アビドスのロレンス   作:チチメカ

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状況理解の為、少し雑かもです


第二話:砂漠の夜

一体、何時間歩いたであろう。

顔も手も日焼けであろうか。ヒリヒリしてきた。

男は何も持っていなかった。目が覚めると、一張羅のスーツと自慢の口髭以外は何もなかった。

水もなければ、帽子もない。

なんと言うことか。私に死ねと言うのか。

 

「…まずい…とても、まずいぞ…」

 

カサカサになった唇から、弱々しい声が出る。

砂漠は初めてでは無いが、こんなに装備に乏しいのは初めてである。以前の旅では、砂漠に適した衣服に水、ラクダもいた。最低限の装備はあったはずだ。しかし、今はなんだ。

 

革靴はすでに大量の砂に侵食されて、地面を踏めば砂の感触しかしなくなっている。スーツは頭に被せて帽子が代わりだ。そも、スーツは11月の寒空に耐えれるように、暖かい素材でできている。

こんな日光の下で着るなど、内から体を燃やすようなものである。

ワイシャツ一枚と、スーツのパンツはすでに汗でベシャベシャである。気持ちが悪いが、まだ大丈夫だ。

 

本当にまずいのは汗も乾き、服も乾いてしまうことである。

 

汗がかかなくなると言うことは、それ即ち脱水状態を意味する。また、服が乾けば蒸発による体温の上昇も完全に見込まれなくなるだろう。

 

どこかで休まなくてはならない。

 

日光が出ている今は行動すべきでは無い。行動するなら夜である。砂漠の夜はマイナスをいくほどに寒くなる場合もあるが、現在の装備を考えれば、昼の行軍よりかはましである。

 

既に、男は砂砂漠を超えて、岩石砂漠に差し掛かっていた。しかし、限界は近づいている。

 

「……まずい…フラフラする…」

 

足元がおぼつかなくなってきた。

すでに、視界は焦点を定めることもできない。

まずい、まずい、まずい…!

男は力を振り絞って、助けを求めようと声を出そうとするが、それも叶わない。

 

力なく、男は地にふした。

 

「あ…あぁ…!」

 

ぼやける視界、目を閉じる刹那、砂漠の果てから数人の人影が見えた気がした。

 

ーーーーーーー

 

「人…?死んでる…?!」

 

「この人、ヘイローがないっすよ!死んでるっすよ!」

 

「バカ!落ち着け。よく見ろ、息はしてるから、気絶してるだけだ!それにしても…大人か?もしや、シャーレの先生か?!」

 

「大人の男っすか!うち、初めて生で見ました!」

 

「でも、シャーレの先生って髭なんか生えてたっけ」

 

「立派な髭っす!」

 

「…なんにせよ、使えるかもしれん。基地に連れて行くぞ。奴らがくるかもしれんから、早くな。」

 

ーーーーーーー

 

光が見える。オレンジの光だ。

熱を感じる。程よく暖かい熱だ。

ゆっくりと瞼を開く。その光と熱は、薪が発したものだと分かった。

 

「目が覚めたか」

 

声のする方に目を向けると、ヘルメットを被った女の子が男を見下ろしていた。高校生ほどであろうか。まだ顔には幼さが残る。

 

「…君が助けてくれたのか」

 

「勘違いするな、"シャーレの先生"。助けたつもりはない。これは取引だ」

 

どうも、話がつかめない。

それに、今気がついたが、少女の手には銃が握られているではないか。それも、ハンドガンなどではなく、ライフルである。

 

…下手な刺激は死につながる

 

男は体を起こして辺りを見渡す。

洞窟の入り口のようであった。しかし、周囲には無数の家具や毛布が散見されている。洞窟とは言え、彼女はここに住んでいるようだ。

辺りを見渡していると、入り口から足音がする。一人や二人ではない、数十人の足音だ。

 

「あ、ボス、先生が起きたっすか?」

 

「…起きたなら連絡くれたらいいのに」

 

元気溌剌な赤毛の少女と、目を閉じた黒髪の少女を筆頭に、ぞろぞろと人が洞窟の中に入ってくる。

皆頭にはヘルメット、そして銃を握りしめている。しかし、どういう訳であろうか。全員少女ではないか。まるでわからない。まさか、砂漠版アマゾネスの集団にでも拉致られたのであろうか。

 

「…すまない。状況がいまいち掴めん」

 

「なんだと…本当に現状を理解してないようだな」

 

少女は呆れたように顔を顰める。

 

「そもそも、気がつくと砂漠にいたのだ。ここがどこかもわからん」

 

「……おい…お前、"シャーレの先生"だよな?」

 

「?いや、私は××大学の教授だが」

 

「なんだと?!」

 

ボスと呼ばれた少女は驚いたように口を開けた。

もしかすれば、これは嘘をついてでもそうだと言っておくべきであったろうか。

 

「えぇ!オジサン、シャーレの先生じゃないんすか?!」

 

「そうだ。そもそも、私は"シャーレ"と言うものすら知らん」

 

ここまで来れば、どうにでもなれである。

研究調査のために海外に行くときでも、こんな事は日常茶飯事だ。なんとかなるはずである。

 

「……人違いだったか?」

 

おそるおそる、少女に聞く

 

「あぁ、とんだ人違いだ」

 

少女は男を睨みながらそう呟いた。

 

「私をどうする気かね」

 

「……"砂漠に捨てる"よ。使えないもんをここに置いてやるほど、私たちには余裕なんかない」

 

まずいな。もう一度砂漠に捨てられれば、死ぬことは火を見るより明らかである。しかし、武器も人も向こうが有利である。…であるなら、口八丁でどうにかするしかない。

そして、男が、口を開こうとしたそのときであった。

 

