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伊藤詩織さん映画、「修正箇所不明」のまま日本公開へ 元弁護団は内容証明送付

小川たまかライター
写真:REX/アフロ

 監督作品『Black Box Diaries』でオスカーの長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた伊藤詩織さんが10月26日、突如自身の公式サイトで謝罪文を発表した。昨年から指摘されていた無断撮影などの問題の一部が解決したと受け取れる内容だったが、問題を指摘した元弁護団の代理人は「(他の問題点は)全く解決しておりません」とし、「許可がとれないものは編集・削除してほしい」と改めて訴えている。

 さらに、伊藤さん側の現在の代理人は「修正したバージョンを見てほしいと(元弁護団側に)求めたが拒絶されている」と主張するが、元弁護団側は「修正バージョンを見てほしいとは言われていない」と主張。すれ違いが生じ、元弁護団が伊藤さん側代理人に11月5日付けで内容証明を送る事態となっている。

 そんな中、11月6日に『Black Box Diaries』が12月から都内の映画館で公開されると発表された。

<これまでの経緯>

タクシー運転手以外の修正について説明なし

 10月26日、伊藤詩織さんが、自身が監督した映画『Black Box Diaries』で、証言者のタクシー運転手を無断撮影した件について、このタクシー運転手への謝罪文を公表し、「新しいバージョン」の使用許可を得たと報告。一部メディアが、これを「和解」と報じた。

 『Black Box Diaries』については、昨年10月21日、元弁護団の西廣陽子弁護士、加城千波弁護士が、代理人の佃克彦弁護士と共に会見を開き、(1)民事訴訟のみで使う約束だったホテルの防犯カメラ映像を映画に無断使用したこと、(2)伊藤さんに有益な情報を提供した捜査官との会話の無断撮影と録音、(3)伊藤さんに有益な証言をしたタクシー運転手の方の無断撮影、(4)民事訴訟を担当した西廣弁護士との電話の会話の無断録音について、問題を指摘していた。

 また、今年1月14日に東京新聞・望月衣塑子記者が、画内で性被害をめぐる集会の映像が一部の参加者の許諾なく使用されたと報じ、指摘された問題点は合わせて5点となった。

 今回の伊藤さんの発表は5点のうち、タクシー運転手についてのみで、その他の4点については具体的な言及がなかった。

 この謝罪文発表を受け、元弁護団は10月28日にコメントを発表した。「一歩前進であり、よかった」とする一方で、「その他の問題点についてどのようになっているのかの説明がないのは極めて残念」と訴えた。

 また今夏から、修正されていないオリジナルバーションのDVDがフランスで販売されている。この事実などについて元弁護団から問い合わせたところ、「伊藤さんから西廣弁護士に直接説明する」という趣旨の返答があったが、元弁護団は「会って謝罪」ではなく、修正は進んでいるのかについて書面での回答を求めていたと明らかにした。

2月の声明はなんだったのか

「伊藤氏側の説明は急務」

 以下は、コメントの全文。※一部、機種依存文字を変更し、適宜改行を加えた。

2025年10月28日

伊藤詩織氏の本年10月25日付けのコメントと謝罪文について

                         西廣陽子・加城千波

                         両名代理人弁護士 佃 克彦

 映画「Black Box Diaries」(BBD)について、タクシー運転手の方と伊藤氏との話し合いがまとまったというのは一歩前進であり、よかったと思います。

 しかし、その他の問題点についてどのようになっているのかの説明がないのは極めて残念です。

1 昨年10月の会見で私たちは、(1)タクシー運転手の映像の件以外に、(2)ホテルの防犯カメラ、(3)捜査官A、及び(4)西廣の映像の各問題を指摘しましたが、会見から1年を経過した現在もなおこれら(2)~(4)の点につき、伊藤氏の意向や現状は明らかにされておりません。

