何だか、みんな楽しく見てくれているようで本当に嬉しい限りです。
アブドル・ラフマーン・ビン・サムラは伝えている
アッラーのみ使いは「アブドル・ラフマーンよ、統治者の地位は請い求めてはならぬ。それを請い求めた末、かりにそれを手にしたとしても、支援の手もなく孤独にされるであるう。だが、もしそれを請わずして手中にしたとすれば、それに対する支援の手がのべられるであろう」と申された。
ハディース「統治の書」より
ーーーーー
「報復はしねぇって…?!」
「そうだ」
ロレンス一行は自分たちのアジトまで戻ってきていた。既に、洞窟とその周辺はロレンスが来た頃より大きくその様相を変えている。洞窟を中心として、その周囲には無数のテントが貼られ、彼女達はその中を色取り取りに模様替え、暮らしている。
そんなテントを突っ切りながらアティクはロレンスに談判していた。
「何でだよセンセ!そんなんじゃ舐められちまう!」
「アビドスと事を構えるのは得策ではない」
そう言ってロレンスは一際大きいテントに入る。それは、彼が仕事場兼住居としているテントである。ロレンスは中央のテーブルから一枚の資料を取り出し、アティクに手渡す。
「…なんだよこれ」
「アビドス廃校対策委員会の概要を記した資料だよ。そこの、顧問の欄を見てみなさい」
「…シャーレの先生か」
「そうだ。彼に被害が出ると最悪連邦生徒会が出てくるかもしれない」
アティクは苦虫を噛むような表情をする。
それは、彼女が復讐に燃えていたのもあるが、何より彼女のシャーレの先生嫌いも関係していた。
「何だよ…!またこいつか!」
「落ち着きなさいアティク」
「落ち着いてられるかよ!ずっと言ってるけど、私はこいつのことが…!」
「…落ち着きなさい」
ロレンスはそう言って一杯のコーヒーをアティクに差し出す。アティクも少しの沈黙の後、観念した様にコーヒーを口をつけた。
「…ごめん」
「いいさ。君の気持ちはよくわかっているつもりだからね」
アティクはその言葉に顔を赤くして伏せる。
ロレンスはコーヒーが熱すぎたのかと思ったが、どうやらそうではなかった。彼女はバレないようにと話の話題を変えた。
「そうだセンセ!次の仕事…!次の仕事の話しようぜ!」
「…?ふむ。そうか、私も考えていなかったな」
ロレンスはテーブルから仕事の依頼書の束を取り出す。一枚一枚が仕事の案件であり、その数は手元にあるだけで既に100枚は超えていた。
「増えたよな〜、私たちもそれだけでっかくなったってことか」
「そうだね。しかし、必ずしもそれが良いことではないかもしれないな」
ロレンスは一枚紙束から書類を引き出す。
「例えばこの依頼、あまりにも胡散臭すぎる」
「なになに…『無差別破壊活動』場所は…トリニティ…?依頼内容は物騒だけど別に何ともなさそうだぜ?」
「…日付を見てみなさい」
「…これって、エデン条約の執行日だよな…」
「下手すればエデン条約機構の最初の敵になるかもしれんな」
「やばすぎるだろ!普通に却下だ、こんな仕事!!」
アティクはそう言って書類を地面に叩き捨てる。
興奮のせいか息が上がっているアティクを横目にロレンスはため息を吐いて椅子に座る。
「私たちの名前が広まれば広まるほど、仕事は増えるがこう言った『不穏な仕事』も増えてきている。それはだいぶあからさまな類のものだが、上手く隠そうとしてるものもあってだね…」
「マジかよ…」
実際、キヴォトスの傭兵界隈において『バアス旅団』は良くも悪くも名を轟かせていた。
曰く、成功率100%のレジェンド傭兵集団
曰く、連邦生徒会に反旗を翻そうとしてる武装集団
曰く、シャーレの先生が設立した秘密組織
事実や虚偽が織り交ぜられながらも、その名は広められる。しかし、バアス旅団として何か声明を出して存在感を示せば、学校設立の時に尻尾を掴まれるかもしれない。
だからこそ何もバアス旅団として何の声明も出すわけにはいかなかった。
しかし。
「今回の事で確信した。シャーレが動いた」
ロレンスは確信していた。
ここが山場になると。そして、引き際でもあると。
「…どうすんだよ、センセ」
「簡単だ。傭兵稼業を辞めればいい」
「辞めちまうのか…?!」
「バアス旅団の目的は学校を作るための資金稼ぎであって、傭兵稼業ではないからな」
男はそう言ってまた、アティクに書類を渡す。
それは、現在のバアス旅団の貯金状況を記した書類。そこには、八桁のゼロが並んでいる。アティクはその桁に一瞬驚愕しながらも、すぐに顔を綻ばせてロレンスを見る。
「まさか、センセ!」
「そうだ。ついに私たちも動ける」
