぞ。
「何? ガエリオンに何かおかしな症状があるの?」
助手が不安そうに主治医に尋ねますぞ。
すると主治医は軽く微笑んで安心させるように言いますぞ。
「そう言うのじゃないのよ。とりあえず観察の段階でしかないわ。フィロリアルも似た様なモノなんだけどね」
「な、なの……なおふみ、撫でてほしいなの」
「あーはいはい。良く我慢したね」
お義父さんはライバルを優しく撫でていますぞ。
「我慢したなの! 逃げたサクラよりも偉いなの!」
「むー……」
おや? サクラちゃん達が帰って来て部屋の扉の前で不満そうに鳴いていますぞ。
ですが一言物申します。
サクラちゃん達は危機回避能力が高いだけですぞ。
「あの、それでガエリオンちゃんに何かおかしな反応が?」
「私もドラゴンに関しては研究室の資料に目を通した程度の所が多いのだけど、まず喋るのは竜帝と呼ばれる純血種で一部報告されているから気にする所じゃないわね」
「はぁ……」
「声帯の変化も想像の範囲、もちろんフィロリアルの方もね。まあ、フィロリアルの方は人語を教えようと思えば出来るし、気にする必要は無いわ」
ただ、と主治医はペンで頭を掻いております。
「ここで本題ね。魔力と心臓部辺りに変な反応があるのよ……まるで二つの生き物が強引に――」
「ギャ、ギャウ――な、なの!」
ライバルが大きく鳴いて主治医の言葉を抑え込みました。
主治医は邪魔をされてムッとしております。
「お姉ちゃん、なおふみに話を聞いていてもらって、ガエリオン達は外で魔物達を見ているなの」
「え? でも……」
ライバルは必死にお義父さんの耳元で何やら呟きますぞ。
「うん、俺が聞いておくから、見た感じだと問題ないから行って来ていいよ。イミアちゃんもお願いするね」
「あ、はい」
助手とそれまで静かにしていたモグラがライバルと一緒に部屋を出て行きました。
「あの、それで?」
「話を続けると、まるで二つの生き物を強引に、意識のある状態で結合された状態に似てるけど……違う。もっと適合の度合いが強い様な感じに見えるわ。最初からそうなる様に組まれた生き物と言うべきかしら」
なんと、元々腕が良いのは知っていましたが、大した機材も使わずに触診と口から内臓を見ただけで判断したのですかな?
天才であると俺は思いますぞ。
「寄生型の魔物に取りつかれているのかとも思ったのだけど、ちょっと違うのよ。ただ、間違いなくあの子の中に何か居るわ。摘出する事を勧めるわね」
「えっとー……その件は問題ないと思うので、気にしないでください」
「あら? 健康診断の意味もあるのなら聞くべきだと思うわ」
「その……元康くんの話なら、貴方は信用できるみたいなので答えますと、あのガエリオンちゃんの中には――」
お義父さんはライバルが竜帝であり、更に助手の育ての親がライバルの体の中にいる事を説明しました。
擬似的な二重人格という奴ですな。