 少なくとも、今夏にフランスで発売された映画のディスクを私たちが確認したところ、その内容は、当初から私たちが問題としているオリジナル版のままでした。

2 伊藤氏は本年2月に、「声明」と題して、

「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします。最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します。」

と表明していました。しかし、この声明以降、上記のフランスのディスク以外にも、キャセイパシフィック航空及びカンタス航空の機内並びにピースボートの船内映画チャンネルでBBDのオリジナル版が上映されていたという指摘が方々でなされています。上記声明から既に8か月以上経過している今、伊藤氏には経緯と理由の説明が求められます。

とりわけ、BBDがT・ジョイ品川(東映・スターサンズ配給)で近々上映されるという情報に私たちは接しており、伊藤氏側の説明は急務です。

3 私たちは、フランスでのディスクの販売とキャセイパシフィック機内での上映の話に接した本年6月以降、伊藤氏側に対し、そのような事実の有無や、その映画がオリジナル版のままであるか等について再三問合せをしました。

これに対して伊藤氏側からは、こちらの問合せに対する回答はなく、3か月経過後の9月になって伊藤氏側の弁護士から、「伊藤氏自身の口から、西廣氏に直接ご説明申し上げる」ので日程調整したいとの返答が来ました。

しかしながら、自身との会話を無断で録音された西廣は、伊藤氏本人との直接のやりとりではなく代理人同士のやりとりを望んでおり、伊藤氏の代理人に対し、書面で速やかに回答をして頂きたいと求めていました。

かかる次第で上記6月以降、当方から伊藤氏側に対して送った申入れの文書は計14通に及びますが、本日現在、伊藤氏側からはこちらの問合せに対する回答はありません。

4 私たちが伊藤氏に対して最初から一貫して求めているのは、“会って謝罪”ということではなく、“許可のとれていない音声・映像は許可をとってほしい。許可がとれないものは編集・削除してほしい”ということです。この点がどうなっているのかについては、伊藤氏の代理人が責任を持って正確な内容を私たちに返信してほしいと思います。

私たちはここであらためて、「声明」後も海外でオリジナル版の公表をしたかの点について必要な説明をすることを求めるとともに、私たちが指摘した映像の各問題点についてすみやかに対応されるよう求めます。


伊藤さん側からの回答

フランス版DVDに修正ないことを認める

 筆者は10月末、タクシー運転手以外の点について修正や説明をするつもりはあるのかなどについての質問を伊藤さん側に送付した。伊藤さんの代理人、神原元弁護士、師岡康子弁護士からの回答は以下だった。質問と回答を載せる。回答は太字。

※(8)(11)は伊藤さんに対しての質問ですが、それ以外は神原先生、師岡先生にお答えいただければと思っております。

(1)発表された謝罪文はタクシー運転手について言及がありましたが、それ以外の1シェラトン都ホテル、2捜査官、3西廣弁護士、4薔薇棘(会合)参加者については説明がありませんでした。1〜4の問題箇所についてそれぞれ修正する予定があるかどうか、説明する予定はあるかを教えてください。

これまで公開した当方の声明や意見書と、方針は変わっていません。

(2)タクシー運転手の方との和解条件の中に謝罪文の公開があったのかを教えてください。

和解の経緯及び内容は守秘義務によりお答えできません。

(3)タクシー運転手の方との和解の際に金銭の支払いがあったという情報があります。事実かどうかを確認させてください。

同上

(4)フランスで販売されているDVDを確認しましたが、タクシー運転手の方の場面含め修正されていませんでした。こちらについての見解を教えてください。今後、差し替えられるのでしょうか。

今後必要な手続きを進めていく所存です。

(5)この秋のアメリカの上映ツアーでは詩織さんも現地で講演されていますが、上映ツアーで公開されている映画は修正バージョンでしょうか。また、修正バージョンの場合、修正されている部分はタクシー運転手の箇所のみでしょうか?

