宇宙ステーション「ヘルタ」…傲岸不遜の嗤う天才が”物置”の為に作った立派な施設である。この説明だけでステーションの名を冠する天才が高い美意識と自尊心を持った素晴らしい精神性を持っているのは理解いただけただろう。そんな銀河中のインテリ達が集まって日夜研究に励んでいる物置は今(平スタッフはスマホゲームと噂話に現を抜かしていて問題処理能力が皆無だと犬に愚弄されているって?ククク…)渦中に巻き込まれていた。
「うああああああ(PC書き文字)」「レギオンダーッタスケテクレーッ」
あらゆる星に壊滅を齎してきた野蛮人、蛇蝎の如く嫌われているクズ共こと”反物質レギオン”に目を付けられ襲われているのだ。スタッフ達は戦闘に向いていない者が多く、暴悪を振りかざされパニックに陥っていた。しかし、ステーションも無抵抗な訳ではない。敵対勢力に備え、戦闘訓練を積んだ私兵である防衛課がいる。彼らはレギオンと闘いながら、混乱している研究スタッフ達を避難させていた。
「ハーッ」逃げるのに手間取って悲鳴を上げていた職員の声を聞いて、雷を纏った得物を携えた褐色肌の男が駆け付け無慈悲な殺戮機械人形共を斬り裂いた。防衛課のリーダーアーランである。小柄だが、その身に宿る膂力は侮ってはいけない。
「あ、アーランさん!ありがとうございます…」
「お礼は後にしろ。あっちで俺の仲間が避難誘導しているから付いていくといい。」アーランは淡々と指示を飛ばす。戦いの場にあっても冷静沈着な態度は非常に頼もしい。カッコいいぜアーラン、俺が女なら股を濡らすね。
(目に見える範囲で逃げ遅れたスタッフはいない、俺がカバーできない場所は仲間たちが闘ってくれている。あとは侵入者共を倒すだけだが…)武器を構え直したアーランは焦燥に駆られる。
(敵の数が多すぎる。俺一人でどれくらい持つか…)一抹の不安を抱えるが、それでも彼は勇敢に立ち向かって行った。防衛課スタッフは常在戦場、研究が出来ない彼らの存在意義は戦闘にしかない。
(やれるかじゃない…やるんだ。一体でも多くレギオンを殺す…)凄まじい勢いでレギオン達を殺戮していくアーランだったが、いつしかそれも限界が来る。
「ぐっ…」命に頓着しない機械軍団が多勢に無勢で圧し潰しに来るのだ。全ての攻撃を捌くのには限界がある。右腕を斬り付けられた彼は思わず呻き声を上げる。鮮血がドクドクと腕を伝っていく。
(…この辺りが限界か。今の戦闘で十分奴等を間引いた。一度撤退して他スタッフと合流を…)逃亡も立派な戦略である。深追いして命を落とすのは愚策であると身を引こうとした彼であったが…
「俺も仲間に入れて欲しいんですけど。」
「!?」◇突如現れた謎の男ー!!のっぺりとしたモブ顔のマネキンフェイス、全身鍛え上げられた体、その身に纏った薄いTシャツの内側には立派な筋肉が浮かび上がっている。
(誰だ!?宇宙ステーションのスタッフではないようだが…かと言ってレギオンにも見えない…)こんな非常時に見知らぬ男が現れたら誰だって警戒する。先程までアーランを襲っていたレギオン共すら動きを止めて様子を伺っている。
「初めまして、”愚弄”の”サルワターリ”を信仰する行人”マネモブ”です。今日は偶々通り掛かったステーションが面白そうだったんでブッ倒しに来ました。」男は素直に自己紹介をする。
(愚弄…?サルワターリ…?この男は何を言っているんだ…?いや、そんな事はどうでもいい、問題はコイツが敵かどうかどいう事だ。万が一壊滅の一派だったら…)そのような運命や星神など聞いた事がない。
「?もしかして今の説明で理解出来なかったタイプ?ですから面白そうだと遊びに来た侵入者のマネモブですと自己紹介させて貰ったじゃないですか。闘う理由なんてどうでもいいじゃないですか。傍若無人で傲慢な馬鹿が一方的に喧嘩売ってると思って下さい。」
「…つまり敵という事か?」男の自分勝手な言動に不快感を覚えながらアーランは武器を構える。後方には先程まで闘っていたレギオンが残っている。敵に挟まれ四面楚歌、背水の陣といったところだ。幸いマネモブは壊滅とは違う第三の勢力のようなので、レギオン達と潰し合わせその隙に闘争する事は出来ないか?アーランは必死に戦略を練り上げる。
