嬉しい限りです
それと、誤字誤植報告、ありがとうございます
アブー・フライラはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている。
私があなた達に禁じたことは避けなさい。
そして私があなた達に命じたことをできる限り行いなさい。誠にあなた方以前の人達は沢山の質問を(預言者達に)投げかけて、そして預言者の教えに異議ばかりを申し立てていた。
ハディース「功徳の書」より
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「連邦生徒会め!対応遅過ぎんだろ!!」
「アティク先輩…落ち着いて下さい!」
「…まぁ、もう二週間も待たされてるんじゃね…」
ロレンスと生徒会一行は既に二週間も待たされていた。初日、必要書類提出と確認の為に連邦行政委員会に足を運んだのだが、そこで問題が発生したのだ。
曰く、首席行政官の確認が必要なのだが、彼女は多忙であり少々時間がかかる…と
そして、その少々は既に15日目に突入していたのだ。
「まぁ、ある程度遅れることは予測してたが、初日からこれだとねぇ」
「センセは何で言ってるッスか?」
「『取り敢えず、今日も聞きに行こう』だとよ」
「先生らしいですね」
生徒会一行は準備を整えホテルの一室から外へ出る。階段を降り、一階に来てみれば既にロレンスがいつもの格好で待っていた。
「さて、いこうか」
馬に乗り少し離れた行政委員会のビルへと急ぐ。着いた頃には既に午前10時を回っていた。自動ドアを抜けて、受付の少女に声をかける。
「シャハーダ学院設立委員会の者だが」
「はい、お話は伺っております。主席行政官が上でお待ちです」
「まちくたびれだぜ」
「スンナちゃん!あまりそういう事言わないッスよ!」
「ふぇ…ウマル先輩に怒られるなんて…」
「スンナちゃん?!なかなか失礼ッスね?!」
エレベーターの中からはD.Uが一望できた。
「これが…キヴォトス」
ロレンスはそう呟いた。
彼は改めて自分が知らない世界に迷い込んだのだと理解した。見慣れた人も、見慣れた仲間も、生徒も、物も、妻の墓も、父と母の影すらない、そんな知らない世界。
「…センセ…?ロレンス先生?」
「少し、考え事を…していた」
後ろから到着のベルが鳴る。
「…お待ちしておりましたロレンス先生」
「初めまして、主席行政官殿」
「どうぞ、こちらに座って下さい。詳しい話はそれからです」
ロレンスはその言葉に従い、椅子に座る。
「貴方達は座らないのですか?」
「私達はまだ正式に認められた生徒会じゃない…だから、それまではロレンス先生に対応してもらわないといけない」
「…しっかり勉強されて来ているようですね。試すような真似をして申し訳ございません」
「別に構わない。さぁ、主席行政官殿、話し合いを始めようではないか」
「いえ、その必要はありません」
「…なに?」
そう言ってリンは数枚の書類をロレンスへと渡す。
「書類に一切の不備は見つかりませんでした…流石大人と言えば良いのでしょうか。まぁ、詰まるところ、連邦生徒会は『シャハーダ学院生徒会の存在の容認』と『シャハーダ学院設立』を認めます」
「「「「「やった…!」」」」」
喜ぶ生徒会一同…しかしロレンスとリンの顔色はまだ明るくはない。
「まだ、何かあるのだね」
「はい」
リンはそう言ってさらに一枚の書類をテーブルに置く。そこにはエデン条約の概要が書いてあった。
「エデン条約かね?」
「はい。実は学校設立を正式に認め、校舎設立ならびに生徒募集を始めるのは、条約後にしていただきたいのです」
「理由を聞かせてもらっても?」
「…現在の連邦生徒会が抱えている仕事量が原因です。現在、連邦生徒会はその全体が『行方不明の連邦生徒会長の捜索』に重心が置かれています。そのため、基本的には各自治区の仕事はそれぞれの学園・自治区にお任せしているのですが…」
「ふむ、それだけでは済まされない仕事もあると…」
「はい。やはり自治区に任せられる仕事にも限度はあります。現在、私達はその連邦生徒会として行わなければならない仕事によって忙殺されています」
「ならよ、その見つかるかもわからねぇ連邦生徒会長探すのやめたらどうよ」
「何を…」
アティクはロレンスの肩に肘をかけ。続ける。
「もう既に連邦生徒会長が消えて何ヶ月も経つ?一体いつまで探すつもりかわからねぇけどさ。流石に、いつまでも学園を統括してる奴らがこの状態だと困るんだよ」
「アティク、静かに」
「…ごめん」
「……いえ、お気持ちはご理解しているつもりです。ですが…」
「いや、こちらとしても申し訳ない。不躾な発言だった…だが、それよりも今は会議だ。条約後の設立にあたっての手続きや準備もあるだろう」
「…ええ。そうですね。それではー」
そうして時はすぎてゆく。
ーーーーーー
「つ、疲れました…!」
「…結局日も暮れちゃったね」
「でも、これで私たちも生徒会か!」
「長かったッスね〜!」
「まぁ、これも先生のおかげだな」
一仕事終えビルを抜ければ既にあれほどまでに好きと思った青空は、オレンジ色に染まっていた。駐車場で待っていた馬に乗って、それぞれがホテルに戻る。数日後には基地に…いや学校へと戻ることができるだろう。そうして、ホテルのロビーでロレンスは生徒会の面々と別れ、自室に戻る。
「……随分と拍子抜けだったな」
ロレンスは実のところ、この書類選考や設立にあたり数ヶ月、下手すれば半年程度の時間は覚悟していた。
「書類の各方面に示し合わせ、全体会議を通し、それを書類にまとめ、全体の回答とする…それを考えれば数ヶ月はかかるはずだ…」
違和感。そして、不穏な予感。
もしかすれば、連邦生徒会がとてつもなく有能であって、上記の事を一瞬で済ませることができるほどの力を持っているのかも知れない。
しかし、それであるなら何故連邦生徒会長の調査と言う非効率的な行為をいまの今までやって来たのか。それは詰まるところ『連邦生徒会は、生徒会長がいない現在において一般業務を行うだけでも支障をきたす状態にある』という事。
それであるなら、何故ここまで容易に話が進んだのか。
「もしかすれば、あの主席行政官…強引に話を進めたのか…?」
連邦生徒会長の不在、そしてその代理人が強行行為を続けているという現状。少なくとも、今までの部下からは突き上げが発生するだろう。そして、他の自治会はどうする…?
「……最悪、振り出しに戻る可能性はあるか」
そう呟いた時であった。
コンコン
とノックの音がする。
「誰かね」
「…初めましてロレンス先生」
扉の先に聞こえた声は今まで聞いてきた誰のものでもない。息子以外の男の声だった。
テーブルにあったM1911を握り締める。
「入りたまえ」
扉が開く。
そこにあったのは。
「初対面がこの様な形になってしまい、申し訳ない。私の名前はゴルゴンダそして、私を抱えているのがデカルコマニー」
「そういうこった!」
「…話をしませんか。ロレンス先生」
自分の知らない。もう大人の姿であった。