新バージョンです。


(6)『Black Box Diaries』は12月初旬から日本での公開が始まるという話がありますが、ご存知でしょうか。

お答えできません。

(7)西廣弁護士側(代理人:佃弁護士)との交渉は続けられているのでしょうか。また、西廣弁護士らに修正バージョンの確認はされたのでしょうか。

西廣弁護士側には、本年2月以来、くり返し、修正したバージョンを見てほしい、面談して経緯など説明したいなどの話し合いを求めていますが、西廣氏側から拒絶されています。

(8)謝罪文の中に「国際的に広く認められている合理的な連絡努力の原則」とありますが、これは具体的にどのような原則なのでしょうか。明文化されているものなのか、もしくはそのような習慣があるのか、伊藤さんご本人のご見解を伺いたいです。

各国で一般的に参照されている原則であり、制作・報道の分野でも広く用いられています。

(9)謝罪文にはタクシー運転手の方から「司法手続きにも多大なご協力をいただきました」とあります。タクシー運転手の方は裁判の途中から連絡が取れなくなったため、証言の証拠提出は最小限だったという話を聞いています。裁判の途中から連絡が取れなくなった方の映像を使っても良いと判断した理由を教えてください。また、裁判の途中から連絡が取れなくなったことを伏せた上で「司法手続きにも多大なご協力をいただきました」「ご支援と勇気ある行動」などと記述している理由を教えてください。

和解の経緯及び内容は守秘義務によりお答えできません。

(10)「協議中も使用を続けたことについても謝罪いたします」とありますが、タクシー運転手の方との協議中も映像の使用を続けた理由を教えてください。

和解の経緯及び内容は守秘義務によりお答えできません。

(11)望月記者の記事によれば、伊藤さんは望月記者の取材に対してタクシー運転手の方は高齢なのでもう死んでいるのでは、と言ったとあります。この発言について、現在の伊藤さんのご見解を教えてください。

伊藤は望月記者から取材を受けていません。


伊藤さんも修正を約束したはずの2カ所について

明確な回答はなかった

 (1)の回答については、伊藤さんは今年2月20日に日本外国特派員協会(FCCJ)での記者会見を欠席した際に声明を発表しており、「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします。最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。」としている。

 この部分を読むと、タクシー運転手や西廣弁護士については対処するように受け取れる。

 また、伊藤さん側の弁護団は2月20日の声明で、西廣弁護士との会話の録音が映画内に含まれるのは「伊藤氏のミス」と認めながらも「すでに昨年(引用注:2024年)8月には削除しています」としているが、筆者が確認したフランスで販売されているDVDでは、西廣弁護士の会話は削除されていなかった。これは伊藤さん側代理人の確認に間違いがあったのではないか。

 さらに今回の回答では、西廣弁護士との会話や、望月記者が指摘した会合での一部未許諾について修正はなされたのか、結局のところ判然としなかった。

 (5)の回答についても、「新バージョン」では、タクシー運転手以外について(少なくとも修正を約束しているはずの西廣弁護士や会合場面について)、修正がなされているのか、判然としない。その他の修正箇所について、あえて伏せているのではという印象を持った。


タクシー運転手は死んでいるのでは、と言ったのか

→「望月記者の取材は受けていない」

 (11)の質問について、「取材を受けていない」というのは、「当時、望月記者と一切連絡を取ってないという意味か」それとも「『取材』ということわりがなかったという意味か」など、複数回質問を重ねたが、「当時、望月記者から取材は受けていませんし、取材をするなら連絡をしてほしいと弁護士経由で伝えたが連絡はありませんでした」といった回答だった。神原弁護士によれば、これは伊藤さん本人によるメールでの回答だという。

 望月記者に再度確認した。

 望月記者によれば、元弁護団側の最初の記者会見(2024年10月21日)当日の朝に伊藤さんからかかってきた電話の中で、望月記者の質問に対して伊藤さんによる発言は実際にあり、望月記者が「死亡したかどうかは弁護士に確認してもらえばわかると思うが、調べてもらったのか」と聞いたところ、「それはしていない」と答えた、とのことだった。

