有料会員限定

東工大が「女子枠入試」導入で抱える葛藤と覚悟 改革を進める井村順一理事にインタビュー

2024/06/06 6:00
✎ 1〜 ✎ 23 ✎ 24 ✎ 25 ✎ 26

2024年度入試から女子枠を設置した東工大。思い切った改革に踏み切る狙い。

2024年度入試から「女子枠」を導入した東京工業大学。女子学生が快適に学べるよう、環境整備にも力を入れている(提供:東京工業大学)。

特集「女性を伸ばす会社、潰す会社」の他の記事を読む

労働力不足の中、「女性活躍」が叫ばれて久しい。多くの企業が施策を打つが、効果を出す先進企業と変われぬ後進企業との差は開く一方だ。

『週刊東洋経済』5月18日号の第1特集は「女性を伸ばす会社、潰す会社」。真に女性を活かすための処方箋とは。

高校卒業後、2人に1人の女子学生が大学へ進む時代だが、学科別に見ると、「理学」分野における女子学生の割合は28%、「工学」においては16%しかいない(文科省調査)。

世界的な調査でも、日本で大学進学にあたって工学や製造、建築を志す人のうち女性の割合は16%(2019年)で、OECD加盟国の中で最も低い、と指摘されている。

この偏りを解消しようと2022年、政府の教育未来創造会議の提言に、「理工系等を専攻する女性の増加」が「目指したい人材育成」の一つとして掲げられた。そのような流れの中で各大学が打ち出し始めたのが、女性志願者に限定して選抜する「女子枠」の設置だ。

「女子枠」を設ける大学はこれまでもあったが、政府の方針を受けて2024年度入試では40大学で計約700人の枠が設けられ(山田進太郎D&I財団調べ)、京都大学や大阪大学も2026年度入試からの導入を発表した。

2024年度入試から女子枠を設け、とくに踏み込んだ取り組みをしているのが東京工業大学だ。改革を進める井村順一理事 ・副学長(教育担当)に話を聞いた。

※女子枠入試に関する記事は【コチラ】

目次

2000年代から横ばいの女子比率

ーー女子枠設置に至った経緯を教えてください。

本学の学士課程における2023年度の女子学生比率は13.1%だった。これまでも、女子学生を増やすための取り組みには力を入れ、模擬授業や女性の先輩から話を聞くイベントを実施したり、オープンキャンパスで女子高生対象の企画を実施したりと、さまざまな手を尽くしてきた。

週刊東洋経済 2024年5/18号(女性を伸ばす会社、潰す会社)[雑誌]
『週刊東洋経済 2024年5/18号(女性を伸ばす会社、潰す会社)[雑誌]』(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。定期購読の申し込みはこちら

それでも、本学における女子学生の比率は2000年からほとんど横ばいだ。どれだけ頑張っても頭打ち状態であることを考えると、いわゆる「ポジティブアクション」(不利益を被っている人に特別な機会を与えることで、機会均等を実現する措置)に舵を切らないといけないのではないか。益一哉学長がそう考え、決断したのが女子枠の導入だ。

2018年に益学長が就任した際、策定したのが「東工大コミットメント2018」。この1つに掲げられたのが「多様性と寛容」で、女子学生を増やす施策についても検討が始まった。

まずは分析から進め、先行して女子枠を導入している名古屋工業大学など、他大学の事例も参考にして丁寧に検討してきた。その過程で、実感したのは、全国的なムーブメントにならなければ、理工系学部で学ぶ女子学生は定着しない、ということだ。

そうであれば、本学としてはインパクトのある形で実施しなければいけない、と大規模な女子枠導入を決断したわけだ。一方で、非常にセンシティブなアクションであり、慎重に進めてきた。

広告の下に次ページが続きます

2/4PAGES

ーーそもそも、女子学生を増やす目的とは。

過去30年ほどにわたって、日本ではイノベーションが生まれにくくなっている。さまざまな要因があるが、1つには「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)」の欠如があっただろう。D&Iの“一丁目一番地”と考えられるのが、男女比の不均衡の解消だ。

井村順一(いむら・じゅんいち)/東京工業大学理事・副学長(教育担当)。1988年京都大学工学部精密工学科卒、1990年同大学大学院工学研究科修士課程応用システム科学専攻修了。1992年同大学院工学研究科博士課程機械工学専攻中途退学、同年より同大学工学部機械工学科助手。2001年より東京工業大学大学院情報理工学研究科助教授、2004年より同教授。2018年、東京工業大学 副学長(教育運営担当) 兼務(2022年3月まで)。2021年、東京工業大学執行役兼務(2022年3月まで)。2022年より現職(写真:記者撮影)

現状、研究や開発に携わる女性は多くない。男性の視点だけで新しいものを生み出していけるだろうか。

今の若い人たちが働き盛りの40代になるころといえば、今からおよそ20年から25年後の2050年前後。言い換えれば、今理工系の女子学生が少なければ、2050年の時点でも女性の技術者が少ないということになる。

そうならないためには、今から理工系の大学で学ぶ女子学生の数を増やさなければ、間に合わない。そういう危機感から、じわじわ増やすのではなく、大規模な女子枠導入に踏み切った。

吉岡 名保恵 ライター/エディター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、地方紙記者を経て現在はフリーのライター/エディターとして活動。2023年から東洋経済オンライン編集部に所属。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

この著者の記事一覧はこちら
この記事をシェア・ブックマーク
ブックマーク

記事をマイページに保存できます。
無料会員登録はこちら はこちら

キーワード
この記事の特集
その他の記事はこちら
注目の特集
特集一覧はこちら
有料会員限定記事
過去1時間のアクセスランキング

過去1時間の会員記事アクセスランキング

6〜20位はこちら
過去24時間のアクセスランキング

過去24時間の会員記事アクセスランキング

6〜20位はこちら
週間アクセスランキング

週間の会員記事アクセスランキング

6〜20位はこちら
月間アクセスランキング

月間の会員記事アクセスランキング

6〜20位はこちら
おすすめ記事
動画 アクセスランキング

※過去1ヶ月以内の記事が対象