数ヶ月間の連日連夜の仕事によってついに学校設立のための金額は達成していたのだ。
「本当か!それなら早くみんなに知らせねぇと!」
アティクはそう言ってすぐにテントを出ていく。
ロレンスはそんな彼女の後ろ姿に少しし微笑み、すぐに書類仕事に手を伸ばした。学校設立のための必要書類…予算状況や授業学校計画書、そして…
シャハーダ学院 生徒会名簿
ロレンスはその一枚を見ながら深い思考の海へと潜っていった。
ーーーーーー
集会所たる洞窟は大きな熱気に包まれていた。
1千人を超える生徒達が洞窟内にひしめき合い、今日の喜ばしき日を歓迎しようと気持ちを昂らせていた。
「ロレンス先生が来たぞ!」
一人の生徒が洞窟の外から書類を片手にやってきたロレンスを指差す。すると、その瞬間生徒が一様に立ち上がり、拍手を始める。
まるでどこかの独裁国家のようである。下手すればレッドウィンターよりも独裁国家のようである。ロレンスは苦笑するしかなかった。
ロレンスはこれに対して不満を持っているし、辞めさせたかったからである。しかし、止めようものなら『分かってますから!』と謎理解ムーブをさせるか、『私たち…何かとてつもない粗相を…?!』と激鬱ムーブをされるので、もう止めることもしていない。
先生の神聖視をしていないアティクやアリも死んだような目で拍手をする。
みんな慣れてしまった。
そんな事はさておき、ロレンスは教壇に着いて生徒に語りかける。
「諸君。ついに、準備は整った」
「アビドスへの復讐ですね!」
「「「「おお!!」」」」
「…違う」
「聖戦の用意ですね!」
「「「「おお!!」」」」
「…違う」
「じゃぁ!」
「咲田君。君は少し静かにしていなさい」
「ふぇ…」
「…ん"ん"…学校設立のための資金がついに貯まった」
「「「「おおお!!!」」」」
生徒達は一斉に声を上げる。
ついに、準備が整ったのだ!
学校に入れるんだ!
彼女達は念願の学生としての証明が手に入るのだと歓喜した。ロレンスはその姿を微笑ましそうに少し静観してから、手のひらを宙に上げる。
先程の歓声はすぐに止み、生徒達はまた静かにロレンスの方を見る。
これも既に慣れてしまった。
心の中で苦笑をして、すぐに声を上げる。
「さて、そのために私は明日から少し席を外す。連邦生徒会にこの書類を提出するためだ」
それは学園の設立申請書であった。
学園として、自治体として認められるためには、その一度書類や金銭を連邦生徒会に提出しなくてはならない。ロレンスはこの日のために多くの準備を費やしてきたのだ。
「基本的には向こうに宿をとって審査が通るまで向こうにいる。君達とは少しの間離れることになるが…」
ぐすん
洞窟内に啜り泣く声が響く。
一人、二人、三人、声は少しづつ大きくなる。
「…君たち、戻ってくるまで留守番できるかな?」
「「「……ぐすん…!はい!!」」」
「…いい子だ」
ロレンスはこれを言うのが少し心配だったのだが、何とかなってよかったと安堵した。
生徒によるロレンスへの依存は最近観測され始めたことであった。咲田をはじめとした一部生徒は、明らかにロレンスに依存していた。
ロレンスはそれを父性に飢えていた少女達が、私にその役割を求めているのだろうと認識していた。実際、彼女達はこの多感な時期を自身の身ひとつと友人達だけで過ごしている。父性を求める先としてはうってつけだったのだろう。
だからこそ、ロレンスはこれを機会にして少しづつ生徒達の依存感を薄めようとしたのだ。
しかし、ロレンスの予想外は存在した。
それは、全員が全員、"父性だけを求めているわけではない"と言うことである。そんなことに気がつくことなく、ロレンスは話を続ける。
「そのため、数人私の護衛として共についてきてくれる生徒が必要となる。しかし、この仕事はただの護衛の仕事だけではなく、設立予定の学院を代表すると言う役目もある」
「…そう言うことか」
「アティク君、察しが早いな。まぁ、詰まるところ、今回の同行者は設立予定である『シャハーダ学院』の生徒会として私と共に来てもらう。まぁ、本来なら選挙をしたいところだが、初代ってこともあるし、時間もないのでね。私が任命した」
生徒達の中でざわめきが起こる。
誰が生徒会に入れるか、生徒達は固唾を呑んでロレンスを見守る。
「では、発表する」
シャハーダ学院 生徒会
副生徒会長: 紫亜アリ
書記:咲田スンナ
会計:
武装生徒隊長:信上ウマル
以上
「これがシャハーダ学院生徒会だ。これからこの学院をよろしく頼む」
その一言で洞窟は歓喜と熱気に包まれた。
学校名や新キャラの名前メタは一度考えてみてほしいですね。