「ボス!ガラガラヘルメット団が来やがった!!」

 

突然、外からやってきたヘルメットの少女の大きな声が洞窟にこだました。

少女達は、その一声を境に慌ただしく、武器を抱え混乱している。なんとも、カオスだ。

だが、ボスと呼ばれた少女は、眉間に皺を寄せ、武器を背負い、鋭い声を上げた。

 

「全員、武器を持って外へ出ろ!迎え撃つぞ!」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

その一言で、場は理性を取り戻した。

少女達は武器を構え、装備を整え、数分も経たずに外へ飛び出して行く。男も、どうしようかと思案しているとふと先程の黒髪の少女が男に話しかけた。

 

「貴方はその場にいて」

 

すると、少女も外へ出てしまって洞窟はあっという間に静まり返ってしまった。

彼女等は何をする気であろうか。

いや、そもそもここはどこだ。

先程の"シャーレ"や"ヘルメット団"とは何のことだろうか。そして、なにより。

 

「銃を持って何をする気だ…?!」

 

先程の少女等は何処までみても、高校生を過ぎない程度の歳であったように見える。そんな少女等が銃火器を持って、声を荒げて、外へ飛び出したのだ。もしかしなくても、その使用用途と行動はおおよそわかる。

 

「黙って、待っておられるか!」

 

男は、外へと飛び出した。

 

ーーーーーーー

 

「そろそろ観念しろ!サラサラヘルメット団!」

 

「ひゃっはー!汚物は消毒だぁ!!」

 

「にがさねぇぞぁ!!」

 

何ということであろうか。

なも知れぬ少女達が、私達に向かって銃を撃ってきているではないか。

男は、岩の影から銃撃戦を覗いては、絶句していた。何故、彼女達は銃を撃ち合っているのだ?!

 

「お前、何してるんだ!」

 

後ろから、声がした。

銃声に負けないように、強く言い放った声だ。

 

「ボスと呼ばれていた、先程の少女か!」

 

「私の名はアティクだ!それより、何でお前がここにいる!」

 

青い顔をしながら少女は男に問う。

 

「君達のような少女が武器を持って外へ出たからだ!」

 

「なんだと!お前、死にに来たのか!」

 

「そんなことはない!」

 

どうにも、話が噛み合わない。

男は違和感を感じながら、アティクに返答する。

その刹那、アティクの肩に衝撃が走る。

 

「アティク?!」

 

「痛テェなぁ…!」

 

「大丈夫か?!すぐに止血する!」

 

「邪魔だ!オッサン…お前、何しようとしてんだ!?」

 

「止血だ、肩を抑えて…血が出ていない?」

 

男は急ぎ、自分のワイシャツを破り捨て、即席の包帯をアティクの肩に巻こうとした。しかし、どこを探しても、弾痕は見つからない。

 

「私たちはヘイローがついてるから、お前と違って撃たれても平気なんだよ!」

 

「な…なんと…!」

 

驚きの連続で、思考がまとまらない。

この少女達は銃で撃たれても平気だと言うのだ。

少女は自分の頭に浮かぶ、円盤を指差して男にそう言い放った。

 

「イチャイチャしてないで、ボスまずいスよ!押されるス!」

 

「あぁ!お前のせいで、指揮がバグっちまったじゃねぇか!」

 

アティクは乱暴に男を振り解いて、トランシーバーを構える。

 

「このまま抑えろ!それしかねぇ!」

 

ーーーーーー

 

ジリ貧だ。

アティクにもそれはわかった。

顔に冷や汗が走っている。数の差は歴然だ。私たちの装備も古い、向こうはAKを使っているのに、こちらはいまだにボルトアクションライフルだ。ジワジワと押されている、戦線を構築しているだけ奇跡と言えるだろう。

 

アティクは思案していた。

このままだと負ける。

カタカタヘルメット団の解散から、分裂したヘルメット団は盗賊化して、ついに私たちの拠点にすら現れるようになった。向こうは解散したとは言え、もとはアビドスの一大勢力を築いたヘルメット団だ。

装備も、補給も、指揮も全てが遅れを取ってる。

どうすればいい?どうすれば…どうすれば…??

夜風と戦闘で待った砂塵が、額に垂れてきた汗にこびりつく。

そのときであった。

 

 

「右翼、敵が回り込もうとしているぞ」

 

 

男の声がした。

上を見上げると、何処からか拾った双眼鏡を片手に、そして口髭を片手にいじりながら、男が岩陰から外をのぞいていた。先程までの必死さは見る影もなく、まるで歴戦の指揮官のように静かにそこに佇んでいた。

 

「お前!何してんだ!さっさと岩陰に戻れ!」

 

「敵の数はおよそ3人だ。ここなら狙撃もできる、まだ間に合うぞ」

 

まだ間に合う。

男は、そう言って私を見下ろした。

"どうすればいいか"

なにも、思いつかなかった私にこのオッサンは突然回答を示しやがった。

私は、その事実に驚愕とそして少しの恥ずかしさを感じながら、トランシーバーに手を伸ばした。

 

「右翼、敵が3人だ。アリ達、狙撃して」

 

指令を出したすぐ、銃声がした。

 

「うむ、上手く行ったようだな」

 

「…お前、指揮できるのか」

 

「…昔経験があってだね」

 

そう言えば、先生と呼ばれる大人は戦術指揮もできると聞いていた。それなら、もしや、もしかすれば、勝てるかもしれない。

こいつに任せれば…勝てるかもしれない。

私は、これに賭けるしかなかった。

 

「…お前…いや、あんた私たちの指揮をとってくれ」

 

この大人に賭けるしかなかった。




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