ランキング100位圏内ですって奥さん!凄いですよ!
評価赤くなって、9やら10やら増えて感激です。
読者さんには感謝の念が尽きませんね
イーヤース・ビン・サラマはその父よりきいて、預言者の言葉をこう伝えている
「我らにむかって剣を抜く者は、我らの仲間ではない」
ハディース「信仰の書」より
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男は求めていた息子との再会という奇跡を極めて冷静に、そして冷酷に判断していた。
息子が敵として目の前に現れる。
予想できた事だ。シャーレの先生なる者の特徴や性格を聞いたあの日から、男はいつしか先生と息子を強く関連付けていた。だからこそであろうか。父と子の関係がバレる、男は現状の最善をこの形式であるとは考えなかった。男は、関係がバレるという事が、バアス旅団の生徒達や息子である先生に対しても、悪い影響しか与えない事を理解していた。
だから、剣を向けた。
銃を撃つ事はない。アティク達生徒にもそれは遵守させている。詰まるところは脅しだ。
もしも、向こうが撃ってくればもしかしたら死ぬかもしれない。しかし、男は賭けることにしたのだ。
「我らに向い武器を取るものは、我らの仲間ではない」
男は重々しくそう謳い剣を引き抜く。
久しぶりの最前線。防御のための道具も何も持っていないためにか、足がすこし震える。
「我らが同胞を助けよ。旅団の結束を思い知らせよ。」
剣を空へ掲げる。
「アクバル!」
男が叫ぶ。それが合図だった。
群は堰を切ったように砂丘を滑り始めた。
まるでそれは波だった。人の波、色とりどりのターバンと旗によって彩られたそれは、高きから低きへ流れてゆく。
川に流れる水の如くに流れるそれは、水とは違い群を構成する個には意志があり、その意思一つ一つは必ず敵を打倒せんという敵愾心を孕んでいた。
「ん、これはまずい」
「…うへぇ…流石のおじさんもあれだけの数の相手は無理かな…!」
「皆さん!早く車に」
咲田達をおいて対策委員会の皆が車に乗り込む。
アヤネが全員乗ったかを確認するが、一人足りない。それに慌ててすぐに窓の外に顔を出す。
そこには先生が立ち尽くしていた。
彼はロレンスを見ていた。
軍の最前でサーベルを片手に、馬を走らせる勇ましき男を。先生と何ら変わらないキヴォトス人とは違う貧弱な体であるのに。
男にはアロナもいない、それなら本当に弾丸一発が致命傷になりうる。それでも、男は彼女たちを一番前で導いているのだ。
先生には、それがすこし輝かしく見えた。
「先生!」
「…!ごめんね、すぐ乗るよ!」
アヤネの一言ですぐさま現実に戻る。
扉を開けて、車に乗り込む。車の外で
「出発します!」
車が発進する。
彼らとすこしずつ距離が空き始める。
しかし、その時。
「先生!これ、撃ってきてない?!」
まるで雨が降るように、カツンカツンと何かが当たる。よくれば、後ろの窓から怒りかながら銃をこちらに撃つ影がある。しかし、既に距離が生まれたことから、そこまで危険ではない。
安心した一行は帰路に着く。
しばらくすれば、敵の影はどこも見えなくなっていた。
「凄い人達でしたね…」
「まさか、敵の大将がそのまま前線に来るとは思わなかった」
「あの白い服を着てた人ですよね⭐︎…先生と同じでヘイローも持ってないのに何故あんなに前で戦おうとしてたんでしょう…」
「…そうだね。後ろで指揮を取るだけでも怖い事はあるのに…」
先生はそうボソリと呟く。
どうして、あそこまでやれたのだろう。
先生は考える。死ぬかもしれない突撃を敢行する勇気。もしかしたらこちらが撃ってたかもしれない。正面衝突になったかもしれない。
しかし、その想いにはどこか心当たりがあった。
「…きっと、仲間達を助けるのに必死だったんだよ〜」
ホシノが眠そうな声でそう語る。
そうか、そうだ。心当たりはそれである。
そう考えれば、その気持ちは対策委員会の誰もが一度感じたことのあるモノだった。助けたいとなれば、先生だって前に立つ。
彼らも、私たちと何ら変わらないのかもしれない。
「もしかしたら、そこまで悪い事してないのかもね」
先生はそう呟いた。
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一方その頃、ロレンスは咲田達の縄を解いていた。半泣きになっている咲田の縄を解いてやれば、彼女がロレンスに抱きつく。どうやら涙腺が決壊したらしい。
「せんぜぇ…!」
「泣くな咲田君。よく持ち堪えてくれた」
「う"ぅ"〜でも、物資も戦いで、落としちゃっでぇ…」
「構わんさ、君が無事ならな」
「う"ぅ"〜!!!ぜんぜぇ…!」
感動の再会
そう思っていたのはロレンスだけである。他の生徒には咲田のその光悦としたニヤケ面が、見て取れる。
「…こいつ…嘘泣きしてやがる…タチ悪りぃな」
「…でも、ここまで持ち堪えたのは事実だから…ボスも許してあげて…」
嘘泣きが、どんどんと崩れてグヘヘと声を変え始める咲田。しばらくして、一行は基地へと戻っていった。
廃墟ビルの一角
歪な人影が窓の外の事件を覗いていた。
「どうですかゴルゴンダ。あの"もう一人の先生"は」
「…素晴らしい…!実に興味深いテクストばかりだ!!」
「まぁ、そういうこった!」
初めてシロコがキャラバン隊を見た都市の廃墟ビルは、一連の時間の流れは極めて鮮明に見えた。
「今まで、このようなテクストをこのキヴォトスの地で見たことがあったでしょうか…いや、ない!今まで存在したことのなかったテクストが、外からの使者…ロレンス氏によって、持ち込まれたのです!」
「…して、その結果どのように変わったと考えますか?」
「そこが最も興味深いところですよ、黒服」
黒服と呼ばれた男はゴルゴンダと呼ばれたモノに目を向ける。
彼は相変わらず窓の外を見て続ける。
「かの使者が持ち込んだテクストは二つ。『ムハンマド』と『ロレンス』というテクストのみだった。しかし…」
「…テクストは自然増殖した」
「そうこった!」
「そうです!そこですよ黒服!こんなこと今までに見たことなどない!外から侵入した文脈が内部の別の文脈に結びつき、そして、それは新たなテクストとして、この世界に深く結びつこうとしている」
「ふむ…私のものとは異る興味深い視点ですね」
「シャーレの先生なる方の評価はまだできませんが、かのロレンス氏は素晴らしい!私が最も好む作品の一つを生み出してくれそうだ!」
「まあ、そういうこった!」
「…それならば、ぜひ一度コンタクトをとるべきですね」
「えぇ、そうしましょう。彼とは良い語らいができそうだ」
「そういうこった!」
新たな火種は刻一刻と生み出されようとしていた。