「はい、強そうな奴を見たら鬼になって闘ってみたいという衝動に駆られるのが格闘家ですよ!ニコニコ」ブアッ…
(なんだこの得体の知れない気配は…)ステーションが襲われるのは何も今回が初めてではない、場数はかなり踏んできた。だからこそ理解出来る、相対している男は相当な強き者だと。彼が保有する莫大な虚数エネルギーがヒシヒシと伝わってくる。
「まあ安心して、手負いの敵を狙うくらい落ちぶれていませんから。別にヒーローになんかになりたいとは思わないけど、どうせなら凶暴凶悪な奴とやった方が刺激的でモチベーションが上がる。」幸い男の魔の手はレギオン達に向いたようだ。アーランを無視し、まるで瞬間移動のような素早さで近付いていく。
『!』正体不明の男を観察していたレギオン達も襲われるとなったら反撃に出る。バルカンを持った雑魚が男に向かって銃撃する。
”灘神影流” ”弾丸滑り” しかし、1万ドル分はありそうな弾丸の雨は男の独特な身のこなしにより空の彼方へと流れていく。
「これがオトン直伝、弾丸滑りや!喰らえっ、我が乾坤一擲の一撃をっ」レギオンの攻撃をやり過ごした男は遂に零距離まで接近し強烈なミドルキックを叩き込む。
(あの男の注意がレギオンに向いてくれて助かった…今のうちに、)仲間と合流しに行こうとするアーランだったが、ここに来て予想外の事が起きる。
『…?』
「なにっ」なんと男の攻撃は全然効いていなかった。あまりの弱さに敵も戸惑っているように見える。
ブンッ…「はうっ…」男を引き剥がそうとレギオンが殴り飛ばすとと男は胸を抑えて地面に倒れ込んだ。無様である。
「お、おい!大丈夫か!?」最初は逃げようと思っていたアーランだったが、彼は優しいのでレギオンに返り討ちにあったマネモブを見過ごせずに近付いた。男は負傷した胸にベルトのバックルに仕込んだ針を取り出して刺していた。身体の経穴(ツボ)を刺激して痛みを和らげている。
(全く、強いのか弱いのかよく分からん奴…)男に肩を貸しアーランは一緒に連れて行こうとする。
「あたり前や。灘神影流は人間相手につくられたもの。機械とケンカして勝てる人間なんておらんやろが。」別に自分ならあの程度のレギオン一体一体を倒すことくらい造作もないと思ったが、アーランは黙っていた。
「待てよ、物語はこれから面白くなるんだぜ?」肉弾戦ではボロボロに負けた男だがまだ秘策があるらしい。
「やれっ、トダー。」
「ハイデース。」男がトダーという名を呼んだ瞬間、どこからともなくモノアイを付けたロボットが現れた。
(あのオムニックは一体…?この男の仲間か?)突拍子もない展開の連続にアーランはそろそろ疲れてきた。
「ココハ私有地ヤンケ、シバクヤンケ。イクヨマネモブ。」トダーはマネモブが敗北したレギオンに向かってパンチを叩き込む。余所者が私有地を主張するのはちょっとおかしいような?とアーランは疑問に思ったが。
ビュンッ
『グオッ』トダーの強烈な拳でレギオンがグッチャグチャに破壊される。ソニックブームが発生したのを鑑みるに、このロボットの攻撃は音速を超えている。
「ワシハ音速パンチヲノーモーションデ撃テルヤンケ。」あっという間にレギオンの軍団を駆逐していく。
「フーッ終ワッタヤンケーッ。マネモブ、機械ガ苦手ナラモット早ク呼ベト毎回言ッテルヤンケ。」仕事を終わらせたトダーが二人に近付いてくる。
「愚弄の運命って怖いぜェ…猿世界の概念に強く影響を受けるんだからな…」男の言っている事は相変わらず理解不能だが、目の前のオムニックは頼りになりそうだとアーランは思う。
「なあ、もし良かったらレギオンと闘うのに協力してくれないか?侵入した事はこの際どうでもいい、所長に頼めばある程度の謝礼はくれる…と思う。」アーランは協力を要請する。
「ワシハゴア博士トマネモブノ命令以外効カナイヨウプログラムサレテルヤンケ。ドウスルマネモブ?」
「マイ・ペンライ!!」マネモブは調子よくサムズアップした。
「感謝する、一先ず俺達の仲間に合流しよう。」ここに即席の奇妙なパーティが誕生した。
何やかんやあって終末獣と相対した一行。
「なあトダー、あのデカイの倒せるか?」
「無理デース。」
終末獣は列車組がしっかり倒した。