 元弁護団との主張のすれ違いと同様、この点でも主張に違いがある。率直な感想としては、発言の有無について、伊藤さんは明確な回答を避けていると感じた。

 なお、「タクシードライバーは年配だから死んでいるんじゃないか」という発言については、元弁護団と伊藤さん側との協議中にもあったとされる。参考)伊藤詩織氏ドキュメンタリー作に「承諾が取れていないのであれば人権上問題」「事前に確認なく公開」かつて共に闘った弁護士たちが警鐘の裏で何が…(2025年2月16日、高橋ユキ/集英社オンライン)


西廣弁護士「どうしてこのようなことが続くのか」

 西廣弁護士は筆者に対して、下記のようなコメントを寄せた。このコメントでも、西廣弁護士側は、伊藤さん側から「修正バージョンを見てほしい」という申し出はなかったとしている。

どうしてこのようなことが続くのかと、怒りというより、悲しい気持ちなのが正直なところです。

(1)ホテルに誓約書を連名で差し入れたのに、伊藤さんにはそれを破られ、

(2)防犯カメラ映像を映画で使いたければ承諾をとって、と言ったのに破られ、

(3)映画ができたら、事前に確認させてと約束したのに、破られ、

(4)電話での会話を無断で録音され、

(5)スターサンズ代表の四宮弁護士から「使わない方向で」という回答だったのに、使われ続け、(※引用注:四宮隆史弁護士からの回答は2024年1月10日のもの)

(6)今年2月のFCCJでのコメントで、「修正します」と言ったのに、修正のない映像が流され続け、さらに、

(7)「くり返し修正バージョンをみてほしい」と求めたなどと言われていないことを言われ、

どれだけ傷つけられればいいのでしょうか。

私が「弁護士」だから、何をしてもよいのでしょうか。

 スターサンズに映画公開などについて質問を送ったが、回答はなかった。

 元弁護団の代理人・佃弁護士は11月5日付けで、伊藤さん側の代理人に対して弁護士ドットコムニュースに掲載されているコメント「本年2月以来くり返し、修正したバージョンを見てほしい、面談して経緯など説明したいなどの話し合いを求めています」について、「修正したバージョンを見てほしい」という申し出は伊藤さん側からはなかったとして内容証明を送付している。


伊藤さんもFacebookで発表

「次の誰かを守り、社会を少しずつ動かす力になる」

 修正を約束している西廣弁護士との会話や、会合場面の一部未許諾についてはどうなっているのか。

 映画の公開を伝える朝日新聞記事では「同意が必要なケースは同意をとり、または、映像自体を削除するなどしました」という代理人コメントが載るが、西廣弁護士側はまだ修正映像を確認しておらず、修正されたという連絡も受けていない。

 2月に伊藤さんが記者会見を体調不良でキャンセルして以降、西廣弁護士ら元弁護団に対してはネット上で誹謗中傷や根拠のない憶測が飛び交い、映画の公開を阻む「感情的な元支援者」などと今も悪し様に言われている。

 このような状況の中、映画は公開される。

 伊藤さんは6日夜にFacebookを更新し、「観終えたあとに交わされる小さな一言が、沈黙をほどき、次の誰かを守り、社会を少しずつ動かす力になると信じています」と、日本公開を伝えた。

 また、修正箇所については、「日本で上映される版は、ご指摘を受けた箇所など一部表現を修正し、日本版として完成しました」と説明し、「ここから全国へ広がり、安心して対話できる場所が各地に増えていくことを願っています。劇場でお会いできますように」と結んでいる。

2025年2月20日にFCCJで行われた記者会見の様子(筆者撮影)
2025年2月20日にFCCJで行われた記者会見の様子(筆者撮影)

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ありがとうございます。
ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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